エスパータイプは“ヒト”にはいらねぇっ! 作:初心者マーク付き社会人
「
「ふふふ。まだ痛むかい?」
「ちょっとだけ……」
明るいモダンなカフェの一角で、一組の男女がテーブル席に腰かけていた。一人は頬にガーゼを当てている色素が抜けて褪せた茶髪の幼い幼女――アイン。そしてもう一人は、青みがかった銀髪に黒いスーツを着た年若い青年。
「僕が間に合ったからよかったけど、一歩間違えば大怪我だった……という話は、もう言われたかな」
「……昨日の夜に、ジョーイさんとレンジャーの人に1時間くらい」
「ははは。みっちり怒られたね」
「こっちにとっては笑い事じゃない、ダイゴさん」
ムッと不満げなアインの視線を受けても、からからと笑っている青年には効いた様子もない。年の離れた妹をあしらうように、笑って受け流している。
彼の名前は、ツワブキ・ダイゴ。デボンコーポレーション社長の御曹司であり、そしてホウエンリーグチャンピオン。ここ5年間は無敗を貫いている、ホウエン地方における絶対的なトレーナーだ。
「……でも、感謝はしてる。おかげで命は助かった」
「どういたしまして。昨日は偶々、ニビシティで開かれていた珍しい石の展覧会に参加していてね。偶然ではあったけど、間に合う場所に居てよかったよ」
「ニビシティ……確か鉱山の採掘が盛んな街、だっけ?」
「そう。そして鉱山には古い地層も見られてね、採掘と同時に化石の発掘も盛んな街でもあるんだ」
「へぇ……」
そういえば、シンオウでは地下の坑道で採掘するのが盛んだったような。そんなことを思い出し、体験ツアーがあるなら今度寄ってみようとアインは密かに目的地を決めた。
「……さて、ここからが本題だ。今日君を呼んだのは他でもない。当事者の君にはこの子のことを話しておこうと思ってね」
そう言って、ダイゴはモンスターボールをテーブルに置く。その中には、昨日アイン達を襲ったジバコイルがいた。
「この子、まだ全然心を開いてくれなくてね。何があったのかはわからないけど、とある写真を見せたらそれまでと違った反応を見せてくれた」
テーブルに出される1枚の写真。そこには古びた無人の発電所の様子が写されていた。ポケモンも住み着いていたらしく、写真のあちこちにコイルやレアコイルといったポケモンたちが写り込んでいた。
「無人の発電所……ひょっとしてリニアを作るために必要になった?」
「そう。その発電所だ。僕も今回の一件で調べたけど、今はカントー発電所と名前を変えているこの場所は元々放棄された場所で、でんきタイプのポケモンたちの住処になっていたんだ」
発電所というのは、当然だが電気を生む。そしてそれはでんきタイプのポケモンにとっては居心地の良い場所であり、稼働当時はふらふらと寄ってくることも多かった。発電所が稼働していた当時は人に害を及ぼさなければ好きに入れるようにしていたため、人間が立ち退きをした後は完全にでんきタイプのポケモンたちの住処となっていた。
「けど、あのリニアの開発にあたって電力が必要になってね。そこで目を付けたのがあの発電所だった」
「……でも、ポケモンたちは?」
「当然捕獲する。人間の都合で勝手に住処を追い出す訳だからね。居場所を与えるという意味でも、捕獲は必要なことだった。……けど、実際はそうならなかった」
「……? どうして?」
「どうにも現場監督だった人が、それなりに腕の立つトレーナーだったみたいでね。……捕獲専門のリーグトレーナーが来る前に、力づくで追い出してしまったんだ」
そんなことが起きたものだから、当時のカントー・ジョウトリーグは大慌て。追い出されたポケモンが人間に被害を及ぼす前に、大々的なコイルゲットキャンペーンを実施し、住処を追われたコイル達に居場所を作ることにした。
だが、手を尽くしてもそこから漏れる個体もいる。
「ポケモンリーグが手を回してコイル達を捕まえられるようにしたけど、それでも手の届かない子が居たみたいでね。それが、どうもこの子だったようだ」
そう言って静かにボールを撫でるダイゴ。迷子の子供に手を引くようなその目には、慈しみの色があった。
「……その子は、どうするの?」
「僕が責任を持って育てる。幸いにもはがねタイプだから、僕が持っていても不自然じゃないからね」
憎しみでしか生きられないジバコイルに必要なのは、愛情だ。それも、暴走を止められるだけの実力者であることが絶対条件。そう考えれば、ダイゴが捕獲することは理にかなっている。これから根気強く、愛情を注いでいけば、いずれ彼らの息の合ったコンビが見れるようになるだろう。
「……それがいい。きっとお似合い」
「ふふっ。どうもありがとう。いずれは心を許したこの子と君とで、最高のバトルをしてみたいよ」
「ん。それは楽しみ」
テーブルに向かい合う二人は、静かに笑う。とても静かで穏やか笑みだが、瞳の奥はギラギラと輝いている。
「……それで、ニビシティに来たのは、本当に展覧会だけ?」
「と、いうと?」
「……チャンピオンなら、もっと別の仕事があると思ってた」
「チャンピオンだからと言って、仕事ばかりじゃないさ。プライベートで他地方に行くこともあるからね。特に僕は石が大好きでね、珍しい石の話を聞くと居ても立ってもいられなくなるんだ」
「ふぅーん」
アインは胡乱げに相槌を打つと、手元にあるカップに口を付ける。ダイゴはそれをニコニコと見ているだけだった。
「……なんて、そんなことを聞きたい訳じゃないんだろう?」
「……色々と知ってるのは、もうわかってる」
「ははは。やっぱり凄いよ、君の
降参、とでも言うように、ダイゴは両手を挙げた。けれどそれはお互い知っていること。ここまでは、情報を小出しにしてのただのじゃれ合いに過ぎなかった。
「僕はとあるポケモンを追っていてね。ラティアスというポケモンの噂を耳にしたことはないかい?」
「……いや、初耳。珍しいポケモンなの?」
「とてもね。僕は今、ホウエン地方に生息するラティアスが何故土地を離れてカントー地方にやってきたのか、それを調べているんだよ。……ラティアスはこころのしずくという宝石のような珠と深く繋がりのあるポケモン。そのラティアスがカントー地方に現れたということは、もしかしたらこころのしずくが関係しているのかも……」
「ふぅーん」
「おっと、すまないね。石が関係するから深く考え過ぎてしまった」
僕の悪い癖だ、とダイゴは苦笑した。
「そのラティアスだけど、広い範囲を移動するポケモンだ。なかなか出会えないと思うけど、トレーナーならこの話、興味があるんじゃないかい?」
「……どうだろう。珍しいポケモン、って言われても、まだピンとこないから……」
「ふふっ。そういうところを見ると、まだまだ君も純粋なんだね。これからも君の旅は続くだろうから、色んなものを見るといいよ。見て、触れて、感じて、そうして自分の世界は広がっていくんだから」
そう言って、ダイゴは立ち上がる。伝えるべきことは伝えたと、そういうことだろう。アインはそう手元のカップに視線を落としたが、その視界に一枚の封筒が滑り込んで来る。
「……これは?」
「このヤマブキシティでおススメのポケモンサウナの優待券だよ。確かに昨日の君の行動は危険だったけど、それでも多くの人を救った勇気ある行動に変わりはない。これは、その乗客にいた店主からのお礼だよ」
じゃあ、僕はこれで。
そう言って、ダイゴは席を後にした。しれっと領収書を回収していったあたり、できる大人なのは間違いないのだろう。
だが、問題は手元にある一枚の封筒である
「……これ、どうしよ――」
そう言った矢先、視線を感じて隣の席を見てみれば、いつの間にかボールから出ていたアブソルと至近距離で目が合った。じぃー、っとアインを見つめる目は、確かな意思を訴えかけていた。
「……これ、行きたいの?」
返されたのは頷き一つ。どうやら、選択肢は最初からないらしい。
◆◇◆◇
「はぁ~い。リラックスしてくださいね~。今からマッサージしていきますね~」
マッサージベッドにうつ伏せに寝転んだ状態で、背中から順に揉み解されていく。サウナ後のぼやけた思考の中、このまま寝てしまいそうな心地よい快感がアインの全身を包み込む。
隣で同じく横になっているアブソルとヒトデマン、奥で鉱物系ポケモン専用の研磨マッサージを受けているメタング。全員が全員、心地よさそうに目を細めている。
薄っすらとぼやけそうになる頭の中に、ふとダイゴの手持ちになったジバコイルのことを思い出す。
住処を一方的に追われ、人間に憎しみを抱き、その想い一つで過酷なシロガネ山を生き残り、群れを統率するまでに至った彼のことを。
その胸中は、当事者でもないアインには推し量ることもできない。
けれど、一つだけ。IFであっても確実に言えることがある。
――もし、最初に出会っていたのが、あのジバコイルだったら
ボクは君と一緒に、このクソッたれな世界に反逆していたのかもしれない。
けれどIFは選ばれず、最初に出会ったのはあのアブソルで。そしてだからこそ、今の自分がある。そんな“あったかもしれないIF”に思いを馳せて、けれどこれでよかったと思いながらアインは静かに瞼を閉じた。
ダイゴさんがダイナミックエントリーかましてきたのはこのイベントのためです。HGSSではクチバシティのポケモンだいすきクラブにピッピ人形を届けた後に発生するイベントです。元々ダイゴさんの登場回はプロットで決めてましたが、攻略本を見てこのイベントを思い出したら勝手にダイゴさんがストーリーに食い込んできました。おのれ……!
そしてジバコイルにここまで背景があるのは手持ちの最終選考まで残ったポケモンだからです。他にも泣く泣くボツにしたポケモンがいますが、彼らはストーリーで関わらせようかな、と考えてます。