不良少年、SAOへ行く。   作:テルア

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第1話 穂坂照哉、もう一つの世界へ。

朝の4時、けたたましく鳴り響くアラーム音で目が覚める。

 

1日の始まりを呪うように目覚まし時計の天辺を叩きつける。

 

ユニットバスでシャワーを浴びて、ドライヤーで髪を乾かす。

 

上下をジャージで揃え、靴下を履き、昨日の夜に作った冷めた握り飯を二つ口にし、お茶で流し込んだ。

 

帽子とマスク、ついでに伊達眼鏡をかけ、財布と数世代も前のスマホを持ち、鍵をかけたのを確認して築何年かも分からないボロアパートを出る。

 

チャリで新聞会社へ5分。

 

新聞を受け取り、指定された場所へ届ける。

 

仕事の終わりを報告すると、いつも社員の山崎さんが声をかけてくる。

 

「お疲れ様、穂坂くん。いつもありがとう。」と笑顔で。

 

「...金、もらってるんで。失礼します。」

 

そう無愛想に答え、会社を後にしたら、もう一度ボロアパートへ。

 

帽子とマスク、眼鏡を取り制服に着替え、晩飯の残りと米を詰め込んだ弁当、麦茶を入れた水筒、そして学生鞄を持って家を出る。

 

「穂坂ァ!今日こそ死んでもらうぜ!行くぞお前ら!」

 

背後からバットを一本ずつ持ったガラの悪い奴らが5人ほど迫ってくる。

 

これが俺の─穂坂照哉の、変わり映えのない退屈な朝だ。

 

────

「なーテルテル。お前ゲームってやるっけ?」

 

高校の教室の席に着くや否や、クラスメイトの『弓原丈治』が声をかけてきた。

 

典型的なお調子者って感じのやつで、そのくせ成績もいい。

 

運動は苦手らしいが、それもギャップだとかって女子からの人気もある。

 

おまけに良いやつだから、クラスどころか一年生全体の人気者だ。

 

だからこそ、何で俺みたいなやつについて回るのか理解できない。

 

「またついてるぜ、返り血。ちゃーんと拭いてこなきゃ。怖がられてちゃ女の子も寄ってこないぜー?」

 

「うるせぇ。後ゲームなんてやったことねぇ。そんな時間も金もねーよ」

 

ウェットティッシュで顔を拭いながらそう返す。

 

幼い頃に親が離婚、妹は母が引き取り、その後俺を引き取った父も逮捕された。その後、親戚に預けられることになったが、誰も犯罪者の息子など引き取りたくなかったようで、たらい回しにされた俺は、13の春、自分1人で生きる道を選んだ。

 

だから、朝のバイトで学費とかその他もろもろを稼いでいるわけだ。

 

「まあ、そっか。でも見てこれ。新時代のゲーム機、『ナーヴギア』!

俺当選しちゃったんだよね〜。」

 

ナーヴギア。ゲーム機に疎い俺でも、その名前は知っていた。VRとかいう技術で、自分を新たな世界へ投影するという。

 

「あの有名なやつか。最近はニュースでもそればっかりだったな。」

 

「え、テルテルってニュースとか見るんだ。意外〜」

 

「大変なんだよ、色々な。」

 

バイトをやらなきゃいけない都合上、面接で役に立つ知識は大いに越したことはない。だからこうして学校にも通うし、ニュースも見る。

 

「そんな超スーパー最新ゲーム機の記念すべき初タイトルは『ソードアート・オンライン』!武器とスキルで生き抜く世界だ!

今日届くはずだから、色々楽しんだら、テルテルにも貸したげるよ!」

 

「興味ねえよ。なんだ超スーパーって。頭悪そうな形容詞つけやがって。後テルテルをやめろ、気色悪い。」

 

「えぇー!?ナイスネーミングだと思ったんだけどなー。カワイイし。」

 

「カワイイキャラで行く気はねぇ。第一、返り血浴びてる奴がカワイイキャラで通せるか。」

 

「だからほら、そこは言霊的なやつでさ、名前が面白ければ段々と本人がそっちによる的なやつってあるじゃん?」

 

「そんなもんはねぇ。いいから席に戻れ。ホームルーム始まんぞ。」

 

「えー、じゃあさ、「あだ名はいらねえ席に戻れ。」

 

はーい、とトボトボと席に戻っていった。

 

山崎さんも、丈治も。

こんな無愛想なやつに構って、何が楽しいのか。

 

チクリ、と何かが疼く感覚がした。その正体を探ろうとしたが、

 

「はーい、静かに。朝のホームルーム始めるぞー。」

 

担任が教室に入ってきて、俺の思考の中断と、退屈な日常の始まりを告げた。

 

────

「起立、礼。さようなら。」

 

その号令で、生徒が各々教室から出て行く。当然その流れには俺もいる。

 

今日の夜は飲食のバイト。キッチンだけの条件で雇ってもらった。

 

顔を見せると、朝の連中みたいな奴らがうるさいからな。

 

17時から21時まで。学校の規則で定められた時刻まで働き、帰路に着く。

 

その途中、路地裏で男女4人のグループが、1人の女を集団で囲っていた。

 

この時間にはたまにある。こんな時間に1人で出歩く女が悪いと、その場を立ち去った。

 

立ち去るつもりだった。

 

「アタシは間違ってない!アンタが好きな男にあの娘が告られただか何だか知らないけど、勝手に嫉妬していじめてたんでしょ!?アタシはアンタのその勝手さが許せないの!だから先生に相談して、止めてもらおうとした!」

 

「それであーし達があんなダルい居残りさせられたのねー。マジでウザい。」

ドスッ、と人を蹴った音がした。蹴ったのは色白で目つきのきつい女。

 

それを褐色肌と痩せぎすの男の二人組とギャルっぽい女がニヤニヤしながら傍観している。

 

「てかもういいわ。ヤス、コーイチ、ヤッちゃっていいよ、そいつ。」

 

「え、まじで?」

 

「うわ、結構美人じゃーん。いただきまーす。」

 

「嘘でしょ?ねえ、やめなさいよ!ねぇ、ねえってばぁ!!」

 

何かが切られた音。

 

その音が聞こえた刹那、俺の足は動いていた。

それを助走に、一歩。右足で踏み切って大きく飛ぶ。

 

その速度と運動エネルギーをそのまま威力に、両膝蹴りが褐色の男の顔面にヒットした。

 

その一撃で、褐色の男は倒れ込む。

 

「な、なんだ!テメェ!」

 

瘦せぎすの男が、ナイフを取りだし、突っ込んでくる。俺を白くしたその凶器。

 

俺がこの世で、最も嫌う物。

 

激昂した俺は、着地し、くるりと体を横に一回転させ、回し蹴りを繰り出す。

 

左の踵でナイフを吹き飛ばし、呆気に取られている男の鳩尾に右ストレートを一発。

 

瘦せぎすは白目を向いて倒れ込んだ。

 

男たちが気絶したか確かめるために、顔を一度蹴りつける。反応はない。

 

女2人を睨みつけると、ギャルっぽい方が俺を見て叫んだ。

 

「あの白髪...って、あいつあれじゃん!『白の壊し屋』!ねーアヤ、あいつやばいよ!」

 

アヤ、と呼ばれている女は、きつい目をさらに細めて、

 

「覚えてなさいよ。」と一言吐き捨て、走っていった。

 

2人が去ったのを確認して、立ち去ろうとすると、

 

「ね、ねえ。」

 

女の声に振り返る。

 

「ありがとう、助けてくれて。」

 

少し掠れ気味だが凛と通る声で、そばかすのある少女はそう言った。

 

「別にいい。もうこんな時間に出歩くな。」

 

そう言ってさっさと帰ろうとすると、また声がした。

 

「ねぇ、ほんっっとに申し訳ないけど、家までおぶってってくれない?腰抜けちゃって」

 

はぁー。と、深いため息を一つ。

 

自分で撒いた種だ、と思うことにして、俺はその願いを聞き入れた。

 

────

「ねー、あなたって名前はなんていうの?」

 

「馴れ馴れしくするな。それにその制服見た感じ、まだ中学生だろ。俺は高校生だ。敬語を使え敬語を。」

 

「えー!?変なとこで堅いんですね。」

 

「社会の常識だ。あと馴れ馴れしく話しかけるな。俺が怖くないのか。あんな通り名がつくほど、人を傷つけてきたんだぞ、俺は。」

 

「怖くありません。だってあなたは、私を助けてくれたんですから。」

 

チクリ、とまた疼く。あまりにストレートで、単純なその言葉に。

 

「...俺も男だぞ。あの後、また襲われるかもとか考えなかったのか。」

 

「いいえ。だって、優しそうだったので。」

 

「こんな無愛想な奴がか?」

 

「はい。そんな無愛想なあなたが。てか分かってるなら直した方がいいですって。絶対。彼女も友達も増えますよー?結構カッコいいんですから。」

 

「直さない。俺は友達も彼女も作らない。」

 

「えー!もったいないなー。あ、ここでOKです!」

 

「分かった。ほら、降りろ」

 

「よいしょ...っと。今日は本当に、ありがとうございました。お礼に、友達になってあげましょうか。」

 

「いらん。さっさと警察に連絡して飯食って寝ろ。」

 

「もー。最後まで無愛想なんですね。」

 

そのやりとりを最後に、俺は今度こそ帰路に着く。

 

何故か、今日は少しだけ楽しかったような気がした。

 

────

朝の4時。また時計の天辺をたたく。昨日のあれのせいか、目覚めはいつもより少しだけ悪かった。

 

少し鈍る頭のまま、朝の準備を済ませて、家を出る。

 

その鈍りに、俺は倒された。

 

首筋に強い痛みを感じ、地面に倒れ込んだ。振り返ると、昨日の瘦せぎすと褐色の男がいた。

 

「ハッハァ!まんまと引っかかりやがった!」

スタンガンを持った瘦せぎすがそう叫ぶ。

 

「昨日はよくも恥をかかせてくれたなぁ!」

褐色はそう叫ぶと、俺の胸ぐらを掴み、俺の部屋へと放り投げた。

 

なるほど、部屋で俺を、どうにかする気か。頭が痛みに朦朧とする。

 

褐色が俺を抑え込んだ。

 

瘦せぎすが見覚えのある機械を取り出して、そのコードをコンセントに差し込む。

 

それは俺も知っている機械で、昨日の会話が頭をよぎった。

 

『ナーヴギア』。しかし、ゲーム機で俺をどうする気だ?殴るにしても、もっといいものがあるだろうに、意図が分からない。

 

困惑する俺の表情を察したのか、瘦せぎすがニヤケ顔で話し出す。

 

「こいつは殺人マシーンだよ!これを一度起動させちまえば、これはロックされて外せなくなる。そしてオマエの意識はゲームの向こう側ってワケさァ!」

 

あーひゃっひゃっひゃっひゃ、と不快な笑い声が俺の部屋を支配する。

 

「俺たちに恥をかかせてくれた罰だ。『白き壊し屋』もこれで終わりだな。」

 

褐色の言葉に、合点がいった。

 

ナーヴギアは、意識をもう一つの世界へ飛ばすもの。俺の動きを完全に止め、確実に殺す気か。

 

殺す気。

 

フラッシュバックするのは、12歳の秋。

 

ナイフを持ったあの男が、俺の、目を、狙って、切先が、迫る─

 

「う、あ゛あ゛あ゛あぁぁぁ!!」

 

「うおっ!?」

 

全身が、大きく跳ねた。褐色を吹き飛ばさんとする勢いで。

 

「は、な、せぇぇぇぇぇぇ!」

 

一つ息を吸い、腹筋の要領で上体を起こす。

 

「ぐおっ!」

 

短い悲鳴を上げ、褐色が倒れる。そして、立ち上がろうとして─、

 

「はい、ゲームオーバー♪」

 

スタンガンの一撃のあと、ナーヴギアを装着させられた。

 

「じゃあ、おててを借りまーす」

 

小馬鹿にした瘦せぎすの声がした。

 

ナーヴギアからは、体型チェックのため顔と体を軽くタッチしろ、と音声が流れている。

 

『complete』の文字と明るいSEが鳴り響く。

 

「じゃ、殺そっか。」

 

瘦せぎすの声がした。

 

それと同時に、何人かの足音がした。

 

「動くな!」の声と共に、何人かが拳銃を取り出すカチャリという音が聞こえた。

 

警察でも来たのだろうか。

 

このアパートの住民は、しばらく俺以外いないはず。

 

一体誰が、こんな時間に?

 

その疑問を最後に、全ての意識がVRの世界へ吸い込まれていく。

 

その世界の名は、『ソードアート・オンライン』。

 

 

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