エスパータイプは“ヒト”にはいらねぇっ!   作:初心者マーク付き社会人

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つよつよトレーナー杯 一回戦

 

 大歓声がこだました開会式も恙なく終わり、フィールドでは既に1回戦の準備が進められている。

 試合の順番が近い選手はアップをしたり、瞑想をしたり、中には控室に併設された小フィールドで最終調整をしていたりと、思い思いに集中力を高めている。ただし、ボールから出ているポケモンは軒並み進化済みでガチ育成済みの物々しい面子ばかり。「あれ、出る大会間違えたかな?」と冷や汗をかいている一部のトレーナーを除き、彼らは一回戦であろうと全力で臨むつもりだ。

 準備から熱意の籠った様子に、アインはクスリと笑う。自分が負けたら色々とマズい結果が待っているというのに、けれど全力で立ち塞がるのが彼ら(スレ民)である。彼らの辞書に忖度なんて言葉はない。唯々全力でぶつかり合い、その果てにあるドラマを夢見るのが彼らである。その無邪気さに隠れた無意識の期待。その圧し潰されそうなプレッシャーすら楽しんでいる節のある自分に、すっかり自分も染まったなと苦笑する。

 

「およ、噂をすればじゃん」

「えっ? あ、ホントだ」

「やっと生で会えたねぇ」

 

 アインが選手控室に顔を出せば、何人かのトレーナーがこちらを向く。

 ポケモンバトルの大会が開催されるアリーナには、こうした選手用のスペースが設けられている。技の確認ができる小型フィールドや飲み放題のウォーターサーバー、試合をリアルタイムで見られる大型ディスプレイなど、控室は存外に設備が整っている。

 そこに先客として訪れていた幾人かのトレーナー。おそらくは一回戦の出場者だろうが、その言動から何者(・・)かまですぐに察しがついてしまった。

 

「ひょっとしてみんな、スレ民?」

「そうそう!」

「俺はROM専だけど」

「俺はちょくちょく書き込んでるぞ」

 

 率直に聞いてみれば、率直な答えが返ってくる。

 なるほどなぁ、と思っていれば、他にも訪れていたスレ民が続々とやってきた。

 

「きゃー! やっぱり生で見ると可愛い!!」

「写真撮っていい?」

「俺も握手しに行っていいかなぁ」

「通報するぞ」

「触っていいのは同性だけだぞ」

キャー、イッチカワイイ! さわってもいい!?

「きっっっしょ」

「裏声出してもダメだバカ」

 

 やいのやいのとアインの周囲で騒ぐスレ民たち。ここはリアルであるはずなのに、なかなかどうして自由度が高い。

 大半がノリと勢いで成立する身内ネタのような言動がまかり通っているのは、単に彼ら彼女らが身内(スレ民)だからだろう。

 そしてスレ自粛という苦行の末、大会という建前のオフ会が彼らの枷を外してしまった。ここはさながらプチオフ会。傍から見てもとても選手控室とは思えない光景である。

 アインはその光景に苦笑しながらも、要望には快くOKしていく。直接会わずとも、文字を通じて言葉を交わした仲。この統制のとれたスレ主とスレ民の距離感は、自然と安心感さえ覚えてしまう。

 

『お待たせいたしました! これよりトーナメント一回戦第一試合を開始します。名前を呼ばれた選手は控室へお集まりください』

 

「あ、ヤバ。一戦目はアタシだからそろそろ行かなきゃ」

「おぉー。そっちは第一試合(初っ端)だったか」

「頑張れよー」

「わかってるわよ。アインちゃんとやるには準決勝までいかないといけないんだから。負けられないわよ」

「おーおー。それはつまり初戦でオレに勝つつもりでいる訳だ」

「げぇっ」

「おい、相手もこっち側(スレ民)かよ」

「こりゃ初戦から荒れるぞぉ」

 

 一回戦第一試合。大会の初戦を飾る試合は、スレ民同士の対決になるようだ。

 彼らは威風堂々と、スタッフに続いて通路の奥へと消えていく。

 最初から通例ガン無視、暗黙の了解を足蹴にした強者同士の戦い。解説側も涙目間違いなしのマッチアップ。

 その苦労を知らぬは戦う本人たちばかりで、彼らを含めここにいる全員が歯を見せながらとてもイイ笑顔を浮かべている。今の彼らに、手加減の文字はないのだろう。

 

 かくして大会の幕は上がった。

 熱狂と混沌の渦巻くアリーナに、退屈が訪れることはない。

 

 

◆◇◆◇

 

 

『『『『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』』』』

 

『勝負が決まったァァ!! 最後の最後に怒涛のラッシュ!! “かげぶんしん”のフェイントを織り交ぜ、最後まで詰め切ったァァァ!!』

『相手の目線が切れたタイミングで“かげぶんしん”と入れ替わったのがネックやったな。そんで形勢逆転して相手の焦りを誘った上で心理戦まで仕掛けたのはエグイなぁ。あそこから一気に崩されて冷静を保てるのは至難の業や……というかこれが一回戦のバトルかいな! 初戦からもそうやけど、明らかにレベルちゃうやろがい!!』

『えぇー、それでは次の試合に移ります。該当選手は控室にお集まりくださーい』 

『オイこら 話聞かんかい!!?』

 

 ディスプレイの歓声を打ち消す猛者たちの雄叫び。控室に集まった面々の咆哮はアリーナを揺らす歓声にも引けを取らない。

 バトルに対する熱量は一人一人が人並み以上。費やした努力の量が違う。そんな彼らの魂が籠った声は、思っていた以上に身体の芯に響く。

 

「そういやあの場面ってさ――」

「――確かに。だけどあれを防いでも次の手が控えてなかったか?」

「そっちに意識取られてたから押し負けた気もするけどな」

「でも二の手が本命になり得るから、そっちも気にしなきゃいけないのは確かだぜ?」

「注意力の配分も肝だったな」

 

 そうして始まるバトル談義。アカネの解説を聞きつつも自分たちの推論を展開していく。

 一人一人がトップトレーナー。そんな彼らが世代を超えて忌憚のない意見を言い合うことのなんと特異なことか。疑問に思っていないのはこの場の面子だけである。

 ジムリーダー一人の解説でも値千金。そう言われているにも拘らず、それに引けを取らない価値の言葉があちこちから飛び交うこの場は、上を目指すトレーナーには情報の宝庫である。

 

『選手の呼び出しをします。トーナメントNo.62 アイン選手。No.63 アズマ選手。選手控室へお集まりください。繰り返します――』

 

「あ、呼ばれた」

 

 そんなご厚意(・・・)を余すことなく聞いていたアインにも、遂に試合の順番が回ってくる。

 

「遂にか……!」

「楽しみだねぇ」

「どこまで伸びたか、ワクワクするね」

「ぐしゅ、応援してるね……!」

「おら泣くな。涙拭けよ」

 

 およそ1ヶ月に渡る過酷なトレーニングを経てどこまで実力を伸ばしたのか、それは彼らにとっても未知数なもの。期待と、それに隠れた不安の綯交ぜになった視線が絡み付く一瞬の沈黙。アインはそんな彼らを安心させるために、懐のケースからあるものを取り出した。

 

 それは、一つのイヤリング。

 炎を思わせるオレンジ色のシトリンの宝石と、そこから伸びるスズの塔を模したアクセサリー。

 それを下から三日月状に囲う、虹色に輝く美しい羽根。シトリンの輝きすら自らを彩るアクセントにしてしまう、神聖さを帯びた美しさ。

 君に幸あれ、と。手掛けた職人から願いを込めて贈られた一品は、今日初めて彼らにお披露目される。

 

 掲示板への御披露目すらまだだった品に、周りからおぉ…、という感嘆が零れる。

 これはちょっとしたサプライズ。自ら課した自粛なれど、1ヶ月も我慢した彼らへのちょっとしたプレゼントだ。

 

「それじゃ、勝ってくるね」

 

「お、おおおおお!!」

「言い切ったねぇ」

「こりゃ頼もしいわ」

「バトルが楽しみだ」

 

 ハイタッチと声援と。思い思いのエールが投げられる。

 だが、本当の意味で彼らへの返答は言葉ではない。

 勝って、結果を示すこと。

 勝利こそが彼らの期待に応える最高の答えだ。

 右耳に揺れるイヤリングを携え、彼らの期待に応えるべく、アインは控室を後にする。

 

 

 控室からフィールドへと繋がる連絡通路。扉を閉めれば、控室の声は届かない。聞こえてくるのは観客席の遠い歓声と、待ち受ける対戦相手の静かな息遣いだけ。

 

「よォ、待ってたぜ。まさか初戦がアンタだとはな」

 

 獰猛そうな、肉食獣を思わせる瞳がアインを映す。

 肩までかかる黒髪をポニーテールにした女性トレーナー。黒のハーフキャミソールに赤いジャケット、ホットパンツという扇情的な出で立ちをしている彼女からは、絶えずピリピリとした威圧感が放たれている。

 

「ふふっ。おまたせ、って言った方がいい?」

「そうだなァ。一ヶ月お預けを食らってたからな。今から滾ってしょうがねェ」

「それならトレーニング中に来てくれてもよかったのに………でも、そうじゃないんでしょ?」

「はン、わかってるじゃねェか」

 

 そう言う彼女は、ニヤリと笑う。

 彼女をはじめとした強さを追求するトレーナーは、その程度じゃ満足しない。

 本気も本気。全力を投じて、勝つか負けるかを争う心躍るバトルがしたいのだ。トレーニングだけで終わるのは、不完全燃焼。心の炎を燃やし尽くしたいからこそ、この大会に出てきたのだ。

 

「生憎と、アタシは手加減してやれるほどお利口じゃなくてなァ。……簡単には、負けてくれるなよ」

 

 掲示板荒らしを避ける情報統制ができるお利口なスレ民たち。ただし、皆が皆バトルでもお利口かと言われれば、否と答える外ない。物語の達成を望む者がいる一方で、そこに忖度があることを是とする者は一人としていない。機会があるのなら、彼らはこぞって遊びに(・・・)来るだろう……自らの強さを勘定に入れずに。

 

「あ、はッ」

 

 そんなことは、アインには分かりきっていた。

 数少ない、全力を出せる強者を求めてやってきた現役トレーナー。

 未練がありながらも、全力を出せる相手がいなくなって引退した元トレーナー。

 彼らは等しく強者に飢えている。そんな彼らが手加減してくれるなど、微塵もあり得ない。

 

 だから全力で鍛えた。それはもう死に物狂いで。

 彼らの全力に応えるために、自分の財布を守るために。

 

 故に準備は万端だ。

 ほんの少し、後ろ髪を引かれながらも、全力のバトルがしたくてやってきた強者たちに、敗北をくれてやる準備はできている。

 

「安心してよ。最高に心躍って、納得する“敗け”をプレゼントしてあげる」

「ハッ、そうでなくちゃなァ!」

 

 

◆◇◆◇

 

 

『お待たせ致しました! これより一回戦第三十試合を開始します! 初戦より激闘を繰り広げている今大会、その折り返しになります! お次はどんな熱いバトルが繰り広げられるのか! それでは、選手の入場です!』

 

『先ずはこちらから! 怖いもの知らずで名を通すバトルジャンキー! やはり彼女もこの大会に名を連ねていた! この大会で大物食いを成すことはできるのか!? ナギサシティ出身、アズマ選手!!』

 

『そして今大会異例中の異例! その経歴の一切が白紙! はるばるホウエン地方からやってきた無名の少女! 彼女は一体どんなバトルを見せるのか!? ホウエン地方出身、アイン選手!!』

 

『『『わあああああああぁぁぁぁ!!!』』』

 

 アリーナを揺らす大歓声は衰えを知らず、音響兵器の如く彼女たちに降りかかる。質量を伴ったかのような歓声にも拘らず、フィールドに佇む彼女たちが驚いた様子はない。

 むしろ集中は最高潮。この歓声すら自身のボルテージを上げるスパイスにしか思っていないような素振りは、いっそのこと清々しいまである。

 

『それではこれより、アズマ選手VSアイン選手のポケモンバトルを開始します! 使用ポケモンは3体のみ。それでは両者、ポケモンをフィールドへ!』

 

「暴れるぞ、エアームド!!」

「行くよ、メタング!!」

 

 審判の合図を以て、両者の先鋒がフィールドに姿を現す。

 アズマが繰り出したのは、エアームド。

 アインが繰り出したのは、メタング。

 

 共に“はがねタイプ”。タイプ相性はお互いに良いとは言えないが、そこは戦い方次第。どちらにも転びうる戦局は、この時点では誰にも予想つかない。

 

『それでは試合……開始ッ!!』

 

「舞え、エアームド!」

 

 試合開始と同時に大空に舞い上がるエアームド。鋼の鎧を纏いながらもその速度は鈍重ではない。

 むしろその逆。とても軽快に、空こそが自分のフィールドだと言わんばかりに、縦横無尽に空を駆ける。見かけに反して軽量だからこそできる芸当だ。

 

「“こうそくいどう”、“まきびし”!」

「メタング、壁展開」

 

 エアームドはさらに加速。最高速の時速300kmを一気に叩き出し、亜音速域まで到達したところで上空から“まきびし”を振りまく。

 対するメタングは、習得して間もない壁を立方体(キューブ)状に展開。ただし、今回のはちゃんとした“両壁”だ。

 

『エアームドは速度を上げ、“まきびし”を展開! 後続へ圧をかけていきます!』

『交代の度にダメージが蓄積するからなぁ。ええ手やで。 上空を好き勝手飛べるから、好きに布石を打てる。出し勝ちしたやつの特権や』

『対するメタングは……あれは何でしょうか? 壁と言っていたので“リフレクター”とかでしょうか?』

『そうやな。こっちはこっちで守りを固めてきたんやろうが……。これまたおもろい出し方しとるなぁ』

 

 実況は困惑気味。対してアカネはそのキューブを見てにやにやと笑う。

 面白い手は大歓迎。既存の手を上手くバトルに当て嵌めるのもよいが、常識はずれの突飛な手段を用いるのも悪くはない。それもまたバトルの醍醐味だ。

 

 こうして両者は最初の技を出し合った。準備と様子見は終わり。

 ここからようやく、ぶつかり合う。

 

「“ドリルくちばし”!」

 

 大空を翔るエアームドが、ついに攻勢に出る。

 亜音速を維持したまま急降下。そして地面スレスレで身体を翻すという高度な飛行能力を見せ、土煙を上げながらメタングへと突貫する。その速度に加わる螺旋の貫通力。単調なれど強力な攻撃手。

 だが、速度だけなら上を行く者をアインもメタングも知っている。

 

「半分でいい。防いで」

 

 展開された立方体に裂け目が入り、それらが8つの小さな立方体に形成される。その内の半分が連結し、攻撃を防ぐ盾となる。

 

“水平連結” “拡張” 【盾】 

 

 速度と貫通力にものを言わせたエアームドの攻撃。けれどメタングの展開した盾は、それを正面から受け止めた。

 

『おぉっと! メタングの展開した盾がエアームドの攻撃を完全に受け止めたぁ!!』

『多重展開した壁に形を与えて自由度を出したんか。ええなええなぁ! ごっつおもろい事考えるやんけ!!』

 

 けれど、防いだだけでは終わらない。盾に消費した立方体は4つ。つまりもう半分が残っている。

 残った立方体を更に連結。エアームドの周囲を囲うように、檻を形成する。

 

「ッ、離脱しろ! エアームド!」

 

 形成される直前、その檻の隙間からエアームドが抜け出した。

 速さが売りのポケモンは、拘束されることを特に嫌う。持ち前の素早さを活かせずに完封されるからだ。

 もっとも、素で耐久力も高いドラゴンタイプともなれば拘束したところで力技に出るため話は別なのだが。

 

「ありゃ、逃げられちゃったか」

「危ねェな……。また随分と変わった技を仕込んだなァ?」

「でも、面白いでしょ?」

「ハッ、そりゃ違いねェ……エアームド!!」

 

 再び空に舞い上がるエアームド。

 そして自らを鼓舞するように、仰々しく翼を広げた。

 アインの脳裏には、警鐘が鳴る。

 

「“エアスラッシュ”“きんぞくおん”」

 

 翼の羽ばたきとともに繰り出される風の刃。より強く、より鋭く。一刃一刃の威力を底上げした技。

 そこに合わさるのは、鋼の翼を鳴らして発生させる“きんぞくおん”

 

 ひこうタイプの特殊技“エアスラッシュ”

 特殊防御力を下げる“きんぞくおん”

 

 同時に繰り出すだけで、かなり凶悪な組み合わせだ。

 

「メタング、まだ守って」

 

 ドッ、と。地面を抉る衝撃。やはり威力は相当なもの。

 メタングは半分の立方体を盾として、二つの盾で風の刃を防ぎに掛かるが、防げない攻撃もある。

 それは“きんぞくおん”。俗にいう音技と呼ばれるものだが、これは“ひかりのかべ”や“リフレクター”といった防御技をすり抜ける特性がある。その影響により今のメタングは特殊技への防御力が低下している状況だ。何とか“エアスラッシュ”は防いでいるが、アインが恐れているのはこの後(・・・)だ。

 

「そォら、おかわりだ!」

 

 体の正面から繰り出される攻撃とは別に、左右から大回りして襲ってくる“エアスラッシュ”。

 何てことはない。翼の羽ばたきと共に繰り出されるなら、正面だけでなく背後に繰り出せるというだけのこと。そこから大回りして、時間差を作って横合いから差し込みに来たのだろう。

 なんだか、どこかで見たことのある攻撃手段である。

 

「分解、それから突貫!」

 

 それが誰かの模倣なら、やりようはある。

 二つの盾を解除。計8つの立方体に戻し、“でんじふゆう”で宙に浮き、差し込んできた“エアスラッシュ”を回避する。

 防戦一方に勝機はない。故にその勝機を掴むために、エアームドの土俵へと殴り込む。

 

「そっちから来てくれるか! だけどそんな鈍重じゃ、エアームドは捕まえらんないよ!」

 

 素早さは既に“こうそくいどう”を積んだエアームドの方が上。

 浮上してきたメタングの突貫を悠々と躱すと、メタングの周囲を高速で飛び回る。

 確かに速い。けれどアインに焦りはない。

 

「速さが足りないなら補うんだよ……メタング、GO!」

 

 “直線連結”“拡張”【カタパルト】

 

 4つで直線状に連結した立方体。

 メタングを載せた一対のそれは、立方体で組み上げた即席のカタパルト。

 実体を与えることでより精度が上がり、高速旋回中のエアームドだろうと容易に捉えることができる。

 

 ぐぐん、と急加速するメタングの巨体。

 予備動作のない加速はエアームドの不意を打ち、近接技の射程圏内まで肉薄する。

 

「んなっ」

『これはなんと!! メタングがあり得ない速度でエアームドに猛追!!』

『電磁加速やな。“でんじふゆう”は磁力で浮く技や。繊細な磁力操作を覚えればああいう技も可能っちゅう訳やな』

『言うは易しさん!?』

 

 バチリと迸る剛腕が、エアームドを打ち据える。

 けれどエアームドもただでは転ばない。“かみなりパンチ”を受けると同時に、“エアスラッシュ”で反撃。そうして生じた僅かな隙を突き、エアームドはメタングの射程範囲から離脱する。

 

 鋭い目で睨み合う両者。

 再び距離を取ったものの、純粋な速度と驚異的な加速力の前ではあってないような距離(もの)だ。

 速度と空中戦というアドバンテージを失った以上、エアームドに優位性はない。

 これで対等。心なしかチリチリと焦げつくような感覚が脳裏に走る。

 けれどそれこそが、アズマの望んだ展開。

 

 この一ヶ月は、アインを確実に強くした。

 よもや壁を越えてここまでできるようになるとは。

 試合前に語っていた心躍るバトル。それは全くの嘘ではなかった。

 

「いい一撃だ……ならこういうのはどうだ!?」

 

 遠慮はもういらない。

 対等な相手として、全力で勝ちに掛かる。

 

 エアームドはメタングに接近。けれどそれは付かず離れずの距離。

 物理攻撃をするにはやや遠く、加速するには近すぎる距離。

 いうなれば、一番嫌な(イイ)位置取り。

 

 死角に入ればすかさず“エアスラッシュ”が襲い、近づかれれば即座に離れる。

 剛力鈍重な重量級に対するお手本のような対策。

 このまま行ってもジリ貧。体力温存を考えるなら交代するのがベスト。そのための布石(まきびし)は既に撒いてある。

 

 アズマのエアームドの型は物理特殊両対応の後続牽制型。

 “まきびし”を撒き、一番手に圧を掛け、後続のポケモンとトレーナーの手札を探る役割。

 ポケモン個人でなく、あくまでチームで勝つための先鋒の役割。

 

 後は退くまで削るだけ。そう思っていた彼女の思考は予想外の行動で裏切られる。

 

「メタング、飛んで!」

 

 アインの指示は、現状の脱出。

 退くではなく、態勢を立て直せというもの。

 メタングはそれを受け、電磁加速で強引に上空へと距離を取る。

 あくまでアインは、退かずにここでエアームドを沈める気でいるらしい。

 

「そんなの逃がす訳――っ!?」

 

 一瞬で射程圏外に逃れたメタング。

 それを追いかけるエアームド。けれどその羽ばたきは意味をなさず、まるで後ろから引っ張られるようにその場でジタバタと藻掻くだけ。何が起こったか会場はわからない。わかっているのは、トレーナーと解説と実力者だけ。

 

『エアームド、メタングを追いかけません! これは一体どういことでしょうか……?』

『タネは磁力(・・)やろな』

『磁力ですか?』

『電磁加速っちゅうことは、あれからは磁力が発生しとる訳や。そんなもんに“はがねタイプ”が近づけば……』

『引っ張られてしまう、と。なるほどそういう絡繰りが……!』

 

 実況もアカネの解説に驚いた様子。

 そしてそれを聞いた会場も大盛り上がり。タイプ相性と技の効果以外の、副次的な要因で運んでいく試合展開。聞けばなるほどと、そう理解できるものだけに、新しい発見にトレーナーたちは沸き上がる。

 

 そしてこんな絶好の機会を、メタングが逃すはずがない。

 スピードに優れたポケモンが拘束されている現状。

 手札にはタイプ相性の優れた技が。

 

 こんなもの、叩き込めと言っているようなものだ。

 

「メタング、“かみなりパンチ”!!」

 

 一切の油断なく、ここで決めると言わんばかりに。

 珍しく雄叫びを上げながら、自重を載せた重い一撃を、藻掻くエアームドへと叩き込んだ。

 防御も碌に取れず、易々と急所への攻撃を許すエアームド。

 

 その硬く美しい翼は力なく垂れ、重力に従い下へ下へと落ちていく。

 

 地面へと落ちたエアームド。その瞳に、既に戦意はなかった。

 

『エアームド、戦闘不能! メタングの勝ち!!』

 

『『『わあああああああああああ!!!』』』

 

 会場を揺らす大歓声。まだ先鋒戦だというのに、観客からは惜しみない声援が贈られる。

 それだけ彼女たちの戦いは、彼らの心に火を付けたのだ。

 

「く、くくくっ。はは、ははははははは!!!」

 

 力なく倒れるエアームドを見つめたアズマは、堰を切ったように高らかに笑い出す。

 晴れやかに、面白おかしく。……最高の気分を現すように。

 

「いいな、やっぱ最高だよ。アンタは!!」

 

 その顔は少女のようで。

 まるで友人と遊ぶ童のように、無垢な笑みを浮かべていた。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 けれど、勝負は有限。

 始まれば、いつかは終わりが訪れる。

 

 力と力のぶつかり合い。

 技と技の応酬。

 相手の考えを出し抜く機転の数々。

 

 他の名だたるトレーナーの戦いにも引けを取らない名試合。

 そしてそれは最後、互いのポケモンが刺し違える形で幕を閉じた。

 

『ボスゴドラ、メタング、両者戦闘不能!! よってこの勝負、アイン選手の勝利!!』

 

 勝者は一人、天に拳を掲げる。

 その勝利に、そして手に汗握る試合を見せた両者に向けて、会場からは惜しみない声援が贈られた。

 

 

 一回戦第三十試合 勝者 アイン

 

 

 先ずは一勝。けれど確かな重みのある勝利を噛み締めて、彼女はフィールドを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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