勝利の魔法、それはないしょ(仮)   作:あうちゃ

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小説を書き始めたばかりの初心者です。頭の中で描いているお話を文字にして表すのが想像以上に難しくて困ります。


雪の女王

今日もまた商店街のお手伝い。もうすっかり見慣れた光景だ。老若男女関係なく彼女が接客するやいなや、お客さんがみるみるお店に吸い寄せられていく。

 

こんなこと誰にでもできるわけではない。少なくとも俺の知る限りでは彼女を含めふたりしか知らない。このふたりのすごいところは下心なしの善意のみでお手伝いをしているという点だ。こんなことほかのやつにできるかと聞かれたら答えは恐らくNOだろう。

 

そんな彼女だからこそお客さんからの信頼も厚いし、俺たち商店街の連中も彼女を受け入れられるわけだ。

 

「ほいこれが今日の分の人参だ!」

 

いつものようにお手伝いの報酬の人参を渡すと、疲れていた表情から一瞬で満面の笑みへと変わった。

 

「わーい!おじちゃんいつもありがとうね!」

 

「いやいや、いつも助かっているのはこっちだからむしろお礼をいうのは俺らのほうだよ」

 

彼女は商店街の救世主と言っても過言ではない。度重なる都市開発の影響で活気が失われつつあった商店街を彼女がひとりで盛り返した。なのでそんな彼女にお返しをすべく、給料とまではいかなくともお駄賃程度のお金を渡そうと思ったら断固としてそれを拒否した。彼女曰くあくまでも商店街のおじちゃん達が困っていたから助けただけなのでお金を貰うのは違うということらしい。

 

「えへへー!それは嬉しいな!じゃあまたお手伝いしにくるねー!」

 

彼女が去ろうとしたそのとき、ふと思い出した。

 

「ああ!もう夕方だっていうのに、果物を病院に届けるの忘れちまったな……」

 

独り言のような感じで呟いたにも関わらず彼女は反応した。

 

「おじちゃん果物ってどれ持っていくの?」

 

「りんごの詰め合わせだな。あそこにはいつもこれを頼む俺たちの恩人がいるんだよ。だから忘れたら色々とまずいんだ」

 

「病院って中央病院でしょ?そこならわたしが走って届けにいくよ!」

 

もうすでに接客として沢山の野菜を売り捌いてもらったのに、さらに追加で配達まで任せるのは流石に気が引ける。

 

「いやいや流石に悪いからな。俺のミスだし俺が届けるよ」

 

「いいよいいよ!バイクより走ったほうが速いもん!」

 

こうなったらもう俺の負けだ。彼女は見た目にそぐわぬ強情さを持ち合わせている。だから一度やると決めた以上俺がなんと言おうと引かないだろう。

 

「じゃあ今日の分の人参は次回以降サービスしとくな」

 

 

こんなやり取りをもう半年も続けている。初めて出会った日から全く変わらない。愛想がよくて商店街のために尽くしていて、誰からも好かれる友達思いな女の子。だから常々思う。こんなにいい子なんだから誰かスカウトしてあげてほしいと。

 

他力本願と思われてしまうが俺たちはトレーナーになれるほどの頭もなければコネもない。だから彼女にしてあげられることと言ったら、人参やお菓子をあげてモチベーションを支えてあげることくらい。

 

学園の話をあまり聞かないので彼女がいつデビューできるのか見当がつかない。明日かもしれないし明後日かもしれない。もしくは一ヶ月後、それより長引くことも考えられる。未来がどうなるかなんて分からないけど、デビューできるそのときまで彼女をずっと待ち続ける。それが俺たちにできる最大のお返しだろう。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

商店街から少し離れたところにある中央病院。中央とつくだけあってかなり大きい病院である。24時間365日受付をしており、緊急時はだいたいここにお世話になる。要するに大なり小なりここには色んな患者さんがいるわけだ。今回わたしが届けるのはおじちゃんが言っていた恩人って人だよね。

 

おじちゃんが言うにはその恩人はりんごが好物でいつもこれを頼んでいるみたい。確かに好きなものは何回食べても美味しいもんね。きっとりんごを待っているだろうし速く届けてあげないと。

 

 

「すみません!果物を届けにきました!」

 

「えっとお名前を伺ってもよろしいですか?」

 

「わたしの名前はハルウララです!八百屋のおじちゃんに頼まれて果物を届けにきました。でも部屋がわからなくて」

 

「それでしたら202号室ですね」

 

 

中央病院というだけありかなりの広い。病棟の案内板を頼りに部屋を探すこと数分ようやく見つけることができた。ここまで急いできたのでひとまず呼吸を整える。初対面の相手にゼーゼーとした姿なんて見せられないもんね。

 

これから会う相手はどんな人だろう。緊張なのかここまで走ってきたからかはわからないけど胸がドキドキする。おじちゃんのせいとはいえ配達ミスで怒られるかもしれない。でもわたしなら多分大丈夫。だって元気でいればきっと相手も笑ってくれるはずだから。

 

気持ちの整理がつきドアを開けようと試みたその瞬間、向こうから扉が開かれた。

 

「いらっしゃい。今日は可愛らしい子ね」

 

わたしが扉を開けようとしたのと全く同じタイミングだったので反射的に驚く。まさかわたしが部屋を訪れるって読まれていたのかな。これってエスパー?

 

「“あなたはエスパーなの”って感じの顔をしているわね!来客がきたら受付から連絡が入るからそれでわかるんだよね!」

 

強面な人だったらどうしようって思ったけど杞憂でよかった。それにしてもこのお姉さんはすっごく綺麗だなぁ。茶髪のストレートで丁寧に手入れがされている髪の毛。それに加えて顔のパーツがくっきりしていて美人だということが一目でわかる。わたしがスカウトマンだったらモデルに勧誘したいもん!

 

「えっと、八百屋のおじちゃんに頼まれて果物を届けに参りました!!!」

 

「そんなに敬語じゃなくても大丈夫だよ。とりあえずお菓子用意するからそこの椅子に座ってて」

 

そう言うと果物と引き換えに棚からお菓子を取り出した。こういうときの為にお客さん用に取ってあるのかな。なにはともあれ優しそうな人でよかった。

 

「りんごありがとうね。今日はもう届かないと思ってたよ」

 

ほっとした表情をみせると、ベッドに腰を掛けた。

 

「この部屋は若い人あまり来ないの。あなたの名前聞いてもいいかな?」

 

「わたしの名前はハルウララ!あなたのお名前は?」

 

わたしの名前を聞いた途端、綺麗なおめめを光らせた。

 

「私はユキツララ。そっかウララちゃんって言うんだね」

 

「名前が似てるね!わたしとユキツララさん!」

 

「つららちゃんでいいよ。私もウララちゃんって呼ぶからさ……ね?」

 

「わかった!つららちゃん!」

 

名前が似ているとはそこはかとなく運命感じちゃう。わたしが楽しそうにそう言うとつららちゃんは優しい顔で微笑んだ。

 

「ウララちゃんはこの辺り出身?」

 

「出身は高知!今はトレセン学園に通っているんだ〜」

 

そう言うと私の方をみて、もう一回綺麗なおめめを光らせた。

 

「そうなんだ。私も昔トレセン学園に通っていたよ」

 

「ええ!そうなの?」

 

たしかに言われてみれば少しだけ筋肉のついた体がチラチラと顔を覗かせている。つららちゃんはエリートなのかな?

 

「うんそうだよ。ウララちゃんは学校楽しい?」

 

「うん!友達がいるから毎日楽しいんだ!でもねわたしにはトレーナーがついていないからレースには出られないんだ」

 

「そっか、それは大変だね。でも頑張ればきっと誰かは見てくれるから大丈夫!だから今はお菓子でも食べて気分転換しよっ?」

 

「そうだね!えへへー!」

 

こうして寮の門限ぎりぎりまでおしゃべりしていた二人は初対面にも関わらずたった数時間でかなり打ち解けた。

 

「明日もまたおいでよ。ウララちゃんと話すと楽しいからさ」

 

「うん!わかった!じゃあまた明日ね!」

 

そういえばおじちゃんの言う恩人ってなんだったんだろう。でもつららちゃんは優しい人だから、おじちゃんの恩人になっていてもおかしくはないよね。詳細はまたいつか聞けばいいや。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

つららちゃんと別れること数十分。病院からフルスロットルで駆け抜けて、なんとか門限ぎりぎりに間に合った。

 

八百屋のお手伝いといい、配達といいいつも以上に疲れた体を休めようと玄関を開けるとそこにはかなり怒ったキングちゃんがわたしを待っていた。なんとなく理由がわかるけど一応聞いてみる。

 

「遅いわ」

 

そうだよね。もし帰ってこなかったら大変だもん。

 

「ごめんね!商店街のお手伝いをしていたら時間がかかっちゃって」

 

「もう心配したんだから。遅くなりそうなら連絡くらい入れてよね。何回も電話したのよ」

 

スマホを確認すると、キングちゃんの言うとおり何回も電話がかかってきていた。病院内はマナーモードに設定していて気が付かなかった。今後はこまめに携帯を確認するようにしよう。

 

「次からは気をつけるね。それでね今日は病院にも行ってきたんだ!」

 

「どこか怪我したのかしら?」

 

至極当然の質問。病院に行ったと聞けば大体の人が怪我か病気を疑う。特にわたしの場合はいつも膝に絆創膏をつけているから余計にそう思われるけど今日は違う。

 

「違うよ!八百屋の配達で病院まで走っていったんだよ。そこでねつららちゃんと仲良くなれたの!」

 

つららちゃんとは?という顔をしていたので病院での出来事を色々と教えた。同じトレセン学園に通っていたというので驚いてくれるかなって思ったら、予想とは裏腹にぼけーとした顔をみせた。

 

「ユキツララさんってどこかで聞いたことがある気がするのよね」

 

顔に疑問を浮かべパソコンへ向かうキングちゃん。記憶の奥底にあるものを頼りにインターネットで検索してみると、想像を越える本数の動画が出てきた。紛れもなくこれは今日出会ったばかりのつららちゃん。

 

「うーん。見たことはあるけどピンとこないわね」

 

なぜ『ユキツララ』という名前に聞き覚えがあったのかは思い出せなかったので、試しに一番上に出てきた有マ記念の動画を見てみる。

 

「!?」

 

15年前の中山で行われた有マ記念。重馬場で本来の実力を出せなかった本命の方たちと違い、つららちゃんは序盤で先団につけると中盤で躱し最終コーナーをまわる頃にはほぼ勝負がついていた。

 

もしかしてウララさんはこんなすごい方とお話ししてきたってこと?羨ましいわね。

 

「やっぱりウララさんは運がいいのかしらね」

 

そんなことを考えていたら次の動画が再生されていた。これもまたつららちゃんの動画だ。てっきり有マ記念の動画だけかと思っていたけど違うのかしら。

 

「あれ他にもつららちゃんの動画あるね」

 

「これは食レポ?こっちは野球しているわね」

 

普通のウマ娘なら名前を検索してもそこまでヒットしない。悲しいことに私がそうだから。でもユキツララさんは私が想像していた以上に人気があったらしい。その証拠にユキツララさんの名前を検索するとたくさんの動画がでてくる。

 

戦績は18戦7勝。重賞は有馬記念のみ。当時はかなり人気があり、重賞を勝っていないにも関わらず有馬記念に出走することができたとのこと。でもあんなに強いレースをしたのに有馬記念しか勝てなかったのはなぜだろう。その理由は調べてもわからなかった。ムカつくけど一番知りたかったところが出てこないのはネットあるあるよね。

 

「かなりすごい方だったのね」

 

「とりあえず明日有馬記念について聞いてみるね!」

 

時計の針を見ると23時を回っていた。軽めの夜ふかしとはいえ、疲れていたのか二人ともすぐにぐっすり眠りに落ちてしまった。キングちゃんのベッドで。

 

 

 

―――――

 

 

 

昨日の出来事が頭のなかをぐるぐる支配していた。つららちゃんは何者なのか。それを知りたくて学校が終わるとすぐに病院へと向かった。

 

本当はキングちゃんも行きたかったみたいだけど、実際に会ったわたしはともかく、見ず知らずのキングちゃんは病院へ押しかけるわけにはいかないとのことで家に帰りわたしから結果を聞くという方向で妥協した。

 

そんなウララとつららちゃんだが出会って二日目には思えないくらい二人の雰囲気は和やかなものだった。

 

「つららちゃんって有マ記念に勝ったことがあるんでしょ?なんで昨日言ってくれなかったの!」

 

「わざわざ自分から言い出すのは自慢しているみたいになっちゃうかなって。大人の女性っていうのは必要以上に自分を見せびらかさないものよ」

 

そう言うとちょこっとドヤ顔をした。大人の女性っていうのはわたしにはまだわからないけど、そういうもんなのかな。じゃあわたしもあの顔をすれば大人の女性になれるかな。うっらら〜ってね。

 

「それでね昨日つららちゃんが勝った有マ記念の動画見たよ!すごかったね!たくさん練習したのかな?」

 

「あの頃は毎日トレーニングしていたね。トレーニングはかなりきつかったけど、私のことを応援してくれる人がいたから最後まで頑張ることができたよ」

 

「応援って力になるよね!わたしも商店街のひとやキングちゃんにライスちゃんとかたくさんの人に頑張れーって言われるとやる気がもりもり湧いてくるんだ!」

 

やる気がもりもりって感じのポーズをとったのもつかの間、真剣な顔をしてこう言った。

 

「でもね、これだけたくさんの応援をもらっているのに一回も勝てたことがないの」

 

「わたしもつららちゃんみたいに強かったらレースがもっと楽しくなるんだろうな」

 

さり気なく呟いた一言。その一言がつららちゃんのなにかに刺さったみたいでわたしのほうをじっと見つめた。

 

「ウララちゃんは強くなればレースが楽しくなると思うの?」

 

トレーナーがいないから正式なレースには出られないって昨日も言っていたね。そこから察するに、ウララちゃんは一回も勝てたことがないからそう思うのだろう。

 

「わたしはレースで一回も勝てたことがないの。だからレースで勝てるようになったら楽しくなるのかなって……」

 

レースで勝てたら楽しいのは間違いない。何十年経った今でも模擬レースで初めて一着を取れたときのことを思い出せる。ただそれと同時に変わってしまうものもある。勝ちを続ければ人から期待されるし、それとは反対に負けが続けばあらぬことを言われる。強くなればなるほど純粋にレースを楽しむのは難しくなる。

 

でもそのことを教えたほうが良いのかな。ウララちゃんの性格を見極めきれていない以上、下手なことは言えない。それにこれはある程度強くなってからぶつかった問題であって今の段階ではそこまで関係ない。

 

なら話をそらしつつ代わりに質問を投げかけよう。これでウララちゃんの答えに応じて私も柔軟に対応しよう。

 

「じゃあ一つだけ。ウララちゃんはレースで勝つために必要なものってなんだと思う?」

 

この質問をすればある程度その子が持つ考えが見えてくる。ウララちゃんはどうなんだろう。

 

「楽しむこと!みんなとレースで走れるから、いつも勝ちたいって気持ちが芽生えるの。わたしはまだ一回もレースに勝てたことはないけどいつか勝てたらなって」

 

楽しいと勝ちたいを共存する考え。昔の私にそっくりだ。どこまでも純粋で汚れを知らないからこそ言える考えではあるけど、私はこの考え方すごく好き。

 

しかし、今後強くなったとしても同じ考えでいられるのかな。現時点では、ウララちゃんが可愛くていい子ということしかわかっていない。

 

 

 

いや、可愛くていい子ならそれで充分よ。深くは考えない。問題にぶつかったらその都度考えればいい。

 

そうと決まれば私がすべきことは一つ。ウララちゃんのサポートをしてあげよう。模擬レースで勝てるようになればトレーナーもきっと見つかると思うし、それまでの期間でウララちゃんが強くなれる環境を整えてあげよう。

 

そしたらウララちゃんの悩みも解消されると思うし、私も楽しいから一石二鳥だね。

 

 

「じゃあウララちゃん!今日からあなたを弟子一号として認めてあげよう!そんでもって一勝をプレゼントする!どうかな?」

 

 

不安そうな顔からニパァァとした顔に早変わりしたところをみるに、今回の作戦は成功したみたい。

 

「うん!つららちゃんの弟子にわたしはなーる!」

 

可愛らしい仕草を見せるウララちゃん。こんな子がそばにいてくれるだけで私も頑張れるってものよ。だから師匠としてその一歩目。ウララちゃんの力を見定めないと。

 

「ふふ、よかった。それじゃあ次のお休みはウララちゃんの模擬レース見に行くね」

 

「うん!たくさん頑張るね!つららちゃん!」

 

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