エスパータイプは“ヒト”にはいらねぇっ!   作:初心者マーク付き社会人

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ちょっと短めです。


閑話 決めるのは誰か

 

「うんっしょ、と」

 

 バッグに荷物を入れ終えたアインが、軒先で靴紐を結んでいる。

 あのネタ晴らしの後、祖母と幼女は二人仲良くサザンカから怒られたのだが、一通り怒って怒りが収まったのか、最終的に二人とも許されそのまま3人仲良く卓を囲んでお喋りに興じていた。チョロ、という感想は、アインは終ぞ口にしなかった。

 そんな経緯があったものの、他のトレーナーの旅路を聞くのはアインにとっても新鮮で、最後までサザンカの話に聞き入っていた。ジムチャレンジと漢方薬剤師として武者修行の日々、どの話もアインの興味を強く引くものだった。

 けれどずっとお喋りを続けていられることはなく、陽が暮れかけたところで区切りを付けてアインも引き上げることにした。

 

「忘れ物はないかい?」

「うん。中身は全部確認したから、大丈夫」

 

 見送りに来た老婆が忘れ物の確認をする。

 忍者チックな衣装と割烹着という組み合わせから孫と祖母の様に見えてしまうが、二人は会って数日と経っていない間柄である。

 

「何はともあれ、3日間お疲れ様」

「うん。無理言っちゃったけど。色々やらせてくれてありがとう」

「どういたしまして。でも配信のために初級コースを全部やるのは、少し頑張り過ぎじゃないかい?」

「そう、かな。でも、無理はしてないよ?」

「配信のために3日間通い続けるっていうのは、十分無理の範疇だよ」

 

 つい、と。振り返ったアインの額に指が当てられる。優しく触れられているというのに、どこか怒っている印象を受ける。

 

「なまじっか能力があるばかり、できてしまえるんだろうね。でも、どこかで線引きをしておかないと、いつか無理が祟って体を壊すよ」

「……一応、休みはちゃんととってるよ?」

「休みも大事だけどね……私が言いたいのはこっちの事だよ」

 

 そう言ってアインに見せたスマホの画面には、アインがいつも書き込みをしている掲示板が映されていた。

 

「今回の体験参加、やることを全部他の人が決めてるじゃないかい。配信的には面白いかもしれないけれど、こういうのはいつか身を亡ぼすよ」

 

 うっ、と。アインは言葉に詰まった。

 実際に今回の安価ではアインの想定よりも難易度の高いものが選ばれていて、スレ民のバランス感覚が優れているのか、やってやれなくはないラインのものが選ばれたものの、いつもよりも体と財布に負担の掛かるものばかりなのは紛れもない事実だ。

 彼らの思考の基準は“面白いかどうか”であり、スレ主であるアインに面白いことをやってほしいという願望から、無茶な要求が飛んでくるのもしばしばだ。

 

 少しだけ無理をすればできる。それが一度であればいいが、これが続くとなると話が変わってくる。

 

「こういう安価は視聴者も参加できるから楽しいんだろうけどね。でも、やるのは自分自身だよ。安価をするのも、その内容も、全部自分で決めなきゃ」

 

 人の想像力は無限大だ。面白いもの、奇を衒ったもの、予想の斜め上をいくもの。掲示板で意見を求めれば多種多様な案が返ってくるのは日常茶飯事(いつものこと)で、安価となれば更に欲望に忠実で尖ったものが出てくる。中には到底できそうにない無茶なものも含まれていて、発言者の性根を疑うものもチラホラとある。

 それが自分で決めた安価で採用されたものならば、まだ納得はいく。どんな結果だろうと、安価に委ねると決めたのは自分自身なのだから。けれどそれを全部他人に決められて、勝手に安価して採用されたものをやれと言われるのは、少し違う。何故ならそこに、実行者であるアインの意思は欠片も介在していないのだから。

 安価をするのはあくまでも自分自身。そこには、アイン本人の納得が必要だ。

 

「でも、それだと配信は――」

「安心しな。そんな程度じゃ、あんたの面白さは変わらないよ」

 

 アインの掲示板がここまで長続きしている要因に安価があるのは事実だが、それ以外にも頻繁に発生するイベントとポケモンバトルという要因がある。たった数日居るだけでもこんな面白いイベントが起きるのだ。最早そういう星の下に生まれたと言う外ない。

 行く先々でイベントが発生して、そしてその都度無茶を重ねているアイン。見ている側であってもハラハラしっぱなしなのだから、本人の負担は言わずもがな。そこに余計な負担をかけてしまうのは、齢8歳の幼女には荷が重すぎる。

 

「あんたはそのままでも十分面白いんだ。自分ができる範囲で頑張ればいいんだよ」

「そう、かな……?」

「そうだよ」

 

 したり顔で頷く老婆に、アインはふっ、と表情を崩す。

 安価の主導権がスレ民に移ることを危惧していただけに、この言葉はアインには嬉しかった。

 

「ん。……ありがとう」

「よく言えました。それじゃ、これも忘れずに渡しておこうかね」

 

 そう言って、懐から出したポチ袋がアインに渡される。

 

「これは……?」

「お駄賃。3日間しっかり頑張ったんだから、そのご褒美だよ」

「えっ。でもそれは流石に」

「年寄の好意は遠慮するもんじゃないよ。孫の遊び相手もしてくれたんだから、そのお礼は受け取っておくれ」

「ぅ…………わかった」

 

 配信許可に加えて普通では教えて貰えない中級コースまでやらせて貰えたアインからすれば、こちらからお礼を支払うべきなのではという思いもあるが、老婆の謎の圧がその発言すら許さない。

 抵抗を試みるものの、アインはものの数瞬でその圧に屈することになった。

 

「それじゃあ、ボクはそろそろ行くね」

「道中は気を付けるんだよ。それに、無茶も程々にね」

「ん。わかった」

 

 そうやって互いに手を振って、アインは3日間通った漢方屋を後にする。こうしてスレ民の無茶振りによって発生した調薬体験は、無事に終わりを迎えることになった。

 

 

◆◇◆◇

 

 

「は、え?………………えぇっ!!?」

 

 その夜、人も寝静まった時間帯に、とあるホテルの一室にアインの声がこだました。

 驚きのあまり取り落としたポチ袋とその中身には、こんな一文が添えられていた。

 

 

 

3日間ワイの漢方屋に通ってくれてありがとうな!

中級コースの内容はいざって時に割と使えるから、しっかり活用してくれよな!

これからも配信見てるでな!

 

名無しのセキチクシティ民より

 

 

 ネット上の文章と書き込み主の年齢は一致しない。それを強く実感した瞬間であった。

 

 




なお、このお婆ちゃん。イッチをお迎えできてしめしめとか思ってましたが、初級コース全部やると決まってから「ファッ!?」と声を上げて大急ぎで準備してたりします。実は次の日にイッチが来るギリギリまで準備に追われてました笑
因みに本来初級コースは急いでも3日間掛かるものでしたが、イッチの手際が良すぎて1日半で終われたので追加で中級コースの内の実用性が高いものを選別してイッチにやらせてました。
なお、本人は「あの配信を見てていつか遭難してサバイバルしそうだから」と供述しているもよう。
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