エスパータイプは“ヒト”にはいらねぇっ!   作:初心者マーク付き社会人

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今話は戦闘回です。それはそうと何故こんな描写カロリーの高いものを書こうとしたんだ作者は………。
因みに今話は執筆していて読みにくいと思ったので、地の文では技名に“”を付けてます。


閑話 老兵、相対するはツタの権化

 

 

 タマムシデパートは今日も盛況だった。特に化粧品を取り扱うフロアでは、夏シーズンに向けた新商品が続々と出品されており、女性客を中心に賑いを見せていた。昼時だというのにその客足が衰えることはなく、今もなお新しい客がフロアへと足を踏み入れていた。

 

 そんなフロアの一角にあるこじんまりとしたカフェに、二つの人影があった。一人はカジュアルな装いに身を包んだ幼女――アイン。もう一人はベージュのカーディガンを羽織った大和撫子を体現したような少女――エリカ。今日はオーナーとしてここに訪れているため、和服ではなくカジュアルな服を身に纏っていた。

 

「つ、疲れた……」

「あらあら。これでも加減した方ですのに」

 

 テーブルに突っ伏してグロッキーになっているアインに対して、エリカには随分と余裕があった。淑女然りとした余裕に見えるが、それにしては肌がツヤツヤしている。

単にアインを玩具にして楽しんだ証拠である。

 

「けれどアインさん。これでわかったでしょう?簡単にしたつもりですが、それでも女性の美容は考えることが多いのだと」

「それはまぁ、うん……」

 

 もぞもぞと動きながらも、アインは一つ頷いだ。この半日はみっちり美容の何たるかを叩き込まれた訳だが、その一つ一つに意味があり、一つとして無駄はなかった。女性らしく、美しく在るための弛まぬ研鑽があったからこそ今があるのであって、その一端に触れただけでもこの有様だ。全てを理解するにはまだまだ時間が掛かるということは、アインは言われずとも察していた。

 

「ふふっ。でもわかって頂けて何よりです。正直な話、友人から聞いた時は耳を疑ったのですよ?」

「…………ん? 友達?」

「えぇ。そうですよ」

 

 ほら、と言ってエリカが見せたのはトークアプリの画面。そこにはエリカ、ミカン、アカネ、ナツメなど、アインがこれまで出会った女性ジムリーダーたちの名前が載っていた。

 

「女性ジムリーダーの方々とは、こちらでよくお話していますの。そこでつい先日、貴方のことが話題に上がりまして」

 

 そしてその時に、あまり美容関係のケアをしていなさそうという話が出てエリカが食いついた、という経緯があったらしい。それが今日の美容教室に繋がった訳である。

 

「……名前、覚えててくれたんだ」

「それはそうでしょう。エースをぶつけられる相手は貴重ですもの。皆さん、とても嬉しそうに貴方のことを話していましたよ」

 

 ジムリーダーというのは、存外に全力を出せる機会は少ない。毎年行われる交流戦を除くと出場できる大会はほとんどなく。毎日のように訪れるジムチャレンジャーの相手をするのは勿論だが、その他にもジムの運営やポケモンリーグからの依頼など、こなさなければならない仕事が多量にある。そんな環境だからこそ、本気を出せる機会というのはとても貴重なのだ

 

「えぇ、だからそんな嬉しそうに話される人は一体どんな方なのか、非常に興味を持っていました」

 

 ほんの少し、熱を帯びた視線がアインに向けられる。心を読めるアインは、その感情を知っている。

 期待、不安、高揚。そして…………嫉妬。

 なるほど。数多のトレーナーの上に立つ存在であれど、彼ら彼女らとて元々はただのトレーナー。研鑽を重ねてきた自分の全力を出せる機会には、常に飢えているのか。

 

「……ねぇ。ボク、この後時間はあるんだけど」

「えぇ。奇遇ですね。私も予定は空いていますよ」

 

 アインが言えば、間髪入れずに言葉が返ってくる。それほどに楽しみだったのか。もしかしたら、他のジムリーダーから掲示板の存在も知らされていたのかもしれない。そう考えれば、このデパートで出会ったのも偶然ではないのだろう。

 けれどそんなことは二人には些細な事。目の前にトレーナーがいて、バトルを希望している。

 

 二人はポケモントレーナー。

 それだけあれば、言葉はいらない。

 

「場所は取ってある?」

「勿論。私のジムを開けてありますわ」

「じゃあ、そこで」

「えぇ。わかりました」

 

 トントン拍子に決まった午後の予定。それが激戦になるということは、この二人だけが知っていた。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 大都会の高層建築の真っ只中にある、花を模した巨大なドーム。そこがタマムシシティジムだ。内装は草花によって彩られた自然の迷路になっており、各地点で待ち受けているジムトレーナーとバトルをしながらゴール地点を目指すというものになっている。

 ジムの内装や特設フィールドはジムリーダーが自由に設定することができ、それぞれの個性が多分に反映される。このタマムシシティジムの特設フィールドはエンジュシティを思わせる古の屋敷のような構造であり、エリカ自身が名家の出身ということもあって、その嗜好が存分に反映されていた。

 

 その特設フィールドを挟んで、二人が向かい合う。エリカはジムリーダーとしての衣装に着替え、目を閉じながら精神統一をしている。佇むだけでも絵になるのは美人の証だが、触れがたい圧は強者の証だ。

 両者の準備が整ったと見た審判役のジムトレーナーが、試合開始の合図を出す。

 

『これより、アイン選手とエリカ選手(・・・・・)のポケモンバトルを開始します。使用ポケモンは互いに一体のみ。それでは両者、ポケモンをフィールドへ』

 

「参りますよ。モジャンボ!」

「アブソル、お願い」

 

 エリカが繰り出したのはモジャンボ。

 アインが繰り出したのはアブソル。

 

 モジャンボは草木に擬態し、気付かずに通り過ぎようとした獲物をツルで捉えると言われている。その全身を覆うツルは、通常個体に比べて太くなっており、絡めとられれば抜け出すのは至難の業だということは容易に想像がつく。体高も図鑑平均よりも高く、軽く3mはあり、パワーも相応に高いことが伺える。

 近距離戦は分が悪そうだと、アインは心の中で呟いた。

 

『それでは…………試合開始ッ!』

 

「モジャンボ、つるのムチです」

 

 開始と同時に動いたのはエリカの方。モジャンボから伸びた太いツルがアブソルを襲う。

 

 その数は、数十はくだらない。

 

 アブソルは即座に“かげぶんしん”で攪乱。一体一体が不規則な動きをすることで狙いを絞らせないようにする。けれど物量に物を言わせて襲い掛かったつるのムチは避けきれず、一体、また一体と数を減らされていく。

 ただしアブソルは、その動きを冷静に見つめていた。物量に物を言わせるということは、細かい操作まではできないということ。現に“かげぶんしん”一体につき10回は攻撃を行っているのを見るに、一本一本の精度はそこまで高くないと当たりをつける。

 次いでアブソルは“かまいたち”を展開。その間に“かげぶんしん”は全て消えてしまったが、本体は未だ健在。“かまいたち”によってすべての“つるのムチ”を切り裂き、そのまま纏った状態でモジャンボにむかって突進する。

 

「迎え撃ちなさい。パワーウィップ!」

 

 体のツルを絡め、しめ縄のように編んだ巨大なムチがアブソルに襲い掛かる。巻き上げられる土煙。けれど本数を絞って精度を上げていても、捉えられない動きではない。アブソルは纏っていた“かまいたち”の一部を先行して迎撃を試みる。…………が。

 

「切断されたならば……生やせばいいだけのことですわ!」

 

 “かまいたち”の切断面から急速に生えた(・・・)ツルが再びムチを形成。切断されたことなどお構いなしに、“パワーウィップ”がアブソルに襲い掛かる。

 アブソルもこれは予想外だったのか、伸びてきたムチを懐まで入れてしまう。けれど、そこは歴戦の猛者。間一髪のところで体をロールさせることで、直撃を回避する。

 

「やはりお強い……モジャンボ、薙ぎ払いなさい!」

 

 早めの切断は悪手と見たアブソルは再びかまいたちを近くに設置。自動防御の構えを取った。パワーウィップを打ち込もうにも次々に切断され、伸びきる前に接近されてしまう。

 流石はジムリーダーのパートナーを撃破してきた個体。普通であればダメージの一つも貰っていそうな場面でまだ無傷である。

 

やはりこうでなくては。エリカの口角は自然と上がっていた。

 

「――今ですッ!ギガドレイン!!」

 

 土煙、パワーウィップ。双方に意識を割かせた上での、下からの奇襲(・・・・・・)

モジャンボはフィールドに仕込ませていたツタを、アブソルに向かって解き放つ。かまいたちは周囲に展開していようとも、地面にまでは展開されていない。その無防備となっている胴体に、モジャンボのツタが絡みついた。

 

 ――ギュワッ!

 

「ッ!? アブソルッ!」

 

 接触したツタを通じて、アブソルの中から何かが抜き取られる。それは所謂、生命力や活力と呼ばれるもの。全身を襲う虚脱感に、アブソルは苦しそうな顔をする。

けれど、それも一瞬のこと。アブソルの目は依然として冷静。この程度で狼狽える訳はないと、かまいたちでツタを切断して難を逃れる。

ふわりと地面に着地したアブソル。そしてその視線は一度だけアインに向けられるも、すぐにモジャンボへと向けられる。アブソルはそこから詰め寄らず、ジッとモジャンボを観察している。その様子からは、モジャンボへの明確な警戒の色が伺える。

 

「ふふふ。色々と策を練った甲斐がありましたわ」

「……随分と、研究してるんだ?」

「えぇ。強い相手とわかっているんですもの。全力で勝ちにいかなければ失礼というものですわ」

 

 アインが掲示板に載せたライブ配信は配信終了後、アーカイブ配信に切り替えられるようになっている。そこにある対戦動画から、アブソルのことを随分と研究したのだろう。それも対策をしたのはバトルのエキスパートであるジムリーダー。手強くないはずがない。

 

「さぁ、畳みかけますわよ! しびれごな、そしてパワーウィップ!」

 

 主導権を握ったエリカは、一気に攻勢に出る。モジャンボはしびれごなを散布し、それをまき散らすように“パワーウィップ”を振り回しながらアブソルに襲い掛かる。一撃一撃の威力が高いパワーウィップを補助する“しびれごな”。機動力を持ち味とするアブソルにはこの上ない威力を発揮するいやらしい組み合わせだ。

 

 対するアブソルは真っ向から迎撃。展開する“かまいたち”を増やし、それぞれがドーム状の軌道を描くように設定してモジャンボへと突貫する。襲い掛かるツタを正面から切断し、“しびれごな”は“かまいたち”で生じた風によって周囲に散らしていく。その姿はさながら動く断頭台。防げるものなら防いでみろとでも言わんばかりの力技だ。

 

「っ、これも防ぎますか……!」

 

 更にこちらに流れを引き寄せる。そう思っての攻撃指示だったが、逆に流れを戻されつつあった。それを見越しての真っ向からの迎撃。思い通りにいくと思うなと、そう言わんばかりのアブソルの反撃にエリカは歯嚙みした。

 

 数を増やした“かまいたち”は防御だけでなく攻撃にも転用可能。アブソルはその一部をモジャンボへと向けて放ち、攻撃に集中させないようにする。元々特殊防御の低いモジャンボは、その一部が掠めただけでも大きなダメージとなる。被弾なく避け続けるアブソルと、じわじわとかまいたちで削られるモジャンボ。互いに削り合いをしていても、ダメージの蓄積はモジャンボの方が多い。

 

「このままでは削り切られるのは私ですか。……ならば!」

 

 覚悟を決めたエリカが、モジャンボに指示を出す。それは彼女にとっての切り札。今年の交流戦のために編み出した、未完成ながらにして最強の技。本当であればパートナーのお披露目は、もっと大きな場所でしてあげたかった。

 けれど、今目の前にいる相手は紛れも無い強者。出し惜しみで敗けてしまうくらいなら……今この瞬間は、全力でぶつかりたい。

 

偽・(最大出力・)ハードプラント(パワーウィップ)!!」

 

 ドワッ、と。モジャンボの全てのツタが爆発的に伸び始める。再生力の高さを用いたツタの伸長。その量は既にフィールドの半分を埋め尽くさんとする程で、編まれたツタは巨大なムチとなり、深々とフィールドに食い込んだものは巨大な根となってフィールドから顔を覗かせている。

 

 草タイプ最強の技と言われるハードプラント。それは地中から生み出した巨大な根によって相手を攻撃する技だ。彼女はそれを模倣し、更にモジャンボならではのアレンジを加えることによってより凶悪さを増したものを生み出した。これはモジャンボの再生力にものを言わせた力技で成し得た技。体力の消費は著しいが……それを補って余りある威力を誇る。

 

「そんなのあり……!?」

「ふふっ。貴方が初披露のお相手ですわよ。……さぁ、あなたの力を見せてあげなさい、モジャンボ!!」

 

 エリカの合図を皮切りに、暴力的なまでの質量がアブソルに襲い掛かる。フィールドを割り、視界を埋め尽くし、全てを吞み込まんとする緑の波濤。只人ならば立ち竦んでしまいそうな光景。――けれど、アブソルは一歩も退かない。

 

「アブソル!!」

 

 迫りくる脅威に対して、アブソルが返すのは嘶き一つだけ。

 かげぶんしん。数は7つ。本来であれば攪乱に用いる手段だが、アブソルは自身に展開していた“かまいたち”を“かげぶんしん”へ分散。囮を手数に転用する。

 

 都合八体。その全てが実体の刃を身に纏い、本体と遜色ない機動で走り出す。

 

 飛び出したツタを紙一重に避け。

 叩きつけられるツタを足場に駆け上がり。

 四方から襲い掛かるツタを斬り飛ばす

 

 斬って、斬って、斬って。

 

 避けて、飛び跳ね、切り刻む。

 

 その全てに違いはなく、八体全てが一騎当千。かつての戦の英雄の如く、八艘飛びを体現しながら、緑の波濤を斬り進む。

 

「構いません、圧し潰しなさい!!」

 

 けれど、その物量は圧倒的。如何なる技も、如何なる戦術も、緑の波濤は全てを呑み込み圧殺する。一つ、また一つと。次々にかげぶんしんが捉えられていく。最後に残ったのは本体のみ。分散していたツタの全てがそこに集約される。

全方位。前も後ろも。右も左も。見渡す限りのツタ、ツタ、ツタ。もはやこれまでと思いたくなるような、絶体絶命の状態。

最後にこれを呑み込めば終わる。ここを詰め切れば勝てる。トレーナーのその思いを汲んでか、モジャンボの攻勢は一層苛烈になる。

 

 そして、その攻勢一辺倒の今だからこそ。意識外の攻撃がここで刺さる。

 

 ズァン!!

 

 突如としてモジャンボの()から降ってきた“かまいたち”が、深々とモジャンボの本体を切り裂いた。

 

「ッ! モジャンボ!!?」

 

 何が起こったと、エリカの思考に一瞬の隙が生まれる。そしてその隙を縫うように、第二、第三の“かまいたち”が再びモジャンボに降りかかる。

 それはアブソルがモジャンボとの削り合いの最中に投げていたもの。敢えて直撃後も解除せず、フィールドの天井近くに伏兵としてずっと潜ませていたもの。それが今、この瞬間、絶対絶命の場面で機能する。

 

 更にアブソルは畳みかける。“かげぶんしん”に譲渡していた“かまいたち”を回収し、全てを最後の攻勢に回す。

 単発であれば切り裂けるのは一瞬だ。モジャンボの高い再生力なら、“かまいたち”で切断してもすぐに元通りになってしまう。けれど、展開していたかまいたち全てを搔き集めたなら、一瞬だけ()を作ることぐらいはできる。

 

 置き去りにされていた“かまいたち”が、再び意思を持って動き出す。目指す場所に一直線。通り過ぎた後はすぐにツタに呑まれてしまうが、必要なのはその先にある。都合全ての“かまいたち”が最後の一仕事のためにツタを掻き分け、斬り進み、主のために道を切り開く。

 

 四方八方から斬りかかる“かまいたち”。その全てが交錯した瞬間、ゴール(モジャンボ)に続く 一本道が出来上がる。

 

 アブソルは、そのタイミングを見逃さない。たった一瞬。時間にして一秒にも満たない間。けれど確かに緑の波濤の最中にぽっかりとできあがった何もない一直線の道を、アブソルは躊躇いなく全力で突き進む。光に照らされた白い毛並を携えて、吹き抜ける風のように。光風となってツタの中を潜り抜けていく。

 

 妨げるものが何もない、ゴールに続く一本道。

 彼我の距離が縮まるのは、一瞬だった。

 

「――モジャンボ、迎え撃ちなさい!!」

 

 最後の抵抗。モジャンボは割けるツタを総動員して、正面からアブソルを迎え撃つ。けれどアブソルは速度を落とすことなく、その悉くを“つじぎり”で斬り捨てる。

 

 接敵。

 その時点で、モジャンボに打てる手は残されていなかった。

 

 無防備となっている胴体に、アブソルの“つじぎり”が直撃する。防御も間に合わず、急所を突いた攻撃はモジャンボの残り少ない体力を削り切るには十分。全てのツタが動きを止め、力尽きたモジャンボは音を立ててその場に倒れ込んだ。

 

『モジャンボ、戦闘不能! よって勝者、アイン選手!!』

 

 審判のコールと共に、その手が勝者(アイン)を指し示す。

 激闘を終え、体の緊張がようやく抜ける。けれど今回、アインは何もしていない。このバトルは最初から最後まで、全てアブソル個人が成し得た偉業だ。疑似的なハードプラントを作り出す発想力も、それを切り抜ける技術も、それを見ても怯まない胆力も、今のアインにはない。けれどその場所こそが、アインが目指すべき場所。

 

 いつか、自分もその場所へ。

 

 悠然と佇むアブソルを見ながら、アインは決意を新たにする。少しずつ、少しずつ。その決意は固く、大きなものになっていく。

 

 

 




ジムリーダーが弱い訳ないだろ、ということでモジャンボは盛りに盛って強化しました。そして書いてる途中で「あれ、これ書いてるのポケモンだよな?」と思ったのはここだけの話。
エリカさんのエースってメディアによって結構変わりますけど、本作ではモジャンボということにさせて頂きます。
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