無職転移 ー魔王も一緒に転移しちゃった件ー 第二部 作:かまぼこポテト
エイティシックス世界編はもう少し続きます。
「ッ!? 戦隊各位、上空警戒!」
シンエイからの同調が『スピアヘッド』『ノルトリヒト』両戦隊に繋がる。
直ちに回避行動を取る僚機達を横目で一瞥すると、シンエイは上空から襲い来る物体に視線を戻した次の瞬間。
シンエイの眼前にそれは降り立った。いや、〝墜落〟と言っても過言ではなかったが。
降り立ったソレをシンエイは警戒しながら観察する。
自身が搭乗するレギンレイヴよりも一回り大きな物体。それは―――
「………機動兵器、か?」
キッドとアディのツェンドルグに似ているな、とシンエイは思った。
多脚の人馬のようなシルエットのオルディエンス・イータが着地態勢を解き、その全貌を露にする。
『こいつ、今までの敵とは違うぞ。幹部か?』
ライデンが並び立つ。セオ達も背後にて警戒態勢で展開していく。
「間違いないだろうな。こちらの布陣に風穴を開けたいんだろ」
『ご苦労なこって』
シンエイは『アンダーテイカー』の光学センサ越しに敵の脚部を観察する。
先端は鋭く、刺突にも用いることが出来そうだ。下腿部は大腿部にいくにつれて太くなり、逆に大腿部は腰部にいくにつれて細くなっている。
(腰部手前の細い箇所は脆そうだな)
シンエイは脚部が集約される腰部の付け根を狙うことに決めた。
先に仕掛けたのはオルディエンス・イータだ。左右計6本の脚で地面の穴を穿ちながら突撃してくる。
狙いはただ一人、シンエイだ。
『アンダーテイカー』目掛けて突撃する。縦に長い体躯をもって潰しにかかったのだ。
無論、シンエイも大人しくやられるつもりは無い。回避行動を取り、オルディエンス・イータと『アンダーテイカー』との距離が離れる。
オルディエンス・イータは機体を制止すべく脚を地面へと突き立てると、ドリフトするかのように『アンダーテイカー』が回避した方向へと旋回する。
『アンダーテイカー』機体上部のガンマウントの88㎜滑空砲が火を噴く。
爆音とともに撃ち出された徹甲弾がオルディエンス・イータの左前脚の上部付け根を翳める。
シンエイは蛇行するように後退しつつオルディエンス・イータを誘導する。
クレナの『ガンスリンガー』の88㎜狙撃砲の射角に誘い込むためである。
ロンゴドルは違和感を感じていた。先程から追撃している『アンダーテイカー』の進路にである。
後退する『アンダーテイカー』を追撃するロンゴドルのオルディエンス・イータを『ヴェアヴォルフ』と『ラフィングフォックス』が追撃するような状態であるのだ。
こちらが進路を変えて回り込もうとすると、『ヴェアヴォルフ』の40㎜機関砲によって牽制される。
最初こそ「敵に追い込まれている隊長を助けるため」と考えていたが、どうやら違うのではと思い始めていた。
そして、その疑問はすぐに解けた。
『クレナ、今だ』
シンエイからの指示を受けたクレナの『ガンスリンガー』の88㎜狙撃砲から放たれた徹甲弾は放物線を描いてオルディエンス・イータの襲い掛かった。
完璧な軌道でオルディエンス・イータの右前脚に直撃する徹甲弾。鉄同士がぶつかる鈍い音がしたと思ったら、オルディエンス・イータの右前脚がぐにゃりと変形していた。
ガクンッと態勢を崩し、姿勢が下がる。しかしロンゴドルは残った脚を巧みに操り、戦闘を継続する。
左右に跳ねるような機動で『アンダーテイカー』に迫る。〝読まれにくい〟機動で狙撃に対して予防線を張っているのだ。
『シン君。後退して!』
アンジュの声が聞こえたかと思った次の瞬間、無数のミサイルがオルディエンス・イータへと降り注いだ。
大半は地面を抉るだけだったが、数発は直撃したのをシンエイは光学センサ越しに確認した。
ミサイルの着弾と同じタイミングで『ノルトリヒト』戦隊の支援射撃も行われた。
土煙が上がり、オルディエンス・イータの姿が隠れてしまう。が、直撃弾もあった為、ある程度の損傷を与えることは出来たと考えた。
だが、シンエイの考えは最悪の形で否定されることとなる。
土煙が晴れてオルディエンス・イータの姿がハッキリと見えた。
そこにあったのは―――
「なっ!?」
『嘘だろ!?』
『冗談じゃないよ…』
『え!? 嘘…』
『そんな!?』
―――徹甲弾の斉射をものともしない、無傷のオルディエンス・イータだった。
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『スピアヘッド』『ノルトリヒト』両戦隊が敵幹部と交戦に入ったという情報は、レーナにも同調で伝えられた。
各戦域から集まった情報を統合した後、中央司令部へと回線を繋いでいた。
「エルネスティさん達が交戦している巨人も敵幹部と見て間違いありません」
レーナの視線の先、スクリーンに映るヴィレムは苦い表情を浮かべる。
現在、ギアーデ連邦を包囲するように展開している真・魔王軍の軍勢をどう撃退するか、考え方によってはレギオンよりも厄介なこの敵にヴィレム以下中央指令室の面々は頭を抱えている。
『異世界の戦士達の加勢によって、戦線の崩壊は回避できたが。物量差がありすぎるな』
ヴィレムの言葉にレーナも険しい表情になる。リヒトー達が加勢した他の戦線にも敵の大部隊が展開している。
敵が集中しているのは西部戦線だが、他の戦線の状況も危険な状況だ。それはレーナも理解している、だが、現在の西部戦線の状況から多数の増援を他の戦線に遅れないのも事実。
「持ち堪えることは可能なのですか?」
『前線の兵士達も奮闘している。だが、敵は〝疲れ知らず〟とばかりに進軍して来ている。いつかは………』
ヴィレムが言い淀む。ヴィレムが言おうとした言葉の続きはレーナも分かっている。
「こちらの戦闘が落ち着き次第、増援部隊を出します。持ち堪えてください」
レーナの言葉を聞いたヴィレムは一瞬驚きの表情を浮かべるが、すぐに表情を戻す。
『それまでは、持ち堪えさせる』
通信を終えたレーナは西部戦線の分布図を確認する。
北西方面に展開している『クレイモア』『サンダーボルト』を援護するために展開していた『リュカオン』が敵機工隊集団と会敵したところだった。
合流した3戦隊は南下を開始した。敵機工隊集団をエルネスティ達が戦闘している戦域まで誘引し、戦力を集結させて撃破するためである。
だが、エルネスティ達もジャイアントガモッサと交戦中の為、リト達の援護は難しいだろうとはレーナも考えている。
そこで、シンエイ達にも後退の指示を出す。敵幹部ロンゴドルが搭乗しているオルディエンス・イータと機工隊集団を徐々に一点に誘導しているのだ。
次の指示を『リュカオン』に出そうとした時だった、レーナに同調が繋がった。相手はシデンだ。
『アノス陛下達が戦闘している区域に間もなく到着する。到着後はどうすればいい、女王陛下?』
「北に敵集団を誘導するよう伝えてください。敵を集めて、包囲殲滅します」
「―――了解だ、女王陛下」
シデンのレギンレイヴ『キュクロプス』を先頭に『ブリジンガメン』戦隊が西部戦線南部戦域に到着する。
機体を急停止させたシデン達が見たものは、彼女達の想像を遥かに凌ぐものだった。
アノスが放つジオ・グレイズが敵兵士を焼き尽くして直進する。
その隙を待ってました、とばかりにガイコツが異次元から姿を現して手刀を繰り出す。
だがそれはアノスの傍に控えていたシンによって阻まれる。
シンが魔法陣から抜き放った略奪剣ギリオノジェスとガイコツの手刀が甲高い音を立てて斬り結ぶ。
「我が君への奇襲といい、今の斬撃といい。精細を欠いていますね」
凍てつく視線のままシンはガイコツを見下ろしながらギリオノジェスを振るう。
奇襲を防がれたガイコツは退避のタイミングを見計らっていた。
ガイコツはシンの斬撃を躱しながら後退する。激しく動き続けたために頭蓋からボロりと欠片が落ちる。
「ぐぅ…。くぅぅそぉおお…」
頭蓋を抑えながらガイコツ、それに相対するシンは剣呑な表情のままギリオノジェスの剣先を向けている。
「ここまでです」
シンが言葉を放った次の瞬間だった。
ガイコツの右手が宙を舞っていた。
そのことをガイコツ自身が認識した時には左手も宙を舞っていた。
ボトリと音を立てて両手が地面に落ちる。地面に横たわる白骨の手をガイコツは茫然とした風に見下ろす。
〝両手を斬り落とされた〟という事実を理解するのに、数秒を要した。
そして、その事実を理解したガイコツは絶叫した。
いや、正確には声は出なかった。
ガイコツが声を発する直前に、シンはギリオノジェスにてガイコツの喉にあたる舌骨付近を斬っていた。
「次はその頭蓋を落とします」
シンがギリオノジェスを魔法陣に仕舞い、次いで流崩剣アルトコルアスタを抜き放つ。
美しい波紋が浮かぶその魔剣を振りかぶり。
「では、これで」
―――振り下ろした。
だが、ガイコツは咄嗟に自身の背後に異空間を出現させて、飛び退くように消えた。
アノスが『森羅万掌―イ・グネアス―』によってガイコツを捕縛しようと試みるが、その手は虚空を掴む。
「多少、勝手が違うようだな」
先程まで『森羅万掌―イ・グネアス―』を発動させていた右手を見ながら嘆息する。
そこに複数機のレギンレイヴが到着する。シデン達『ブリジンガメン』戦隊だ。
『キュクロプス』がアノスの隣に並ぶと、コックピットハッチが開き、褐色の女兵士が姿を現した。
「アノス陛下で合ってるかい?」
「ああ。お前はミリーゼの親衛隊、だったか。何の用だ?」
アノスが振り向きながら答える。シデンは機体から降りて、アノスの正面に立つと、話を続ける。
「女王陛下から伝言を託されたのさ。敵を一箇所に集めた後、包囲殲滅するから後退してほしいってね」
「なるほど、なら後退しよう。後退先は北でよいのか?」
「それで問題ない。アタシらは先に行かせてもらうが、道案内は必要かい?」
そう訊ねられたアノスは首を横に振る。回答を受け取ったシデンは「わかった」と頷くと、『キュクロプス』に乗り込んみ来た方角に戻って行った。
「後退する?」
ミーシャがアノスの元に戻って来る。その横にはサーシャもいる。
「敵を誘導しなければならぬからな、こちらが〝押されている〟と見せかける必要があるな」
その後アノスはリークスにてレイとミサに今後の作戦を伝えると、少しづつ後退を開始した。
お読みいただきありがとうございました。
今後も楽しんでいただければ嬉しいです。
それでは次回でお会いしましょう。