エスパータイプは“ヒト”にはいらねぇっ!   作:初心者マーク付き社会人

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何故かノリに乗って勢いで書いてしまったバトル回。
今日の12時にも更新してるので、前話を見てない方はそちらからご覧になってください。



閑話 老骨の実力

 

「ポケモンバトル……ですか?」

「えぇ。是非ともお願いしたいと思っています」

 

 目の前にいる少女は、琥珀色の目を燦爛と輝かせながら幼女にそう言った。亜麻色のロングヘアにツバの広い帽子、エメラルドのワンピースにボレロを纏った大人びた少女だ。彼女は幼女の悩みを聞き、アドバイスを送った。元々、少女ははがねタイプに強い関心を持っていた。ジョウト地方に留まらず、把握されているはがねタイプのポケモンの生態や特徴は一通り頭に入っている。だからちょっとしたアドバイスぐらいならば、彼女には造作もなかった。

 けれどそのアドバイスは幼女にとっては値千金だったようで、なかなか表情に出ないタイプだったが、それでも喜んでいるのは少女にもわかった。

 

 だから、少し我儘を言ってみることにした。

 

「あなたのアブソルは、私の目から見てもかなり強いポケモンです。……ですから、一人のポケモントレーナーとして、是非とも一戦交えてみたいのです」

 

 少女の瞳は、幼女の傍に控えるアブソルを映す。

 アブソルはこの地方には生息していないポケモンだ。遠く離れたホウエン地方にのみ生息するポケモンで、滅多に人前に現れないことからめずらしいポケモンとして認識されている。彼女自身目にするのは初めてだった。

 

 だが、それでも。少女にはこのポケモンが強いということが直感的にわかった。

 

 強さは千差万別というが、強いポケモンには総じて“風格”というものがある。努力を積み重ねてきた自身への信頼。強者を打倒してきたという自信。それらが積み重なって“風格”が形作られる。

 このアブソルにはそれが備わっていた。それも、ただの強者ではない。強者を倒し続けてきた“王者”の風格だ。

 

 勝ち負けはこの際どうでもいい。ただ、挑んでみたい。

 この王者に、自分とパートナーがどれだけ通用するのか

 

 そのトレーナーとしての本能が、少女の心を昂らせ続けていた。

 

「…………」

 

 幼女は視線を手元のタブレットに移して何かを打ち込む素振りをする。そして、隣に控えるアブソルに移した。判断しかねると思い、意見を求めたのだ。アブソルもそれに応え、幼女の瞳を見つめ返した。1秒か、あるいは10秒か。一瞬にも永遠にも思える空白の間を経て、アブソルが一歩前に出た。

 

「……アブソルは、構わない、だそうです」

「ッ! ありがとうございます!」

 

 少女は飛び跳ねる勢いで、喜びを露にする。その満面の笑みは容姿の整った少女にお似合いの、とても可憐なもので――。

 

 

 けれどその瞳は、獣のようにギラギラしていた。

 

 

◆◇◆◇

 

 

「っ! どこに行っていたんですか! 探したんですよ!」

 

 少女が幼女を連れて街に戻ると、待ち人がいたのか少女に向けて駆けてくる。どうやら、この少女は用事をすっぽかして抜け出してきていたらしい。

 

「すみません。ちょっと用事ができまして」

「もう! “ちょっと”じゃないですよ! いきなりいなくなってこっちはビックリしたんですからね!? 何回電話しても出てくれないし!」

「ふふふ。ごめんなさいね。でも、どうしても手が離せない用事だったの」

 

 待ち人は抜け出した事への文句を言うが、少女はどこ吹く風。暖簾に腕押し、反省の色はあまり見えなかった。

 

「はぁ……もういいです。それで、その子はどうしたんですか? トレーナーというにはまだ幼い気がしますが」

 

 待ち人の視線が幼女に向かう。この幼女と少女の関係がわかりかねている様子だった。

 

「あぁ、用事はその件なのです。……今から彼女と、ジム施設を使ってバトルしますの。生半可な施設は使えませんから」

「…………は?」

 

 待ち人は、少女の言葉に固まった。

 それもそうだ。生半可な施設は使えない……つまり、少女は本気でやるつもりなのだ。

 

「……正気、ですか?」

「えぇ、勿論。冗談でもありません。……そういう訳ですから、すぐに準備してくださらない?」

 

 少女は言う。ゆったりと、お嬢様然りとしたお淑やかな口調で。

 

「私、今。疼いて仕方がありませんの」

 

 有無を言わさぬ圧が、そこにはあった。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 アサギシティジム、バトルフィールド。

 ジムチャレンジャーとジムリーダーによるポケモンバトルを行うためだけの専用フィールド。そこは例えバッジ7個所持者が訪れても問題なくバトルを進行できるよう、ジョウトリーグ本戦と同じフィールドの作りになっている。ジムによってフィールドの様相は異なるが、ここアサギシティジムには特にこれといった特徴はない。強いて言えば、どんなポケモンの攻撃であろうと絶対に壊れないというだけだ。

 

 今、そのフィールドに二人は対峙していた。

 

『それではこれより、アイン対ミカn…ん゛ん゛! オレンジ(・・・・)のポケモンバトルを開始します! 使用ポケモンは互いに一体のみ! では、両者ポケモンをフィールドへ!!』

 

「シャキーン! 本気で行きますよ、ネール!!」

「アブソル、お願い」

 

 少女が繰り出したのは、ハガネール。

 幼女が繰り出したのは、アブソル。

 

 イワークから進化したというハガネール。地中の圧力によりダイヤモンドのように硬質化した体は、確かにイワークよりもより洗練されたフォルムだ。だが、その巨体は図鑑平均の9mを大きく越していた。体高はおよそ15mといったところ。その巨体に劣らぬ圧は、このハガネールが彼女の絶対的なエースであることを物語っていた。

 

 対するアブソルは、いつもの自然体。緊張も油断もなく。ただいつも通り。そのハガネールの威容を前に一切動じない様が、却って少女たちに警戒心を抱かせた。

 

『それでは……試合開始ッ!!』

 

「ネール、すなあらし!!」

 

 開始の合図早々に、少女――オレンジが仕掛けた。はがね・じめんタイプのハガネールに有利となるすなあらし。相手の特殊攻撃を妨害し、そしていわ・じめん・はがねタイプ以外にスリップダメージを与える技だ。

 対してアブソルが選択した技は、かげぶんしん。すなあらしが吹き荒れる中、いくつものアブソルの残像が見え隠れする。すなあらしという視界不良状態では、その攪乱の度合いは跳ね上がる。

 

「ステルスロック!」

 

 フィールド一帯に不可視の岩礫が撒き散らされる。視界不良状態ならば、見えない礫は脅威だろう。ただでさえすなあらしのスリップダメージが入っているのに、更に追加でダメージを負うのだから。すなあらしに紛れたアブソルの動きを阻害する、牽制技だ。

 

 その盤石な構えを見せたハガネールに、次の瞬間。四方八方から風の刃が襲い掛かる。

 

「ッ! かまいたち! ネール、無視して索敵に集中! これは釣り出しよ!」

 

 オレンジは索敵を指示。視界不良状態なら、確かに釣り出しが有効手だからだ。四方八方から襲い掛かるかまいたち。けれどその多くはかげぶんしんが作った偽物だ。偽物の中のわずかな本物がハガネールに直撃するが、ハガネールはそれを無視。すなあらしによって威力が下がっているおかげだ。

 そして意識を集中して気配を探っているハガネールの死角から、アブソルが飛び出した。

 

「そこです! ネール、アイアンテール!」

 

 オレンジの指示に従い、ハガネールはアイアンテールでアブソルを迎え撃つ。けれど直撃した瞬間、アブソルの影は霧散した。

 飛び出したアブソルはかげぶんしん。これこそが本命の釣り出しだった。技発動後で隙だらけとなったハガネールの背後から、アブソルが音もなく接近する。ハガネールが気付いた時にはもう遅い。すれ違いざまに放たれたアブソルのつじぎりがハガネールのきゅうしょに突き刺さる。

 

「ネール!?」

 

 

 ハガネールはダイヤモンド並に硬質化した体を持つ、防御に特化したポケモンだ。けれど全身が硬質化した訳ではない。いわへびポケモンと名の付くように、岩が連なった構造の関係上、関節部はどうしても柔らかい。アブソルは隙だらけのハガネールのその関節部を的確に攻撃したのだ。

 

「やはり強いですね。ですがそうでなくては……! 本気でいきますよ、ネール! ロックカット!」

 

 オレンジは意を決して指示を出す。するとハガネールの周囲に小さな岩が浮かび上がり、ハガネールの体を削っていく。いや、正確には研磨する、だろう。余分な部分を削り落とし、自身の速度を上げる技。

 

 それが意味するのは、巨体に任せた突貫だ。

 

「はがねタイプは、とっても硬くて、冷たくて、鋭くて、強いんですよ! ……蹂躙しなさい、ネール!!」

 

 ハガネールが雄叫びを上げ、猛然とすなあらしの中を突き進む。元々の巨体に速度を上乗せしたその動きは、さながら重戦車。巨体そのものでも脅威だというのに、速度を加えられては手が付けられない。

 すなあらしに紛れたアブソルのかげぶんしんは、次々と呑まれて消えていった。そしてすなあらしの効果が切れ、視界が元に戻る。

 

 すなあらしの晴れた先には、威風堂々と佇むアブソルの姿。そしてその周囲には無数のかまいたちが控えていた。

 

「あれだけのすなあらしの中にいて、ステルスロックのダメージもない。一体どうやって……ッ!」

 

 その時、オレンジはアブソルの足元に目が行った。そこには、無数の岩の破片。まるで何かが砕けたような破片が、そこかしこに散らばっていた。

 

「かまいたちでステルスロックを砕いて回っていたのね……!」

 

 かまいたちは、風の刃を形成して攻撃する技。けれどそれは相手の攻撃に使わず、手元に残すことも可能だ。それに元々は攻撃技。ステルスロック程度の浮いた岩礫なら、容易く壊せてしまう。それなら無傷でいるのも納得だ。そしてすなあらしのスリップダメージも、かまいたちでほぼ無傷に抑えられたのだと予想がつく。

 

「なんて判断力。でも、だからこそ挑み甲斐がある! ネール、一騎打ちよ! 気張りなさい!!」

 

 ハガネールは吠える。主人に情けない様を晒さないために。

 それをアブソルは、それを静かに迎え撃つ。

 

 動き出したのは同時。アブソルは斉射したかまいたちを牽制に自らも前に出る。対するハガネールは巨体にものを言わせて突貫する。

 不規則な軌道で以て、かまいたちが一斉にハガネールに襲い掛かる。きゅうしょにもあたるが、止まれば負けるのはわかっている。だから、突貫する。

 

 そうして雨のように降り注ぐかまいたちが晴れた先、ようやくアブソルと対面する。

 

 ハガネールはアイアンテール

 アブソルはつじぎり

 

 互いに攻撃準備に入り、交錯の瞬間に狙いを定める。

 機会は一度だけ。そこで一矢報いる。

 

 ハガネールは間合いを計り、そして技を繰り出した。スピードを上乗せしたアイアンテール。並のポケモンなら、一撃でひんしに追い込む技だ。

 

 けれど、技を出し、放とうとした瞬間。アブソルとの間合いがズレた(・・・)

 

「ッ!? ネール!!」

 

 けれど、攻撃を出してしまえば止まれない。放ったアイアンテールはズレたままの間合いでアブソルに放たれ、そしてギリギリで躱される。

 

 拍子外し(ディレイ)

 

 相手と自分の間合いを把握し、意図的に間合いをズラして攻撃を不発にする技術。よほどポケモンとの息があっていなければバトル中にはできない高等技術だ。

 オレンジは目を見張る。まさか実際にその技術を目にする日がくるとは思ってもいなかったから。

 

 ポケモンはトレーナーと力を合わせることで、乗算的に強くなる。それは自分の長所を伸ばし、自分以外の視点から全体を見渡して指示を飛ばしてくれることで、戦略の幅が広がるからだ。

 

 けれど、忘れてはいけない。

 

 彼らの行きつく先は、競技者(アスリート)としての最高峰。そこで頂点に立とうとも、死が隣に在る弱肉強食の野生の世界で生き延びた“王者”に勝てる訳ではないのだ。

 

 オレンジと、ハガネールは悟る。完敗、だと。

 

 そうして静かに敗北を悟ったハガネールに介錯するように、すれ違い様に放たれたアブソルのつじぎりが、ハガネールに突き刺さった。

 

 

 




ママソル強すぎて今後迂闊に出せなくなった……
どうしよ(自業自得)

ちなみにスレは大盛り上がり。そしてママソルは満場一致で野良大会出禁となりました。無双しちゃうからね、仕方ないね。
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