エスパータイプは“ヒト”にはいらねぇっ!   作:初心者マーク付き社会人

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つよつよトレーナー杯 二回戦 VSカスミ その2

 

 

 アイン先取で始まった二戦目。

 しかし展開は予想とは真逆の様相を呈していた。

 

「ラグラージ、“アームハンマー”!!」

「メタング、加速して“バレットパンチ”!!」

 

 大岩すらも粉々に砕く剛腕と、加速力の乗った鉄の腕がぶつかり合う。

 その衝撃で水面に大きな穴が開くが、しかし両者はその場から退け反る気配はない。

 

 カスミが二体目に繰り出したのは、ラグラージ。

 ホウエン地方に生息する、“じめん・みず”複合タイプのポケモン。

 そしてタイプ相性では、メタングにとって最悪の相手。

 

 “はがね”タイプは“みず”タイプに通りが悪く。

 “でんき”タイプは“じめん”タイプに全く通らない。

 

 退くという選択肢は、賢い選択だったのかもしれない。

 交代のタイミングで申し出をすれば、アインにも交代する機会は与えられた。けれど審判の確認に、アインは首を横に振った。

 “テレパス”を通じて伝わってくるメタングの主張は一貫して『退く気はない』、と言っていた。

 メタングの強みは“立方体(キューブ)”による攻守の多彩さ。それを活かせば相手の出方を見れるし、多少なりともダメージを負わせることもできる。そういう目論見があった。

 

「掴んで投げつけ。そして“ビルドアップ”!!」

 

 ラグラージは“バレットパンチ”で伸ばされたメタングの腕を掴み、メタングの巨体を水面へと叩きつける。加速も相まってメタングは制御を失い、攻撃を諸に受けてしまう。その隙にラグラージは距離を取り、悠々と“ビルドアップ”を積んでいく。

 彼は近接戦のスペシャリスト。カスミの指示を忠実に遂行し更に次手をすぐに打てるよう徹底して鍛えられたこのラグラージの前では、メタングの目論見は半分しか達成できていない。何よりマズいのは“ビルドアップ”を既に二回積まれていること。

 潜在的な筋肉を隆起させたことで、攻撃と物理防御は通常時の約二倍。このレベル帯では致命的なバフ。

 

「フィニッシュよ、“たきのぼり”!!」

「壁展開!!」

 

 ラグラージは水中を潜航。そして接近と同時に水を纏った“たきのぼり”の一撃を見舞う。

 メタングは即座に周囲の“立方体”で盾を展開。ギリギリで盾は間に合うが、それを見たラグラージの身体が急激にブレる。

 純粋な技術によるフェイント。しかも展開数が少ないことで、“立方体”の盾の範囲はかなり制限されている。その境界線を見極め、盾をぐるりと回避したラグラージは、無防備なメタングへと強烈な一手を打ち込んだ。

 

『あぁぁっと!!? ここでラグラージのフェイントが刺さる!! これは手痛い一撃だぁっ!!』

『“立方体”が強いのは紛れも無い事実や。せやけど無敵の戦術やない。これはラグラージの“巧さ”が一枚上手を行ったなぁ』

 

 重ね掛けによる強度の底上げと自由度の付与。その強みを持った反面、展開できる範囲を制限する制約を課された“立方体”。

 加速に半分使用していたため、もう半分でしか展開できなかった隙を上手く突いたラグラージに、この勝負の軍配は上がった。

 力なく倒れるメタング。その目に戦闘続行の意思はない。

 

『メタング戦闘不能! ラグラージの勝ち!』

 

「いっええぇいぃっっ!!!」

 

 彗星の如く現れた新戦術の使い手。一回戦では3タテを決め、会場のトレーナーを魅了したその戦術が遂に破られ、地面に伸された。会場からはどよめきと歓声が半々に入り混じった声。

 なるほど、確かに攻守に優れた技。しかし分断してしまえば使える手は減らされ、詰め寄られれば一気に隙を晒してしまう。トレーナー達は頭の中で立てていた仮設が実証され、攻略の糸口を掴むことになる。そして、今後流行り始めるだろう戦術のメタを考える者もちらほらと。 

 にわかに騒ぎ始めるトレーナー達。しかし彼らの驚愕も呑み込んで、バトルは進んでいく。

 

「メタング、戻って。………ふぅ、そのラグラージ、巧いね」

「でっしょぉ。この子はバトル経験豊富なんだから。簡単にはやられないわよ?」

「よくわかってるよ」

 

 残りの手持ち数は五分五分。しかし有利不利は完全にひっくり返されている。

 場には“ビルドアップ”を2回積んだラグラージ。“アームハンマー”で腕の筋肉を隆起させたことで全体的な機動力は少し下がってはいるが、物理方面ではかなり有利な状況に持っていかれてしまっている。

 

 故にこの状況を打開するには、その強み以外から畳みかけるしかない。

 

「この子も巧さじゃ負けない。……行くよ、ヒトデマン!!」

 

 アインが二体目に繰り出したのは、ヒトデマン。この大会では珍しい進化前のポケモン。けれど会場から零れるどよめきは、また違った理由からだった。

 

『アイン選手の二体目はヒトデマン! しかしアカネさん、これは……』

『えぇ度胸しとるなぁ。みずタイプのエキスパートにそれをぶつけるか』

  

 何を隠そう、相手はみずタイプのエキスパートたるハナダジムのジムリーダー、カスミである。

 トレーナーの頂点であるチャンピオン、そしてその挑戦資格を問う四天王。彼らに次ぐ実力を持ち、そして一つのタイプを追究し続けた者たち。彼らは自分の専門とするタイプに誇りを持っており、そして誰にも負けないという自負がある。そんな彼らに対して同じタイプで挑むということ。

 

 それはつまり

 

「ふ、ふふふふっ! 手加減はいらないと……そういうことね!?」

 

 

 真正面から喧嘩を売る行為に他ならない。

 

 

「折角のジムリーダーとバトルだよ? 全力でやらなきゃ勿体ないでしょ」

「ふふっ。ならジムリーダーの実力……特と味わいなさい!!」

 

 両者とも気構えは十分。

 雨の中でも消えぬ闘志を燃やし、バチバチに火花舞う鉄火場を幻視させるこの場には、既に遠慮は無用。

 

『それでは……試合開始!!』

 

「“こうそくいどう”、“スピードスター”!」

「ラグラージ、“がんせきふうじ”!」

 

 先手を取ったのはヒトデマン。水のフィールドは自分の庭。地上よりも滑らかに、軽やかに、星屑と共に水の上を動き出す。

 それに対するラグラージは“がんせきふうじ”を選択。身を隠せるほどの巨岩を眼前に並べ、牽制の“スピードスター”をシャットアウトする。ならばと、次はヒトデマンは左右から迂回する弾道に調整。岩の盾を掻い潜るようにラグラージ本体を狙う。

 

「そのまま投げつけて!」

「抜かれるよ、回避重視!」

 

 ぐぐん、と大岩を掲げたラグラージが、その怪力に物を言わせて大岩を破片の塊へと変えていく。元々“スピードスター”を受けて脆くなっていた岩だ。ラグラージの怪力を以てすれば、砕くのは容易なこと。その破片を振りかぶり、ラグラージは強化した腕力を存分に乗せた投擲を前へと解き放つ。

 一つの塊だった破片群はやがて空中で分解し、砲弾はやがて散弾となって前方全ての的に襲い掛かる。一つ一つは拳サイズの礫だが、しかし怪力に物を言わせた投擲は一つ一つを致命的な凶器に変えてしまう。真っ向から“スピードスター”とぶつかり合うも、その礫は拮抗することなく食い破ってくる。

 空中に咲く衝撃波と土煙の花。しかしそこから飛び出す凶弾は、ヒトデマンを捉えることはできない。ヒトデマンの回避はそれを見越してのこと。“こうそくいどう”で速度を上げて、事前に来るとわかっていれば避けられないこともない。左右に振れ、加減速の緩急をつけ、その礫をするりするりと躱していく。

 

「ひゅ~♪ 啖呵を切るだけのことはるわね!」

「この子は信頼してるからね」

「それはよ~く伝わってくるけど……ちょっと避けるのに集中し過ぎじゃない?」

「何を……っ!?」

 

 散弾の雨を抜けた先。土煙の向こうには、ラグラージの姿はどこにもない。

 視線の揺れ。そしてその一瞬を、ジムリーダーは見逃さない。

 

「掴んで“アームハンマー”!!」

「っ、“サイケこうせん”で迎撃!」

 

 加速が緩んだ一瞬、水面から飛び出した手がヒトデマンを捉える。ヒトデマンが回避に思考を割き、土煙でアインの視界が遮られた隙を突いてラグラージは水面へと身を潜ませていたのだ。その一手の行動の差。それだけで有効手のチャンスが発生する。

 それに対してアインが選択したのは迎撃。咄嗟に逃げられないと踏んで、回避ではなく迎撃に切り替える。

 

 衝撃。振り下ろされる拳と至近距離で放たれるビーム。両者の一撃は炸裂し、互いに少なくないダメージが入る。しかし強化されたラグラージの攻撃は、ヒトデマンには手痛い一撃。そのまま押し潰されるように、ヒトデマンは水中へと叩き込まれる。

 

『両者の攻撃がそれぞれクリーンヒット!! ここに来て初めていい一発が入りました!!』

『相手トレーナーの視線も遮る手を打ったのは流石ジムリーダー、ってとこやな。戦術っていうのは何もポケモンだけに作用するもんやない。トレーナーの視線を遮ったり、逸らさせるのも一つの手や』

 

 放たれた礫を明確な脅威とすることで逆にそれを囮にし、会心の一手の布石とする。その手をバトル中に組み込む柔軟さと、それに応えられるだけに鍛えられたポケモン達。その強さは、バトル中で如何なく発揮される。

 

「さぁ、行け行けドンドン! ラグラージ、追撃よ!」

 

 そして仕切り直しとなった戦況で、カスミが選択したのは追撃。ダメージレースではカスミが優勢。ここで立て直す隙を与えるつもりはもうとうなかった。

 水中に消えたヒトデマンに続くように、空中で“サイケこうせん”を受けたラグラージもすぐに身体を回転させて体勢を立て直す。飛び込みの際の抵抗を最低限にした着水体勢。そしてそまま追撃を加えようとヒトデマンの後を追おうとして――

 

「“うずしお”」

「なぁっ!?」

 

 水面から突如として飛び出した水の螺旋が、ラグラージを正面から突き上げる。

 如何に怪力であっても、空中で、しかも液体に対しては怪力は作用しない。踏ん張ることもできず、押されるままに再度空中へと高々に跳ね上げられる。

 

 再びの空。けれど、それだけでは終わらない。

 

「“うずしお”。それに新技、“れいとうビーム”!!」

 

 空に生み出されるいくつもの“うずしお”その形はより鋭角に、それこそ突撃槍(ランス)を思わせるような、より貫通力を高めた形状となっている。

 そしてそこに放たれる“れいとうビーム”。極低温に達する強力な冷気を帯びた光線は“うずしお”を先端から凍りつかせ、次第にそれを本物の突撃槍へと変化させていく。

 空に浮かぶ幾つもの氷の突撃槍。まるで何かの儀式のようにラグラージを囲うその様は、どこか神秘的にも見えてしまう。

 

『これは……!? 氷の槍!?』

『それだけやない。あの尾端はまだ“うずしお”が残っとる。つまりあれは制御も可能っちゅう訳や……』

 

 もっとも、それは外からみただけの話。

 ラグラージからすれば、そこは処刑台となんら変わらない。

 

「たっぷり味わってね……斉射!!」

 

 アインが手を振り上げると同時に、突撃槍の先端はラグラージに向けられる。

 さながらそれは騎士による処刑式。逃げ場のない空中で、多方から槍を一斉に突き付けられるのはかなりのプレッシャーである。

 そして振り下ろしとともに斉射される突撃槍。それは余すことなく、中心にいるラグラージを捉えている。

 

「近接戦のスペシャリストを舐めないことね! ラグラージ、叩き落として!!」

 

 けれど、ここで液体()固体()になったことがラグラージに味方した。

 鋭い先端に臆することなく、むんず、と突撃槍を掴み取るラグラージ。そのまま力づくで槍の制御権を奪い、今度は己の得物として振り回し始めた。突撃槍が強いのは貫通力。横からの打撃にはさして強くはない。殴りつけ、砕き割り。得物が割れれば別の槍を奪い取って再び叩き割る。

 怪力だけではない。技巧にも長けたラグラージにはこの程度の単調な攻撃は凌げない訳はなかった。次々と割られていく氷の槍。その無残な残骸は力なく水面に落ちていく。

 

『巧い! ラグラージ、巧い! 抜群の戦闘センスで見事に氷の槍を凌ぎ切る!』

 

 その技量の高さに、実況は感服する他ない。会場のトレーナーも、その光景を固唾を飲んで見守っている。

 けれどその一方で、冷や汗を垂らすトレーナーも一定数いた。

 

『確かに、あのラグラージの近接戦のレベルは剛柔併せてかなり高い。一対一(サシ)の殴り合いなら余程負けんやろ。……やけど、それを覆すのが戦術や』

『……? と、いいますと?』

『本命はこっち、っていう訳や』

 

「“うずしお”、“スピードスター”!!」

 

 アインの号令のもと、水面に幾つもの“うずしお”が発生する。“うずしお”同士がぶつかり合い、フィールドは嵐の様に時化(しけ)始める。

 そこに降り注がれる“スピードスター”。“うずしお”に乗ったそれは更に加速を得て、飛び出せばまた別の“うずしお”に乗って加速する。荒れる水面はその進路を不透明にし、次にどこへ向かうかなどわかったものではない。

 水中を縦横無尽に走り回る流星群。ある種幻想的な光景に吉星に見えなくもないが、実態は水面に引き摺り込んだ相手に見境なく襲う凶星である。

 

『おぉっと! フィールドは大時化! そこに流れる“スピードスター”の群れ! これは捉えることが難しい!』

『そんでもって、さっきラグラージがぎょーさん叩き割った氷片も泳いどるからなぁ』

『「……あぁッ!!?」』

 

 そう、先ほどあっけなく攻略された氷の槍。それの本当の狙いはこちらだった。実況とカスミの声が重なる。

 砕かれた氷片は“スピードスター”と同じく“うずしお”に呑まれて不規則に水中を漂っている。回避どころか、防御も不可能。この氷の礫は、水中に入ってきた者に例外なく襲い掛かる。

 

「いらっしゃ~い」

「ラグラージ!!」

 

 この先に何が待ち受けているかわかっていても、近接戦に特化したラグラージに成す術はない。

 着水するラグラージに四方八方から襲い掛かる“スピードスター”と氷の礫。その怪力と技巧では太刀打ちできない、群れとして襲い掛かってくる技は、無慈悲にラグラージの体力を奪っていく。

 

「これで終わりッ、“サイケこうせん”!!」

 

 そしてダメ押しとばかりに放たれる“サイケこうせん”。水中で襲われていたラグラージが気付くも時すでに遅し、“スピードスター”の目晦ましに紛れた“サイケこうせん”にあえなく被弾。そして、それが決め手となった。

 

『ラグラージ、戦闘不能! ヒトデマンの勝ち!』

 

『『『わあああああああああああ!!!』』』

 

『決着ッ!! アイン選手、なんと水タイプのポケモンでジムリーダー・カスミのポケモンに勝利!!』

『ポケモンの能力を最大限に活かす戦術が光るバトルやったな』

 

 割れんばかりの歓声が、アリーナ全てを震わせる。

 ジムリーダーのポケモン相手に同じタイプのポケモンで勝利する。その偉業の目撃者となったことに、歓喜と驚愕の声を上げてしまうのも無理のないこと。実況・観客を併せて、アリーナのボルテージもブチ上がっている。

 

「ラグラージ、ご苦労様」

 

 カスミは戦闘不能になったラグラージをボールに戻す。

 労わる声色には、悔しさが滲んでいた。

 自らの専門タイプで負ける。それがどれだけ悔しいことか。他者よりもタイプへの造詣が深いと自負し、負けないように努力してきた。制限されたポケモンだったと言えばそれまでだが、そういう話ではないのだ。

 これはプライドの問題。負けたくない、負けられない。そういう問題だ。

 

「やるじゃない。あなたの実力、アタシが認めるわ」

「ありがとう」

「こっちのポケモンはあと一体。……だけど、こんなことで凹むようじゃ、ジムリーダーはやってられないわ!」

 

 ピンチ上等。いくつもの窮地を経験し、乗り越えてきた彼ら彼女にとって、この状況はむしろ楽しむもの。

 退けば負ける未来しかない。けれど、進めば勝つ未来もある。

 だから彼女は、今日も前に進む。

 

 

「アタシのポリシーはね……攻めて攻めて、攻めまくることよ! さあ! 世界の美少女カスミ様が相手になるわ! 行くわよ! マーイ ステディ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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