不良少年、SAOへ行く。   作:テルア

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第3話 テル、賭けに出る。

 

ホルンカへの道中、計30回目の戦闘。

 

相手は『イエロー・ワスプ』。文字通り真っ黄色の蜂型モンスターで、蜂らしい腹についた大きな針と、カマキリのような爪が特徴だ。

 

毒針による攻撃が強力で、喰らうと麻痺状態になり、30秒間動きが大きく制限される。

 

麻痺を治療できるアイテムを使えば、すぐに動けるようになるらしいが、それはホルンカの店で初めて購入できる物だ。

 

つまり、まだホルンカに辿り着いていないプレイヤー、特に俺のように防具が充実していない者にとっては、毒針攻撃を喰らう=死である。

 

まあ、毒針攻撃の前には、大きく飛び上がり空中で一回転してから攻撃をする、という大きな予備動作があるので、一対一ならそこまで脅威ではない。

 

幸い俺は一対一で戦っているので、かなり楽な相手だ。

 

爪による攻撃を避け、隙をついて攻撃。それを繰り返す。

 

何度目かの反撃を入れた後、大きく飛び上がった。毒針攻撃の合図だ。

 

空中で一回転し、俺に針を向け急降下。

 

それを避けると、イエロー•ワスプは地面に激突した。

 

針が地面に刺さって抜けなくなっている。俺はそれを好機とばかりに、一つ前のレベルアップで覚えたばかりの技を放つ。

 

《サイド・バイト》。右に切りつけた後に、素早く逆手に持ち替え、左に切りつけるニ連続技。

 

リーチが短いのが弱点ではあるが、攻撃の出が早く、ニ連続技だけあって威力も申し分ない。イエロー•ワスプの7割ほどあったHPを一度に削り切るほどだ。

 

イエロー•ワスプば光の欠片となって消滅すると、レベルアップを告げるファンファーレが鳴った。

 

VIT─生命力を表す値で、防御力と最大HPをの2つを合わせて呼称したステータスのことだ。それが上昇した。

 

そして、STRとAGIのどちらを鍛えるかの選択肢が出る。

 

STRは筋力のことで、重い防具や重い武器を装備するのに必要なステータス。

 

AGIは敏捷性で、素早さを上昇させるステータスだ。

 

アルゴのしおりを見ると、どちらを蔑ろにするわけにも行かないし、両方同じくらいにしてしまっても器用貧乏なステータスになってしまうらしい。

 

悩みどころだ。

 

このレベルアップで、俺のレベルは10になった。

 

今までは、STRは3、AGIは6と上げてきた。体が重い、というのは戦闘においてかなりのストレスになる。

 

AGIが4に達するまでは、平均化されたステータスのせいで現実より体の動きが鈍く感じたものだ。

 

しかし、6にした今ではむしろ現実より速く動けるくらいだ。

 

だったらSTRに、とも思ったが6:4というのも中途半端な気がしてならない。

 

これがただのゲームならここまで迷う必要もないのだろうが、このゲームはそうではない。

 

死んだら死ぬ、デスゲームだ。

 

少し悩んで、現実での自分の戦い方を思い出す。

 

パワーよりスピードで、スピードより相手の急所に攻撃を叩き込むテクニックで。そうやって敵を沈めてきた。

 

ならば、答えは一つ。

 

俺はAGIの上昇を選択した。本当によろしいですか、と後ろ髪を引くようなメッセージが表示されるが、それに構わずYESを押す。

 

その後はスキルポイントの振り分けだ。

 

今俺が鍛えているスキルは、短剣と索敵。覚えられるスキルには限りがあり、レベル9までは3つ、レベル10からは4つ。レベル20からは5つ、その後レベル20ごとに一つずつ覚えられるスキルの量が増えていく。

 

今俺が覚えられるスキルは4つ。もう一つ、隠蔽スキルや他の武器種などを覚えられるが、選択肢が多いに越したことはない。

 

俺は新しいスキルを取る選択はせず、索敵スキルの上昇を選んだ。

 

これで索敵スキルLv1,に達した。得られるスキルは《記憶判別》と《弱点分析》。

 

《記憶判別》は今まで出会ったプレイヤーやモンスターに限り、自分のHPゲージの横にあるミニマップに映った時に判別出来るようになるスキルだ。

 

以前までは、半径50mのいる内の、丸マークがプレイヤー、三角マークがモンスターという簡単な判別しか出来なかったが、それが何なのかようになるのはかなりありがたい。

 

そして、《弱点分析》はその名の通り、モンスターの弱点を一眼見ただけで自動的に表示するスキル。

 

初見の相手でも発動するらしいので、かなり戦闘が楽になりそうだ。

 

索敵スキルは、パッシブスキル─常時発動するスキルが多い。発動させたら、すぐに効果が出るのが魅力だ。

 

早速ミニマップを見てみると、その情報量に驚かされた。

 

草原エリアのモンスターとは大体戦ってきたので、ミニマップに表示されているモンスターの大半を判別できた。

 

レベルを上げたい時に、経験値効率のいいモンスターを判別することもできるし、強力なモンスターに近づかないようにすることもできる。

 

思った通り、かなり優秀なスキルだ。

 

そうしてミニマップを眺めていると、右端の方で非常事態が起こっているらしいことに気づいた。

 

全く動きを見せないプレイヤーの近くに、イエロー•ワスプ3体が集合している。

 

おそらく、イエロー•ワスプの群れを相手取り、麻痺攻撃を喰らったのだろう。

 

イエロー•ワスプは一対一なら予備動作を見て動けるが、複数体相手だとそうは行かない。

 

三体もいれば、二体の攻撃を捌いている間に背後からの急襲、というパターンもあり得る。

 

今から走ればまだ間に合うかもしれない。しかし、助けに行った俺も同じような事態にならないとは断言してできない。

 

ミイラ取りがミイラになるのは御免だ。

 

ましてやこれはデスゲーム。人のために死ぬなんて、俺には到底できない。

 

他人の心配よりまずは自分の命を優先すべきだ。ましてや判別もできないプレイヤーなら、赤の他人だ。

 

そんなもののために命を捨てる道理はない。絶対にそうだ。

 

けれども、俺はその選択をすることができなかった。命を失う寸前の恐怖を、知ってしまっているからだろうか。

 

人助けなんて柄でもない。あの夜だって、あんな行動をした自分が未だに信じられないくらいだ。

 

しかし、俺の足は動き出していた。AGIに振った俺のステータスで、50mを埋めるのに5秒もいらない。

 

走り出して20m。森エリアと草原の境目があった。迷わず俺は森エリアへと突っ込んだ。

 

ミニマップに判別できないモンスターが二種類。不確定は危険とイコールだ。

長居はしたくない。

 

そのプレイヤーに近づくと、まさに思った通りの状況だった。

 

麻痺状態のエフェクトを全身に纏い、男が倒れ伏している。俺は声をかけている余裕もないと、地面に近いところにいるイエロー•ワスプに向かい短剣基本突進スキル《クーゲルラッシュ》を放つ。

 

完全に意識外からの攻撃だったようで、油断しきったがら空きの胴体に、短剣の切先が深々と突き刺さる。

 

どうやらクリティカル判定でダメージが通常より多く出たらしく、満タンだったイエロー•ワスプのHPを一気に削り取ることができた。

 

まずは一体。残り二体が俺に気づいたようで、二つの複眼が俺を睨みつけた。

 

一体は、爪による攻撃を仕掛けてきた。もう一体は、空中に飛び上がり、何やら牙をカチカチと鳴らしている。

 

初めて見るその行動に、胸騒ぎがした。早く倒さなくては。

 

爪攻撃を避けながら《シュナイデン》を羽に一撃。4割ほどHPゲージを減らし、羽を攻撃されたことでバランスを崩したイエロー•ワスプがよろける。

 

スキル後の硬直時間が終わった瞬間、そこに《サイド・バイト》を放つ。

高速の二連撃を叩き込み、二体目を倒した。

 

バッと振り返り、飛び上がった個体の方を見る。

 

そこにいたはずのイエロー•ワスプが消えていた。

 

どういうことか、と戸惑う間もなく、足音が聞こえてきた。

 

そこには、六頭の狼。ミニマップに表示されないそのモンスターを見て、あわてて時間を確認する。

 

今はpm9:02。

 

目の前の奴ら─『ナイト•ウルフ』が出現してもおかしくない時間帯だった。

 

 

ナイト•ウルフ。

 

夜の森エリアにのみ出現するモンスターで、その真っ黒な体で夜の闇に紛れて獲物を狩るという。

 

アルゴのしおりにも、要注意と書かれたモンスターであり、対策は『夜に出歩かないこと』。つまり、戦うなということらしい。

 

そのレベルの難敵が、六頭。幸いここは森に入ってすぐの場所だ。多少のダメージは覚悟すべきだろうが、すぐに逃げ切れるだろう。

 

イエロー•ワスプとの交戦からすでに30秒以上経っている。

 

あのプレイヤーも動けるようになっているはずだ。

 

麻痺状態から脱したのか、立ち上がっているプレイヤーに声をかける。

 

「おい、もう動けるだろ。逃げるぞ。あいつらは危険だ。」

 

「わかってるさ。あいつら、ナイト•ウルフだろう?ホルンカ周辺の最強モブだ。恐ろしいほど強いらしい。」

 

「分かってるなら早く─」

 

「体が動かないんだよ!!麻痺状態はとっくに解除されてるってのに!何で!?何でだ!僕はまだ、死にたくないのに!」

 

男はそう叫ぶと、一呼吸置いて、絞り出すように言葉を紡いだ。

 

「死にたくないよ……ユナ。」

 

その名前が何なのか、俺には分からない。恋人かもしれないし、家族かもしれない。しかしその男の顔から、とても大事な人だということは分かった。

 

「そうか、分かったよ。」

 

俺はそう呟くと、《クーゲルラッシュ》を使いナイト•ウルフの群れに突っ込んだ。

 

何頭かにダメージを与え、HPバーが1割ほど削れる。こいつら体力も多いのか。戦いは始まる前なのに、もう目眩がしそうだ。

 

スキルを放ち、硬直している俺の背中に、視線が一斉に集まる。

 

「こっちだ、犬共ォ!」

 

そう叫び、俺は背中を見せたまま走った。狼に、格好の獲物だとアピールするように。

 

それに合わせて、ナイト•ウルフも一斉に走り出す。

 

最後に一度ちらりと振り向くと、驚いたような顔で男がこちらを見ていた。

 

彼には、大切な人がいる。

 

そして俺には、家族も友人も、なにもない。

 

せいぜいあるのは命一つだ。

 

生きる目標のない、死にたくないだけの俺でも、命くらいはかけられる。

 

失うかもしれない命なら、軽い方がいいだろう。

 

男のカーソルが見えなくなったのを確認すると、俺は短剣を取り出す。

 

一つ、息を吸う。

 

命懸けの空気。負ける可能性のある戦い。この空気を味わうのはいつ振りだろうか。

 

Dead or Arive。

 

生きるか、死ぬか。どちらの命がここで散るのか。

 

生涯で何度目かのピリピリとした空気感に、鳥肌が立つ。

 

精一杯の虚勢とばかりに笑顔を貼り付け、ボソリと呟く。

 

「さあ、戦闘開始だ。」

 

その言葉で覚悟を決め、狼の群れに向き直し、短剣を逆手に構えた。

 

 

 

 

 




遅くなってすみません。
次回は日曜日更新です。なるべく早く投稿できるようにします。
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