エスパータイプは“ヒト”にはいらねぇっ! 作:初心者マーク付き社会人
つよつよトレーナー杯 トーナメント準決勝。
荒れに荒れた今大会。番狂わせをし続けた強者を含め4強が出揃った対戦カード。
積み重ねた実績から、勝利は堅いと言われたジムリーダーは既に半分消え。観客の心の中に「もしかしたら」が思い浮かぶ中で行われた準決勝は、半ば予想を裏切る結果となった。
長らくジムリーダーを務めるシジマは敗れ。これまで余力を残しながら戦ってきたグリーンも新規の手札を切らされ、危うく敗れるところまできた。
ここまで魅せられれば、観客はもう常識なんてものは当てにしない。
観客の予想を裏切り、期待に応え続けた結果は、観客を熱狂の渦の中に呑み込んだ。
『なんかどっかの大会がすっげぇ盛り上がってるらしいぞ』
『駅前で号外が配られてたやつじゃん。ちょっと見てみよ』
『ジムリーダーも参加してるけど準決まで半分しか残らないってどんな魔境だよ!』
『急遽ですが、つよつよトレーナー杯のミラー配信します! よかったら見に来てね!』
テレビも新聞もSNSも。メディアはこの大会一色に染められた。
それまで興味を示さなかった層にもこの情報は届けられ、自然と関心を寄せられた。
火が付いた関心。波及し始めた熱狂。
それですぐさま試合がないとなれば炎上必須だが、幸いにもポケチューブ公式には試合のハイライト動画という事前説明にはうってつけの材料が揃っていた。それは全ての総決算たる決勝戦までの時間稼ぎには、十分なコンテンツだった。
「皆お熱いねぇ。この大会が今一番ホットな話題みたいだぜ?」
そんな世間の熱狂を画面越しに眺め、他人事のように呟くのはジムリーダーのグリーン。
元チャンピオンにして最強のジムリーダーと呼び声高い彼は、しかしそんな肩書を感じさせないフランクな様子で寛いでいる。
「みたいだね。まぁ、その火を付けたのはボクたちだけど」
そのグリーンに答えるのは、無名ながら破竹の勢いで快進撃を繰り広げたアイン。
その小柄な体躯には、既に世間から並々ならぬ期待を掛けられている少女であるが、こちらもこちらでそんなプレッシャーを意に介さずに缶ジュースを啜っている。
世間の熱狂の渦中にいるはずの
「楽しんでそれが注目される分にはいいんだよ。それに、ここのところパッとするイベントがなかったから
「流石、悪ノリした強いトレーナーをバッタバッタ倒した人は言うことが違うね」
互いに決勝進出者。倒してきた相手の数は同じである。
ただし悪ノリに乗った側か仕掛けられた側かの違いはある。勿論前者がグリーンで、後者がアインだ。
無聊を慰めるべく嬉々として強者が集う大会に乗り込んだグリーンにとっては、それはそれは満足のいく大会だったことだろう。
「それは語弊があるな。バッタバッタ、なんて言えないさ。皆強かった。特に準決勝の勇者くんには冷や汗かいた」
「その名前定着してるんだ……」
「SNSでもその名前で呼ばれてるみたいだぞ?」
大会において、
手持ちを3体で固定した上で3-0、3-1で危なげなく勝ち進んできたグリーンを相手に、新規ポケモンを出させた上で初めて3体目を引き出したトレーナー。結果は敗けであったとしても、その偉業を誰しもが讃えていた。その功績を讃えて贈られた愛称が『勇者』である。最早グリーンがラスボス認定は周知の事実であるため、ノリの良い観客たちは嬉々としてその名前を呼んで讃えていた。
「でも意外だね。決勝まで3体は隠し通すと思ってたんだけど」
「最初はそのつもりだったさ。けど、それじゃ厳しいと踏んだ。だから揺さぶりも兼ねて最初に新規を出したんだよ。……勇者くんも最後の1体は温存してたからな」
3体だけで準決勝まで勝ち上がったグリーンに注目しがちだが、相手も最後の1体を晒さないまま準決勝まで来ていた。その実力を察していたからこそ、グリーンは最初の方針を変更して4体目を繰り出したのだ。
そして終わってみれば結果は3-2の接戦。その判断は、やはり間違っていなかった。
「ま、結果として勝てたんだから万々歳だ。おかげで大会も盛り上がったし……余計な火種も消えてくれた」
トレーナーとして語らう楽し気な会話の中に、スッと大人の会話が差し込まれる。
「……火種って、昨日の
「そそそ。無事に鎮まったみたいだぞ。まぁ、でっかい火で覆い隠した、が正しいんだろうけど」
昨日の夜に投稿されたポケッターの写真。居酒屋でジムリーダーで集まっていた様子が撮影されたものだったが、その経緯が少々問題だった。
トレーナー資格未取得者によるジムリーダーの撃破。その大々的な偉業が、却って作為めいたものではないかという憶測に繋がっていた。簡単に言えば、八百長試合ではないかと疑われていた。
最初に呟いた者は疑り深いだけで悪意がなかったのかもしれない。けれどそれに悪意を持って乗っかった者がいた所為で、話が大きくややこしくなってしまったのだ。言うだけならタダ、と当人たちは思っていたのかもしれないが、実力の証明が必要なアインからすればこの噂は事実無根であってもマイナス評価になりかねなかった。
ただでさえ比較的容易と思われた大会の難易度が天元突破しているのだ。他の要因で実力にケチが付いてしまっては堪ったものではない。
そこでジムリーダーたちは、SNSによるそれとない世論の誘導と、大会を盛り上げるという手に出た。
反省会をしているという投稿でジムリーダー側も手は抜いていないと意思表明すると共に、大会本戦でもジムリーダーらしい強さと、わかりやすい派手なバトルを取り入れることで観客側が盛り上げることにしたのだ。シジマのあの派手な攻撃もそういう意図が含まれていた。
更に外部からの注目関心を集めれば、盛り上がりは一層大きくなる。盛り上がる規模が大きくなるほど、多少のネガティブ意見など見向きもされなくなる。そして大多数が実力を認めてしまえば、マイノリティな彼らは正面から否定できなくなってしまう。
「小火一つに辺り一帯焼き払うのは力業過ぎない?」
「なぁに、合法だからセーフだよセーフ」
ケタケタと笑うグリーンだが、一人の人間に対して余りにも肩入れをし過ぎである。要は彼らがやったことは、自身の認知度と実力を使ったゴリ押しなのだ。
ジムリーダーとはポケモンリーグが認めた代表トレーナー。全てのトレーナーに公正であるべき立場の人間だ。そんな彼らにここまで手を貸してもらっていては、流石のアインも申し訳なさが込み上げてくる。けれどその喉まで出かかった謝罪の言葉を遮るように、それを見越したグリーンが人差し指でアインの唇を遮った。
「おっと。その言葉は不要だぞ。……余計な火の粉を払ってやるのは、俺たち“大人”の仕事だ。君は、自分が全力を出し切ることだけに集中していればいい」
グリーンは優しくアインを諭す。
トレーナー資格を持ち、10歳になり、大人の仲間入りをしたならば、自分で何とかしてみろと言われたかもしれない。けれどアインはまだそのいずれにも該当せず、世間一般ではまだ子供でしかない。子供を助けるのは親の役目。けれどその親の庇護が受けられない以上、大人の誰かが手を差し伸べてあげるしかないのだ。
最後は自分の力で結果を掴み取らなければならないかもしれない。けれどその途中で、要らぬ火種が飛び込んでくるのなら、大人としてそれを払い除けてあげるくらいは、やってもいいのだろう。
『フィールドの整備が完了しました。まもなく、つよつよトレーナー杯決勝戦を執り行います。出場選手はそれぞれ準備をお願いします。繰り返します―――』
「おっと、そろそろか」
「うん。そうみたいだね」
決勝戦を告げる放送に、俄かに騒がしくなるアリーナ。
観客からすれば待ち侘びた決勝戦。期待に胸を膨らませるのは自然なこと。
そして待ち人たる二人は、示し合わずとも同時に席を立つ。
「君の実力は既に十分証明されている。だから、この勝負は何の制約もないただのポケモンバトルだ。……思いっ切り、ぶつかって来い」
「うん、ありがとう。……そのすまし顔、絶対に変えてやるんだから」
「ははは! その意気だ! フィールドで会えるのを楽しみにしているよ」
そう言って、グリーンは手を振ってその場を後にする。
次に会うのはフィールドを挟んだ
二日間の総決算。ついに迎えた決勝戦に向かうべく、アインもその場を後にした。
◆◇◆◇
『昨日から始まり、今日に至るまで。このアリーナでは数々の名勝負が繰り広げられてきました』
興奮冷めやらぬ熱狂が渦巻くアリーナに凛と響くアナウンス。
それまで騒然としていたアリーナは、徐々にその声に聞き入るように静かになっていく。
けれど満ち満ちた熱気はそのまま。静かに燃え盛る熱気を孕んだアリーナに、実況の声が染み渡る。
『ジムリーダーを含め、総勢130名による激闘のトーナメント。勇名轟かせる現代の猛者。かつて名を馳せた
『数々のドラマを生んだトーナメント。振り返ればいくつもの名場面が蘇ります。それらを乗り越え決勝に進んだのは、かつて頂点に上った者と、これから挑む者。ゴールを潜った者とこれからスタートする者という対照的な二人』
脳裏を過るこれまでの激闘。最初から観ていた者も、途中から観た者も、等しくその脳裏には心を熱くした試合を思い浮かんでいる。
『けれどフィールドに立った瞬間、立場は無用の長物。必要なのは苦楽を共にしたポケモンと、己の実力のみ』
『群雄割拠。大会に臨んだ数多の猛者たちを倒してきた二人が今、フィールドを介して向かい合います』
これから迎えるのは、その心を熱くした試合の集大成。
彼ら彼女らの躯を踏み越えて、トーナメントの頂きへと上った怪物同士の戦い。
『それでは、選手たちの入場です!』
それはきっと、これまでのどの試合よりも、心を熱くしてくれるのだろう。
◆◇◆◇
『先ずはこちらから! 無名ながら決勝まで上り詰めた超新星! ジムリーダー二人を撃破した実力に偽りなし!剛柔併せ持つ変幻自在の戦い方は、我々にどんな未知を見せてくれるのか! アイン選手!』
『『『わああああああああぁぁぁ!!!』』』
『アインー!』『応援してるぞ!!』『下剋上やっちまえ!』
白煙を潜り抜けたアインを出迎える、割れんばかりの大歓声。これが熱狂。これまでのバトルで観客に火を付けた結果。けれど悪い気はしない。むしろその熱に当てられるように、心が次第に高揚していく。
『さぁ、そして。その超新星を迎え撃つのは最強のジムリーダー! 全ての試合に危なげなく勝利し、余裕綽々に決勝まで進んだ実力はやはり本物! 伏せた手札は試合に何を齎すのか! トキワシティジムリーダー、グリーン選手!!』
『『『うおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!』』』
『出たな裏ボスぅ!』『キャーーッ!!』『グリーン様ぁ!』
続いて白煙の奥から姿を見せたグリーンにも、会場からは大きな歓声が飛ぶ。大躍進を遂げたルーキーを迎え撃つのにこれ以上ない人選。それが波乱のトーナメントで実現したのだから、観客が盛り上がらない訳がない。そんな彼らにグリーンは陽気に手を振り返してファンサービス。次いで返ってきたのは黄色い歓声だった。
「相変わらず女性ファンが多いね?」
「女の子には優しくしろ、ってのがウチの家訓でね。姉さんにしこたま躾けられたんだよ」
「ふぅん? なら、ボクにも優しくしてくれるの?」
「君が望むならいくらでも。……ま、バトルは別だけどな?」
「ふふっ。それが聞けただけで十分だよ」
会場のボルテージは最高潮に。フィールドを挟んで向かい合い、不敵な笑みを浮かべる
『さぁ、いよいよ両雄がここで初めて対峙します』
『勝ち上がって来た
『アイン選手は元々3体のみのエントリーですが、グリーン選手は6体エントリーしていて、その内2体を完全に伏せています』
『完全に新機軸にするか、既出のポケモンとのシナジーを出す構成なのか。内容次第で大きく変わるで』
『はい。そしてアイン選手がそれをどう対処するか、ですが……』
実況・解説が手にしたマイクから声を遠ざける。両雄向かい合うフィールドに、静かに審判が立ち入ったからだ。
これから始まるのは今大会の総決算にしてフィナーレを飾る試合。自然と、見守る側は万の言葉よりも期待を込めた視線を向けるようになる。
『これより、つよつよトレーナー杯、決勝戦を執り行います!!』
誰しもが固唾を飲んで見守る中で、審判の声が高らかに響き渡る。
つい数秒前までの耳を劈く歓声が嘘のように感じる静けさの中。しかし二人の闘志はギラギラと燃え盛っている。
『それでは両者、ポケモンをフィールドへ!!』
「全力で行くよ。ヒトデマン!」
「さぁ、お披露目だ。ポリゴンZ!」
アインが繰り出したのは、ヒトデマン
グリーンが繰り出したのは、ポリゴンZ
先鋒を務める両雄が、フィールドその瞬間、会場からは微かなどよめきが起こる。何せグリーンが繰り出したポリゴンZは初めての選出。序盤から伏せ札を惜しげもなく晒したことにより、勝負の行方はより一層不透明になる。
想定された予想不能。
未知と波乱に彩られた決勝戦が、幕を開ける。
『それでは試合……開始ッ!!』
「“うずしお”、“スピードスター”!」
「“はかいこうせん”!」
先手必勝。油断大敵。
様子見なんて悠長な真似はしない。互いに盤面を整えられれば手を付けられなくなるのはわかりきっている。故に、初手からフィールドの主導権を奪いに行く。ヒトデマンの周囲とフィールドに“うずしお”と“スピードスター”が展開され、ポリゴンZからは極大の“はかいこうせん”が解き放たれる。
ここで差が出たのは選択したコンセプト。薄く広く、攻守のバランスを保ちつつ全体負荷を掛けるヒトデマンに対して、最初から暴力的に蹂躙しにかかるポリゴンZ。単調な直線軌道の“はかいこうせん”であれば、範囲が広くても対応は容易いだろう。
けれど相手はジムリーダーの、元チャンピオンのポケモン。そんな単調な攻撃が来るはずもない。
『こ、これは!! “はかいこうせん”が分裂した!?』
『選出で動揺誘っといて初手で主導権握りに来よったか!』
解き放たれた“はかいこうせん”はヒトデマンに直撃する前に枝葉のように幾重にも分裂し、多方向から一斉に襲い掛かる。
それに対してヒトデマンが取った選択は回避。咄嗟のこの状況では、あれに対抗できる威力の技は作り出せない。“こうそくいどう”による加速の恩恵を経て、枝分かれする“はかいこうせん”の隙間をするりと抜けていく。その先には砲撃中の無防備なポリゴンZの姿。
“はかいこうせん”は威力が大きい分反動が大きい技だ。ここぞの場面で決めるフィニッシャーとして破格の性能と言えるが、初手の盤面制圧に向くとは到底思えない。けれど、グリーンはそれを選択した。
……何か、ある。
アインの脳裏につかず離れず浮かぶ嫌な予感。
その答えは、ギュルンッ、と方向転換した“はかいこうせん”が示してくれた。
『えっ……?』
『うわ、マジか』
「っ、
ヒトデマンは咄嗟の判断で急旋回。
その直後、迂回する軌道で死角から迫った“はかいこうせん”が轟音と共にその場を通り過ぎていく。まさに間一髪。けれどそれだけでは終わらない。枝分かれした全ての“はかいこうせん”が、既にヒトデマンをロックオンしていた。
観客と同様にアインも言葉を失う。分裂するならまだしも、ビーム系の技にホーミング性能を付与するなんて絵空事を現実に持ってくるなんて。
けれど現実は疑問の前に純然たる事実をぶつけてくる。色々考えたいがそこに時間を割く余裕はない。ただでさえ一つ一つが必殺級の威力を誇るというのに、それらがまるで龍の如く自在に空を翔け、四方八方からヒトデマンに襲い掛かってくるのだから。
「“れいとうビーム”! 氷を足場に空中へ逃げて!」
「隙を与えるな! そのまま追い詰めろ!」
縦横無尽に空を駆ける“はかいこうせん”に対して、地上では不利と見たアインが指示を飛ばす。
“れいとうビーム”で“うずしお”を氷柱へと変え、サーフボードのように飛び乗ったヒトデマンが虚空へと舞う。フィールドに散らした“うずしお”も氷柱に変え、随伴機として従えるヒトデマン。しかしそれを追うのは、特性“てきおうりょく”で火力を底上げされた“はかいこうせん”。その威力は、暴発を狙って射線上に置かれた氷柱を無慈悲に破片へと変えるほどのもの。
ヒトデマンとポリゴンZ。その組み合わせでは本来起こり得ない
『ヒトデマン、華麗に避ける! 避ける! しかしその背後からは依然とホーミングする“はかいこうせん”が追いすがる!! いやぁしかし、この目でホーミングする“はかいこうせん”が見れるとは思いませんでしたよ!』
実況が興奮しながら声を上げている。“はかいこうせん”と聞いて先ず思い浮かべるのは、現カントー・ジョウト地方チャンピオンのワタルと、そのエースポケモンであるカイリュー。もはや代名詞となっているカイリューの“はかいこうせん”だが、しかしここまでのホーミング性能は有していない。これまでの試合でビーム系の技は
そもそもビーム系の技に操作性を持たせること自体が、その難易度故に不可能と目されており、あくまで創作物の中の話でしかなかった。けれど今この瞬間、そのお伽噺は現実となった。
『ホンマようやるわ……。あれ、たぶんやけど“サイコキネシス”の合わせ技やな』
『サ、“サイコキネシス”!? あれ実体のないビーム技にも作用するんですか!?』
『できる、んやろうな。もっとも、石ころとか実体のあるモンよりは難易度は跳ね上がるけどな?』
その“跳ね上がる”という言葉には文字通り天と地ほどの差があるのを、言い淀むアカネが自ら明かしている。
それこそアカネたちジムリーダークラスでさえ習得に苦戦するレベルの離れ業。操作対象を物体からエネルギー体に変えるということは、それだけ至難の業ということ。
けれどその高い習得難易度をクリアしてしまえば、フィールドを制圧する無類の強さを得ることができる。
それこそ今の様に、天も地も全てがポリゴンZの制圧下だ。
因みにこれを極めたら相手の光線系の技の主導権を奪う、なんて無法な戦術を立てることも可能である。その戦術を実現してみせたとあるエスパー少女は、その余りの無法っぷりに自ら使用を封印したという。
「こんの……! ロマン砲の癖に厄介な……!」
「はっはっは! 弱いロマン砲なんて都市伝説でしかないんだぜ!」
「そのロマン砲も都市伝説みたいなもんだったでしょ!?」
ロマンとは夢そのもの。「これができたら最強じゃないか!?」という夢の具現化。机上の空論で最強となった技は使える云々を横においておけば弱い訳がないのだ。
「試合前の『全力を受け止めてやる』って台詞はどこにいったの!?」
「はっはっは! 全力は受け止めてやるが、全力を出させるなんて一言も言ってないぞ?」
汚い。流石大人は汚い。
けれど技には一長一短がある。一見最強に見える技であっても、無敵の技という訳ではない。やりようによっては、覆し方はいくらでもある。
「けど、やられっぱなしはここまでだよ! ヒトデマン!!」
回避に専念していたヒトデマンが、ここにきて攻勢に出る。
氷柱を反転。自身に向かってきた“はかいこうせん”を掻い潜るようにしてポリゴンZへ迫る。
それと同時に、フィールドに散らばっていた“スピードスター”も連動して一斉に動き出す。
『ここでアイン選手、反転攻勢に出た!』
『タイミングとしては文句なしや……! 最初から徹底して自分に惹きつけとった。初手に惑わされずよう我慢したわ』
アインが狙っていたのは、“はかいこうせん”をポリゴンZから引き離すこと。
ただでさえ当たるだけで十二分の威力を誇る“はかいこうせん”。ヒトデマンに火力で正面から対抗できる技はなく、更には展開した“スピードスター”を破壊し尽されるのは避けなければならなかった。だからこそヒトデマンは回避に専念し、“はかいこうせん”を自分に惹きつけ続けた。
全ては、ポリゴンZの周囲をがら空きにするために。
「ここッ!!」
「ふ、ははっ。冷静だな!」
ホーミング“はかいこうせん”は“サイコキネシス”が肝心要。その“サイコキネシス”を使うためには必ず対象の位置を正確に把握しなければならず、注意を逸らしてしまえば追尾性能は失われてしまう。
“スピードスター”の多くは最初の“はかいこうせん”で破壊されてしまった。けれど残った分だけでも、ポリゴンZの注意を逸らすには十分な量だ。
フィールドに潜んでいた“スピードスター”が一斉に襲い掛かり、無防備なポリゴンZの周囲に土煙が舞う。
それをトリガーとしてフィールドの暴君であった“はかいこうせん”は制御を失い、ただの暴れ馬に成り下がりフィールドのあちこちで暴発する。
形勢はこれで五分。むしろ向こうの有利を崩した直後なのでヒトデマンがやや有利か。
「攻めるよ!」
アインの選択は攻勢。僅かなチャンスを逃さず、ここで畳みかけると決めた。
“うずしお”、“れいとうビーム”、“スピードスター”。
主導権を奪うため、持てる技で一気呵成に攻めたてるヒトデマン。
土煙に向けて一斉に斉射される技たち。その攻撃により、土煙は一層強く舞う。
「良い勝負勘だ、そこは俺も攻めに出る」
けれど、忘れてはならない。
彼らの目の前に居るのは最強のジムリーダーにして元チャンピオン。
全トレーナーの頂点に立った男。
「だから、
バチリ、と紫電が走る。ヒトデマンが気付いた時には既に遅く、周囲一帯を呑み込む“ほうでん”が解き放たれる。
“はかいこうせん”を逃れるためにポリゴンZの懐近くまで詰め寄っていたヒトデマンは、退避できる距離より近づき過ぎていた。急制動、緊急回避に舵を切るも、その電撃はヒトデマンを逃がさなかった。
「ヒトデマンっ!?」
『あぁっと! ここにきて“ほうでん”が直撃! こうかはばつぐんだ!!』
『……これ、最初から周辺ガラ空きにするの織り込み済みだったな?』
遠距離には“はかいこうせん”の制圧射撃。近づかれたら“ほうでん”で全体スタン。
遠距離技主体のポリゴンZだが、当然接近された際の対策も練られている。
「っ……
「この距離なら大技はないとでも? ポリゴンZ、“チャージビーム”!!」
流星と渦潮、そして紫電がフィールドで交錯する。
低威力ながら圧倒的な量を誇る“スピードスター”と、相手の動きを阻害できる“うずしお”。二つの同時攻撃はかなり厄介なものの、ポリゴンZはそれを感じさせない軽快な回避を見せ、“チャージビーム”による反撃を行ってくる。
『ヒトデマン、ポリゴンZによる砲撃戦! しかし“チャージビーム”の前では時間は敵になります!』
手数による砲撃戦。一進一退の攻防に見えるこの光景だが、しかしその天秤は徐々に傾き始める。
技の使用により特殊技の威力を底上げしていく“チャージビーム”は、連続使用によってその脅威は加速度的に増していく。
徐々に威力を増していく“チャージビーム”は一発毎に撃墜数を増していき、ヒトデマンの放つ弾幕を薄れさせていく。
加速度的に威力を増していく飽和攻撃。
けれどそれに似た技を、アインは一度目にしている。
「照準がバラけたね? ……“サイケこうせん”!!」
一点攻勢。面制圧の弾幕の間から、ピンポイントの狙撃がポリゴンZの頭部へ直撃する。
如何に速射性に優れ、威力を底上げしたとて直線軌道のビーム技。発射直後の照準が逸れている隙を狙えば、ヒトデマンの精度であれば当てるのは造作もない。そして頭部に直撃したことで、“サイケこうせん”の副次効果が齎される。
「げぇっ」
『あぁっと!? ポリゴンZがふらついた!! こんらん状態だ!!』
『頭部直撃したら脳を揺らされるから、
エスパータイプの攻撃技によく見られることだが、脳にダメージが行くことで怯みやこんらん状態といった副次効果が齎されることが多い。他の技でも見られることはあるが、エスパータイプの技は特に脳にダメージが行きやすく、その手の副次効果がよく見られるのだ。
バトル中に頭部に当たる確率など1割程度と言われているが、熟練者になれば隙を見せれば狙って引き起こすこともできる。そしてそれを引き起こせれば、バトルの趨勢は一気に傾く。
「さぁ、一気に捲るよ!」
“スピードスター”、“うずしお”、“れいとうビーム”、“サイケこうせん”
全砲門一斉掃射。
流星が、氷柱が、光線が。ポリゴンZに向けて一斉に放たれる。
単発火力ではポリゴンZの攻撃には劣る技たち。けれどバトルは火力だけが全てではないと、そう主張するように全ての技が一斉に咆える。
火力だけでは倒せないから戦術を練り、駆け引きをし、複雑怪奇なバトル模様になっていく。原初のポケモンバトルから遥か遠く、勝敗が読みにくくなった現代のポケモンバトル。様々な戦術・戦略が考案されていく中で、けれど依然としてトレーナーの構想にある一つの究極理論。
“先行ワンキルできる必中技があったら最強じゃね?”
それがあったら苦労はないと、誰しもが言うだろう。そんな理想論を追求するよりも、戦術眼や読み合いの能力を高めた方がいいだろうと。けれど条件を整えて、環境を限定するのであれば、実現することは不可能ではない。
バチリ、と。ヒトデマンの周囲に紫電が走る。
「……あっ」
アインが何かに気付く。けれどその時には、既に何もかもが遅かった。
ポリゴンZの“チャージビーム”は特殊技の威力の底上げという副次効果を持つ。けれど威力が上がるということは、出力も上がるということ。つまり、技の有効範囲も広がるということ。
「ヒトデマンッ!」
「残念。ちょっと気付くのが遅かったな」
フィールドを覆い尽くす極大の放電に、ヒトデマンは成す術なく呑み込まれた。
グリーンさん……あんたの格は下げないよ?(吐血)
今作におけるちょっとした設定ですが、こんらん状態は所謂 脳震盪でふらついてる状態 としています。ゲーム中での「わけもわからず自分を攻撃した」は技を発動しようとして制御できず暴発した、というニュアンスで捉えてます。
つまりこの時グリーンは正常に発動すれば儲けもの、制御できなくても出力上げてるのでもろともに自爆できる、くらいの覚悟でポリゴンZに指示をしてます。