エスパータイプは“ヒト”にはいらねぇっ! 作:初心者マーク付き社会人
「ごめんなさいね。人目がつかない場所だと、ここぐらいしかなくて」
「……ん。気にしてない。それにそっちの方が、ありがたい」
中央通りの喧噪から離れた、小さなカフェの一室。そこで3人が一堂に会していた。
一人は、体のラインが出る薄紫のノースリーブに黒のシースルーブラウスを着た女性――ナツメ。一人は、白のワイドスリーブにヘッドホンを付けた、インドアファッションをした幼女――アイン。そしてもう一人は――。
「……ところで、どうしてこの人も一緒なの?」
「ふんっ。それはこちらが聞きたいぐらいだ」
道端でアインに声を掛けた、あの少年。名前はジョディ。愛称はディーと言うらしい。身に着けた黄色のジャケットは前が全開になっている。
「そうね……強いて言えば、私の予感ではこの3人だったから、かしら」
「……予感?」
「未来予知、って言えば伝わるかしら。私には未来で起きる重要な出来事が見えることがあるの。今日あなたに会えたのも、それのおかげね」
未来予知。それは彼女がエスパー少女と呼ばれる所以になった能力。過去を遡っても彼女ほど強力な超能力を持った者はそうそうおらず、その希少性から一時期は時の人であったという。カントー・ジョウト地方の住人であれば誰しもが知ることであるが、アインにとっては今日聞いたばかりの話。その特異な力に目を白黒させるばかりだ。
「ふんっ。おれにとっては災難だったがな。おかげで午後のトレーニングの予定は全部キャンセルする羽目になった」
「一日くらい大丈夫でしょう。それに、師匠の言うことは素直に聞くべきよ」
「そうやって師匠面していられるのも今の内だぞ。あんたが今座っている席は、いずれはおれが奪うのだからな」
「その心意気は結構。……でも、奪えていない内は実力は私の方が上よ」
「チィッ」
悔しそうに歯軋りするジョディを横目に、ナツメは相変わらずふふふ、と笑っている。
「……この人、弟子?」
「そうよ。もう弟子にしてから3年は経つかしら。今じゃ立派なジムトレーナーよ」
「ふんっ」
その扱いに不満なのか、ジョディは一つ鼻を鳴らすとそっぽを向いてしまった。挑戦者を試す立場であるジムトレーナーにしては些か自尊心が高い。
この性格の人間をジムトレーナーにしているヤマブキジムは大丈夫だろうか、という失礼な言葉をアインは寸でのところでぐっと飲み込んだ。
「ふんっ。
「この子、これでもちゃんと仕事はしてるから大丈夫よ。この子を突破したトレーナーは皆バッジを取得できているし、ちゃんと試験官としての加減を弁えてるわ」
が、その心配は杞憂だったようで。ジョディもそれなりに加減というものは弁えているらしい。勝利に固執するなどという愚行はしていないならば、ジムトレーナーとしては大丈夫なのだろう。
だが、アインの思考は別の理由で停止していた。
自分は今、それを一言も口にしなかったはず。
「今……なん、で……?」
そう、心の中で思っただけのことを二人共に見抜かれた。
それはつまり、二人とも――。
「驚いたかしら? 心を読めるのは、あなただけじゃないのよ」
「ふんっ。大方、テレパス能力を持った人間は自分だけだとでも思っていたんだろう? 思い上がるなよ。この力の所有者くらい、世界にはごまんと居るぞ」
この時、アインは自分がどんな表情をしていたかは覚えていない。
けれどこの時を境に、胸の内の孤独感が薄れたような気がしたのは、確かなことだ。
◆◇◆◇
「それで? おれが呼ばれたのは顔合わせのためだけなのか?」
「まさか。そんな訳ないでしょう」
あれから暫くして。アインがようやく落ち着きを取り戻したところで、ジョディが口を開いた。同席させられた理由は理解できても納得できていない、という気持ちが表情からありありと伝わってくる。
「あなたも一端のジムトレーナー。それにいずれはジムリーダーになるんでしょう? だったら、誰かに直接指導する経験も必要になってくるわ」
だから、この子に能力の扱い方を教えてあげて。
その言葉に、ジョディの目がクワッ、と見開いた。
「おれが教える、だと……?」
「えぇ、そうよ。できるかしら?」
ナツメの問いに、ジョディは暫し考え込む。そして、チラリとアインに視線を向けた。
「できないこともない。が、教えるにしてもこいつ次第だ。やるからには徹底的にやる。だが、こいつ自身にやる気がないのなら、やってもできんだろう」
「と、いう訳だけど。どうかしら?」
二人の視線がアインに向く。けれど、アインの答えはとうに決まっている。
「……教えて、欲しい。この力の使い方を」
覚悟の決まった目で、二人を見つめ返す。ここを逃したら次はない。そんな誰かの言葉に後押しされるように口から出た言葉。けれどそれは、今は確かに自分が心から思う言葉だ。
いい加減、逃げ続けるのは……もう辞めよう。
そんな覚悟を持って放った言葉は、確かに二人に届き、明日からトレーニングを始める手筈となった。
◆◇◆◇
やることができた。そう言ってジョディは早々に席を立ってしまい、残されたのはナツメとアインだけとなった。
明日の日程も既に決まった今、幾ばくか余裕ができたアインは気になっていたことをナツメに聞いてみることにした。
「……街中で聞こえた話なんだけど。公認ジムを賭けて戦ったって話、あれって本当なの?」
「あぁ、その話ね。本当よ。けれど、あくまで結果的にそうなっただけ。最初からそんな話があったわけじゃないわ」
くすくすと笑うナツメは、思い出すように語り出す。
「もう10年近く前かしら。今はもう忘れられているけど、昔のヤマブキシティには超能力者が集まってできたエスパー一門があったのよ。私もそこの出身。そして当時、格闘道場を運営していた空手家一門と私たちは犬猿の仲だったわ」
使っているポケモンがエスパータイプとかくとうタイプで相性が悪かったのもあるのかも、とはナツメの言である。
まだ超能力が受け入れられていなかった当時、特異な力を持つ超能力者たちは周囲から排斥の対象となっていた。故に自分たちの居場所を守るために結束して、エスパー一門を名乗っていた。個々では力がなくとも、集まればそれなりに大きな力となる。それが延いては自分たちを守る力となるからだ。
だが、当然それに反発する者たちもおり、その筆頭が空手家一門であった。当時四天王であったシバを輩出した一門だけあって、彼らは当時のヤマブキシティでは大きな力を持っていた。彼らは異端の力を使うエスパー一門とは決して相容れない価値観を持っていたため、特に彼らを敵視しており、両者の諍いは日常茶飯事であった。
「それで、子供の頃から強い超能力に目覚めてエスパー少女、なんて持て囃されてた私が面白くなかったのか、子供だった私にもちょっかいを出してきたのよね」
だからバトルでコテンパンにしてやろうと思ったの、と言うナツメはとても笑顔である。けれど話はそこで終わらず、大人たちの介入で徐々に話は大きくなっていった。何としてでも地盤を安定させたかったエスパー一門と、追い落とす口実が欲しかった空手家一門は、ヤマブキシティに誘致予定だった公認ジムの運営権を賭けることにしたのだ。
「そこからあのバトルは、負けたくない戦いから負けられない戦いになったわ。結果として私は勝利したけど、彼らもなかなかの
そして、彼らは無事ヤマブキジムの運営権を手にし、今の基盤を築くことになった。
そして最初にジムリーダーになったのが、今の四天王であるイツキだった。
「最初はイツキ兄さんがジムリーダーになることに反対の人もいたけれど、元々バトルじゃ私よりも強かったから、次第にそんな声はなくなっていったわ」
そしてジムリーダーイツキの台頭により、超能力者の存在が世間一般に浸透し、徐々にだが超能力者への忌避感は鳴りを潜めていった。そのおかげで超能力者の排斥はなくなり、居場所ができたエスパー一門は態々名乗りをあげる必要もなくなった。
「……ふぅん。だから結果的、なんだ」
「そういうこと。……だから、あのバトルで私が負ければ、今の私はなかったわ」
そして、そんな前例があるからあの子も頑張ってる。
そんなことを口にするが、アインは首をかしげるばかり。
「? それってどういう……」
「あの子にも、変えたいものがあるってことよ」
そこから先は聞くことは叶わず。そのままちょっとしたお茶会はお開きとなった。
そして時は流れ。翌日―――。
「次にお前は、ディレイからのバレットパンチという!」
「ディレイ。からのバレットパンチ……はっ!」
――この人、とんでもなくやりづらい……!
ヤマブキシティのとあるバトルコート。そこでアインは、大苦戦することになる。
ナツメさんによるぱーふぇくとえすぱー教室は新規オリキャラに食われ、そして前々から考えていたガチシリアス展開はボツになりました。もうシリアスは裏で匂わせる程度でいいかな……?
ジョディくん簡易プロフィール
ジョディ 12歳(男)
・かつてのエスパー一門出身の母親をルーツに持つ少年。母親は彼が幼い頃に病死。
・周囲にも同じく超能力者はいたが、彼はあまり知られていないテレパス能力に目覚めたため、同じ超能力者からも仲間はずれにされた。
・周囲に誰も仲間がおらず、唯一頼れた肉親である父親に話したが、気味が悪いと虐待を受けてしまう。
・同じ超能力者でもサイコキネシスは受け入れられ、テレパスは受け入れられない現状に不満を持つ。
・たかが能力の違いだけで差別や迫害されるのは我慢ならなかった彼は、現四天王イツキのように力を示すことでテレパス能力を周囲に認めさせることを思いつき、ナツメに師事する。
・ナツメもまた彼の野望を聞き、賛同したため弟子入りを許可した。最初は言動の矯正も考えたが、もう突き抜けるところまで突き抜ければいいか、と判断して性格の矯正は行わなかった。その結果がこれである