エスパータイプは“ヒト”にはいらねぇっ!   作:初心者マーク付き社会人

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カビゴン(高速物理アタッカー)とかいうとんでもねぇ詐欺をかましてきたグリーンさん。自重を……何卒自重を……!


つよつよトレーナー杯 決勝戦 VSグリーン その3

 

『なな、なんと! カビゴンの攻撃がクリーンヒットォ! 今大会きってのスピードアタッカーを、あのカビゴンが先んじて制しました!!』

『あの加速力についていけるカビゴンなんておらん。速さの法則が歪められとる。……あいつ、前の試合の最後にどさくさに紛れて“トリックルーム”しよったんか……!』

『と、“トリックルーム”!? そ、それはつまり素早さが逆転して……』

『あぁ、そうや。“はらだいこ”で攻撃力を跳ね上げたあのカビゴンが……“トリックルーム”下で最速で暴れ回るいうことや』

 

 解説するアカネの声色にも、畏怖と恐怖が入り混じる。

 ただでさえ攻撃力と体力が高く、“はらだいこ”中に体力を削られても影響の少ないカビゴンが、“トリックルーム”の恩恵を受けてフィールドを縦横無尽に高速で移動する。そのえげつなさは、観戦するトレーナーも一様にゾッとすると言えば伝わるだろうか。

 限定条件下で解き放たれる純粋なる暴力と、他の追随を許さぬ圧倒的な速度。それをまさか、あのカビゴンがしてくるなどと、一体誰が予想できただろうか。

 

 観客はどよめき、仮想対戦シミュレーションしていた一部トレーナーは対抗策が思いつかず完全にフリーズし、画面で見ていた視聴者は一様に「うわぁ……」と引いていた。

 

「……さっき土煙でフィールドを覆ったの、もしかして“トリックルーム(これ)”に気付かせないため?」

「大正解ッ!」

 

 先ほどの意趣返しか、グリーンはイイ笑顔で答えを教えてくれる。

 何かを隠すならいっそ大胆不敵に。それをやってのけたアインに即座に同じ手法でやり返したグリーン。しかも気付くのが全てが終わった後という、なんとも厭らしいやり口。正々堂々の精神が美とされるポケモンバトルだが、この一つまみの畜生成分があるかないかで、トレーナー手腕は大きく違ってくる。

 

「読み合いや主導権の奪い合いだけが全てじゃない。試合運びが上手くいかないなら、いっそ丸ごと自分ルールを押し付ける。不利を被ったって、それを覆す術ならいくらでもあるのさ」

「それを試合中に、コンマ数秒で導き出して実行できるのが良いトレーナー?」

「お、よくわかってんじゃん」

 

 言うは易し。

 それができれば苦労はしねぇと。多くのトレーナーがボヤくだろう。

 けどやれなきゃ負けるんだろと。やり遂げたトレーナーが強くなるのだ。

 つまりはどれだけ勝利に貪欲になれるか。

 今この瞬間相手に勝つためにどれだけ積み重ねて来たか。

 ピンチの時にこそ、その積み重ねが自分を支えてくれる。

 

「それじゃあボクは良いトレーナーかもね。ハッサム!!」

 

 瞬間、復帰したハッサムがフィールドに舞い戻る。

 周囲には“エアカッター”の迎撃網。相手に近づくだけで自動的にダメージを負わせる、とても厄介な技。

 

「ほぉん、言うねぇ。けどその技、こっちに近づかなきゃ意味ないぜ?」

「勿論知ってるよ。だからこうするんだよ。ハッサム、“エアカッター”を広げて!!」

 

 ハッサムを守護していた“エアカッター”たちはフィールドに散りばめられるように展開。

 円形に広げられた迎撃網は範囲を拡大し、巨大な索敵網に変化する。触れればダメージを負い、かつ移動ルートを即座に知らせてくれる優秀なアラームトラップ。後手の先を行かれようとも、これなら居場所を割りだせる。

 

『さぁ、ここから“エアカッター”が広範囲に展開! カビゴンの反動の隙を狙って着々と盤面を整えていきます!』

『あれはスリップダメージ兼レーダー代わりか。こっちから近づかんくてもカビゴンが近づいてくるならそれでええ、って寸法や』

 

 “はらだいこ”を使ったことからカビゴンは物理型。攻撃するには必ず接近する必要があり、ハッサムはそれを見越して進路上に“エアカッター”をばら撒いたのだ。

 速さを売りにしているハッサムが、自分から動くのが常だったハッサムが、“待ち”の姿勢を取る。知る人が見れば目を見張る光景。けれどそうしなければ成す術なく負ける怖さが、今のカビゴンにはあるのだ。

 

「なるほど、そりゃあ良い手だ。……相手がカビゴンじゃなかったらなぁ!!」

 

 硬直が解けたカビゴンが、再びハッサムに接近。その巨体に見合わないほど俊敏で、ともすれば現時点ならハッサムを上回るほどの速度。それが一気に、“エアカッター”の迎撃網を突っ切ってくる(・・・・・・・)

 

「元々カビゴンは特殊技には強いんだぜ! カビゴン、“ほのおのパンチ”!!」

「っ、回避!」

 

 風の刃をそよ風の様に突き進んできた巨体が、今度は炎の拳を振りかざす。

 元々体力と特殊耐久力のあるカビゴンに、相性ばつぐんでもない“ひこうタイプ”の技は通りが悪い。連撃となる円形の“エアカッター”ならまだしも、ただの“エアカッター”なら無視して突っ込めるだけの耐久力がカビゴンにはある。

 

 “ほのおのパンチ”を繰り出すカビゴンに、それを回避するハッサム。

 攻撃の出だしは後手の先をいくカビゴンから。そのため見てから動かなければならないハッサムは自然と回避に専念せざるを得ない。しかも“はらだいこ”で最大火力となった“ほのおのパンチ”。当たればそれだけでハッサムの体力は根こそぎ持っていかれてしまう。

 

 正拳突き、裏拳、横薙ぎ、フック。

 

 一対一の攻防。

 視線と姿勢から互いに攻撃と回避を読み合い、息の詰まる攻防を繰り広げていく。

 観客も、実況も。意識は自然と両者の攻防に注視していく。

 

 一挙手一投足が戦況を決める。

 そんな状況故に、自然と周囲への意識(・・・・・・)は薄れていく(・・・・・・)

 

 意識の偏り。視野の狭まり。

 完全にハッサムに集中したタイミング。

 そこで、アインは動いた。

 

「――ここッ!」

 

 迎撃網に展開した“エアカッター”が、円を成して一斉にカビゴンの下へ殺到する。

 ただの“エアカッター”ならば無視してしまえるのだろう。けれどこれら全ては、如何な耐久力を誇ろうと削り切ってしまえば関係ないとばかりに攻撃力に全振りした特化技。カビゴンであっても、これを無視する訳にはいかない。

 

『ここで動いた!! “エアカッター”が全方位からカビゴンに殺到!!』

『ハッサムに注意を惹きつけて、後ろがガラ空きや! 』

 

 状況が動く・勝負の分かれ目に、実況はそれに声高らかに叫ぶ。

 “トリックルーム”により後手の先で動けるとはいえ、無視できない攻撃が全方位から襲い掛かってきて、その上ハッサムは回避に専念している以上、ハッサムに注力し続けるのは愚策。

 手段を講じるならばこの場からの離脱がベスト。カビゴンに一点集中で放たれている以上、距離がある今なら“エアカッター”同士の隙間を縫って離脱することはできる。代わりに失われるのは“トリックルーム”の継続時間。回避に専念されるとここまで厄介になるのだと、カビゴンもグリーンも痛感している。

 故にどの選択を取るのか、そこに最強のジムリーダーとしての手腕が問われる。

 

 

「――カビゴン、“かみなりパンチ”で撃ち墜とせ!!」

 

 

 故にその選択に、誰しもが虚を突かれる。

 

 一瞬の困惑。けれどその理解が追いつく前に、カビゴンは行動する。

 炎から雷へ。拳に纏わせるものを変化させ、猛然と襲い掛かる“エアカッター”に拳を併せて相殺する。

 その際にぐるりとその場で回り、完全にハッサムに背を向ける。

 

 好機。

 

 この瞬間。ハッサムは迷わず攻勢に出る。アインの指示を待たない独自判断。

 指示を待つ間にこの好機は失われるのだと、僅かに見出した隙に果敢に攻撃を放つ。

 

 “バレットパンチ”

 

 カビゴンが“かみなりパンチ”で“エアカッター”を迎撃しているとはいえ、数が数。

 否応でもそちらに対応が傾く。その間に背後から体力を削り切らんとばかりにラッシュを叩き込み――

 

 

 ――その悉くが、空を切った。

 

「上!!」

「遅い!!」

 

 気付けば、ハッサムの頭上を暗い影が覆っていた。

 それがカビゴンだと気付いた時には、既にその巨体は目前に迫っていた。

 

 “のしかかり”。

 持ち前の巨体を活かした全身攻撃。

 

 一点集中の“エアカッター”も悉くが空振り

 隙を突いたと思った“バレットパンチ”は華麗に躱され

 

 その策諸共に、カビゴンが全て押し潰す。

 

 そこまで描かれた美しい詰みの絵図。

 

 

 

「あは」

 

 その待ち望んでいた(・・・・・・・)状況に、アインは思わず笑みを零す。

 

「やっと空中(そこ)に来てくれた」

 

 ギュン、と。その場からハッサムの姿が掻き消える。

 そして一拍遅れて、狙いすましたように“エアカッター”の第二陣がカビゴンに襲い掛かった。

 

「っ、誘われたのは俺の方か!?」

「空中なら速さは変わらないでしょ!」

 

 意図的に作り出していた平面的な封鎖状態。

 この状況を打破するならば火力に任せた強引な突破か、タイミングを合わせたジャンプ回避による空中への移動くらい。

 そしてあのグリーンであれば、詰めのタイミングで回避と攻撃を同時にやってくる。その信頼に賭けた一か八かの大博打。

 けれどその決死の一手は、最後の最後に見事に嵌った。

 

 いくら“トリックルーム”の恩恵を受けているとはいえ、地の利を捨て重力に囚われたカビゴンはハッサムの動きに追いつけない。

 

「っ、カビゴン、“かみなりパンチ”でできるだけ撃ち落とせ!」

「ハッサム、ここで削り切って!!」

 

 それでも即座に行動に動けるのがグリーンの強み。

 “かみなりパンチ”で襲い掛かる“エアカッター”を次々撃墜するカビゴン。しかしその攻撃の隙間を縫って差し込んだ“エアカッター”は、確実にカビゴンの体力を削いでいく。

 跳躍から着地までの僅かな時間。そこで行われる勝負を分ける攻防は、着地と同時に決着する。

 

 その巨体が地面に降り立った時、しかしその立ち姿は健在だった。

 残り体力は後僅か。けれどその僅かな体力を温存し、カビゴンは“エアカッター”の猛攻を凌ぎ切った。

 

「削り切れなかったか……!」

「よくやったカビゴン! 今度こそ終わらせるぞ! “ほのおのパンチ”!」

 

 満身創痍。けれど戦意旺盛。

 ボロボロになりながらも炎を纏った拳を構え、“トリックルーム”の恩恵を受けたカビゴンの巨腕が、攻撃動作に入ろうとしたハッサムに深々と突き刺さった。

 4倍弱点。“はらだいこ”で極限まで高められた攻撃力に加え、タイプ相性で有利な技を受けてしまえば、ハッサムに耐える術はなかった。

 

『ハッサム戦闘不能!! カビゴンの勝ち!!』

 

『『『おぉぉぉぉおおおおおッッッ!!!!!!』』』

 

『ハッサム、ここでノックアウトォッ!! 最後まで目が離せない怒涛の一戦!! それを制したのはカビゴンだ!!』

 

 ハッサムが倒れたのを皮切りに、会場が火を噴いたように一斉に沸く。 

 “トリルはらだいこカビゴン”というロマン戦術を実現し、その上で勝利して見せたというセンセーショナルなバトル。

 結果だけみればロマン戦術の勝利。けれどその中身には、一言では言い切れない濃密な駆け引き詰め込まれていた。

 

『……かぁ~っ。ここまでエラい駆け引きするバトルは早々拝めんで。途中から息が止まっとったわ』

 

 それは理解できる人間からすれば、つい魅入ってしまうほどの代物。

 現に解説のアカネは仕事を放棄して、トレーナーとして今の攻防を余すところなく目に焼き付けていた。

 

『途中、グリーン選手はカビゴンに“かみなりパンチ”での迎撃を指示していましたが、あれはやはり?』

『あぁ。十中八九“釣り”やろうな。わざと隙を晒して、守りに徹していたハッサムを攻撃に釣り出したんや。そんで攻めっ気を出したところに、後手の先でズドン、といくプランやったんやろな』

 

(あの迎撃は隙晒しと“エアカッター”の間引きも兼ねてやっとったんやろなぁ)

 

 “トリックルーム”の継続時間を確保し、尚且つあの絶体絶命の状況を打破するという一挙両得をやってのける手腕は、流石の一言。“エアカッター”の攻撃は逃げ場をなくすために全方位からの同時攻撃。けれどそれはハッサムのいる方向以外から。ハッサムの頭上に移動するために、ギリギリまで悟らせず、タイミングを合わせて一気に移動し回避と攻撃を同時に行う。

 これを土壇場でやってのけられるのだから、グリーンはずっと強いのだ。

 

『けど、アイン選手はそれを待っていた』

『そうやな。元々平面的に“エアカッター”で追い込んだのは空中へ誘導するためやったんやろな。いくら“トリックルーム”でも落下速度までは操作できひんし、空中ではあの速度で動けへんから、後手の先でもハッサムの動きには追いつけない。そんで一瞬晒した無防備なところを“エアカッター”で仕留めるつもりやったんやな』

『けれど勝ったのはカビゴン。……この勝負。本当に最後までどちらが勝つかわからないものでしたね』

『あぁ。最後の“エアカッター”も削り切るには十分な火力やった。褒めるべきはカビゴンの土壇場の粘り強さの方や。……ホンマ、最後まで気の抜けない勝負やったわ』

 

 息をもつかせぬ刹那の攻防。魅入った者が終わりと同時に息を取り戻す濃密なバトル。

 勝利の軍配はどちらに上がってもおかしくなかったが、結果はありのまま。もしかして(I F)が十分にあり得た勝負であっても、現実は変わらない。

 粛々と、アインはハッサムをボールに収める。「お疲れ様」と、労いの言葉をかけるのも忘れない。この状況を作り出すために死力を尽くしてくれたポケモンには、感謝と敬意を持って然るべきなのだから。

 

 残りの手持ちは2-1。けれどカビゴンは既に満身創痍。状況はまだ五分五分といったところ。

 戦い方次第では、まだいくらでも逆転に持っていける。

 

「ホント、最後まで油断ならない子だ」

「勝負は最後までわからない。それなら最後まで全力を尽くさなきゃ、でしょ?」

「違いない。……まったく、『不利な状況をコンマ数秒でひっくり返す』か。君は間違いなく良いトレーナー(・・・・・・・)だよ」

 

 そう言って、グリーンもまた体力の残っているカビゴンをボールに戻した。

 それと同時に、フィールドに展開されていた“トリックルーム”が効力を失う。

 

「まだ次の試合まで持つ予定だったんだけどな。粘られたからもう時間切れだ」

 

 ボールに戻したことで“はらだいこ”の効果は切れ、体力が残り僅かなカビゴンはほぼ機能しない。

 つまり次の試合での結果によって、このバトルの勝敗が決まるということ。

 

「これでお互い持ち込みなし、だ。……次の一体で、決めようじゃないか」

「いいね。ボクのポケモンも覚悟はできてるよ」

 

 そうして互いにボールを構える。

 勝負を決める大一番。繰り出すのは、一番信頼を寄せるポケモン。

 

「勝ちにいくよ、メタング」

「勝ちにいくぞ、エレキブル」

 

 役者は出揃う。戦意を持って。勝利を見据えて。

 決戦を任されたポケモン達が、フィールドで視線を交錯させる。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

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