優しい竜と幼い賢狼   作:羽付きのリンクス

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(下)

足跡を辿り見つけたゴブリンの巣は、崖に囲まれた窪地にあった。

集落を形成してはいるが規模は大きくなく、先の襲撃で大きく減ったこともあってせいぜい十五匹程度だろう。

だが懸念すべきはあのハイ・ゴブリン。おそらくテトラとイリーナが攻め込んでくることも見越して、万全の準備を整えているはずだ。

 

だから、何もかも押し潰す。

 

「リーナ、作戦通りいくよ。」

「うん。任せて。」

 

既にインナーだけになったイリーナが、顔の包帯を解く。

 

「私の方にハイ・ゴブリンが出てきたときは?」

「無理はしないで。あいつは、ボクが絶対に仕留める。」

「……テトちゃん」

 

イリーナが、形の違う両の目でテトラを見つめる。

 

「大丈夫だよリーナ、ボクに任せて。さあ、作戦開始!行くよ!!」

「うん!」

 

イリーナは翼を大きく羽ばたかせて、飛ぶ。肉体を竜へと変質させながら、砲弾のような勢いで集落のど真ん中へと降り立つ。

着弾地点にいた不幸なゴブリンが、何が起きたかも分からないまま粉々に砕け散った。

 

「さぁ、私の相手になってもらい……ます。」

「すぅ……」

 

驚愕するゴブリンたちを前に、大きく息を吸うと。

 

『ルオオオオオォォォァァァ!!!!!』

 

イリーナは自らの存在を誇示するかのように、大きく吼える。ビリビリと空気を振るわせる雄叫びに、周りのゴブリンたちは怯えた様子を見せる。

この雄叫びは、まさしく竜の咆哮である。矮小なゴブリンなど容易く前後不覚に陥る。集落のあちこちから、わらわらとゴブリンたちが出てくる。棍棒を持ったもの、弓を持ったもの。ハイ・ゴブリンが潜ませていたであろう伏兵たちが、引き寄せられるように姿を現す。

まともに受けた者の理性を吹き飛ばす。竜の咆哮とは、そういうものであった。

おそらく、巣のすべてのゴブリンたちの関心はイリーナに向いたことだろう。ここまでは、目論見通り。

 

「さぁ、来なさい!」

 

イリーナはさらに威嚇するように翼を広げる。ゴブリンたちが一斉に飛びかかってきた。四方八方から繰り出される攻撃。イリーナはそれらをすべて、強引にねじ伏せる。

イリーナに剣を突き立てようと突進してきた一匹が、イリーナの腕の一薙ぎによって上半身を吹き飛ばされる。勢いそのままに拳を振り上げ、叩きつける。

 

「はあああっ!!!」

 

振り下ろしたその一撃は、地面を割るほどの力だった。

巻き添えを食らった数匹のゴブリンが悲鳴を上げる間もなく吹き飛び、絶命する。

 

「まだまだ、もっと来い……!」

 

イリーナは腕を一閃するたびに、確実に敵の数を減じていく。

遠くから弓を射掛けようとするゴブリンもいた。だが―――

 

「……フッ!!」

 

イリーナの口から放たれた氷の礫が、寸分狂わず眉間に直撃し即死する。

唾を瞬時に凍らせ、撃ち出したのだ。テトラがいる中ではやりたくないが、今周りにいるのはゴブリンどもだけだ。ちょっとくらい、はしたなくても問題ない。

 

「これでっ!最後!!」

 

逃げようとした最後の一匹の頭を掴み、地面に叩きつけ、踏み潰す。

 

「……ふぅ。」

 

開放された竜の力に、この程度運動にもなりはしない。イリーナはため息をついて、辺りを見回す。

 

「あとは、テトちゃん次第。大丈夫かな……」

 

ゴブリンどもの血と臓物に塗れながら、イリーナは静かにテトラの帰りを待つのであった。

 

 

ハイ・ゴブリンは洞窟の最奥でうずくまり、酷く怯えていた。

 

なんてことのない村の筈だった。自分が村に潜り込んで注意が逸れた隙に、大勢で一斉に村に襲いかかる。それで何もかも壊し、奪い去るはずだった。もし抵抗しようとする奴らがいても、あの大群なら押しつぶせる。そういった絶対の自信があった。

あの銀狼の獣人が来たときも、焦る必要はなかった。時間を稼ぎさえすればいい、あとで残った本隊と合流して嬲り殺しにすればいいと。

 

だが、あのとき村から感じた”アレ”はなんだ。断じて人間のものではない。自分たち魔物と似た気配。だが、絶対的な”格”が違う。高々ゴブリンの枠を出ない自分とは、根底から違う恐ろしいもの。

だから一目散に逃げ出した。襲撃は失敗したと確信していた。巣に戻ってから、すぐさま残って留守番していた奴らをまとめ、潜ませていた。追ってきた奴らを逆に迎撃してやるために。それで”アレ”をどうにかできるとは思えなかったが、何もせずただ死を受け入れるのはプライドが許さない。せめて一太刀だけでも。

そんな気概も、先程の咆哮で吹き飛んだ。"アレ"がやってきた。今ごろ表の部下どもは、ひとり残らず擦り潰されているだろう。そして、その次には―――

 

「やっぱり、ここにいたんだね。」

 

ビクリと顔をあげる。そこには、あの時切り結んだ獣人がいた。なぜここに、とは思わなかった。そんなことはどうでもよかった。

これから自分は”アレ”によって確実に死ぬだろう。ならば、あの時仕留め損ねたこいつだけでも。

刺し違えてでも、殺してやる。

 

 

テトラの言葉に反応して顔を上げたハイ・ゴブリンは、しかし何も言わない。ただ、濁りきった瞳でじっと見つめてくるだけだ。

 

「ここなら、邪魔は入らない。前みたく逃げ場もない。覚悟してよね?」

「…………。」

 

瞬間。ハイ・ゴブリンの目が、危険な色に光った。

無言のまま立ち上がると、ハイ・ゴブリンは自らの得物を取り出す。

 

「……ッ!」

 

それは、夜の襲撃の際使っていた棍棒ではない。ハイ・ゴブリンが手にしていたのは、身の丈ほどもある戦斧だった。

 

「それが、本気モードってわけ。」

 

テトラもカランビットナイフを構える。ハイ・ゴブリンが戦斧を両手で構える。右手で柄を握り締め、左手の鉤爪に引っ掛けるように。

 

「グルオォォッ!!!」

 

先に動いたのはハイ・ゴブリンの方だった。

まるで獣のように猛々しく吠えると、テトラめがけて一直線に飛び込んでくる。戦斧が、風切り音を立てて迫る。

テトラは、間一髪それを躱し懐に飛び込むと喉元目がけて刃を走らせる。だが、その一撃は虚しく空を切る。

 

「なっ!?」

 

ハイ・ゴブリンは戦斧を振り切った勢いを利用して、大きく体を捻ったのだ。横薙ぎに振るわれた一撃に、テトラは吹き飛ばされる。

 

「ぐあっ……!」

 

背中を強く打ち付け、一瞬呼吸が止まる。

ハイ・ゴブリンは戦斧を担ぎ上げると、再び突撃の姿勢を取る。

 

「……舐めないでよっ!」

 

痛みに顔をしかめる暇もなく、テトラは即座に体勢を立て直すと、今度はこちらから仕掛けた。勢いよく駆け出すとジグザグに、タイミングを悟らせないように距離を詰める。そして、渾身の力で蹴りを放った。

ハイ・ゴブリンは戦斧の腹の部分で受け止める。

が、続けざまに脚を振るいもう一撃。立て続けに二度の上段蹴りは耐えられなかったのか、ハイ・ゴブリンは大きく吹き飛ぶ。

テトラはすぐさま追撃を仕掛け、倒れたハイ・ゴブリンの上に馬乗りになる。カランビットナイフを逆手に持ち替え、その切先を突き立てる…が。

ガキン!と弾かれる音。ハイ・ゴブリンの鉤爪が、テトラの一撃を防いだのだ。

 

「またそれ!?このぉ!」

 

もう一度と振りかぶるが、ハイ・ゴブリンはその隙をついてテトラを思いきり投げ飛ばした。

 

「きゃっ!」

 

ゴロゴロ転がりながら、なんとか受け身を取る。

立ち上がり、尻尾についた土を素早く払うと、改めてハイ・ゴブリンと対峙する。

 

「……流石にやるね。でも、負けない。」

 

テトラはそう呟いて、ナイフを構え直す。

 

「グウゥ……」

 

ハイ・ゴブリンも戦斧を構える。

 

「いくよ!」「グルアァッ!!」

 

両者同時に地面を蹴った。

上段に振り下ろされる戦斧。それを紙一重で躱しナイフで切りつける。しかし、それは戦斧の柄によって阻まれる。間髪入れずにテトラの横腹めがけ、反撃の蹴りが飛んでくる。

テトラはとっさに後ろに跳んで衝撃を逃がすが、背中に硬い感触。跳んだ先は洞窟の壁面だった。追い込まれたテトラに、とどめとばかりに勢いよく振り下ろされる戦斧。

 

「やばっ!!」

 

テトラは咄嵯に身を屈めて回避すると、そのままハイ・ゴブリンの背後に回り込む。そして後ろから蹴り上げた。

 

「ギィアッ!?」

 

逆に壁際に叩きつけられるハイ・ゴブリン。

訪れた好機を逃さず斬りかかる。だがハイ・ゴブリンも必死で腕を振るい鉤爪で防ぐと、力任せにナイフを弾き飛ばしてしまった。

 

「あっ、しまっ…!?」

「ギイィッ!!」

 

横薙ぎに振るわれる戦斧。テトラは慌ててしゃがみ込んで、それを避ける。尻尾に掠ったのか、銀色の毛が少しだけ舞った。

 

「あっぶな……」

 

冷や汗をかきながらも素早くナイフを拾い直し、ハイ・ゴブリンに向き直る。

 

「……どうしよこれ。埒あかないよね。」

 

テトラは考える。

 

(このままじゃジリ貧だし、そろそろ決めないと。……あんまやりたくなかったけど。)

 

テトラは覚悟を決めると、ゆっくりと深呼吸をする。

 

「ふー……っ。よし!」

 

ハイ・ゴブリンも、応えるように戦斧を構え直す。互いに、次の打合いで決着をつける腹積もりらしい。

 

「……じゃあ。覚悟してよ、ねっ!!」

 

テトラは地を蹴って、一直線に迫る。ナイフと戦斧が交錯する―――

と、思いきやテトラの影がぶれる。フェイントをかけた、死角からの一閃。だがハイ・ゴブリンも即座に反応。戦斧を盾のように使いながら、その一撃を防ぐ。

それでもテトラは止まることはない。続けてナイフを振るうが、それも受け止められる。逆に、膂力で勝るハイ・ゴブリンに押し返された。

テトラが体勢を立て直すよりも早く、ハイ・ゴブリンが戦斧を振り下ろしてくる。なんとか体を逸らすが、避けきれずに頬が切れた。

 

「おらぁっ!!」

 

傷には一瞥もくれず、渾身の蹴り。

 

「ガァッ!!」

 

ハイ・ゴブリンは鉤爪で受ける。ナイフの連撃。相手も負けじと戦斧で反撃し、インファイトの間合いで激しい打ち合いが繰り広げられる。

 

「はあぁぁ!!」「グウゥッ!!」

 

戦斧と鉤爪。ナイフと蹴り。

そのどれもが必殺の威力をもって、激しくぶつかる度に火花を散らす。テトラが懐に入り込みナイフを突き出すが、鉤爪によって弾かれる。しかし、更に踏み込んでナイフを横に薙ぐ。

今度は戦斧に受け止められるが、すかさず手元に向けて蹴り。

 

「ギャウッ!?」

 

ハイ・ゴブリンの右手が砕け、戦斧を取り落とす。怯むハイ・ゴブリンに追撃。だが、残った左手の鉤爪で受け止められる。

今度はハイ・ゴブリンの攻撃。迫る鉤爪を躱し、躱し、避けきれない攻撃を咄嵯にナイフで防ぐ。そのまま鍔迫り合いのように押し合う。

 

「ぐぅぅ……!」

 

あまりの重さにテトラは苦悶の声を漏らす。ハイ・ゴブリンは強引に押し切ろうとする。

このままでは力負けしてしまう。咄嗟に、刃を滑らせるように受け流す。

 

「グオッ……!」

 

僅かにバランスが崩れる。その隙を突いて、返す刃で首を狙う。

が、やはり鉤爪が間に合う。今度は逆に、鉤爪をナイフに引っ掛けられて動きを封じられた。

 

「なっ!」

「ギィアッ!」

 

ハイ・ゴブリンはそのまま力一杯振り回す。何とか受け流そうとするテトラだが、その拍子にナイフを弾き飛ばされてしまった。

―――だが諦めない。ならばと脚を振るう。

 

―――防がれる。諦めない。もう一度蹴り。

 

―――防がれる。諦めない。膝。

 

―――防がれる。まだ諦めない。全力の拳。

 

「はああぁぁぁ!!!」

 

ガキン。

 

硬い音と共に、テトラの右腕に激痛が走る。防がれた。今のが最後だと確信したのだろう。ハイ・ゴブリンの顔には勝ち誇ったような笑みが浮かんでいる。

 

―――だがハイ・ゴブリンは失念していた。テトラが狼の魔人であることを。

 

「……やっぱり」

「……?」

 

―――テトラに流れる血が、自らよりも狡猾な銀狼のものであることを。

 

「防いでくれたっ…!!」

「!!?」

 

―――狼が獲物を仕留める際に、何を最大の武器とするかを。

 

がしっ、と鉤爪を握りしめる。そして。

ガブウゥッ!!

 

「ギャウウウウウウッ!!??」

 

ハイ・ゴブリンの首に、テトラの牙が深く突き刺さる。

ハイ・ゴブリンは必死に引き剥がそうとテトラの頭を掴もうとする。だが、右手は既に潰されている。左の鉤爪を振り回すが、しっかりと握りしめられて思うように動かせない。

当然、テトラは離れようとしない。それどころか、更に深く噛み付く。

 

「グギャァァ………!!」

 

ハイ・ゴブリンの口から意味のない悲鳴が上がる。

 

「グ……ガ……グ……ゲェ……」

 

喉を圧迫されては呼吸など出来ない。遂にはガクガクと痙攣し始め、抵抗も弱くなっていく。

 

「………」

 

やがて、ハイ・ゴブリンの手から完全に力が抜けたところで、テトラは勢いをつけて。

 

―――ぱきんっ。

 

小気味いい音とともに、首を折った。

 

「フゥー……フゥー……フゥー……」

 

ハイ・ゴブリンの亡骸を咥えたまま、しばらくの間、荒く呼吸する。やがて、呼吸が落ち着いたところで「ぷはぁっ。」と口を離す。

 

「……やっぱり、不味い。」

 

テトラは立ち上がり、ナイフを拾い上げる。最後に、ハイ・ゴブリンだったものへと向かう。

 

「君、強かったよ。」

 

そう呟いて、討伐の証。ゴブリンの牙へとナイフを突き入れた。

 

 

テトラが外へと出ると、ゴブリンたちの亡骸が目に飛び込んできた。ことごとく体が吹き飛ぶかバラバラにされて、血と臓物で辺り一面真っ赤に染まっていた。

地獄と見紛うような光景のなか、その中心には。

―――収まりの良い岩に腰掛け、うつらうつらと船を漕ぐイリーナがいた。

因みにイリーナ本人も、返り血でところどころ赤化粧に染まっている。

 

「…………」

 

そんなイリーナに、テトラは音もなく忍び寄ると。

 

「ガアッ!!」

「わひゃぁっ!?」

 

思いっきり耳元で吠えた。飛び起きたイリーナは辺りを見回し、目の前に立つテトラを見つける。

 

「て……テトちゃん?もう終わったの?」

「うん……酷くない?ボクめちゃくちゃ頑張って戦ってたんだけど。」

 

ジトッ、と睨むテトラ。

 

「いやぁ……その……思えば、昨日から丸々徹夜だったな~って……あはは」

「はぁ、まったく」

 

呆れつつも、まあいいかと思うテトラであった。

 

「でも……そっか。全部終わったんだね。」

「うん。証拠もバッチリ!」

 

剥ぎ取ったハイ・ゴブリンの牙を見せる。

 

「じゃあ、帰ろっか。村長さんたち心配してるだろうし」

「……そうだね」

「お疲れ様、テトちゃん。」

「ありがとう。……リーナも。」

 

二人はお互いの顔を見て笑い合う。そうして、手を繋いで歩き出した。

 

二人が村に戻ると、村人総出で出迎えてくれた。祝いの席を開きたいのでそれまで好きに滞在していいという村長の提案に、ひとまずは戦いの疲れを癒すべく、二人揃って好きなだけ眠った。

目が覚めた後、村長の好意により昼食まで馳走になり、夜には村全体を挙げてのお祭り騒ぎ。

 

そして翌日。

村の入口にて見送りに来た村長たちと、二人は向かい合っていた。

 

「本当に、この度はなんとお礼を申し上げてよいか……」

 

村長は深々と頭を下げる。最後まで本当に優しい人だなと、二人は思った。

 

「いえ、冒険者として当然のことをしたまでですから。」

「また困ったことがあったら呼んでね!……まあ、そんなこと起きずに平和なのが一番だけど」

「はっはっは、違いありませんな。」

 

村長に釣られて、皆で笑う。

別れ自体は寂しいが、悲しい別れ方ではない。良き旅路を願う、温かな離別であった。

 

「そうそう、イリーナ様。私からひとつ。」

「…はい、なんでしょう?」

「……あなた様が過去受けた傷は、私どもには遠く理解できず、また簡単に消えるものでは無いのでしょう。ですがどうか、今の自分自身を呪わないでいただきたいのです。この村はあなた方の力があったからこそ護られたのですから。それだけは、はっきりと言えましょう。」

「……!!」

「出過ぎた事を申す様かもしれませんが、これだけは伝えたかったのです。間違いなく、ここに居る者は皆感謝していると。」

 

村長の後ろにいる人たちを見る。最初に出会った門番の人。ゴブリンの巣に出向くとき、声をかけて感謝を伝えてくれた人。全員、笑顔だった。

 

「はい……はいっ……!」

 

イリーナは、深々と頭を下げた。顔をあげた時のその表情は、満面の笑みだった。

 

「では、道中お気をつけて。」

「皆さんも……お元気で!」

「お祭り楽しかった!またね!!」

 

二人は村に背を向け、歩き出す。

その背中を、村長たちはいつまでも見つめていた。

 

 

「よかったね、リーナ」

「……うん。」

「リーナ泣いてる?」

「………言わないでよぉ」

 

テトラの言葉が切欠となったのか、イリーナの目から涙が溢れ出す。顔の包帯が濡れてぐしゃぐしゃになるが、お構い無しだ。

 

「リーナは泣き虫さんだね」

「違うよぉ……嬉しいだけ……ひっぐ」

「ふふ、そうだね。ボクも、ちょっとうるっときちゃったかも。」

 

言いながら、手を握る。

 

「わた、し……。まだ無理、だけど。ぐす……自分に自信……持てるように、なりたい」

 

出会う人すべてが、あの村のように優しい訳ではない。故郷の奴らのように、自分たちを迫害する者だっている。だけど。

 

「この、手袋も包帯も取って。私怖くないよって……ひっく。またありがとうって言って貰いたい、よぉ……」

 

イリーナはついに、わんわんと声をあげて泣き出してしまった。そんなイリーナをテトラはただ優しく見つめていた。

 

「リーナならきっとできるよ、だってとても優しいもん。……それに、もしリーナに酷いことする奴がいても、ボクが護ってあげる!」

 

満開の笑顔を見せる彼女に、イリーナもつられて笑みを浮かべた。それから、イリーナは自分が泣いていたことを思い出し慌てて涙を拭うのだった。

 

「……じゃあ、私もテトちゃんのこと護ってあげる。私も、助けられるようになりたいな。」

「え~?泣き虫リーナに護られるくらい弱くないよ~だ!」

「ええっ、ヒドイよ!じゃあテトちゃんは意地悪テトちゃんだもん。」

 

二人は、笑い合いながら歩いていく。

互いに、親友を護れるように強くあろうと願いを込めて。

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