エスパータイプは“ヒト”にはいらねぇっ!   作:初心者マーク付き社会人

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遂にジムリーダーと激突


つよつよトレーナー杯 二回戦 VSカスミ その1

 

『さぁ、陽も暮れ始めた今日。しかし会場の熱気は未だ冷める様子はありません!!』

 

 実況の興奮冷めやらぬ声。激戦に次ぐ激戦でも変わらぬ声色と表情。隣に座るアカネですら若干の疲れが見えると言うのに、そこは流石プロと呼ぶべきか。観客の一部からはその姿に畏敬の念の籠った視線を向けられている。*1

 

『 次の試合はシード枠!! 第1シードのシジマさんの激闘に目を奪われた人も多い事でしょう。果たして次はどのようなバトルが見られるのか、私も期待に胸を膨らませております!!』

 

 陽は既に西へ傾き、空がオレンジに染まる頃。肌寒さが出てくるこの時間帯であっても、彼らの熱気に陰りはない。なにせここからの対戦は、期待の好カードのぶつかり合い。フィールドに降り立った二人には、既に現実(リアル)と画面を問わず多くの関心が向けられている。

 

『先ずはこちらから! 可憐ながら苛烈に攻め立てる美しき人魚姫! 水を意のままに操る彼女は今日もフィールドで舞い踊る! ハナダシティジムリーダー、カスミ!!』

 

『『『わあああああああああああああ!!!』』』

 

 紹介と共に小慣れた様子で観客に手を振れば、歓声と口笛がアリーナから飛び交う。

 水着にラッシュパーカーという“水”を思わせる出で立ちと、その(かお)に載った勝気な表情。それは彼女の専門タイプと、笑みの裏にある確かな実力を否応なしに周知させる。

 

『そしてお次はこちら! 一回戦は無名ながら奇抜な戦術で3タテを決めた無名の超新星!! その実力はジムリーダー相手にどこまで通じるのか!? 今大会注目のダークホース、アイン!!』

 

『『『わあああああああああああああ!!!』』』

 

 会場から空気を揺らす歓声が爆発する。

 バッジ未所持ではあるが、この場で彼女の実力を疑う者はいない。無名ながら紛れもない強者。その新たなる強者を歓迎する一方で、その実力がジムリーダー相手に通用するのか。そしてその新戦術相手にジムリーダーはどう立ち回るのか。トップトレーナーとしての回答を、彼らは今か今かと待ちわびている。

 

「あらら。もうすっかり有名人ね、アインちゃん」

「そうみたい。……でも、有名なだけじゃダメなんだよね」

「ふふっ、その通り! いつだってアタシたちに必要なのは腕っぷしなんだから!」

 

 フィールドで向かい合う二人。

 お互いに面識はない。けれどお互いに知っている二人。

 スレ主とスレ民。文字を通して知り合った二人。

 立場も何もかも違う二人。

 

 けれど、彼らは同じポケモントレーナーだ。

 

「勝って、そして次に行く」

「簡単には行かせないわよ。――さぁ、全力で来なさい!!」

 

 二人は同時にボールを構える。

 準備は万端。合図があれば、いつでも行ける体勢。

 審判は瞬時に察し、すぐさま合図に入る。

 

「それでは両者、ポケモンをフィールドへ!」

 

「行くよ、メタング!!」

「楽しんできなさい、ペリッパー!!」

 

 アインの先鋒は、メタング。

 カスミの先鋒は、ペリッパー。

 

 ボールから解き放たれた両者が、天と地から睨み合う。

 けれどそれだけではない。美しい夕焼けを隠すように突如として頭上に出現した雨雲から、フィールドへ雨風が吹き始める。

 その変化に、アインは面食らう。カスミはその様子を見てしてやったりと笑っている。

 

 特性“あめふらし”。

 ペリッパーの中では確認された例が少ない珍しい特性。このペリッパーを所持するだけでもポケモンリーグから認定が必要なのだが、しかしカスミはリーグ公認のジムリーダー。彼女が所持をしていても、何ら不思議はない。

 

 そのアドバンテージを遺憾なく振るい、彼女は開幕から主導権を握りに来ていた。

 

「それでは試合……開始ッ!!」

 

「先手必勝! “ぼうふう”!」

「壁展開!」

 

 ペリッパーの羽ばたきと共に起こされた風は次第にうなりを上げ、強烈な圧を伴ってメタングへと襲い掛かる。フィールドを覆うようにして迫る風はまさに嵐のよう。“雨”状態下必中技と呼ばれる“ぼうふう”。それは“雨”状態では既に風が起きているため、“ぼうふう”を起こしやすくかつ広範囲に展開することができるためである。

 

 その“ぼうふう”を前に、壁が間に合ったメタングはなんとか凌ぎ切る。

 ドーム状に展開した壁越しにでも伝わる“ぼうふう”の威力は流石の一言。前後左右から襲い掛かる攻撃は野ざらしで受ければ危なかっただろう。防ぎ方を誤れば脳がシェイクされて“こんらん”状態に陥っていた可能性すらある。

 

「うんうん。やっぱり(・・・・)範囲攻撃はそう防ぐよねぇ」

「最初からわかってたでしょ」

「確認ってのが大事なのよ。それじゃ、“なみのり”!」

「浮上して!」

 

 壁展開中のメタングに向けて、フィールドに出現した津波が押し寄せる。“雨”状態でさらに水量が増したそれは、視覚的にもゾッとする威力を誇る。メタングは“でんじふゆう”で空中へと浮上し、大津波から難を逃れる。そして空中でいつも通りの姿勢維持。

 

 が、その途中でメタングの身体が煽られる。

 

「ふふっ。ただ一発“ぼうふう”を撃つだけなんて勿体ない。そう思わない?」

 

『こ、これは……まだ“ぼうふう”が続いている?』

『これまた嫌な(イイ)手を打って来たなぁ』

 

 未だフィールドに吹き荒れ続ける風に、実況が困惑を漏らす。逆にアカネはそのからくりに気付いているのか、感心とともにその凶悪さに「うへぇ」と口を曲げている。

 

 フィールドに巻き起こした“ぼうふう”は、普通はそのまま過ぎ去っていくもの。

 けれど強風を起こすことができたなら、継続させること程度ならできるはず。

 荒れ狂う暴風を御すことは確かに難しい。だが、吹きっぱなしにするくらいなら、難易度は各段に下がる。

 

『“ぼうふう”みたいな威力はない。せやけど、常に強風が吹いとる状態なら……鳥ポケモンに限れば常に追い風みたいなもんやろなぁ』

『あっ……!?』

 

 “ぼうふう”を利用した“おいかぜ”の追加効果。 

 “おいかぜ”単発に比べて風に指向性はないが、しかし空を主戦場にする鳥ポケモンなら風向きを読むことくらい造作もない。相手にとっては行動を阻害する風だが、風向きさえ読めればそれは追い風となる。

 自らには追い風(自由)を。けれど相手には向かい風(不自由)を。

 全ては自分の強みを押し付けるための、自由に最大限を引き出すための一手。

 

「やってくれる……!」

「ふっふーん。これでもジムリーダーだからね。これくらいお茶の子さいさいよ!」

 

 自信満々に鼻を鳴らすカスミ。けれどその言葉に虚勢はなく、純粋な実力に裏打ちされた言葉だということが嫌でも伝わってくる。

 これがジムリーダー。数多のトレーナーの上に立つ、選りすぐりの実力者。

 

「じゃあ、これはどう? “ぼうふう”!」

「壁展開!」

 

 “なみのり”で足場が奪われた以上、“ぼうふう”を防ぐには球状に壁を展開するしかない。先ほどとは違い全方位に壁を張ったメタング。おかげで“ぼうふう”は防げているものの、しかし防戦一方なことに変わりはない。

 何よりも空中での静止状態。それは空を主戦場にするポケモンには格好の的。当然、カスミはそこを突いてくる。

 

「“エアスラッシュ”!!」

 

 ”ぼうふう”の面制圧からの局所攻撃。

 満遍なく全方位に広げていた両壁は"立方体“に比べて範囲は広いものの、どうしても強度では一歩劣る。

 そこを威力の高い、かつ“点”の攻ができる“エアスラッシュ”で強引に穴をこじ開ける。二種類の攻撃の使い分け。相手の守り方に合わせた弱点の突き方。なかなかどうして淀みがない。

 

「そう来るなら……メタング!」

 

 ぺリッパーの“エアスラッシュ”を前に、メタングはドーム形態を解いて“立方体”を展開した。全てを一列に並べた直列繋ぎ。並ぶだけならただの棒。けれど合わさったそれらが拡張し、一気に伸びてくるならば……それは一本の槍と化す。

 

“直列”“連結”“拡張” 『槍』

 

「貫け!」

 

 展開と同時に急速に伸びる槍。何重にも重ね掛けされた両壁の強度のまま、一点突破を狙った“エアスラッシュ”を丸ごとぶち抜いていく。打ち合い上等。真っ向から殴り勝つメタングの本来の気性は、強くなっても変わることはない。

 

「やるぅ。だけどそれは悪手じゃない?」

「それだけなら、ね!」

 

 自分の攻撃を突破されようと、ジムリーダーのポケモンは並大抵のことでは動じない。指示もなく、点の突き攻撃をひらりと躱すペリッパー。その狙いはカウンター。周囲に展開したならいざ知らず、ここまで長く伸ばしたなら手元に戻すまでに僅かな隙が生じる。鉄壁の守りと強靭な攻撃の狭間を突く、それがカスミが講じた“立方体”対策。

 そして選択された技は“ハイドロポンプ”。“雨”状況下で威力の跳ね上がるこの技は、当たれば致命傷になりかねない。それにどう対応するのか。メタングの動きに注目が集まる最中、その技は予想外の手で防がれた。

 

『おぉっと! ここでペリッパーが被弾!! え、あれって今しなり(・・・)ましたよね!?』

 

 実況は騒然。会場はどよめきに溢れている。

 彼らは目撃した。伸びきった槍がバラバラの”立方体”となり、鞭のようにしなったのを。その表面に紫電が迸っていたのを。

 

『伸ばすだけが芸やない。あれは一回戦でレールガン擬きも使(つこ)うとるし、つまるところやっとるのは電気で磁力を生み出しとるということや。あの“立方体”一個一個を磁力で結べば、遠心力で多少形が崩れようが、ああやって元の形に戻ろうとする。おまけに相性抜群の“でんき”タイプも付与してな』

『なるほど、その結果あの鞭のような挙動になったと! まるで蛇腹剣ですね!』

 

 騒然とする会場と実況の一方で、しかし真剣な表情でフィールドを見つめるアカネ。他にも観客席や控室にいる一部のトレーナーも同様の視線を向けている。 

 つまりあの“立方体”はプレーン。単体でも汎用性があるのに、そこに望んだタイプの付与も可能という。

 弄り方は無限大。そんな要素があるならば、試してみたくなるのがポケモントレーナー。彼らの頭の中では、自分の手持ちでどう“立方体”を使うのかというシミュレーションが展開されていた。

 

「ま~た面白いことを考えたわね。だけど、威力は随分と控え目ね! ペリッパー、そのまま撃って!」

 

 威力と体力を計算して続行可能と判断したカスミは、そのまま続行を指示。

 ペリッパーもそれに応え、バレルロールで素早く鞭を躱し“ハイドロポンプ”を放つ。攻撃中につき回避の機会を逸したメタングに逃げる時間はなく、そのまま威力も範囲も底上げされた“ハイドロポンプ”の奔流に呑み込まれてしまう。

 

「強引な……!」

「アタシが鍛えた子がそんな(やわ)な訳ないじゃない! 畳みかけるわよ!」

 

 激流に押され、体勢を崩されたメタングに“ぼうふう”が襲い掛かる。全方位から嬲るように吹き荒れる“ぼうふう”が、メタングを更に崩す。これまでは全て防がれていたが、しかし体勢を崩した直後なら防御は間に合わない。スタン時間の延長、できた隙を更に広げる一手。

 

「それ以上はやらせない! 挟み込んで!」

 

 アインの合図で起動する、ペリッパーの傍に(・・・・・・・・)控えていた“立方体”。

 片翼を挟むようにして展開したそれらは、磁力でもって上下から翼を挟み込む。途端に体勢が崩れるペリッパー。空中で藻掻くように翼をばたつかせるも、風に煽られるように身体が揺れる。“立方体”に重さはないが、しかし風の影響は多分に受ける。ペリッパーが荒れ狂う強風を味方に付けられていたのは、風を読む力とその中で自由に飛べる能力があったから。その片翼を奪ってしまえば、味方だった風は一瞬で敵に回る。

 

『ここでペリッパーの体勢が崩れる!』

『ええな。ここは妨害手や。“ハイドロポンプ”と“ぼうふう”を受けたんならダメージは結構溜まってるハズやしな。ここで攻め込まれたらマズかったからな』

 

「ペリッパー、無理に飛ばないで! 水に入りなさい!」

 

 空中で姿勢が維持できないのは悪手。即座に判断したカスミは水場に変えたフィールドに着水させる。空中も水中もペリッパーにとっては自分の庭。空で戦えないなら、それ以外で戦えばいいだけのこと。

 空と水から睨み合う両者。奇しくも構図は試合開始時と逆。メタングが見下ろし、ペリッパーが見上げている。それでも両者の思惑は一致している。

 

 すなわち、次の一撃で決着する。

 

「メタング、“かみなりパンチ”」

「ペリッパー、“ハイドロポンプ”」

 

 体内の発電器官から電気を生み出し、両腕に紫電を纏うメタング。

 周囲の水と“雨”から水を取り込み、射出準備に入るペリッパー。

 

 ただし、それだけでは終わらない。

 

「加速!!」

「圧縮!!」

 

 “立方体”を展開し、カタパルトを生成するメタング。

 取り込んだ水を圧縮し、砲弾を形成するペリッパー。

 

 威力を加算する一手を加え、両者はついに激突する。

 

「“かみなりパンチ”!!」

「“偽・ハイドロカノン(ハイドロポンプ)”!!」

 

 空から超加速を以て飛来するメタングを、圧縮した水の砲弾が迎え撃つ。

 ドッッ!! と伝わる衝撃音。歓声すら一時的に静まり返る技のぶつかり合いが、その威力を物語る。

 互いに譲らない。これで相手を沈めるのだから、退く訳にはいかない。

 

 けれどジリジリと退かされているのは、メタングの方。

 そもメタングの威力の底上げは電磁加速によるもの。つまり最高威力は初撃のみ。そこで決着がつかなければ、加速力を失い徐々に威力は減衰していく。

 

 何もしなければ押し負ける。そう、何もしなければ。

 

「もう一回加速!!」

 

 外付けの加速装置を使っている利点が、ここで活きる。自前の加速でないため、必要に応じて何度でも加速できるのがメタングの強みである。

 カタパルトを再度展開。助走距離なしに加速できるこの装置は、拮抗状態の今であってもメタングを加速させることができる。

 グンッッ!! と突進力を上乗せさせるメタング。その一手は、ついに水の砲弾を押し返すに至る。

 

「真正面から突破とは、やってくれるじゃない! ペリッパー、もう一仕事よ!!」

「そのまま突撃!!」

 

 圧縮された砲弾が弾け、水の花火が空に咲いた中から降ってくるメタング。

 体勢を立て直したペリッパーから再び“ハイドロポンプ”が放たれるも、メタングの突破力を削るには至らない。

 水の奔流の中を突き進む雷は、ついにペリッパーを捉える。

 

 タイプ相性でいえば4倍弱点。

 更に加速の乗った一撃をペリッパーが耐えきれるハズもなく、その一撃で残っていた体力は根こそぎ持っていかれてしまう。

 

 紫電が晴れた先には、力なく倒れるペリッパーの姿。

 その前に立つメタング。

 勝者は見れば明らかだ。

 

『ペリッパー戦闘不能!! メタングの勝ち!!』

 

『『『『わあああああああああああっっっ!!!!』』』』

 

『決着! 決着です!! 期待の新星が、ジムリーダーのポケモンを打ち破りました!!』

『見応えあるバトルやった。けどまだ一体目。油断はできんで』

 

 爆発する歓声、揺れるアリーナ。

 興奮冷めやらぬ様子の観客は激闘を繰り広げる両者に精一杯の声援を送る。

 フィールドにいる二人にも、その声は届いている。けれどまだ一体目。それがわかっている両者の顔には、慢心の色はない。

 

「ふふっ。ふふふふっ」

 

 一人は満面の笑みを、一人は険しい顔を。

 前者はカスミ、後者はアイン。

 その笑みに思わず身震いをしたアインは悟る。本番、はここからだと。

 

 

「とってもとっても……楽しくなってきた!!!」

 

 

 ジムリーダー。世代の頂点。

 数多のトレーナーの上に立つ彼女の、スイッチが入った音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
だが彼らは気付かない。その足元には夥しい数の栄養ドリンクの空きビンが転がっているということに

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