エスパータイプは“ヒト”にはいらねぇっ!   作:初心者マーク付き社会人

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閑話 再びの漢方屋

 

「で、困ったからここに連れてきたという訳かい」

「うん。お婆ちゃんなら何とかしてくれるかなって」

「頼りにしてくれるのは嬉しいんだけどねぇ。急に振られちゃ心臓に悪いよ」

「……ごめんなさい」

「ま、最初の処置もそうだけど、薬の調合も教えた通りにやってくれてたからこっちの処置も楽だった。だからそれでヨシとしとくよ」

 

 場所は変わって、再び漢方屋の一室。そこで話しているアインと老婆のすぐ横には包帯を巻かれたラティアスが横たわっていて、今は気が抜けたのか、スヤスヤと寝息を立てている。けれどその周囲には血の滲んだガーゼや調合された薬が並べられていて、決して簡単な治療ではなかったことが伺える。

 今この場には居ないが治療にはサザンカも参加しており、3人の尽力の下、漸くここまで漕ぎ着けたのだ。

 

「一先ずこれで治療は大丈夫だろうね。後はしっかり休ませて体力を回復させれば大丈夫だよ」

「……そっか。ならよかった」

「お疲れ様だったね。さっきの治療も、アンタが居てくれたおかげで助かったよ」

「えへへ」

 

 ワシワシと撫でる手を、アインはすんなりと受け入れる。その口角がちょっぴり上がっているのは、照れている証拠だろうか。

 

「でも、お婆ちゃんとサザンカの治療も早かった」

「そりゃあ私もあの子もそれが本職だからね。数日教えただけの子に追いつかれちゃやってられないよ」

 

 何てことない風体で言っているが、実際に二人の手際はアインのそれより遥かに早かった。それは薬の調合までの知識を得たアインと、それを実際に扱ってきた二人の経験の差によるもの。

 アインが如何に手際がよいと言っても、何年も経験を積んだ者には遠く及ばない。それを薄々察したアインは、今回の治療では二人のサポートに徹していた。

 

「ん。……ねぇ、お婆ちゃん。ラティアスの治療中に思ったことがあるんだけど……」

 

 だからこそ、治療の様子を俯瞰して見ていたアインは気付くことができた。

 治療の様子、傷の具合。そして……二人の表情。

 言葉にこそしていないが、アインがテレパスで感じ取ったものはかなり不穏なものだった。

 

「この傷、全部ポケモンの所為だと思う?」

「…………」

 

 そして、表情の抜け落ちた老婆の顔が、答えだった。

 

「ふっ、やっぱりアンタは筋がいいねぇ。……今、配信は?」

「切ってるよ。流石に治療中の様子は映せないから」

「いい判断だ」

 

 外へ来るようにと目線で合図を受け、アインは老婆に続いて部屋の外に出る。

 ここから先は、ラティアスには直接聞かせたくない内容なのだろう。

 

「アンタも薄々察してるとは思うけど、あの傷は全部がポケモンにつけられたものじゃない。一部はヒトにつけられたものだろうね」

「……やっぱり、密猟者とか?」

「ま、そんなところだろうね。ラティアスは珍しいポケモンだ。こういうのはあんまり詳しくはないけど、売れば高値が付くってのは想像に難くない」

 

 二人が話している通り、ラティアスをはじめとした珍しいポケモンは裏では高値で取引をされている。

 以前はその取引はロケット団が牛耳っていたのだが、ロケット団が解散した現在ではその座にとって代わろうと様々な組織が密猟に関与していた。

 ロケット団の首領サカキが健在の頃に比べて検挙率は上がってはいるものの、如何せん数が多いためにポケモンリーグ側も後手に回っているのが現状だ。

 

「密猟なのはほぼ間違いないね。ただ、今回のはちょっとばかし面倒な相手が関わってる気がするよ」

「……面倒な相手?」

「平たく言ったら、同業者さね」

 

 アインの視線が、バッと老婆に向く。

 

「あの子の身体に刃物で切ったような傷があったのは覚えてるね?」

「うん。……それに、そこから毒が回ってた」

「吹き矢か苦無に毒でも塗ってたんだろうね。それに、今回の毒には覚えがあってね。……チョウジタウンって知ってるかい?」

「確か、ジョウト地方の?」

「そうそう。元々あの町はウチと同じ忍者の一族が仕切ってたんだよ……もうだいぶ前だけどね」

 

 かつてはジョウトのチョウジ、カントーのセキチクと呼ばれるほどの勢力を誇っていた忍者の一族。

 けれど時代の流れにうまく適応できなかったチョウジタウンの一族は衰退の一途を辿っていた。理由は様々あるが、一番の要因は古い忍者の在り方に固執してしまったことだろう。それ故に彼らは時代に取り残され、その権勢も廃れていった。

 

 後がなくなった人間は得てして何でもするようになる。ここで問題になってくるのが、良くも悪くも彼らの持つ技術は本物であり、そしてそれは日陰者たちにとっては喉から手が出るほど欲しいものだということ。

 

「あの子が盛られた毒は連中のもので間違いない。……ったく、最近は落ち目と聞いちゃいたが、こんなことまでしてたのかい」

「それじゃあ、これにはチョウジタウンの忍者の一族が関わってるってこと?」

「そうだね。それに付け加えると……忍ってのは仕事を完遂するまで執拗に追いかける」

「……まさか―――」

「お婆ちゃん!アイン!大変だよ!!」

 

 表の軒先から、サザンカの切羽詰まった声がこだまする。向かってみれば本家から走って来たのだろう、息も絶え絶えで大粒の汗を流すサザンカの姿があった。

 

「本家から通達があって、チョウジの里の忍が攻めてきたって」

「……予想通りさね。それに、そっちは陽動だよ」

「えっ」

 

 虚を突かれた顔をしたサザンカのすぐ横をアインが通り抜ける。着地と同時にモンスターボールを構えるアインは既に臨戦態勢。

 何事かとサザンカが振り返った先には、陰から姿を現した忍び装束の集団がいた。

 

「っ、なんでここに!?」

「連中の狙いはラティアスだよ。大方、とり逃がしたから追ってきたんだろうさ」

 

 彼らは何も口にしない。けれど、取り出したモンスターボールが答えだった。

 

「……サザンカ。お願い、手を貸して」

「っ、言われるまでもないわ! あんな連中に好き勝手させるもんですか!」

 

 二人はそれぞれ、ボールを構える。

 以前はぶつかり合った二人。けれどその強さを知った二人にとって、隣に立つパートナーはこの上なく頼もしい相手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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