無職転移 ー魔王も一緒に転移しちゃった件ー 第二部   作:かまぼこポテト

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今回も楽しんで頂ければ幸いです。


川神学園防衛戦②

川神院に到着したリヒトーと道安の眼前に広がるものは、廃墟であった。

多くの建物が崩れ、その下敷きになった修行僧達も目に入った。

そして、倒壊した塔の頂点にソイツはいた。

「おや。次の相手は〝閃撃〟と〝重撃〟ですか?」

魔王軍幹部12柱の1人、ヴォイドである。篭手を撫でながらリヒトーと道安を見下ろしている。

その足元にはルー、そして塔の足元には鉄心と数名の修行僧が倒れていた。

「ルーさん…」

リヒトーが一歩近づく。

ヴォイドは立ち上がるとつま先で倒れ伏しているルーを小突く。

「この人、この世界では上位の強さみたいですが、私の相手にはなりませんでした」

ヴォイドは心底つまらなさそうな表情を浮かべる。小突くのを止めると、ルーを足蹴にする。

リヒトーが太刀を抜刀姿勢で構える。隣の道安も怒りを具現化するかのように黒と緑が混じり合った球体を両手に出現させる。

「私の相手をしてくれるのですか? よかった、消化不良気味だったもので」

ヴォイドが篭手を構える。篭手の先端をリヒトー達に向ける。

3者の間に緊張が走る。

「それでは勝負しましょう。あなた方相手なら少しは楽しめ―――」

 

ヴォイドが言い終える前に、光が通り抜けた。一拍遅れて風が吹き抜けていくと、ヴォイドは足元に視線を落とす。

先程まで踏みつけていたルーがいないのだ。

何事かと視線を泳がせるが、分からない。

 

「お疲れさまでした、ルーさん」

背後で声がして、バッと勢いよく振り向く。

振り向いた先には膝を着いて屈んだリヒトーと、横に寝かされたルーがいた。

「速いですね。不意を突かれましたよ」

ヴォイドはリヒトーに向き直り、篭手を構える。篭手から光が放たれ、ヴォイドは笑みを浮かべて詠唱する。

「すり潰せ、ギデ・ドゴス・アド―――」

 

気が付いた時にはヴォイドは地に伏していた。

口いっぱいに砂の味が広がる。何事かと思考を巡らせていると。リヒトーとは逆の位置、ヴォイドの背後から声がする。

「―――建物の壊れ方から見て。お前〝も〟重力を武器にしてるのか?」

倒れ伏し、地面に押さえつけられたままのヴォイドに影がかかる。

あまりにも長いその影はヴォイドを完全に陽の光から隠してしまう。それだけで、声の人物が相当な体躯であると想像できる。実際はかなりの体躯なのだが。

「さっき『勝負しましょう』って言ってたな。俺が相手になってやる、出来るモンなら立ち上がってみろ」

声の主―――道安はヴォイドを見下ろしながらニィッと歯を出して笑みを作る。線のような黒目が真っ直ぐヴォイドを見据える。

さらに重力が強さを増し、ヴォイドを抑える力が強くなる。

篭手を振るうことが出来ない為、ヴォイドは反撃出来ないでいる。

「どうした? さっさと立てよ。勝負するんだろ?」

さらに煽る。

「このッ! こんな、ものでぇ!」

ヴォイドは下唇を噛みながら全身に力を入れる。噛んだ唇から血が僅かに滲む。

篭手から金色の光が溢れ出し、ヴォイドの体を包んでいく。

すると先程までの様子から一変、圧しかかる重力が〝無くなった〟かのように立ち上がる。立ち上がったヴォイドの姿は倒れ伏す前とは全く違うものだった。

金色のオーラを纏い、全身に黒い曲線のような痣が浮かび上がっている。

「ッ!? 道安!」

リヒトーが抜刀して斬りかかる。斬りかかるといっても、常人には視認など出来はしない。気が付いた時には斬り伏せられているからだ。

閃光の斬撃がヴォイドに襲い掛かる。しかし、ヴォイドは掌で太刀の刀身を掴んだ。

それだけではない。掴んだ刀身を引き寄せるとリヒトーの腹部に拳を叩き込んだのだ。

後方に吹き飛ばされたリヒトーを視認した道安はすぐさまヴォイドと距離を取ると、再び『重撃』を発動する。

しかし、ヴォイドの様子は変わらない。動きが鈍化する様子もない。

「冗談じゃねぇぞ…!」

後ずさる道安とは対照的に、ヴォイドは一歩ずつ距離を詰めていく。

「今度はこっちの番です。覚悟してく―――」

道安の背後、遥か後方から飛来した無数の銃弾が踊るように飛来する。

本来の直線の軌道ではない、本来ならあり得ない軌道を描き飛来した銃弾がヴォイドに迫る。

ヴォイドは横に飛び退いて躱すが、銃弾は弧を描いて旋回するとヴォイドに再び迫る。

「まさか!?」

これほどのふざけた軌道を描く銃弾を放てる者は現在この世界には1人のみ。

「武虎くんに手出しはさせないわ!」

『追撃』の撃墜王、園原水花であった。

両手に握ったサブマシンガンを乱射する。撃ち放たれた弾丸は、命を得たようにヴォイドに肉薄する。

ヴォイドは篭手を構えて防ぐが、背後から回り込むように迫る銃弾に気を取られた隙に突撃してきたリヒトーの斬撃を胸部に受ける。

「アルバ・ゴラ・アドラ!」

篭手が真紅に光ったかと思った次の瞬間、ヴォイドを中心とするように衝撃波が放たれる。

周囲を押し返すように放たれる衝撃波は球体のように広がり、迫る銃弾さえも弾き飛ばした。

しかし、衝撃波の直撃を受けなかった園原は銃撃を止めない。

放たれた弾丸は上下前後左右にヴォイドを取り囲むように飛来する。

「銃弾の包囲陣。いや、結界ですか! 面白いですね!」

先程の衝撃波によってリヒトーが態勢を崩した隙を突いて園原に襲い掛かる。

「『追撃』本人を潰せばいいことでしょう!?」

眼前に迫る銃弾を篭手で防ぎながら接近する。背後から銃弾が迫るが、それを振り切らんばかりの速度で肉薄する。

園原が銃撃を止めて回避行動に移るが、僅かに判断が遅かった。

このままではヴォイドの方が早い、園原は追いつかれるだろう。

 

 

ただし、〝誰もヴォイドの邪魔をしなければ〟の話ではあるが。

 

「させるかよ…!」

さらに加速しようとするヴォイドの速度がガクンッと落ちた。

それはまるで〝何かに押さえつけられるように〟

「お前の速度は確かに脅威だ。だがな、俺の〝本気〟の重力からは逃げられねぇぜ」

減速したことで園原との距離が開き、さらに背後から迫る銃弾との距離が縮まる。

 

 

 

「おい、見てないで手を貸せ。メガネ野郎」

「言われなくても」

 

 

ヴォイドに振り向いた園原の背後から鬼神のような怪物が躍り出る。それはジェイルが己の『鉄を自由自在に操る』能力で作り出した鉄獅子であった。

鉄獅子はその巨大な拳を振りかぶると、ヴォイド目掛けてくりだした。

頑強な拳を篭手で何とか防いだヴォイドの背中に無数の銃弾が直撃する。口から血を吹き出し、苦悶の声を上げながらもヴォイドは篭手を振り抜き、篭手の先端で鉄獅子に殴りかかる。

しかし、僅かに傷を付けただけで破壊までは至らない。背後からはリヒトーが太刀を構えて迫って来る。

「チィ! 『ドゴス・アドラ』!」

ヴォイドの体が地面から弾き飛ばされるように上昇する。

リヒトーの一太刀が空を斬る。空振った太刀を構え直したリヒトーは頭上を見上げる。

視線の先には滞空しながらリヒトー達を見下ろし、篭手を地面へ向けるヴォイドがいる。

「まだ、侮っていたかもしれません。超本気で戦うことにします!」

篭手が金色の光を放ったかと思うと。光が紫色へと変わる。

そして。光が収束して、野球ボール程の光球へと変貌した。

リヒトーが異変を察知して跳躍する。ヴォイドを視界に捉えたまま、グングンと距離を詰める。

園原もヴォイドに銃弾を乱射し、ジェイルも鉄塊を投擲する。

「間に合いませんよ…」

 

 

直後―――光球が炸裂し、周囲一帯を真っ白に染め上げた。

 

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川神院を包んだ光は川神学園からも視認できた。

グワッツェとエンリクスの2人と交戦中の百代と清楚もまた、その光が川神院の方角からのものだと認識した。

「おぉ、ヴォイドに〝アレ〟を使わせるか。やはり本物の強さなのだな、撃墜王は」

エンリクスが感嘆の声を上げる。

「………百代」

項羽の人格を表に出して百代と並び立ち、グワッツェとエンリクスと対峙していた清楚が百代を見る。

「なんだい、清楚ちゃん?」

眼前の敵から視線を外すことなく百代は応じる。その表情は僅かに強張って見えた。

清楚もまた、先程の光が只事でないことは直感していた。

しかし、状況を知るためにこの場を離れることも出来ない以上。優先すべきは―――

 

「さっさとこの無礼者達を片付けることにするか!」

「気が合うねぇ、清楚ちゃん」

 

―――敵指揮官の撃破であった。

 

先に仕掛けたのは清楚だった。方天画戟を振りかぶると、地を蹴ってエンリクスへと接近する。

方天画戟を横薙ぎに振るうが、エンリクスは跳躍して避ける。しかし清楚は手首を捻ることで方天画戟の軌道を変える。

横薙ぎから斬り上げのように軌道を変えた追撃をエンリクスは両腕に雷を纏わせると、それをバリアー代わりとするように眼前でクロスして受け止める。

方天画戟を振り抜いた清楚は左拳によるボディブローを叩き込む。腹部に強烈な一撃をくらったエンリクスは僅かに表情を歪めるが、決定打にはならなかった。

両腕に纏わせた雷が解放され、方天画戟を通じて清楚へと放電される。

清楚の体を雷撃が包み、着用している川神学園の制服を焦がす。

「お? いいなぁ、ちょうど肩が凝っていたところだ!」

清楚は方天画戟を両手で握ると、雷撃を気にすることなく振り抜いた。

エンリクスは振り回されるように横に飛ばされるが、受け身をとって態勢を立て直す。

しかし、受け身をとっていた僅かな隙を清楚は逃さなかった。

地を蹴りつけて肉薄し、腰だめに正拳を突き出す。拳はエンリクスの顔面を捉え、後方へと吹き飛ばした。

エンリクスの体が学園の外壁に叩きつけられ、土煙が上がる。そこにさらなる追撃を加えようと清楚が構えるた、その時だった。

 

突如として空が揺れたのだ。

それは一瞬のことだったが、清楚は異変を感じて追撃を止める。

「クソッ! ここまでやられ放題とは。次はこっちの番だ!」

土煙を突き抜けてエンリクスが飛び上がる。雷撃を放ちながら降下し、降下した後も雷撃を放ち続ける。

「さっきと同じではないか。効かぬと分からぬか!」

清楚は雷撃を浴びながらも前進し、エンリクスとの距離を詰めていく。

しかし数歩歩いたところで体に異変が現れる。

(地面を踏んだ感触が無いだとッ!?)

そう、地面を踏んだ感触が弱くなっているのだ。それだけではなく、方天画戟を握る右手と握った左拳の感触も無くなってきているのだ。

雷撃を受けた時に体に起こる現象を大和に教えてもらっていたが、たった今思い出すまで忘れていた自分を清楚―――もとい項羽は恨んだ。

感電による筋肉の収縮で手が開かないことが幸いして方天画戟を離すことはないが、このままでは全身の感覚が無くなるのも時間の問題だった。

しかし、先程のような大きな跳躍などを出来る余力はもうない。完全に―――

「慢心だな…! だが!」

それでも清楚は歩みを止めない。

周囲に放電されている雷撃によって由紀恵達が加勢できない以上は、清楚自身が戦うしかない。

 

 

 

その時だった。遠くで音が聞こえた。それから一瞬遅れてエンリクスが態勢を崩したと思えば、左肩を右手で抑えて呻き始めたのだ。

 

そこに続けて音が連続して抜ける。すると、身を揺らしてエンリクスが苦悶の表情と雄叫びを上げた。

「邪魔をするかぁ!」

エンリクスが絶叫を上げて空を見る。その視線の先にいたのは―――

 

 

 

 

「オーケー、グッキル。上出来よメグミ」

「ふはぁ~、うまくいったでありますな」

 

スコープから顔を上げて一息吐いたトーカとグミがいる飛空城艦であった。




お読みいただきありがとうございました。

次回投稿は少し遅れるかもしれません。今後もお付き合い頂ければ嬉しいです。
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