無職転移 ー魔王も一緒に転移しちゃった件ー 第二部   作:かまぼこポテト

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今回で一応の区切りとなります。




敗走

未踏大陸。

 

真・魔王城。魔王の間。

 

ローズバルトは玉座に深く腰を下ろし、眼前に跪く者達を見下ろしていた。

「カシュロント、シティック、エンリクス、ブギョル。油断したようだな」

肘を突き、ため息交じりに零すと、ローズバルトは残りの魔王軍幹部を見渡す。

いや、ロマールとミニッサは背後に控えているため、残りではなく〝出征から帰還した幹部達〟と言うのが正しいだろう。

「目的を果たすことも出来ず、おめおめと帰還することになりましたのは、我等の実力不足によるもの。このうえは、名誉回復の機会を賜りたく存じ―――」

 

「―――もとより、期待などしておらん。下がれ」

ローズバルトに発言を遮られたグワッツェが勢いよく顔を上げる。その視線の先、ローズバルトの顔に浮かぶのは〝諦め〟であった。

「………は?」

その一言だけが、声となって響いた。静寂が魔王の間を包む。

一秒、また一秒と静寂が流れる。

「聞こえなかったのか。下がれと言ったのだ」

再び発せられた言葉にグワッツェが勢いよく立ち上がる。その瞳は真っ直ぐローズバルトを睨みつける。

「なんですかグワッツェ。無礼でしょう?」

ミニッサが一歩前に出てグワッツェを見下ろす。だがグワッツェはミニッサを意に介さず、ローズバルトを睨み続ける。

「何か、言いたいことがあるようだな。グワッツェ」

ローズバルトが玉座から立ち上がり、グワッツェ達がいる下段に降りてゆく。

一歩ずつ、踏みしめるようにゆっくりと降りてゆくローズバルトにグワッツェは恐怖心を抱いていた。

グワッツェ達にとってローズバルトは絶対的な存在。管理者をもってしても尚、揺らぐことはない。

だが、それでも退くことはできない。仲間を捉えられ、魔王ローズバルトはそれを気にも留めない。これには怒りも沸くというものだ。

そして、ローズバルトとグワッツェはお互いに息の届く距離で視線を交わす。ローズバルトが目を細め、鋭い視線でグワッツェを見下ろしている。

数秒の沈黙の後、ローズバルトは息を吐き、踵を返して玉座に座り直した。

「奪還したいのならば、自分達で勝手にすればいい」

その言葉を聞いたグワッツェは緊張が解けたことで一度尻餅をついたが、すぐ立ち上がり、魔王の間を後にした。

それに他の幹部達も続く。唯一、ヴォイドのみが残った。

「行かぬのか、ヴォイド?」

「少し話が、お聞きしたいことがありましてね」

ローズバルトの問いに笑顔で返すと、ヴォイドは玉座まで階段を上がる。

「ロマール、ミニッサ。お前達も下がれ」

玉座に座したまま、背後の2人に命じて下がらせると、ローズバルトは立ち上がる。

「何が聞きたい?」

「この世界の行く末について、詳しく」

ローズバルトは玉座に手を突き、語りだした。

「知っての通り、この世界は多くの可能性世界を存続させるためのリソースでしかない。ロンゴドルやロマール、ミニッサ達の故郷もそのために消滅していった」

「知っていますよ。それを助けたのはあなたでしょう?」

「そうだ。その後は大陸を転々とし、この未踏大陸に辿り着いた。ウロナ大陸に本拠地を築いていた頃から、未踏大陸には目を付けていた」

「未踏大陸の統治と、真・魔王城の建設を担ったのがロマールとミニッサですね?」

「2人は優秀だ。常に期待に応えてきた、これからもそうであろう」

「これから先、どうなりますか?」

「適応者の世界のいずれかに拠点を移す。その為に、適応者達の戦力を削っておく」

「管理者は動かないのでしょうか?」

「管理者か…。意味がないことだ、そんなことは。あの者達は我等を可能性世界存続の〝餌〟としか考えておらぬ」

「では、管理者と戦う気はあるのですか?」

「何度も言わせるな。意味がないことだ、管理者に干渉すること自体がな。第一、アレ等は―――」

そこまで言ったところで、ローズバルトの言葉が途切れる。

そして視線を落とす。落とした視線の先には、自身の腹部から篭手と、それを装着した手が生えていたのだ。

篭手には鮮血が滴り、玉座の周囲を赤く染める。

「やはり、あなたは小者ですよ」

声と同時に篭手が引き抜かれる。

ローズバルトは苦痛に顔を歪めて膝を突く。そして、声の主であり篭手の持ち主。先刻、自身の腹を貫いた張本人を睨む。

「苦しいですよね? 貫通と同時に篭手の周囲360°を反発させました。あなたの内臓はグチャグチャですよ」

声の主―――ヴォイドはケタケタと笑いながら見下ろす。

「貴様ッ!」

ローズバルトが拳を振るう、だが、拳は虚しく空を切るのみである。

「あなたの首を持参すれば、私は管理者になれる。おとなしく、死んでください」

「愚かなことだな…」

ローズバルトは遂に力尽き、玉座に背を預けるように力尽きた。

「どの口が言うのですか、〝父上〟」

力無く玉座に座すローズバルトの頭を掴むと、ヴォイドは一度瞳を閉じて、その首を引き千切った。

 

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リムル達は可能性の奔流を進む。シンエイ達の世界での戦いの後、食料などの補給を受けて出航した。

艦橋にはリムル、シオン、ハルト、クリス、アインズ、ターニャがいる。他の者は各人待機中である。

「武器を使う上位存在。シャルティアのスポイトランス以外の武器も使用していたな」

艦橋の外を眺めながらターニャがアインズに声を掛ける。

「私達と同じく、自身の世界に干渉された者達が、まだいるという事だろうな」

「カズマ達の世界ではなさそうだったが」

「何故そう思うのだ、ターニャ?」

訊ねられたターニャはしばし考えると、隣の友を見上げる。

「カズマ達…。特にめぐみんが使用していた爆裂魔法と、あの武器から放たれた砲撃は技術体系が異なるように思えたのでな」

そう言われるとそうだ、とアインズは考える。だが、ターニャの仮設が正解ならば、厄介なことがある。

「我々の知らない超兵器が出て来てもおかしくない、か…」

「今回は仲間も多い、頼らせてもらうとしようじゃないか?」

そう言うとターニャは背を向け、艦橋を後にする。入れ違うように艦橋に上がってきたアルベドがアインズに歩み寄る。

「アインズ様。一度、ナザリックに戻られては?」

「そうだな。状況の確認は必要だからな」

アインズはリムルの元に行くと、自分達の世界への一時的な帰還を願い出た。

リムルは快諾し、アノス達と別れて行動することにした。

アインズ達の世界、ターニャ達の世界、レンヤ達の世界と順番に巡り、各々の世界の現状確認と増援を伴って、再び合流した。

本拠地であるナザリックに一時帰還したアインズは犠牲者が出ていないことに安堵すると、スポイトランス奪還を強く決意した。

ナザリックからの追加増援はなく、引き続きアインズとアルベドが参加することとなる。

続いてのターニャ達の世界においては、意外な結果となった。

自分達が軍人である以上、ターニャ達は上官に指示を仰ぐこととなる。シンエイ達の世界ではないが、軍人の作戦外での運用を断られるとリムルは考えていた。

だが話し合いはトントン拍子に進み、引き続きターニャ達が参加することとなった。

レンヤに関しては、一時間で終わった。

冒険者の仲間達に報告をした後、エミルと名乗る女性を伴って乗艦してきた。

リムルが「もういいのか?」と聞くと、「まぁ、問題無いだろう」と短く返してきた。

 

そして現在。

可能性の奔流を3隻の飛空城艦が進む。

目的地は、異世界。魔王ローズバルトが本拠地にしている世界だ。

「同時に乗り込むか?」

リムルの問いにアノスとオルステッドが同意する。

この通信手段は、アノス達の世界の念話魔法を智慧之王が解析し、再構築したものだ。それによって飛空城艦3隻がリアルタイムで連携することが出来るようになった。

まだ目視では小さいが、すでに異世界へ向けての進路上にいる一行。このまま加速し、世界の壁を越えて異世界の未踏大陸、真・魔王城に乗り込む算段だ。

「ハルト、あれ…」

周辺警戒をしていたトーカがハルトを呼ぶ。駆け寄ったハルトは双眼鏡を受け取り、指し示された方向に視線をやる。

「あれはッ、なんだ…?」

ハルトの視線の先をリムル達も見る。リムルの脳内に智慧之王の声が響く。

《告。目的地の陰に謎の空間があります》

『リムル、見えているか?』

隣を進む飛空城艦よりアノスの声が届く。リムルは「ああ、でかいな」と返す。

目的地である異世界、球体状の世界の奥に、もう一つ、一回り大きな球体が姿を現す。それは、透き通る銀の輝きを放ち。液体金属のように表面が波打っている。

「何かいるな?」

リムルは何かを感じていた。

それは、異世界の奥の球体ではない。もっと別の何かであり、その答えはすぐに分かることとなった。

 

悪寒のような感覚が走る。

肌の表面を指先でなぞられたような、ゾクリとする感覚だ。それが攻撃であったことを、一行は直後知ることとなる。

 

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「ミーシャ。どういうことか分かるか?」

自身の乗艦する飛空城艦の玉座に座したまま、アノスは艦橋の外に視線をやっていたミーシャに訊ねる。

その意図は、現在飛空城艦にて起こっている現象によるところだ。

「分からない、こんなことは初めて」

ミーシャが天井を、壁を、床を見る。

飛空城艦が、溶けているのだ。氷が温風を受けて融けるように、形が曲線を帯び、消失しているのだ。

「…我が君」

アノスの傍らでシンが声をかける。

「どうした?」

「外に通じる扉が融解したように変形しておりました。切断して脱出口を確保しましたが…」

そこでシンが言い淀む。アノスが「構わん、何があったのだ?」と問うと、シンは再び口を開く。

「外に出ようとしたところ、何者かによる攻撃で〝反発〟されました」

「リムルが言っていた敵で間違いないだろう。ミーシャ、飛空城艦を作り直せるか?」

問われたミーシャは首を横に振る。

「さっきから試してるけど、出来ない。何かに邪魔される」

「先程の悪寒はそれか…?」

止めどなく融解を始める飛空城艦。脱出は不可能、ならば―――

 

 

 

―――前進あるのみ。

「このまま進む。飛空城艦が崩壊する前に異世界に辿り着けばよい」

アノスの号令を受け、ミサが飛空城艦を加速させると、それに続くように他の2隻も続く。

「スピアヘッド戦隊各位、レギンレイヴに搭乗しておいてください。エルネスティさん達にも、自身の機体へ搭乗するよう伝えてください」

レーナが格納庫にて待機するシンエイ達に知覚同調にて指示を出す。

「ミリーゼ。異世界に突入後、ノウゼン達に偵察を任せたいが、問題は無いか?」

レーナは玉座に座するアノスに振り返ると、「問題ありません」と返した。

「このまま進むと、敵に激突することになるけど大丈夫なのかい?」

レイが艦前方から視線をアノスに向けて訊ねる。

「問題あるまい。この質量だ、激突はするだろうが、そのまま突入する」

思った通りの回答だったのだろう。レイは笑顔で頷くと、操艦席にいるミサに歩み寄る。

「ミサ、大丈夫かい?」

「大丈夫です、レイさん。このまま突入しますよー!」

ミサがさらに飛空城艦を加速させた。

 

直後であった。

巨大な衝撃波が艦を揺らしたのだ。

続いてもう一発、さらにもう一発と畳み掛けるように衝撃が襲う。

無論、艦内にも衝撃は届く。周囲が軋み、誘拐と同時に崩壊していく。アノスでさえ、玉座の肘置きを掴んで堪えている。

ミサが操艦席から転がり落ちると、レイがそれを受け止める。フレデリカはマルセルに掴まっており、レーナは軍帽を抑えながら立ち上がる。

「この衝撃は、リムルさんの話にあった…管理者ッ!?」

レーナが艦橋から外を見る。そこには衝撃波の直撃を受けて完全崩壊を始めた飛空城艦―――ルーデウス達の乗艦があった。

既に底部ハッチは原形を留めておらず、溶けて消えていく。そこに追い打ちをかけるように、衝撃が3連続で襲い掛かった。

そして、2撃目を受けた直後、アノス達の乗艦も航行不能に陥った。

「詰み、ですか…」

ガクリと項垂れるレーナの背後のアノスからも、笑みが消えていた。

 

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『あっけないのだ』

異世界を背に、ピギュティアは崩れゆく3隻の飛空城艦を見下ろしていた。

最大出力の衝撃波を数発放つこととなったのは想定外であったが、隣の同士の能力によって満足のいく結果となった。

『チッ、出番無しかよ。つまらねぇ!』

『アイラ、落ち着くのだ。もし次の機会があれば譲るのだ』

ピギュティアの言葉にアイラは渋々ながらも頷く。

『あっけな~い』

隣の同士は沈みゆく飛空城艦を指さしてゲラゲラと笑う。

『下品なのだ。ルグジュイア』

ルグジュイアと呼ばれた女性は、いわゆる女海賊を思わせる出で立ちをしている。

『まぁ、ワタシの前では、魔法は消滅するだけだから、この結果も必然かな~』

ルグジュイアは任意の魔法を崩壊させることが出来る。それは〝魔法で創造されたもの〟にも及ぶ。

彼女は魔法で創造された飛空城艦に対して、有効打となる存在である。

そしてもう1人。

『初仕事の感想はあるのだ。ヴォイド?』

訊ねられたヴォイドは口元を歪めて笑い出す。

「気分がいい。自分自身の力の底が見えない、最高の気分ですよ!」

僧を思わせる純白の衣装に身を包んだヴォイドの下卑た笑い声が、奔流に遠く木霊した。

 

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「本艦上空より所属不明の艦船が進入。左舷二番艦〝村山〟付近に不時着予定です」

黒髪の女性が、降下してくる3隻の飛空城艦を見上げて艦内放送で呼びかける。

 

 

 

「全自動人形、警戒態勢に移行しなさい。〝以上〟」





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