エスパータイプは“ヒト”にはいらねぇっ! 作:初心者マーク付き社会人
感想欄で一切「やりすぎでは?」の感想がなかったのが本当に草でした
それとハーメルン様、復旧作業お疲れ様です。
『あぁぁぁっ!!? ここで“ほうでん”が炸裂! しかし、この規模は……!?』
『“チャージビーム”でフルチャージして火力と同時に出力も上げたんや。出力も上げたから、範囲も広がっとる……!』
解説のアカネすら唸る戦術。技の駆け引きもさることながら、それを全て吹き飛ばす大火力の範囲攻撃。
隙を晒すことになる大技の使いどころと、そこに持っていくまでの試合運び。こればかりは、一朝一夕で身に付くものではない。
眩い紫電がフィールドから消えていく中。そこで勝負の結末が明らかになった。
『ヒトデマン、戦闘不能! ポリゴンZの勝ち!』
『『『お、ぉぉぉおおおおおおおおッッ!!!!!』』』
地に伏せるヒトデマンと、未だ立っているポリゴンZ。
勝者と敗者がくっきりと分かれることになった結末。けれど少なくないダメージを抱えているポリゴンZが、両者の実力が近しかったことを匂わせている。
ポケモンをボールに戻す中、アインは悔し気に顔を歪め、けれどグリーンは辛勝に一安心している。
「ハラハラさせてくれる……。最後の最後、きっちり“サイケこうせん”を当てにきたな?」
「……ボクのヒトデマンは、ヒーローだからね。ただではやられないよ」
最大火力の“ほうでん”により、ヒトデマンの攻撃は軒並み相殺されており、後はヒトデマンにダメージが行くだけとなっていた。
あれだけの大出力。範囲的にも逃れられるものではないと察したヒトデマンは、“ほうでん”を受けながらも最後の力を振り絞って“サイケこうせん”をポリゴンZへ直撃させていたのだ。
普通であれば成す術なく体力を削り切られるのだが、その状況で「まだだ!」とアクションを起こせるポケモンは本当に一握りだ。
(けど、届かなかった)
天運が味方したポリゴンZのこんらん状態。高火力による範囲制圧の最中にもたらされた千載一遇のチャンスであったのは間違いない。けれどそのチャンスを手繰り寄せ、集中火力で逆転を狙ったがあと一歩及ばなかった。
実力は近かったと、見る者は言うのだろう。けれどその近さが、手を伸ばせば届きそうな距離が、果てしなく遠い。
知識と技術と経験と。幾年もの積み重ねが凝縮された、ほんの少しの距離が。
「戦況はやや不利。……でも、ここで諦めるつもりはないよ」
「ここまででも十分頑張ったと思うけど?」
「生憎と『頑張ったで賞』だけじゃ、満足できなくてね」
「ははっ! 欲張りさんめ!」
届きそうで届かない僅かな距離。けれど手を伸ばさなければ、絶対に追い付くことはない。
手を引っ込めるような慎ましさは、いつかどこかに捨ててきた。
「さぁ、暴れておいで。ハッサム!!」
アインの二体目の選出は、ハッサム。
前回の試合でお披露目となった技巧派高機動型のポケモン。
その登場に、会場にどよめきが走る。
『ここで出てきました! アイン選手のハッサム!!』
『砲撃型に高機動物理型を当てるたぁ、仕留められる自信がなきゃできひん選択やで』
“チャージビーム”によって限界まで火力を引き上げられ、超距離超火力の決戦兵器となったポリゴンZ。その火力は一撃必殺級だが、ヒトデマンに削られた体力を考えれば一撃でも当てられる訳にはいかない。
つまるところこの勝負の行方は、ハッサムがポリゴンZの攻撃を躱しながら本体に辿り着けるかどうか、という一点に絞られている。
『それでは……試合、開始!!』
「さぁ、避けてみな!! ポリゴンZ、“はかいこうせん”!!」
開幕一閃。弩級の“はかいこうせん”がフィールドを埋め尽くす。
ヒトデマンに放ったものよりも苛烈に、無慈悲に。幾重にも枝分かれした“はかいこうせん”は、まるで意思を持つように空をうねりハッサムに殺到する。
「腕の見せ所だよ! ハッサム!!」
体力を根こそぎ奪ってなお余りある火力の暴力の前に、ハッサムは臆さず突貫を選択。
“こうそくいどう”による瞬間的な加速に加えて、“かげぶんしん”による標的の分散。流線形の赤いフォルムが幾つにも分かれ、雪崩れ込む“はかいこうせん”に果敢に斬り込んでいく。
如何な大火力とて、その威力が発揮されるのは当たった時のみ。そしてこの“はかいこうせん”には出力の向上はあっても、射出速度の向上はない。高機動を売りにしているハッサムにとって、範囲と威力が上がっただけの攻撃は臆する理由にはならなかった。
分身、フェイント、ディレイ。持てる様々な技術を駆使して、ハッサムは着実にポリゴンZへ近づいていく。
「相変わらず、速い……!」
「当たらなければどうということはない、ってね」
「はっはっは! そうだなぁ、なら当たるようにしなきゃなァ!」
瞬間。“はかいこうせん”の軌道が変化する。
標的がハッサムから外れ、空に伸びあがった光線は途中で幾つにも枝分かれし、やがて雨のようにフィールドに降りかかる。標的は定めない。フィールドにいる本体はおろか、分身諸共に巻き込む無差別範囲攻撃だ。
対してハッサムの選択は変わらず回避。けれどその機動はただ“はかいこうせん”を避けるだけでなく、その極太の光線を傘代わりにするもの。上から降り注ぐ攻撃は確かに脅威。けれど細かく分岐させ過ぎた代償に、その攻撃からは操作性は失われていた。ただ降り注ぐだけの攻撃であれば、場にあるもので凌いでしまえば事足りる。
「さぁ、反撃開始!!」
ギュィンッ、と。ハッサムの腕に風刃が回る。“はかいこうせん”に合わせた身の丈ほどの円刃は絶え間なく音を奏で、分身含めた全ての個体が攻撃体勢に入る。危険を察知したポリゴンZは全ての個体に一斉砲撃。けれどその光線は、本体に当たる前に風の刃に真っ二つに斬り伏せられる。
『最大強化した“はかいこうせん”が一方的に斬り裂かれた!?』
『出力を上げたから威力は上がっとるけどな、あの
同範囲の攻撃同士であれば、間違いなく軍配はポリゴンZに上がる。けれどハッサムは“エアカッター”を重ね掛けし、円形に高速回転させている。その攻撃接地面積は極々細い線形であり、その部分においては威力はハッサムが勝る。
もっともそれがわかっていたところで、この“はかいこうせん”に迷わず突っ込む勇気が必要になるのだが、実行するのは幾度となく死線を潜ったハッサム。可能なことを迷わず実行するその
「この状況で正面から来るか! いい度胸だ!」
素早さに自信のあるポケモンは、相手の攻撃に対して2種類の選択をとる。
即ち、回避か突貫。大多数は前者で、ヒット&アウェイにより相手の隙を突く戦法を取ってくる。対する後者は、相手の攻撃を見切った上で回避と突貫を同時にこなしてくる。無論、後者の方が難易度が高いのは明らか。並大抵ではない観察眼と技量、紙一重の回避であっても臆さない度胸が必要になってくる。けれどその3つを併せ持った時、格上であれどんな状況でも覆し得る“怖さ”を体得するのだ。
そしてその“怖さ”を敏感に感じ取るのは、格上の相手。
迫りくる可能性を前に、彼らは油断せず次の手を打ってくる。
「ビームだけなら斬り裂かれる。けど、爆風は斬り裂けないだろ?」
瞬間、大規模な爆風が分身の一つを呑み込んだ。
「っ、自分から!?」
「元々当たったら爆発するんだ。近くで爆発させるだけなら簡単だろ?」
ハッサムの回避性能が高く、加えて直撃も狙えない。それならばと、グリーンは敢えて直撃を狙わない方針に切り替えた。
正面からの“はかいこうせん”を容易く斬り裂くハッサムの死角。上空から降り注いだ“はかいこうせん”の着弾により、意図的な爆風と衝撃波が撒き散らされる。“チャージビーム”により出力の底上げが成された今、その副次効果ですら馬鹿にできない威力を誇る。それこそ、ハッサムの分身を容易く消し飛ばすほどに。
「それに、ちょっと近づき過ぎたなぁ。……そこはもう射程範囲だ」
「っ、退いて!」
「遅い!!」
バチリ、と。爆風が吹き荒れるフィールドに紫電が走る。ヒトデマンを屠った広範囲の“ほうでん”。
出力最大となった“ほうでん”は、綺麗に“はかいこうせん”を避けるように、隙間を潰すフィルターのようにフィールドに解き放たれる。その精密操作は培われた経験によるもの。体力が残り僅かといっても、技術は失われない。戦闘不能になるその瞬間まで、彼はジムリーダーのポケモンであることに変わりはないのだから。
唸りを上げる“はかいこうせん”を捌き続けてきたハッサムの分身は、次々とこの“ほうでん”に捉えられていく。隙間を塞ぐように展開されては、ディレイなどという技術は通用しない。不利と見てハッサムは攻勢から撤退へ切り替えるが、その一瞬の隙を突くように上空から降り注いだ“はかいこうせん”が分身を的確に撃ち抜いていく。持ち前の速さでハッサムはその殲滅範囲から逃れるように後退。けれど“ほうでん”の射程範囲から逃れる頃には、その分身の大半は失われてしまっていた。
身一つで対峙するハッサムに、“はかいこうせん”を展開中のポリゴンZ
傍から見れば、試合開始時のようなアドバンテージはひっくり返されたように見える。
「っ、んのっ。やっぱり簡単には抜かして貰えないか……!」
「はっはっは! そりゃ仮にもジムリーダーやってるんだ。そう簡単に抜けると………いや、ちょっと待て」
そこでふと、グリーンはハッサムの出で立ちに違和感を覚えた。
フィールドでただ一人佇む、何も纏っていないハッサムに。
「……あの“エアカッター”は、どうした?」
「さぁ。どこかに置いてきたんじゃない?」
「置いて隠せる場所なんてどこにm――ッ!?」
そこまで言われて、グリーンは漸く思い至った。
仕込める場所は自ら大量に用意しているということに。
「“はかいこうせん”の中かッ!!?」
「正、解ッ!!」
ギュガッ、と。甲高い風切り音と共に、“はかいこうせん”の中から回転する“エアカッター”が飛び出す。
“ほうでん”による範囲攻撃は既に終わっている。そもそも“はかいこうせん”を避けるように展開していた攻撃が、“はかいこうせん”の中に潜ませた“エアカッター”に影響するはずがない。ハッサムが残した置き土産が、この場において最大限の効果を発揮してくれた。
「回避ッ!」
「遅い!!」
奇しくも先ほどと真逆の立場。迎撃不可能の位置まで攻撃を引き込んでしまったが故の失策。
ポリゴンZの意識は、自然と自身に迫る“エアカッター”に向けられてしまう。
そして、フィールドで最も目を離してはいけないスピードアタッカーが自由になる。
『ポリゴンZ、“エアカッター”を回避! けれど対応は間に合っていない!』
『こんな隙、あのハッサムが逃す訳がないやろ』
ポリゴンZは“エアカッター”の回避で手一杯。それによって指向性が失われた“はかいこうせん”は、最後に固定された方向に力なく飛んでくるのみ。ハッサムはその好機を逃さず、滑るように“はかいこうせん”を潜り抜けていき、爆発を背に受けながらも猛然とポリゴンZとの間合いを詰めていく。
「ぐっ。ここで一気に捲ってくるか……!」
「漸くつかんだチャンスなんだ。ここで絶対に落とす!」
アインの気勢に応えるように、ハッサムの攻勢が苛烈さを増す。
回転する“エアカッター”は避けられたと同時に分離し、個々の“エアカッター”となってポリゴンZに襲い掛かる。幾ら受け流そうとも、数が数。ダメージを抑えているものの、その数少ない体力を確実に削っていく。
そこに畳みかけるように、ハッサムが“はかいこうせん”の包囲網を掻い潜ってくる。その拳は、確実にポリゴンZを仕留めるように固く握り込まれている。
「なら、ポリゴンZ! ――――」
「ハッサム、“バレットパンチ”!!」
最後の最後。グリーンの指示に被せるように、ハッサムの“バレットパンチ”がポリゴンZに突き刺さる。
既に満身創痍となっていたポリゴンZにその攻撃を耐えるだけの体力は残っておらず、そのまま力なくフィールドの端まで吹き飛ばされる。
『ここでハッサムの“バレットパンチ”が直撃!! 懐に深々と突き刺さる!!』
『技を出す隙を与えない波状攻撃と、最後の止め。詰みに持っていくには十分な威力や』
そのアカネの推察が物語る通り、土煙が晴れた先には力なく横たわるポリゴンZの姿があった。
『ポリゴンZ、戦闘不能! ハッサムの勝ち!!』
『『『わあぁぁぁぁあああああッッッ!!!!!』』』
溢れんばかりの歓声が、アリーナから沸き上がる。
元チャンピオン相手に手持ち一体を持っていく。それが二体掛かりとはいえ偉業は偉業。しかも誰しもの度肝を抜くホーミング“はかいこうせん”という規格外の戦術を使うポリゴンZを落としたとなれば、会場が沸かない訳がない。
力と力、戦術と戦術の応酬。決勝戦に相応しい高度な戦いに、観客の心は奮い立っていた。
「……お疲れ、ポリゴンZ。ゆっくり休んでくれ」
奮戦してくれた仲間に労いを掛け、グリーンはポリゴンZをボールに戻す。
自慢のポケモンを倒されたにも拘わらず、その顔に焦りは見られない。
「これで五分、だね」
「そうだな。けど、これぐらいはしてくるだろうと予想はしてたさ」
「それだけ評価してくれてたんだ?」
「当然だろ? でなきゃあの二人は倒されないよ」
流れるように、グリーンは新しいボールを取り出した。
既にどんなポケモンを出すのか、どんな戦術を出すのか。彼の頭の中では構図が出来上がっているらしい。
「さぁ、ここからひっくり返すぞ。カビゴン」
「…………え?」
ボールから飛び出し、フィールドを巨体で揺らすその正体は、カビゴン。
ポリゴンと同じくノーマルタイプ。けれどその素早さは、相対するハッサムと比べてあまりにも遅いポケモン。
その予想外過ぎる選出に、観客はおろか実況・解説までもが困惑する。
『えっ……えーと、グリーン選手は、二体目にカビゴンを選出したもようです』
『……素早さ特化のハッサムが相手やぞ? 何を考えとる?』
会場は一気に戸惑いの色に包まれる。けれどそれを見越していたのか、ただ一人グリーンだけがほくそ笑み、どこかのそっくりさんだけがいち早く瞠目していた。
会場が異様な空気に包まれている中、それでも審判は試合を進行すべく合図を送る。
『それでは試合……開始!!』
「カビゴン、“はらだいこ”だ」
「っ、ハッサム、“エアカッター”、“バレットパンチ”!」
先陣切ってグリーンが指示を出したのは、
けれどハッサムは素早さだけでなく攻撃力にも秀でたエースポケモン。その悠長な隙を逃すはずもなく、最初からフルスロットルでカビゴンに攻勢を仕掛けた。
どん、どん、どん、と。カビゴンの腹を叩く音がフィールドに木霊する。集中力を高め、自身の最大火力を引き出す“はらだいこ”は強力な
グリーンと言えど、それは把握しているはず。けれど敢えてその手段をとってきた。
解せない。
その感情が、言いようのない不安を煽る。ハッサムがその攻撃力を遺憾なくカビゴンにぶつけているというのに、今もなおガリガリと体力を削っているというのに、一切の焦りを見せないグリーンたちの姿が、不気味さを匂わせる。
『…………あ、まさかアイツ!?』
解説のアカネが何かに気付く。
けれどその瞬間には既に準備は終わったようで、カビゴンが臨戦態勢に入っていた。
「いいね。十分だ」
「……この状況で、随分と余裕だね?」
猛攻を受けても動じない相手に危機感を覚えたのか、ハッサムが攻撃を中断して後退する。
再び対峙する両者。体力比は明らかにハッサムが有利。けれどこの場において、言いようのない存在感を放っているのはカビゴンだった。
「準備が整ったからな。さ、五分にされたリードを取り返すとしようか」
「そう簡単にはやらせないよ! ハッサム!!」
後退したところから、再び接近。
わかっていた手であっても、カビゴンではこの速度に対処しきれない。何もさせずにこの一手で体力を削り切らんとばかりに、ハッサムはカビゴンに猛然と迫る。
その姿を前に、グリーンは悠々と指示を出す。
「カビゴン、“ギガインパクト”」
後手も後手。完全にハッサムから出遅れるようにして繰り出したその攻撃は
先にハッサムの
「………………は?」
呆然。
アインは目の前で起こった現象が理解できず、ただその光景を見ることしかできなかった。
その光景は、まるでスロー再生を見せられているように、酷くゆっくりと感じられた。
本体をやられ、他の分身は跡形もなく姿を消し、その巨体の膂力を諸に懐に受け、地面に着くことなく一直線にアインの真横を通り過ぎ、背後の壁に受け身も取れず吹き飛ばされるハッサムの姿。
完全な後の先で、ハッサムより先に攻撃を直撃させたカビゴンの姿。
その更に奥で、不敵に笑うグリーンの姿。
「ポケモンバトルは単純なステータスじゃ決まらない。素早さが速いポケモンは確かに有利だが……だったら、その法則を
「あっ………」
遅ばせながら、アインはその絡繰りに気が付いた。先ほどの試合、グリーンが最後にポリゴンZに何を指示していたのか。
ずっと脳裏にへばりついていた違和感の正体が判明すると同時に、ぞわっと背中に汗が伝う。
「“トリック、ルーム”……!」
アインの答えに、グリーンは笑みを深める。
気付かぬ内に狩場に踏み込んだのは自分たちだったと、アインはこの瞬間ようやく理解した。
なお、このトリックルームはHGSSのトキワシティジム戦で勝利後にグリーンから貰える技マシンだったりします。
グリーン戦を描く上で絶対にトリル戦術は出すと決めてたので、ようやく出せて一安心です笑