無職転移 ー魔王も一緒に転移しちゃった件ー 第二部 作:かまぼこポテト
今回から少しづつ話が進んでいきますのでお楽しみください。
アノスとリムルは飛行してカラワヤ港に戻ってきた。
先程までの喧騒は無く、渡航船は運航を再開していた。
「速かったわね、片付いたの?」
着地するとサーシャが声を掛けてきた。その横にはミーシャ、シン、レイとミサもいる。
「異次元に逃げたが、魔法は解除した」
「なら、これでガジーエー大陸に渡れるわね」
「ああ。…シン、準備はどうだ?」
「滞りなく、我が君」
「なら、これからガジーエー大陸に渡る。アノス、オルステッドさん、ハルト、百代も問題ないな?」
リムルが点呼を取り、全員が頷く。
「リムル様、追加の渡航札の準備も完了しています」
シオンが自信満々で青い札を差し出す。
「おお、シオン。気が利くじゃないか!?」
「秘書ですから!」
そう言ってシオンは胸を張る。しかしリムルは気付いていた、シオンがお金を持っていないことに。
(多分ルーデウスあたりが指示してくれたんだろうな、後でお礼を言っておこう)
異世界に来ても残念秘書のシオンであった。
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未踏大陸
真・魔王城、正門。
エンリクスは失意の中、帰還した。
消耗した体に鞭打って異次元を渡り帰還した為、焦燥しきっている。
「―――無様じゃねぇか。エンリクス」
正門通路の壁に背を預け、ロンゴドルがエンリクスに声をかける。
「侮り過ぎていた。次はこうはいかない」
「はたして次があるかな? 失敗したお前は幹部に相応しいのかよ?」
ロンゴドルはエンリクスを笑う。嘲笑するロンゴドルを睨み、エンリクスは口を開いた。
「黙れ! 貴様とガモッサの機工隊も、適応者の排除が進んでいないそうではないか!」
「………なに?」
「しかも、補給路を襲撃されて兵站拠点を奪われたと聞いたぞ。貴様とガモッサこそ、幹部に相応しくないのではないか?」
「てめぇ、言わせておけば!」
ロンゴドルは懐から得物を取り出す。掌サイズの銃だ。
銃をエンリクスに向けて睨む。エンリクスも手刀を構える。一触即発の空気が流れる。
「―――2人とも、落ち着いてください」
一陣の風が吹くと、2人の間にミニッサが割って入っていた。
両手に持った剣が2人の喉元に突きつけられる。2人の頬を一筋の汗が流れた。
「………分かったよ。分かったから剣を下ろせよミニッサ」
先に得物を収めたのはロンゴドルだった。続いてエンリクスも手刀を解く。
「こんなことで内輪もめをしている場合ではありません。ロマールが呼んでいます」
「「…わかった」」
2人はミニッサに連れられ、円卓の間へと向かった。
「グワッツェの作戦が成功した。適応者が4人、こちらについた」
円卓の間に入った3人に告げられたのは朗報だった。
既にロマールの他にグワッツェとシュトライドがいて、得意げな表情を浮かべている。
(なんか腹立つな。唇を削ぎ落してやろうか…)
心の中で毒つくロンゴドルだった。
「それで、シュトライド。洗脳が成功したのですか?」
「その通りだミニッサ。このシュトライドの洗脳によって、適応者は我が手中にある」
「使い物になるのですか?」
「洗脳する際、好戦的になる暗示魔法と、能力向上の魔法をかけておいた。ガジーエー大陸に渡った適応者の迎撃をさせる」
「分かりました。ではその内に、上陸している適応者を始末する必要がありますね」
「無論だ、それはロンゴドル達が進めているのだろう?」
「ガモッサが四足兵器の討伐に向かった。今頃は適応者の首を振り回しながら帰ってきている途中だろうよ」
「順調に進んでいるなら、問題ない」
ロマールがローブのフードを捲る。
フードの中から現れた顔は、〝普通〟ではなかった。頬と額は焼け爛れ、血が滲んでいる。右目は光を失い、唯一見える左目も、腫れた瞼で半分埋もれて、ひどいクマが不気味さを助長していた。
「容姿の良い女は無傷で捕らえて、私の前に連れてこい」
「なんでお前の頼みをきかな―――」
ロマールに詰め寄ったロンゴドルは次の瞬間、天井にめり込んでいた。
「うるさい、言うとおりにしろ」
「わ、わか、ったよ…」
途切れ途切れにロンゴドルは言葉を紡いだ。
それ以上、ロマールに意見する者はいなかった。
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カラワヤ港を出航した渡航船は、ガジーエー大陸へ向かっていた。
渡航船、船上。
「マスター、マスター! 見て見て! でっかい鳥だよ!」
「こぉら、レナ。落ちたら危ないから身を乗りだしちゃダメだよ」
SORDの面々は慣れない異世界に驚きの連続だった。
「親子丼…、焼き鳥…、フライドチキン。美味しそう…!」
レナは元の世界で食べ慣れた料理を思い出しながら、涎を垂らしていた。
「アレはさすがに食べられないんじゃないかな?」
SORDのニンジャ、ムラサキはため息交じりに言う。
レナは人一倍食べる、故に食には貪欲だ。しかし、いくら食べても太らない。そう育てられてきたからだ。
「ハルトさん、そろそろ会議の時間では?」
「そうだった、ありがとうクリス。俺は席を外すから、みんなを見ててくれる?」
「はい、お任せください」
クリスは頷いて、ハルトを送り出した。
船内、個室
リムル、アノス、ルーデウス、オルステッド、ハルト、百代の6人は地図を囲って今後の方針を話し合っていた。
「これからの事だが。ガジーエー大陸でも仲間探しをしようと思う」
リムルが切り出す。それにルーデウスとハルトが頷く。
「ガジーエー大陸には魔王軍が上陸している。戦闘は避けられないだろうな…」
「大丈夫だってオルステッドさん。敵と戦闘になっても敗けないさ」
「………そうだな」
「では、ガジーエー大陸に着き次第、情報収集を始めましょう」
ルーデウスが締め括り、話し合いはひとまずの決着を迎えた。
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ガジーエー大陸、ギロン港
一行は港に降り立った。
ガジーエー大陸はこれまで行ってきた、どの大陸とも違った。
まず、熱いのだ。ギロン港からでも見える巨大な火山、これの影響でガジーエー大陸では作物が十分に育たず、この地で生活する者は貧困に苦しんでいた。それ故に、渡航船に乗ってやってくる商人が持ってくる農作物などの食料が、この大陸で暮らす生命線だった。
そして、もう一つ。これは最近になってのことだが、未踏大陸を魔王軍が征服したことでガジーエー大陸に魔王軍の手が届くようになったのだ。
魔王軍はかつてアノス達に壊滅させられた後、身を潜めていた。しかし、魔王ローズバルトの復活を機に再起し、征服した未踏大陸に拠点を移したのだ。
かつての戦いの地、ウロナ大陸では、魔王軍の力が及んでいるのは大陸北部のみだったが、ガジーエー大陸では魔王軍と思われる魔族の兵士が一般人に武器を向けて脅していた。
ギロン港に到着する前、港に魔王軍兵士がいることに気付いた一行に、アノスが〈幻影擬態―ライネル―〉を使用して全員の姿を擬態して行動していた。
ルーデウスは港に降り立つと、魔王軍兵士に声をかけられた。
「おい、そこのお前。訊きたいことがある」
「なんでしょうか?」
「渡航船で来たのか?」
「そうですが、…何か?」
「海上を飛行する蒼い巨人を見なかったか?」
「蒼い巨人? いえ、見てませんが」
「ここ一帯の海上を飛行している。こちらにも少なからず被害が出ている、何か分かったら我が軍の兵士に知らせてくれ」
そう言い残して兵士は立ち去って行った。
「蒼い巨人か…」
「海上を飛行するって、ロボットか何かなのか?」
会話を聞いていたリムルも何のことかさっぱりの様子だった。
「魔王軍が探しているということは、適応者かもしれません。俺達も情報を集めましょう」
「なら、ムラサキを情報収集の任に充てますよ。ムラサキはニンジャですし変装も得意ですから、この手の仕事には適任です」
ハルトがムラサキを指して提案する。
「分かった。じゃあ、情報収集は任せるよ。俺達は宿を探して荷物を下ろそう、ついでに物資の調達もしておかないとな」
リムルはそう言うと、カラワヤ港で購入したガジーエー大陸の地図を広げる。
「俺達が今、ここで。最寄りで大きい宿は…、少し遠いけど、この『宿木のほこら』にしよう」
リムルが地図をなぞりながら話す。その後、各員は移動を開始した。
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ギロン港より南の海上。
真・魔王軍の空戦機工隊が警備巡回をしていた。
背に翼を装着した巨神外骨格が空を切り、飛行していた。
「ここの所、この辺りに出没する蒼い巨人。今日は姿を見ないな」
先頭を飛行する隊長機が周囲を警戒しながら進む。隊長機の後方には5機の空戦型巨神外骨格が続く。
「さすがにエネルギー切れを起こしたのではありませんか?」
右後ろを飛行する副隊長機が訊ねる。それに隊員たちが意見を交わす。
「搭乗員が隊長を崩したのでは?」
「ドジ踏んで墜落したとか?」
「いやいや、ギロン港でメシ食ってんですよ!」
各々が好き勝手に意見を述べている。そんな部下たちを見て呆れた表情をする隊長。
「お前達。任務中だぞ、気を引き締めろ~。この先に蒼い巨人がいるかもしれ―――」
突然、隊長機が爆発する。いや、〝撃たれた〟のだ。
煙を上げ、隊長機が墜落する。
「た、隊長!」
副隊長が落下する隊長機を追う。しかし間に合わず、隊長機は海面に突き刺さり、しばらくするとプカリと浮かんできた。
「ふ、副隊長。どうすれば!?」
隊員達が狼狽している。副隊長は部下達を振り向くと喝を入れる。
「狼狽えるな、警戒を厳にしろ! 敵を見つけ出すんだ」
副隊長は周囲を見渡し、敵の存在を探す。
しかし、敵を捕捉することは出来なかった。
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「やはり先頭が隊長機でしたか」
機体のコンソールに映る敵空戦部隊を見ながら少年は独り言つ。
「パワードスーツ、いいですね、ロマンがあります。ロボットが出て来てくれると、もっとテンションが上がりますが、パワードスーツまでが精一杯なのかもしれません」
そう言うと少年は自身が搭乗する機体の武装の照準を定める。
剣と銃を一体化させたような武装で、剣先がハサミのように展開することで銃形態となる。
銃口を敵部隊に向ける。敵部隊は密集陣形で周囲を警戒している。
「これまで散々攻撃されましたし、正当防衛ということで」
そして、少年の駆る蒼い巨人の武装が火を噴いた。
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空戦機工隊全滅の報は、直ちにロンゴドルの耳に入った。
「全滅だと!? どういうことだ!」
自身の書斎でその報せを聞いたロンゴドルは、手に持っていたペンを報告員に投擲した。
報告員はすんでのところで躱すと、再びロンゴドルに向き直った。
「どうか落ち着きください、ロンゴドル様。私は事実を簡潔に申し上げたに過ぎません」
そう、報告員の説明は簡潔だった。
内容はギロン港と未踏大陸の間の海道を巡回していた空戦機工隊一個小隊が全滅したというものだ。
敵はこちらの索敵範囲外からの狙撃をもって隊長機を撃墜。こちらが密集陣形で周囲を警戒しているところに、第2射が放たれたというのだ。
「…敵は。蒼い巨人で、いいんだな?」
ロンゴドルは顔を伏せ、絞り出すように問うた。
「………間違いないかと」
「ローズバルト様が言っていた〝鬼神〟か…。ことごとく、こちらの邪魔をする」
「それと、ガモッサ様が帰還されました」
「ガモッサが!?」
「はい…。〝撤退〟ではありますが…」
「は? 撤退だと、ガモッサが?」
「はい………」
返事を受けて、ロンゴドルは勢いよく立ち上がると、書斎を出て格納倉庫へ向かった。
「ガモッサ!」
格納倉庫にはガモッサがいた。特に怪我は無かったが、その表情は曇っていた。
「………ロンゴドルか」
「何があった。お前が撤退など、これまで無かったじゃねぇか!?」
ガモッサの隣に立ち、真意を問う。
「敵は強大だ。戦力を侮っていた…、こちらも本気でいかねば」
「………巡回していた空戦機工隊が全滅した。蒼い巨人だ」
「ローズバルト様が言っていた『鬼神』か。ガジーエー大陸で洗脳した適応者が足止めしている内に仕留めねばな…」
「鬼神は任せろ。お前は『死神』を頼む」
「ああ、わかった」
ガモッサの目に闘争の火が滾っていた。
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ガジーエー大陸、ギロン港
宿屋『宿木のほこら』
偵察から戻ったムラサキから報告を受けた一行は驚愕した。
『適応者を洗脳し、手駒にすることに成功した』と兵士が酒場で酔っぱらって話しているのを聞いたのだ。
ムラサキはニンジャ。変装して敵地に潜り込み、情報収集をすることは慣れている。
酒場の給仕に変装して、酔っぱらった兵士から情報を聞き出して回った。
ギロン港の北にあるチュテンの町にいた適応者を幹部のシュトライドが魔法で洗脳したのだという。
「面倒な事になりましたね」
報告を聞いたルーデウスは苦い表情をする。洗脳系の攻撃手段を持つ敵の存在を考えていなかったのである。
しかし無理もないことだった。ルーデウス達、異世界から集まった『適応者』は無限の魔力を持つ。要するに、ロールプレイングゲームで技や魔法を使用する際に必要なマジックポイントが尽きないのだ。その恩恵から、そういった攻撃が自分たちに効かないと思い込んでしまっていた。
だが、前回ならいざ知らず、今日に至っては状況が変わる。ハルトや百代達といった魔法を使用しない適応者もいる以上、精神攻撃を防ぐための魔法などを使用することは出来ない。
「多分、洗脳された適応者は、魔法やスキルを使えなかったんじゃないかな?」
リムルが顎に手をあてて考えながら言う。
リムルは精神攻撃に耐性があり、アノスは反魔法で洗脳魔法などに対する反魔法を持つ。敵が洗脳魔法を使用する以上、戦える戦力は限られてくる。
「だろうな。だが、そのシュトライドとやらを倒せば、洗脳も解除されるのではないか?」
「でもなアノス、洗脳された適応者の相手もしなきゃいけないんだぞ?」
「その相手は、俺達がしますよ」
名乗り出たのはハルトだった。それに百代も同意する。
「いいのか?」
リムルが訊ねる。ハルトは口元に笑みを湛えて頷いた。
「では、今後の方針を確認します。北のチュテンの町に向かい、敵幹部のシュトライドを倒すか捕縛します。ハルトさん達は洗脳された適応者を抑えてください。シュトライドの相手はリムルさんとアノスさんにお願いします」
「わかった」
「敵に洗脳された仲間を助けよう!」
リムルの合図に全員が頷いた。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみいただければ幸いです。
おそらく次回の投稿も1週間後になりそうですが、今後もお付き合いいただければ幸いです。