不良少年、SAOへ行く。   作:テルア

4 / 5
第4話 テル、死闘の果てに。

ナイト•ウルフが一斉に襲いかかってきた。

 

木を背にして、攻撃を避けまくる。

 

囲まれた時には、決して背後を取らせないこと。俺の経験則だ。

 

まずは見えなければ、回避も反撃もままならない。人間の視野は、真後ろを決して把握できないのだ。

 

そうして、避ける。避ける。避け続ける。

 

初見の相手だ。まずは攻撃の方法、リーチの確認。

 

六頭のうち、2頭ずつ攻撃してくるのが奴らのパターンのようだ。避けてもその先に待ち構えた2頭が攻撃をしてくる。

 

左右からの挟み撃ちを好み、攻撃方法は飛びかかっての噛みつき、爪による攻撃の2種類。

 

大体のパターンを把握して、反撃の準備に移る。

 

まず第一に、こいつら相手に攻撃スキルの発動は悪手だ。

 

仮に《シュナイデン》で避けながら攻撃したとしよう。

 

確実に1頭にダメージを与えつつ回避できるが、ソードスキル後の硬直時間を狙い撃たれるのが目にに見えている。

 

よって取れる反撃の方法は、短剣による攻撃で、少しずつ削ることのみだ。

 

時間はかかるだろうが、やるしかない。

 

長丁場の戦闘の経験もある。あとはもう腹を括るだけだ。

 

俺は左右からの攻撃を前転しつつ避け、振り返りざまに索敵スキルの《弱点分析》を発動する。

 

こうしたスキルは硬直時間がないので、気兼ねなく発動できる。

 

分析結果は、腹と鼻先。

 

気休め程度だが、そこを攻撃し続ければ多少は早く倒しきれる。

 

決着は早い方がいい。集中力の面でも、イレギュラーをなるべく無くすという点でも。

 

短剣を構え、左右から突進してくるうちの左から来る一頭に狙いを定めた。

 

バックステップで避けながら手を伸ばす。

 

ナイフの切先がナイト•ウルフの鼻を掠め、0.5割ほどHPゲージが減る。

 

今の体力の減り方を見るに、体力が全快の一頭を倒すために20回の攻撃が必要になるようだ。《クーゲルラッシュ》で1割削った奴らも含めて、あと100回以上は攻撃しなければならない。

 

その上、回避も下手を打ってはならない。

 

途方もなく苦しい戦いになりそうだ。

 

しかし、死にたくはない。諦める時は、死のその瞬間だけ。

 

生き残るために、俺はナイフを構え直した。

 

 

「これで…5頭目」

 

飛び上がり、鋭い爪で襲い来るのを、腹にナイフを突き立て、スライディングしながら避ける。

 

長い傷痕が刻み込まれると、そのナイト•ウルフは消滅した。

 

ラスト1頭。体力は全快しているようだが、さっきよりは気持ちがかなり楽だ。

 

何故なら、残り1頭になってしまえば、追撃の心配はない。そうなると、攻撃スキルも使えるようになる。

 

かなり素早く倒せるだろう。

 

その1頭が、飛び上がり噛み付いてくる。

 

俺はそれを《シュナイデン》を放ちながら避ける。

 

体力を1割ほど減らす。

 

俺の硬直が解けると同時に、ナイト•ウルフの噛みつきが再び飛んでくる。

 

今度はそれを回避して、すぐさまナイト•ウルフの背中を追った。

 

ナイト•ウルフが振り向く瞬間に、鼻先に《サイド•バイト》をぶちこむ。

 

やはりいいダメージだ。HPゲージを7割ほど削ることができた。

 

それに怯んで、ナイト•ウルフは少しのけぞる。追撃をしたいところだったが、それを硬直時間が邪魔をした。

 

体勢を立て直し、もう一度飛びかかってくる。

 

俺はそれに《シュナイデン》を合わせた。

 

と同時に、俺のナイフが消滅した。

 

「なっ─!?」

 

焦る俺に、ナイト•ウルフが襲いかかってきた。冷静さを欠いた俺はそれを避けきれず、今回の戦闘で初のダメージを負ってしまった。

 

その一撃だけで、俺の体力は3割強も削られてしまった。

 

まずい。その焦りが、俺の脳内を支配する。

 

度重なる戦闘と、ナイト•ウルフの群れとの長時間の戦闘。

 

それに『ブロンズナイフ』の耐久力では耐えられなかったらしい。

 

ナイト•ウルフの残りのHPゲージを見ると、数ミリだけ残っていた。

 

よりにもよってこんな時に、と自分の不運を呪った。

 

どうするべきかと俺が思考する間にも、ナイト•ウルフは止まらない。

 

爪と牙によるコンビネーションで、俺を仕留めんと攻撃を仕掛けてくる。

 

一度その場を離脱し、少し離れた木の後ろに隠れ、深呼吸をする。

 

危機的状況な時こそ、冷静に。己の中に、答えはあるはずだ。

 

自分の人生を立ち返る。

 

不運なんて、今に始まったことじゃない。

 

家族のこと、それからのこと、そしてこの世界に来るきっかけとなったあの日のこと。

 

そんな世界でも、俺は俺の力と意志で生きてみせると誓ったのだ。

 

頼れるのは、己だけ。

 

そう自分に課した言葉を思い出す。

 

武器はまだある。この世界でも通用するのかは分からないが、俺が世界で一番信用している武器が。

 

ナイト・ウルフが俺を見つけた。一吠えするとその鋭い牙を見せ、俺の首筋に飛びかかる。

 

俺は両の拳を握りしめ、ファイティングポーズを取る。

 

飛びかかってくるその鼻先めがけて、渾身の右ストレートを放つ。

 

この世で俺がもっとも使い慣れ、共に戦ってきた武器。

 

それは俺の体そのものだ。

 

俺の拳に撃ち抜かれたナイト•ウルフは、噛み付かんとして口を開けたそのままの状態で、消滅した。

 

メニューを開き、時刻を確認する。pm11:55。

 

俺はまた、生き延びた。

 

戦闘中は全く気づかなかったが、レベルアップしていたようだ。

 

強い分、経験値もかなり多かったらしい。

 

まあ、何度も戦いたいかと言われれば絶対にNOだが。

 

ステータスの上昇は、またAGIを選んだ。

 

そしてスキル欄を開くと、何故かスキルスロットが一つ埋まっている。

 

そのスキル名は、《無装流》。

 

首を傾げながら、アルゴのしおりを開き、スキルについて書いてあるページを読み進める。どこを探しても、そのスキル名は載っていなかった。

 

訝しみながら、スキルの説明を読む。

 

『このスキルは、ユニークスキルの一つです。ユニークスキルとは、ただ1人のみが習得することのできるスキルであり、SAOの世界において、あなた以外がこのスキルを取得することはありません。』

 

ユニークスキル、という見覚えのない単語とその説明に俺は驚いた。

 

俺だけが使えるスキル。その強さについてはまだ把握していないが、そんなものが存在するのか。

 

息を呑みながら、俺はスキルの説明の続きを読み込む。

 

『《無装流》スキルは、武器を装備していない状態でのみ発動できます。攻撃力は、スキルの効果+腕装備の防御力が反映されます。また、このスキルにはクールタイムがありません。攻撃を前の攻撃から1秒以内に当て続けることで、【コンボダメージ】が発動し、威力がどんどん上昇していきます。上限はスキルのレベルによって決まります。』

 

俺はその能力にさらに驚く。武器なしでの戦闘が強要されるスキルではあるが、俺はむしろそれを望んでいた。武器の動きに縛られない戦闘が出来るのだから。

 

そしてさらに驚いたのは、クールタイム─スキル発動後の硬直時間がない、ということだ。

 

先程までの戦闘でも、クールタイムの存在に大きく行動が制限されていた。それを無視して戦える上に、威力の上昇のおまけ付きだ。

 

俺は、とんでもない武器を身につけてしまったのかもしれない。

 

俺は迷わずそのスキルにポイントを注ぎ込んだ。

 

スキルLv1まで到達させたところで、その詳細を見る。

 

パッシブスキルは、武器非装備時攻撃力+50、コンボダメージ上限150%。

 

攻撃力+50は、この時点ではとてつもなく破格な数値だ。

 

例えば、さっきまで俺が装備していた『ブロンズナイフ』の攻撃力は18。

 

ざっと3倍弱のダメージが出ることになる。

 

そして、攻撃を当て続けることで常に通常の1.5倍のダメージを出せるようになるらしい。

 

そのダメージがどんなものかは、戦ってみないと分からないが。

 

そして攻撃スキルは、初期スキルである《撃骨(ゲキコツ)》《螺閃(ラセン)》《怒濤(ドトウ)》の3つと、Lv1までスキルレベルを上げたことで得たスキル《甲壊(コウカイ)》《鎌鼬(カマイタチ)》の2つだ。

 

『映像によるチュートリアルを視聴しますか?』その問いに俺はYESを選択した。

 

 

3分ほどの映像でスキルの発動モーションを覚え、俺は森を出ようと、パンとポーション、そして水を飲み干す。

 

8割程度まで回復した体力と、5割程度まで回復した空腹ゲージを見る。

 

避けながら戦闘をしたせいでだいぶ奥まできてしまったが、大体の道筋は覚えている。

 

きた道をそのまま辿り、この森から出ようとした。

 

その瞬間。俺の目の前に白い巨体が立ち塞がる。

 

そのモンスターの名は『【悪夢の爪牙】ウルフ・ザ・ナイトマリッシュ』。

 

ナイト•ウルフをそのまま大きくしたようなモンスターだったが、大きな違いが一つ。

 

全身が真っ白く染まっていることだ。まるで、夜の闇に隠れる必要などないと言わんばかりに。

 

その巨体は、夜空の下で目立ちすぎるほど目立っていた。

 

アルゴのしおりに書いていたことを思い出す。

 

称号付きのモンスター、つまり名前の前に【】が付いているモンスターはユニークモブと呼ばれ、通常より強力なモンスターだと。

 

会ったらすぐに逃げろ。そう書いていた。

 

しかし、来た道を戻るには、奴を超えていくしかない。複雑な森の中で無理に迂回しても、迷って野垂れ死ぬのがオチだろう。

 

それに何故だか、今の俺は負ける気がしなかった。

 

「ウォォォォォォォォン!」

 

ウルフ・ザ・ナイトマリッシュが遠吠えをすると、ミニマップに映っていたモンスターの反応が一つ残らず消えた。

 

自分の獲物に手を出すな、との忠告のようなものだろうか。

 

何にせよ、横槍の心配がないならば俺も気が楽だ。

 

拳を握り、構える。いつもの退屈な喧嘩と同じように。

 

強敵との戦闘の前だが、ひどく落ち着いている。

 

「戦闘、開始だ。」

 

そう呟くと、俺はすぐさま《弱点分析》発動した。

 

弱点は、ナイト•ウルフと同じく鼻先と腹。

 

攻撃方法も似ているようで、その巨体で飛び上がり、爪を振り下ろす。

 

俺はそれを最小限の動きで避け、ウルフ・ザ・ナイトマリッシュの鼻の正面に立つ。

 

そこに右拳をぶち当てる。その動作に呼応し、《撃骨》が発動した。

 

ドコッ、と鈍い音がすると同時に3本あるHPゲージの内、1番上のゲージが1割ほど削れる。

 

そしてそのまま、左拳で同じ部位にもう一度《撃骨》を放つ。

 

与えるダメージ量がわずかだが増えた。

 

弱点への攻撃に激昂し、顔の正面にいる俺に向かって噛みつき攻撃を仕掛けてきた。

 

俺はそれを大きなバックステップで回避し、着地するとまたも鼻先に《甲壊》を叩き込む。

 

手のひらを上に向け、刺すように突き出す。

 

命中すると、ウルフ・ザ・ナイトマリッシュの名前の横に、盾のマークと下向きの赤い矢印がつく。

 

防御力が下がったことを表すマーク。防御力デバフ、と呼ばれるものらしい。

 

そして一歩下がり、後ろ回し蹴りを繰り出す。《鎌鼬》のモーションだ。

 

踵が鼻先に命中し、今度は2割ほどHPゲージを減らした。防御力デバフとコンボダメージの発動によりかなり威力が上がっている。

 

すると、ウルフ・ザ・ナイトマリッシュは大きく上へと飛び跳ねる。

 

嫌な予感がした俺は、鍛えたAGIを活かし、すぐさま木の上に登った。

 

ウルフ・ザ・ナイトマリッシュが着地すると、地響きが起きた。あれにダメージの判定があったのなら、大ダメージを受けていたかもしれない。

 

安堵のため息をついた。ウルフ・ザ・ナイトマリッシュを見ると、奴にも着地の反動があったようで、その場で動きを止めた。

 

俺はその隙を見逃さず、木の上から《螺閃》を放つ。空中で一度きりもみ回転をしてから飛び蹴りを放つ突進技だ。

 

予備動作はあるが、その分ダメージはやはり多かった。

 

弱点でない右前脚に当てたのにも関わらず、HPゲージを3割も削った。

 

そして足が地につくなり、《鎌鼬》を放つ。2割強。

 

その瞬間、ボキッと音がした。

 

ウルフ・ザ・ナイトマリッシュはバランスを崩し、一つ吠えたあと、その場に倒れ込んだ。どうやら、右前脚が集中攻撃によって折れたようだ。

 

俺はそのまま顔の正面に回り込み、鼻先をめがけて《撃骨》を連発した。

 

コンボダメージによって、一撃毎にダメージがどんどんと増えていく。

 

ウルフ・ザ・ナイトマリッシュが立ち上がる頃には、HPゲージは最後の一本になっていた。

 

その後も攻撃を避けつつ、俺は攻撃を重ねていった。

 

ウルフ•ザ•ナイトマリッシュの体力が、ラスト一本の半分を割る。

 

その瞬間、ウルフ•ザ•ナイトマリッシュは大きく咆哮し、さっきの攻撃よりも高く飛び跳ねる。

 

先程の攻撃とは、何かが違った。

 

その決定的な違いは、着地の仕方。先程の飛び跳ねての攻撃は、四肢で着地するようになっていたが、今度は違う。

 

頭から、猛スピードで回転しながら落ちてくる。

 

それはまるで、夜空に白く輝く流星のように見えた。

すぐにもう一度木に登り、回避の準備をした。

 

しかし、着地の衝撃で、俺が登っていた木は崩壊した。

 

尻餅をつき、落下ダメージでHPが少し削れる。

 

突然のことに驚き、前転を挟んで着地をすると、眼前には竜巻、としか形容出来ないほどの旋風が迫っていた。

 

巻き上がる土煙の中、その中心で、ウルフ•ザ•ナイトマリッシュが回転し続けているのが微かに見えた。

 

迫り来る竜巻に向き直ると、少しずつ体がそちらに引き寄せられていくのを感じた。

 

多分食らったら、死ぬ。本能がそう告げた。

 

俺はどうするべきか考える。

 

どうにかして逃げるか?いや、逃げようにも竜巻の引き寄せる力が強すぎる。

 

ならば、立ち向かうしかない。突破の仕方を考えた。

 

少し前に習得したスキルを思い出す。─あった。方法が。

 

俺は引き寄せられながら、右足を少し浮かせ、地面に向かって思い切り踏み込んだ。

 

範囲攻撃スキル、《怒濤》。

 

俺の周りに小規模な衝撃波が発生する。それと竜巻がぶつかった。

 

すると、竜巻に少しの隙間が出来る。そこに向かって俺は《螺閃》を繰り出した。

 

勢いよく俺の体は前進していく。竜巻の中に入った瞬間、隙間が閉じた。

 

台風の目は、風が弱い。そう学校で習った通りだった。

 

竜巻の発生源であるウルフ•ザ•ナイトマリッシュの周囲には、風がほぼなかった。

 

そこに向かって、俺は蹴りを叩き込む。

 

HPゲージが2割ほど削れ、竜巻が消える。

 

そのまま俺は、《鎌鼬》を一撃。残りHPゲージは1割。

 

そして《鎌鼬》の終了と同時に、もう一度同じ技を放つ。

 

HPゲージが削れ切る。それと同時にウルフ•ザ•ナイトマリッシュが光の欠片となって消滅した。

 

 

「勝った、のか。」

 

レベルアップのファンファーレが鳴り響く。一気にレベルが18まで上昇する。

 

ユニークスキルの強さは、とんでもなかった。あれほど苦戦したナイト•ウルフの親玉をいとも簡単に倒せてしまうなんて。

 

(頼りすぎると、甘えるな。)

 

このままでは、戦い方が雑になる。俺はなんとなくそう思い、なるべくスキルの使用を控えることを決心する。

 

そうなると、スキルポイントの振り分けももっと考える必要があるだろう。

 

そう考え、スキルポイントの振り分けは後回しにした。

 

STR、AGIの振り分けも同様にすることにした。

 

レベルアップの確認後、アイテム欄を見ると、さまざまなアイテムがあった。中でも目を引いたのが、『悪夢越えの首飾り』。

 

ラストアタックボーナス、といってボスへのトドメを刺した者限定で手に入るものらしい。

 

牙がついた首飾りだった。装備した時の効果は、AGI+8と落下ダメージの減少。

 

あんなにコツコツと上げてきたAGIが一気に8も上昇するのか。ステータスアップを保留にして正解だった。

 

その他にも、様々な素材が手に入った。加工したら武器や防具にもなるらしいので、後で加工屋にでもいくとしよう。

 

最後の一本のポーションを飲み干し、森の出口に向かって歩き出す。

 

何やら体が重い気がした。一気に持ち物が増えたからだろうか。STRの上昇も視野に入れた方がいいか。

 

そう考えを浮かべた瞬間、俺はその場に倒れ込んだ。

 

意識も朦朧としている。目の前が霞んでいく。

 

「……い!見つけたぞ…こいつが…か?」

「そう……お願…だから…助け…てやっ…くれ…」

 

遠くに聞こえた誰かの声を最後に、俺の意識は落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は水曜日に投稿予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。