不良少年、SAOへ行く。   作:テルア

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─午前5時半─
「む?」

ある男の元に、一通のメールが届いた。

虚空で指をスワイプさせ、出てきたメニューウィンドウを操作しメールを見る。

『新たなプレイヤーがログインしました。今からデータを送信します。』

見終わるや否や、データが送信された。

『穂坂 照屋 16歳 2006/02/06 誕生 市立西都高校 所属』
『171cm 69kg 視力は両目ともに2.0。その他身体疾患 なし』
『中学から現在にかけて、喧嘩に明け暮れている模様。【白の壊し屋】という異名があります。武器を持った同年代5人を相手に無傷で勝利する程の実力を持ち─』

一通り目を通して、男は呟いた。

「また、面白いプレイヤーが出たものだ。『ゲームの経験は殆どなし』、か。
なら、一つプレゼントだ。掴み取れるかは、君次第だがね。」

そう言うと男はそのプレイヤーのデータベースを開き、コードを一行埋め込んだ。

『プレイヤーの情報管理、ご苦労だった。引き続き、サーバの維持とプレイヤーデータの更新をよろしく頼む』

男はその文面を送信者へと送り返した。

小気味のいい電子音が、送信が完了したことを告げる。

返信はすぐに届いた。

『承知しました。ご武運をお祈りいたします、茅場様。』

彼はアインクラッドの最上層で、見える筈もない第一層を見下ろすと静かに微笑む。

「さあ、一体何人が私へと辿り着くのだろうか。楽しみで仕方がないな。」

クスリと漏れた笑い声が、木霊もせずに消え去った。


第2話 穂坂照哉、アインクラッドに旅立つ。

『チュートリアルを開始します。この声の指示に従い、操作をして下さい。』

 

新しい世界に生まれ直した俺が最初に聞いたのは、感情の欠片もない機械的な音声だった。

 

その声に従い、メニューウィンドウの使い方、武器やスキルの種類など、様々な情報が読み上げられていった。

 

『以上でチュートリアルを終了します。ここまでの情報は、メニューからマニュアルを開くことで確認できます。』

 

『最後に、あなたのプレイヤーネームを教えてください。』

 

プレイヤーネーム、か。英文字で表示されるようだ。

 

特に深く考えず、『TERU』という名前にした。あまり意味はないと思うが、本名よりは色々と安全だろう。

 

『TERU、でよろしいですか?今後、変更はできません。』

 

YESとNOのウィンドウが出る。俺は迷わずYESを押した。

 

『記録を完了しました。それでは、ソードアートオンラインの世界を、心よりお楽しみください。』

 

その言葉の後、軽快な通知音が鳴った。メニューウィンドウを開くと、プレゼント付きのメールが二通あることを

 

その内容は、[150コル]と[手鏡]。

 

前者はゲーム内の通貨であり、これで武器や防具を買えというメッセージだろう。

 

だが後者の手鏡の意図が分からない。アイテム欄に収納されたそれを、実体化させ覗き込んでみると、すぐに理解した。

 

完全に現実の自分の顔だ。どこでチェックしたのか、ご丁寧に髪の色まで再現されている。正直なところ、髪色はコンプレックスだったので変えられてても文句はなかったのだが。

 

辺りを見渡すと、沢山の人で溢れかえっていた。

ただのNPCにはカーソル、店を開いているものには¥マーク、そしてクエストがあるものには赤色の!マークがついている。

 

逆にそれらがないものは全員プレイヤーというわけだ。

 

プレイヤーは百人百様で、買い物をする者、情報交換をする者、食事をする者。

 

そして、嘆き悲しんでいる者。

 

もう一度メニューウィンドウを開く。やはりそこにログアウトの表記はない。

 

ああ、この世界からは出られないんだな、と妙に納得してしまう。

 

普通であればありえない状況なのに、一周して冷静になっている。

 

とりあえず今やるべきことを整理しようとしたが、何せゲームは未経験だ。

優先順位のつけようがない。

 

途方に暮れていると、妙に甲高い声がした。

 

「よー、見ない顔だナ。新人かい?」

 

振り向くと、金褐色のショートヘア、頬に猫のひげのようなペイントが施された女性がいた。

 

「お前、誰だ?」

 

俺は警戒心を露わにし、そう問いかけた。女性は怖がるなよ、とでもいうふうに両手を広げ戯けて見せる。

 

「オイラはアルゴ。情報屋サ。」

 

情報屋。その胡散臭いワードに一層警戒を強くしたが、今はとにかく情報が欲しい。女の言葉に耳を貸すことにした。

 

「なるほどな。お前の見立てどおり、俺は今日このゲームを始めたばかりの新人だ。その俺に何か用か?」

 

「何ダ、ぶっきらぼうな奴だナ。オマエみたいな新人のサポートをしてやろうってのに。」

 

「サポート?」

 

「ああ。お代は頂くけどナ。」

 

そう言うと、アルゴと名乗る女は虚空で指を操作しだした。

おそらくメニューを操作しているのだろうが、メニューは本人以外には見えないので、側から見るととても滑稽だ。

 

「ほら、やるヨ。20コルでいいゼ。」

 

ウィンドウが開く。

 

『プレイヤー:ARGO の商品を購入しますか?YES/NO』

 

俺はYESを押した。

 

メインメニューのアイテム欄が自動で開き、一冊の本が空き場所に格納される。残りのコルも130へと減っていた。

 

「毎度アリ。じゃあ、またナ!」

 

生き残れよー、と言い残して彼女は去っていった。

 

信用できるかは分からないが、これ以上足踏みしているわけには行かない。早速商品を実体化させた。

 

表紙には【アインクラッドのしおり〜アルゴ製〜】と書かれている。

 

堅苦しさを全く感じさせない、まるで本当に旅行のしおりのようなポップな表紙が、彼女の肩書きと合わさりさらに胡散臭さを煽る。疑いを抱えながらページをめくった。

 

 

読み終わる頃には、1時間ほど経っていた。

 

内容は、第一層のマップ、それぞれの街の店の値段やおすすめの宿泊施設など、かなり充実した内容だった。

 

これで20コル、というのはあまりに安すぎると思う。

 

勿論内容が本当なのかはこれから確認する必要があるが、文章の読みやすさや情報のまとめ方の上手さはプロのそれに近い。

 

そして最後のページには、この世界で生きるコツ、と書かれた章があった。

 

そこには、この世界のルール─即ち、ゲームオーバーは死を意味すること。

第100層のボスを倒すことができたら解放されること。

 

そして、それに続けて現時点で死んでいったプレイヤーのことを偲ぶ文章と、『無理に前線に出る必要はない。自分の命を第一に、とにかく生き残ることを考えろ』というメッセージが書かれていた。

 

死ねば、死ぬ。

 

当たり前の様だが、これは現実の世界ではない。ゲームの世界だ。

本来であれば、やり直せる筈の世界。

 

ゲームであって、ゲームではない。それを飲み込みきれずに消えていった者達が多いらしい。

 

事実、俺もまだ自分の身に起きたことを現実として捉えられていなかった。

 

しかし、この言葉で少しわかった気がする。ここが命がけの世界であること。先程のアルゴの言葉の『生き残れよー』に込められた意味はどれほどのものだったのかということが。

 

プレイヤーの心情を第一に考え、情報を提供する。やはりただ胡散臭いだけの奴ではないようだ。

 

俺は、この本を信じてみることにした。

 

しおりの内容を元に、武器を買う。ブロンズ、と頭についた武器がおすすめらしい。

 

俺は短剣である【ブロンズダガー】を購入した。

 

短剣を選んだ理由は単純に、俺はナイフ以上のサイズの得物が苦手だからだ。

 

ナイフ以上の長さになると、戦い方を武器に依存することになり、自分本来の動きが大きく制限されてしまう。

 

実戦経験の少ない者ならその方がやりやすいだろうし、勿論長めの武器でも使いこなせる者はいる。

 

しかし俺はどちらにも当てはまらない。長い手足と全身のバネで相手を倒す。そうやって生き延びてきた。だからなるべく己の動きを引き出せる得物が欲しかった。

 

幸いなことに、身長や体重、手足の長さも完全に再現されている。向こうでの戦い方を再現するのは容易だろう。

 

その後もしおりの内容に沿って準備を整えた。

 

食糧に回復用アイテム。そして防具を買い揃えるうちに、残りのコルは15を切っていた。

 

残りは、宿泊施設への費用とする、とのことだ。

 

情報はかなり正確だった。アルゴが書いたものは、これからも信用できる情報源としていいだろう。

 

『はじまりの街』で一番規模が大きい所が、三食つきで一泊15コル。

そしてこの近辺の敵キャラの中で一番弱いモンスターである『青イノシシ』が一体倒すごとに5コル落とす。

 

1日で雑魚三体を狩れば、少なくとも生活は続けられるようだ。

 

しかし、俺はそういった生活を続ける気はない。

 

頼れるのは己と金、そして確かな情報源だけだ。そう思って生きてきた。それはどこにいようが変わらない。

 

だから常に、最前線の強さを持つ必要がある。誰にも頼らなくていいように。

 

残った15コルを全て食糧と水に変えた。

 

次に目指すのは、現時点での高レベルプレイヤーが多くいる街、『トールバーナ』。

 

少し長い旅路になりそうだが、途中に街がもう一つあるらしい。

まずはそこを目指すことにした。

 

善は急げだ。最後にアイテムや装備のチェックをした。

胸と腕にレザーシリーズと呼ばれる装備。

武器はこの時点ではそこそこな強さのブロンズダガー。

そして回復ポーションと食糧であるパンと水。

パンと水を安全に食べられる期限はおよそ5日。それまでに『トールバーナ』

へと辿り着かなくようにすればいいだろう。

 

確認を終えた俺は、はじまりの街の門を抜け、フィールドへと踏み込んだ。

 

 

 

踏み出して一歩目に出てきた感想は、広い。

 

その一言で充分だった。正直VRというものをなめていたと、そう思わされるくらいに現実と比べても大きく差異のない景色が広がっていた。

 

現実世界では見たことのない草木や果物はあったが、それもさして気にならないほどの現実に近い質感。

 

そこで最も異彩を放つもの。

 

それがモンスターと呼ばれる敵キャラと、それを狩るプレイヤーの姿だった。

 

この世界はゲームなのだと、その事実を改めて告げるような光景だった。

 

俺はしおりを開き、次の目的地を確認する。

 

とりあえず、ここからトールバーナまでの丁度中間地点に位置する『ホルンカ』を目指すことにした。

 

20分ほど歩いていると、目の前に【青イノシシ】がいた。

 

鼻息を荒くして、こちらを睨みつけている。

 

俺は腰から短剣を抜き、逆手に構えた。

 

それと同時に、青イノシシが土埃をあげ、突進してきた。

 

ここからは相手が違うだけ。いつもの喧嘩と同じだ。

 

ふぅ、と息を一つ。

 

さあ、戦闘開始だ。

 

突進を仕掛けてくる青イノシシに対して、俺は短剣の基本ソードスキルである《シュナイデン》を放った。

 

《シュナイデン》は体を斜め前に出しながら逆手で切りつける技だ。

左右に避けながら放てる、という利点があるためカウンターとして使いやすそうだ。

 

特に今回のように直線的な攻撃を仕掛けてくる相手ならかなり効果的だろう。

 

左に避けつつ、弱点である鼻を切りつけ、突進の勢いのまま駆け抜けていった青イノシシに体を向ける。

 

そこでソードスキル後の硬直が来た。

 

弱点を攻撃されたことで激昂した青イノシシが、先程よりも一段と速く突進してくる。

 

スキルを放った後の硬直が解けたのとほぼ同時に、地面を蹴るために両足にぐっと力を込める。

青イノシシが跳ねて飛び込んでくるのに合わせ、その場で垂直にジャンプ。持ち方は逆手のままに、右手でアッパーを打つようにして切りつける。

 

弱点の鼻にもう一発ソードスキルを─《レゾート》を叩き込んだ。

 

すると青イノシシは、甲高い断末魔をあげて、ポリゴンの欠片となって消滅した。

 

俺は正面を向き直してから着地し、硬直が解けた後にメニューを開く。

 

確かに所持金が5コル増えている。

 

こんなもんか、とも思ったが今のは1番の雑魚だったということを思い出した。

 

夜になればより強力なモンスターも出てくるになる。

 

急がなければ。

 

夜に変わりかけようとしている空の下。俺は【ホルンカ】に向けて走り出した。

 

 

 




次回は金曜日に更新します。
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