無職転移 ー魔王も一緒に転移しちゃった件ー 第二部 作:かまぼこポテト
この第二部も、第一部の倍の話数に届こうとしています。
今後もお付き合い頂ければ嬉しいです。
アノス達が後退を開始したことで、包囲陣が完成に向かいつつある。
ヴァナディースの車内でレーナはスクリーンを睨んでいる。後退と並行して誘引を開始した独立機動打撃群とエルネスティ達とアノス達。
それに釣られて敵軍が一箇所に集結しつつある。
敵は自分達が〝押している〟と考えているようだったが、それがレーナの作戦でもあった。
故に、アンジュやクレナ達を筆頭に遠距離狙撃や面制圧攻撃が行える者は早い段階で後退させた。
アノス達がフレスにて後退を完了したことがシデンからの同調で知らされる。
その知らせを受けたレーナは作戦を次の段階に進める。包囲戦を開始するのだ。
「ヴァナディースHQより各機、作戦を次の段階に移行します。包囲陣形を構築し、殲滅戦に移行します」
同調で繋がったシンエイ達からの応答が返って来る。
スクリーンには一箇所に誘導された敵軍を包囲するように展開する独立機動打撃群各戦隊とアノス達。
エルネスティとキッド、アディの2機はジャイアントガモッサとの戦闘を継続中である。
「上手くいきすぎてはおらぬかの?」
スクリーンに視線を向けてフレデリカが訊ねてくる。レーナはその少女を一度見下ろして、再びスクリーンに視線を戻す。
フレデリカの言葉の意味をレーナも理解している。敵軍がこちらの都合のいいように動きすぎているとレーナも感じていた。
だが敵は〝レギオンではない〟のだ、意思と感情を持つ人間と呼べる生物なのだ。故にこちらが後退したことに対して「好機だ!」と感じたのではないかとレーナは考えていたし、だからこそ、その敵の感情を利用した作戦を立てた。
レーナは、フレデリカや自分の中にある疑問は杞憂だと思い始めていた。
現に包囲陣は完成しつつあるし、包囲すればさすがの物量差も問題ではないと思っていたからだ。
そして包囲陣が完成する。
問題なく作戦は進行しているとレーナは確信し、このまま包囲殲滅出来ると思っていた。
それが、慢心であったと理解するまでは。
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前線で戦闘を継続しているシンエイも違和感に気付いていた。
包囲陣が完成し、殲滅戦に移行した各戦隊は取り囲む敵魔王軍に対して一斉射を見舞った。
「………何かがおかしい」
シンは自分だけのコックピット内でそう零した。
包囲した敵魔王軍は次々と屍の山を築いていく。無論、抵抗はある。だが、必要最低限のようにも感じられた。
何よりシンエイが疑問に思ったことは。先程まで先陣を切っていたオルディエンス・イータが敵機工隊の陰に隠れたことだ。
敵兵士はオルディエンス・イータの〝盾〟になるかのように展開し、アンジュやクレナの遠距離攻撃からオルディエンス・イータを守っているのだ。オルディエンス・イータを隠すように、まるでオルディエンス・イータを見られることが不都合とばかりに。
シンエイにはそのことが疑問を通り越して不気味に映った。
「………ライデン」
シンエイの『アンダーテイカー』の隣に控えていた『ヴェアヴォルフ』に同調を繋ぐと、返事が返って来る。
『どうした。何かあったのか?』
「敵の動きがさっきと全然違う。何かとは言えないけど違和感を感じるんだ」
敵兵士がオルディエンス・イータの盾になっていることには、シンエイなりに結論が出ていた。
〝指揮官を死なせない為〟そう考えた。
だが、姿を隠すように守っているのは何故か。
それに、反撃も弱い。指揮官を死なせない為に盾になるだけではなく反撃してくるだろうと考えていた。だが現在、敵の反撃は包囲陣に移行する前とは比較にならない程である。
包囲陣が完成すれば、どこかを食い破るため反撃をしてくるだろうと最初こそ考えていた。だが、こうも反撃が弱いとなれば―――
「何か別の意図があるのか………? 各戦隊、状況報告」
シンエイは各方面の各戦隊に同調を繋ぐ。すぐに応答が返ってきた、リトだ。
『『クレイモア』戦隊は北西方面から包囲陣を構築。『リュカオン』とともに殲滅戦を続行中です』
『こちら『サンダーボルト』戦隊。東に移動しつつ包囲陣を構築し、殲滅戦を継続中』
『こちら『ブリジンガメン』。アタシらは女王陛下の護衛と並行して東から南にかけて包囲殲滅戦を継続中』
続いてユートとシデンからも応答が来た。
「敵の行動におかしな点は無いか?」
シンエイの問いに隊員達がざわつくのが分かった。皆、敵の行動に何の違和感も感じていないようだった。
ただ一人を除いて、だが。
『シンも気付いていましたか』
レーナだ。同調越しでも分かる切迫した声音が独立機動打撃群に緊迫した空気を走らせる。
「ええ、包囲陣完成後の敵の反撃が弱くなりました。極端すぎるほどに」
『それは私も疑問に思っていました。こちらの都合のいいように進みすぎていると』
間髪入れずにレーナから返事が来る。レーナが言っていたことを整理したシンエイは「たしかに」と頷いた。
こちらの作戦通りに事が運んでいる。本来は喜ぶべきことだが、今のシンエイとレーナには何か引っかかるものがあった。
『だが、こうして敵の戦力は削れてるんだ。作戦は成功じゃないのか?』
シデンから同調が繋がる。
レーナは「確かにそうだ」と思う。だが何か見落としているような、何かを忘れていないかと考えてしまうのだ。
そして、それは起こった。
シンエイ達の足元がバイブレーションのように振動を始めたのだ。
振動は徐々に大きくなる、段々と音も大きくなる。耳障りな振動音がその場にいる全員に襲い掛かる。
「なんだ、なんの攻撃だ!?」
シンエイは顔を顰め、耳を塞いで周囲を見渡す。ライデンやセオ達から同調が繋がるが、皆、この振動音に身動きが取れないでいる。
それは『ヴァナディース』にいるレーナも同じだった。
「いったい何が、ぁあ!」
振動が全身を揺さぶる、それにかぶさるように音と振動で頭を揺さぶられる。振り返ったレーナの視線の先では、マルセルが苦悶の表情でモニターデスクに突っ伏しており、その足元ではフレデリカとアイシャが両手で頭を抱えて蹲っている。
「か、各機…。状況、ほ、報告を………ッ」
レーナが同調で呼びかけると、シンエイが応じた。
「こちら、『アンダーテイカー』。敵の、攻撃と思われる、振動によって…、作戦ッ、行動に、支障あ、り…」
途切れ途切れに紡がれるその言葉が、声音が、ヴァナディースと敵を挟んで反対に位置する『スピアヘッド』戦隊にも〝この振動〟が届いていることを物語った。
声の様子から、各戦隊も同じ状況にあるのだと理解したレーナが次に懸念したのは敵の動きだ。
こちらのプロセッサー達がまともな戦闘が出来ないこの状況を敵が放っておくとは思えなかったからだ。
片手で頭を抱えながらコンソールを操作し、戦線の分布図をスクリーンに表示させる。
完成した包囲陣。だが、その包囲陣の完成こそが敵の狙いだったのだとレーナは今、理解した。
(この攻撃は敵のどれかから放たれているもの、敵を中心として周囲に拡散される攻撃と仮定するならば)
そこまで考えてレーナはハッとなる。結果としてレーナの仮定は正しかった、オルディエンス・イータを中心として放たれたアドラ・フィールドは真・魔王軍幹部のヴォイドの使用する『ドゴス・アドラ』の応用で完成した武器であった。
過去に真・魔王軍が征服した世界の技術を用いたことで完成したこの武器を使用するのはロンゴドルも初めてだったが、うまく動作したことには素直に安堵していた。
シンエイ達が身動きを取れないでいるこの状況を逃すまいとばかりに敵軍の反撃が強くなる。
レーナに各戦隊長からの同調が繋がる。各戦隊から押し寄せる報告はどれも「敵の反撃が激しく、戦線の維持は困難」という内容であった。
レーナが分布図を見る、各戦隊が徐々に後退したことで包囲陣が広がる。
無論、包囲陣は狭い方が隙が少ない。現在の包囲陣は隙間が空いたことで包囲陣としての機能を果たしていない。
このままではどこかの隙間から食い破られてしまう。だが、エルネスティ達はジャイアントガモッサに妨害されてこちらの援護に来ることが出来ない。
無論、アノス達も動けないでいる。いや、〝アノス以外〟と言うべきであった。
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「少々不快だが、動けない程ではないな」
アノスも全くのノーダメージではないが、戦闘続行に支障は無く。フレスで飛び上がり、上空からジオ・グレイズを放つ。
上空にいても振動と音が弱まる気配がないことに、アノスはこの攻撃の射程の広さを理解した。
(ミリーゼ達は動けないか、だが)
アノスが見下ろした先にはオルディエンス・イータがいる。
「揺さぶられただけで、俺を止められると思ったか」
アノスは敵陣の中央、オルディエンス・イータの正面に降り立つ。アノスの姿を視認したオルディエンス・イータは僅かに後ずさる。
『暴虐の魔王、なぜ動ける!?』
オルディエンス・イータの上半身ユニットが左右のマニピュレーターの先端、人間の手の形をしたそのマニピュレーターの鋭い爪先でアノスに襲い掛かる。
「この程度の振動で、俺が止まるとでも思ったか?」
アノスの両手が漆黒に染まり、オルディエンス・イータのマニピュレーターを受け止めた。
アノスは掴んだ左右のマニピュレーターを外に押し出すと、軋みを上げながらマニピュレーターが左右に開いていく。
押し出す力を強めていく、さながら力比べのつもりだ。
そして、限界は思いのほか早く来た。マニピュレーターから力が抜ける。オーバーロードしたのだ。
「ふんっ!」
アノスがマニピュレーターを振りほどき、軽く跳躍してオルディエンス・イータの眼前に辿り着くと、ジオ・グレイズをゼロ距離で放った。
漆黒の太陽を全身で受け止めたものの、地面を抉りながら押されている。
ロンゴドルの額には脂汗が浮かんでいる。この振動攻撃に絶対の自信があった身としては、この結果―――今、自信が置かれている状況は予想していなかった。
だからこそ、焦っている。自身では敵わない圧倒的な存在が目の前にいるこの現状を打開する方法は―――
『やむをえねぇか!』
―――逃げることだった。オルディエンス・イータを跳躍させて距離を置く。無論、ジオ・グレイズは明後日の彼方に飛び去った。
だが、この行動によって振動攻撃が中断された。となれば―――
「逃がさない」
先程まで動けなかった独立機動打撃群が殲滅戦を再開した。
シンエイの『アンダーテイカー』が敵機工隊を掻い潜り、アノスと対峙するオルディエンス・イータの側面に躍り出たのだ。
機体前部の格闘用サブアーム左右に取り付けられた二刀の高周波ブレードを横薙ぎの構えにして飛び掛かる。
斬り抜けるように2機の機動兵器が交差する。
先程アノスに機体上部のマニピュレーターを破壊されたオルディエンス・イータは脚部ユニットで健在の左前脚で斬り結ぶ。
オルディエンス・イータの脚部ユニットは格闘戦を想定して両前足のみだが鋭利な作りをしている。
故に『アンダーテイカー』の高周波ブレードとも斬り結ぶことが出来たのだ。
交錯した両機が機体を急旋回させる。
「ノウゼン、任せて問題無いか?」
『アンダーテイカー』の隣に降り立ったアノスがコックピットハッチを手の甲で叩きながら訊ねる。
シンエイは『アンダーテイカー』の機体重心を落として戦闘の意思を示す。
『問題ありません』
外部スピーカーからの返答を聞いたアノスは「ではここは任せる」と言うとフレスで飛び立った。
アノスを見送ったシンエイは長く息を吐き、呼吸を整える。おそらく長い戦いになるからだ。
シンエイは高周波ブレードを二刀とも左に倒してオルディエンス・イータの左前脚を狙って斬りかかる。
刃同士が火花を散らす。一瞬で斬り抜けると、再び『アンダーテイカー』を旋回させて仕掛ける。
オルディエンス・イータが距離を取るために後方に跳躍するが、「待ってました」とばかりに砲弾が直撃する。
『アンダーテイカー』の後方にて『ガンスリンガー』が狙撃を行ったのだ。
徹甲弾は放物線を描いて跳躍した無防備なオルディエンス・イータに襲い掛かり、脚部ユニットの左後脚を吹き飛ばした。
態勢を崩したオルディエンス・イータは受け身を取ることも出来ずに落下する。
土煙を上げて巨体が地面に激突する。落下の衝撃で他の脚部も損傷したことでオルディエンス・イータは完全に自立が困難となった。
「…ここまでだ」
シンエイが『アンダーテイカー』を跳躍させる。高周波ブレードの剣先を真下に向けて飛び掛かると、落下の勢いのまま高周波ブレードをオルディエンス・イータの上半身ユニットのの腹部に突き立てた。
上半身ユニットが痙攣したように震えると、首がガクガクと持ち上がり、その双眸が『アンダーテイカー』の光学センサーを睨む。
体の大半を包むオルディエンス・イータだが、眼だけは隠していない。眼だけは、ロンゴドルのものが露出している。
「ッ!?」
シンエイは息を飲む。光学センサー越しに見た〝ロンゴドルの〟瞳は、まだ闘志を失っていなかったからだ。
血が滲み、真っ赤に充血しても、それでも『アンダーテイカー』を、シンエイを睨み続けているのだ。
戦慄した、久しく忘れていた感情であったかもしれないその感情。確かにシンエイは、ロンゴドルに恐怖を抱いていた。
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次回の投稿ですが。ゴールデンウィーク明けを予定しています。
次回も楽しんで頂ければ幸いです。
それでは次回でお会いしましょう。