エスパータイプは“ヒト”にはいらねぇっ!   作:初心者マーク付き社会人

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幽霊騒動のちょっとした後日談。
短めです。


閑話 ヒーローとニンジャ

 

 空は青く広がり、陽の光がサンサンと降り注いでいる。

 昨日あった幽霊騒ぎは嘘のように、古びた廃教会は陽の光を受けて味のある光景を見せていた。けれど激しい戦闘の痕跡は消せないようで、所々に壊れた椅子や破れたぬいぐるみが散らばっている。

 この惨状を作り出した身としては心苦しい思いもあるが、主人を守れたということで自分を納得させる。

 

 散らばった瓦礫を踏み分けて、教会の奥へと進んでいく。夜は不気味に思えた景色でも、昼間に見ればまた違った趣がある。かつては人が居たであろう場所が、人知れず忘れ去られるという物寂しさ。ここに居たというあの少女は、どんな気持ちでここに居たのだろうか?

 

 亡くなった少女に思いを馳せながら、礼拝堂を抜け、痛んだ廊下を通り越し、子供部屋と思しき部屋にやってきた。昨日は扉が開いていなかった部屋だ。そしてその部屋に、目的の相手はいた。

 

 暗闇に溶け込む濃紫の体に、容易く岩盤を削れるであろう鋭い爪。通常の個体よりも一回り大きく、そしてあちこちにある多数の古傷。

 

 ヤミラミ。

 昨夜、私を助けてくれたポケモンだ。

 

 わざと足音を立てて存在を主張すれば、チラリとこちらに視線が向く。が、元から気付いていたのか、すぐに視線を戻して、手を止めていた作業を再開した。

 その手元を見やれば、なるほど。何をしているのか見当がついた。

 

 そこにあったのは、白骨化した子供の遺体。

 あの少女の遺体だろうと、直感的にそう思った。彼女は部屋の真ん中で、ぬいぐるみを抱えながら寂しそうに息絶えていた。そしてヤミラミはその骨を一つ一つ丁寧に集めながら、日当りの良い裏庭に作った穴に運んでいた。

 

 彼への用件は一先ず後回しにして、少女の埋葬を手伝うことにする。手頃なトレイを持って、少女の骨を丁寧に運び出す。ヤミラミもチラリと視線を向けてきたが、特に言うことはなく手伝うことを認めてくれた。

 

 頭数が増えたことで、埋葬は比較的スムーズに終わった。少女が寂しくないよう、ぬいぐるみを敷き詰めて、土を被せて白い花を手向ける。花の名前はポピーというらしい。なんでも、いつもこれを手向けているのだとか。

 

 埋葬が終わった後、少しだけ彼と話をすることができた。

 自分の元トレーナーが、この世ならざるモノ専門の仕事をしていたこと。そのトレーナーは随分前に亡くなってしまったこと。自分はその遺志を継ぎ、各地で元トレーナーの仕事を遂行しているということ。幽霊との戦いが手馴れていると感じたが、そういう理由があったらしい。

 私も多少かいつまんで、身の上話をした。ヒトの綴った物語――“フィクション”の中でだが、ヒーローをやっていたこと。その後もその生き方を変えられずに、各地でヒーローの活動を続けていたこと。そして、彼女に拾われたこと。

 

 境遇に似たところがあったのか、彼も真摯に耳を傾けてくれた。お互い、不器用な生き方しかできないものだ。そんなことを言えば、クツクツと肩を揺らして互いに笑い合った

 

 そんな話をしている最中に、ふと尋ねてみた。

 一緒に主人と旅をしないか、と。

 

 祓い人の仕事なら、旅の最中でもできるだろうと。放任主義的な主人のことなら、その活動にも口出しはしないだろうと。

 

 けれど、彼は首を縦には振らなかった。

 自分は今でも、あのトレーナーの相棒であると。活動を続けられるとしても、それは違うのだと。あの人の相棒として在ることに意味があるのだと。

 

 その言葉を聞いて、それ以上の勧誘は諦めた。昨夜、急に姿を消したのも、勧誘されたくなかったからなのだろう。それだけの強い信念を持っているのなら、それを無理矢理捻じ曲げるのは失礼だ。

 だからせめてもの礼と餞別として、持ってきた木の実を渡した。チーゴの実、クラボの実、オボンの実。ゴーストタイプが使う“おにび”や“したでなめる”などの技を受けたら使って欲しいと、そう言って彼に手渡した。

 

 互いに別れる頃には、既に日は傾きかけていた。どうやら、随分と話し込んでしまったらしい。森の奥へと消えていく戦友(とも)を見送ってから、私も踵を返す。彼は今後も、幽霊との戦いに明け暮れるのだろう。彼のトレーナーの遺志を継いで。

 頑張れ、と。心の中でエールを送りながら、私も主人の元に戻る。

 

 私はヒーロー。

 困った主人を助けるのが、今の私の役目だ。

 

 

◆◇◆◇

 

 

「ぴぇ……! ヒ、ヒトデマン。助けて……!」

 

 あ、だけどペナルティー中は助けられないからね。アブソルからホラー映画鑑賞を言いつけられてるなら、ちゃんと一人で見ないと。

 確かこういう時、あの俳優(ひと)はこんな断り文句を言っていたっけ。

 

 ヒーローは留守だよ。休暇をとってベガスに行ってる。

 それじゃ、おやすみなさい。

 

「は、薄情者……! あ……ぴぅっ!?」

 

 

 




この名残惜しい思いがあれど、相手の信念を尊重して過度な追及をせずきっぱり別れるシーンは作者は大好きだったりします(唐突な暴露)。
相棒シリーズの相棒と別れるシーンとか特に好きです。

あ、因みにイッチはちゃんとホラーものが苦手になりました。あんな経験があったからね。仕方ないね。
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