東方前進録   作:クラッカーV

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特訓→特訓?→特訓

「…………」

 

目を開き、ゆっくりと意識が覚醒していく。視界に広がるのは曇天の空

 

「………がはっ!ごほっ、ごほっ!」

 

急に肺から空気が押し寄せ、口から出て行った。苦しい。咳で体が揺れる度に痛みも走る

 

「おー、起きたか」

 

声を掛けられた。知っている声だ

 

その声の方に咳き込みながら首を傾けると、魔女帽子を被った霧雨がいた

 

「けほっ、けほっ………あぁ」

 

ひとしきり咳き込んで、上体を起こす

 

足も腕もダランと投げ出している。体が怠い、そして体の節々が痛い。思考を巡らせて、俺が何故こんな状態なのかを思い出す

 

「…………」

 

ぼんやりと、もう一度曇天の空を見上げた

 

この前博麗とガチバトルした場所だ

 

………あぁ、思い出した。霧雨と特訓開始して……いいや、あれはもう特訓じゃない、ただの虐殺だ。なんだあれ、弾幕ごっこと言いながら確実に俺を殺しに来ていたぞ。こっちが撃ったのは全て避けられるし………くそ、どうやったら霧雨に当てることが出来るんだ?スペルカードを使っても避けるってなんだ

 

瞼を瞑れば特訓時の光景が思い出された

 

眼前に迫る鮮やかな弾幕。見惚れる暇もなく、次々と被弾する俺。容赦のない霧雨

 

ブルッときた。痛みも気にせず体を掻き抱く

 

「霧雨、お前実は歴戦の猛者だったりしないか」

 

「強ち間違いじゃないぜ。私や霊夢は幻想郷で何度も異変を解決したからな」

 

マジか。初耳なんですけど

 

そんなカミングアウトに思わず体勢を霧雨の方へ向け、痛みにその場に突っ伏した。なんだこれは、痛すぎる。思えば相当な数の弾幕が被弾していた。ならば、これだけの痛みも納得出来る。いやー、マジで痛い。下手したら死ぬる

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

「ダイジョバナイ………先生を、八意先生を呼んでくれ」

 

「大袈裟だぜ。…………まあ、私も少し力が入り過ぎたとは思う。まだ初心者の和哉にはキツかったな」

 

ペシペシと背中が叩かれる。おいバカやめろ、痛いんだってこの……痛っ!?

 

「でもまあ、これも特訓の内だぜ」

 

霧雨はそう言って笑った

 

そう言われると何も言えなくなってしまう。こちらは特訓に付き合ってもらっている側。だったらこれくらいの痛みでへこたれるなと、そういうことか

 

いやでもだな?結構痛いんだぞ?お前もくらってみたらわかるって、絶対

 

そんな気持ちを込めて霧雨に視線を送るが何のその。気にした風もなく未だに俺の背中を叩いている。だから痛いって言ってんだろ

 

「………そう言えば、俺はどれくらい気絶していた?」

 

「ん?そうだな………大体二時間くらいだな」

 

思ったよりも長い間気絶していたことに少し驚く。確か開始してからものの数十分でボコされた記憶がある。特訓の大半を気絶していたのか

 

特訓と気絶の割合に密かに頭を抱えた。これは由々しき事態だろう。こんな特訓の仕方、効率が悪すぎる。ここは霧雨に手心を加えてもらうしかないのだろうか

 

どうしようかなぁ……………

 

「……!」

 

そこでふと思い出し、思いっきり状態を起こした。痛い。そんな俺を見て霧雨は少し目を丸くしている

 

この特訓、そもそもの話が俺の能力を制御する為のものだったはずだ。霧雨はどうかは知らないが、俺は目的をそれに指定していた。だとするならば、能力を使わずしてどうするのか

 

俺の能力は、感情が昂ぶれば昂ぶるほどその効果は大きい。恐らくあの金髪幼女吸血鬼………フランドール・スカーレットだったか、あいつと戦った時は今よりも遥かに感情が昂ぶっていたと言えるだろう

 

思いを力に変える、それが俺の能力

 

あの時は感情が昂ぶっていただけでなく、十六夜先輩との約束を果たすために躍起にもなっていた。だからあれだけの力が出たと考えてもいいだろう

 

しかし問題もあった

 

体の中で力が暴走し、気絶してしまったのだ

 

暴走………これをなんとかしなければ、俺はずっと足手まといのままでしかない

 

「おい、和哉?」

 

考え込んだ俺を心配してか、霧雨が肩に手を置いた。霧雨を一瞥し、あぁ、と短く返す

 

「なあ霧雨。俺の能力については聞いてるな?」

 

「あぁ、あの《思いを力に変える程度の能力》ってやつか?………て言うかお前、自分でわかってたのか?」

 

霧雨の鋭い目が俺を睨んだ。何か誤解していそうな気がする。もしかしたら今回の異変について、確信犯だとでも思ってるのかもしれない

 

「あぁ、偶然皆が集まって話しているのを聞いてな。その後勝手に帰ってしまったのは、悪かったと思ってる」

 

そう言うと視線が緩くなった。やはり、俺が確信犯ではないかと誤解していたらしい。霧雨は手を振り、気にすんなと言った

 

俺は続ける

 

「俺はこの力を制御したい。このままじゃ俺は足手まといだ。戦う度に体がボロボロになって、暴走して、皆に迷惑を掛けるだろう。それにこの力を制御出来なければ、この事件が解決してもまた同じことが起こるかもしれない」

 

この事件の発端は、俺が非日常を望んだことだった

 

俺の所為で、幻想郷の人達に迷惑を掛けた

 

これ以上は、駄目だ。もう迷惑は掛けられない。掛けたくない

 

「そんなのは嫌だ。だから………」

 

あぁ、最初からこう言っとけば良かったんだな

 

「だから、俺に能力の制御の仕方を教えて欲しい」

 

そう言って俺は頭を下げた

 

もしかしたら俺は、変な意地を張っていたのかもしれない

 

いつかは別れる日が来ると、そうわかっているから。二次元のように、永くは続かないとわかっているから

 

俺はどこか、彼女達を敬遠していたのだろう。いや、彼女達だけじゃない。学校の皆だってそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………俺は、いつか終わりが来る関係が嫌だった

 

人は何故別れるのだろうか、人は何故死ぬのだろうか

 

二十年も生きていないクセに、一丁前にそんなことばかり考えていた時期がある

 

人は会わなくなると、その人のことを段々と忘れていってしまう。どれだけ仲が良かったとしても、数年会わないと顔を思い出すことすら怪しくなるんだ

 

何故だ?あんなに大切なのに、あんなにあの日々が愛しかったのに、何故忘れてしまう

 

 

小学生になってからのことだ。俺の父方のお爺ちゃんが死んだ

 

 

一緒に散歩に行った。あぁ、覚えている

 

 

 

一緒にご飯を食べた。覚えているとも

 

 

 

よく頭を撫でてくれた。名前を呼んでくれた。笑わせてくれた。プレゼントをくれた。泣いてる自分をあやしてくれた

他にもいっぱい、………沢山のことをしてくれた人だった

 

そんな、大切な人の顔を………俺はもう、写真でしか思い出せないんだ

 

確かに思い出はあるんだ。でも、顔にモヤが掛かったかのように思い出せないんだ

 

それが嫌で嫌で、そんな自分が嫌いで

 

………でもな、二次元は違うんだよ。映像や、写真ってのは違うんだ

 

その中では、確かに時間が流れているんだろう。誰かが死に、誰かとの別れがあるのだろう

 

 

だけど、巻き戻しができるじゃないか

 

 

別れがあっても、戻ればまたその人と楽しく過ごしているキャラがいる。例えその先が別れだとしても、同じことしか繰り返されないとしても、確かにそこにいるじゃないか

 

俺はそれでいいんだ。例え繰り返しだとしても、大切な人とずっと一緒にいられるのなら………それで良かったんだよ

 

 

こんなことを思う俺は、世間一般から見た異常者だ

 

ただのオタクを拗らせた変人だ

 

でも、なんと言われようと良いんだ。俺が、そうであって欲しいのだから

 

 

だから、そんなことを思う俺だからだろう

 

中学の終わり頃には、徐々に人と接しなくなっていった。必要以上に接することはなくなった。それでも、みっちーや中学の頃の親友達と変わらず接しているのは、俺の中でやっぱり一人は寂しいという気持ちがあったからなのかもしれない

 

子供みたいな我が儘だ

 

ただの意地だ

 

…………でも、もうやめよう

 

 

現実を見るんだ。そして、前へ進むんだ

 

 

 

 

 

「どうだ、頼まれてくれるか」

 

俺はゆっくりと頭を上げて、霧雨を見据えた。彼女は目を丸くし、瞬きを繰り返している

 

一体どうしたのだろうか

 

「霧雨?」

 

不思議に思い俺は声を掛けた

 

俺の声に反応してか、体を一瞬ビクッと跳ねさせた後、慌てたように声を出してその場に座る

 

「い、いや、すまん。お前のいつにも増して真剣な表情を見るのが初めてだったからな。そんな顔でお前から頼みごとをされるなんて思わなかったんだ」

 

霧雨の言葉に俺は内心首を傾げた

 

確かに面と向かって頼みごとをするのは初めてかもしれないが、そんなに驚くことだろうか

 

「別に私は構わないんだよ。でもお前、なんだか私達のこと地味に避けてるっていうか、必要以上に馴れ馴れしくしたくないって感じがしたからさ。驚いたっていうかなんというか…………うん、驚いたんだぜ」

 

「そうか………」

 

うん、それについては長年の俺の我が儘にお付き合い頂き誠に申し訳ない

 

しかし俺は決めた。俺一人の力では絶対にこの事件の解決は無理だ。だったら、皆の力を借りるしかない。関わり合いになって、別れが来るのが怖いからだとか、そんなこと言ってる場合じゃないんだ。俺も成長する時が来たんだ

 

「取り敢えず、俺の特訓には付き合ってくれるんだな?」

 

俺は立ち上がって手を突き出す。その手を見て霧雨はニッコリと笑い

 

「勿論だぜ!よろしくな、和哉」

 

俺の手をとって立ち上がった

 

「あぁ、こちらこそよろしく。あ〜………」

 

「どうした?」

 

「いや、その、だな」

 

恥ずかしくて口籠る。思えばこうやって女子と手を繋ぐのなんて初めてなんじゃないだろうか。思わず手を伸ばしてしまったが………それに

 

「魔理沙………で、いいか?」

 

女子の名前を呼ぶのって、こんなに恥ずかしいことなのか………

 

横目でチラリと霧雨を見る。その顔はさっきの様なニッコリとした笑顔ではなく、こちらをからかうような目をしていた

 

「な、なんだその目は」

 

「いやぁ?別に、なんでもないんだぜ」

 

なんでもないことはないだろう。明らかにからかっている。ニヤニヤするんじゃあない。おい、やめろ離そうとした手をがっしりと掴むな。く、こいつ力強い………!

 

「離せ霧雨……!」

 

「霧雨ぇ?おいおい、さっき私のことなんて呼んだんだ?もう一回聞かせて欲しいんだぜ」

 

「離せ魔理沙!………これでいいか」

 

「ハナセマリサ?誰だそりゃぁ」

 

くっ、ニヤニヤしおって……!!

 

「………魔理沙。離してくれないか」

 

「あぁ、わかったぜ」

 

やっとのことで手が解放された。霧雨………いや、魔理沙はまだニヤニヤしている。まるで玩具を見つけたかのような反応だ。これから弄られないように気を付けなければ……!!

 

「ほら、早く特訓を再開するぞ!ボサッとするなよ、魔理沙!!」

 

「へっ、とことん扱いてやるぜ!!」

 

そうして俺達は特訓を再開し、今日この日は特訓に全てを費やした

 

 

 




まごう事なきタイトル詐欺な気がする
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