レーキン・オリジンへと、新たな姿が変わった。
その力は、これまでの力とは違う感触。
俺はそれに対して、驚きながらも、手をゆっくりと確認する。
「ぼけっとしている場合じゃないぞ」
メタの、その言葉と共に目の前を見る。
既に悪意の魔女は、髪から無数の契約獣を作り出した。
各々が、様々な魔法で。
炎を。
氷を。
雷を。
風を。
眼前に広がる攻撃の嵐。
普通ならば、すぐに避けるべきだろう。
だが、この姿になって、むしろ余裕と思える。
俺はゆっくりと手を開く。
それと共に、俺の眼前に現れたのは壁だった。
それもただの壁ではなく沼の。
泥の壁だった。
それは、普通ならば、あれらの攻撃の嵐を受け止められないだろう。
だが、泥の壁は。
容易く攻撃を呑み込んだ。
「これは」
「沼は底なしだ。
どのような攻撃も届かなければ意味はない」
「つまりは、どんな攻撃も防げる訳か」
それに、思わず笑みを浮かべる。
そして、悪意の魔女はそれを見て、奇声をあげる。
既に理性などない。
まさに悪意に完全に支配されている姿。
「そして、底なし沼に上限などない。
泥で、好きに作り出せ」
「つまりは」
「君の想像で、錬金は無限に強くなれるよ!」
レンのその言葉に俺は思わず笑みを浮かべる。
「だったら、試すしかないよな!」
同時に俺も、それに答えるように、構える。
悪意の魔女は再び髪で次々と契約獣を作り出す。
それに対して、俺は、底なし沼の壁に手を入れる。
同時に、底なし沼の壁で吸収した様々な魔法を錬金する。
水は火を消すというが、逆に火を強くする事だって出来るはずだ。
そして、そのイメージを元に、俺は泥を更に変質させる。
ドロリとした液体のように。
それを形作っていく。
そうして出来上がったのは、炎を模した巨大な腕だった。
大きさとしては、巨人の腕よりも少し小さいぐらいだろうか?
それでも、十分に大きい。
その炎の巨人の腕を襲い掛かる契約獣を吹き飛ばす。
しかし、それらの攻撃を掻い潜ってきた契約獣もいる。
それに対して、俺は次に行ったのは、泥で作り出した剣だった。
その大きさは、まさに変幻自在であり、俺の意思一つで自由に形を変える事が出来る。
それが何本も現れて、襲ってくる契約獣を次々と斬り裂いた。
そのまま俺は、地面に手を付ける。
すると、地面が盛り上がりながら姿を変えていく。
それは、大きな土人形だった。
人の形をした巨大な土人形。
そいつらは一斉に走り出すと、契約獣に向かって拳を振るう。
それはまるで巨人が振るったような一撃となり、契約獣達をまとめて吹き飛ばした。
だが、それで終わりではない。
俺は再び手を付き直すと、今度は、地面から巨大な柱が現れた。
それは槍のような形をしており、高速回転しながら突き進む。
それが次々と契約獣を貫きながら貫き通していく。
そんな攻撃を繰り返している間に、気付けば、全ての契約獣を倒し終える。
「あぁっあああぁぁ!!」
それに対して、悪意の魔女は真っ直ぐと俺に向けて叫ぶ。
彼女が、何を行ったのも分からない。
きっと、悪意の魔女も、被害者かもしれない。
レンがメタを救いたいという思い。
メタが偶然で捕まってしまった事。
それらは、この世界における悪意によって、多く踏み潰され、悲痛な叫びとなった。
それを晴らす事はできないだろう。
だからこそ。
「底なし沼のように、どんな思いも受け止める」
俺はそれと共に構える。
悪意の魔女への介錯を行うように。彼女は怒り狂っているように見える。
おそらくは、彼女の心の中には、様々な感情があるのだろう。
その全てを受け止めるように。
そして、その足に纏った泥は、巨大な悪意の魔女を簡単に飲み込める程の大きさへと変化する。
その大きさに驚いたのか、それとも恐怖を覚えたのか。
悪意の魔女は逃げようとする。
だが、既に遅い。
既に、俺は飛び上がっており、彼女に対して、必殺を放つ体勢に入っていたからだ。
だから。
俺は大きく振りかぶると、悪意の魔女目掛けて、そのライダーキックを繰り出した。
『……』
一瞬にして視界が真っ白になる程の閃光に包まれる。
同時に、爆発音が響き渡り、辺りには砂煙が立ち込めていた。
そんな中で俺は着地し、目の前を見る。
そこには、悪意の魔女がいたと思われる場所があった。
それと共に、既に戦いが終わっている事を理解した。
「どうやら、勝てたようだな」
「まぁね、さて」
そう言いながら、俺達が考えていると、こちらに近づく気配を感じる。
見ると、そこにはバン達が立っていた。
「まさか、悪意の魔女が倒すとは」
「というよりも、まさか俺を1人で任せるか」
そう、俺は呆れたように見つめる。
「すまないな、俺は今回の一件を起こした奴を捕まえたからな」
同時に人造人間の契約獣が言っていた。
「それでこれからどうするか?」
俺の言葉に、人造人間の契約獣である彼は答える。
「さぁな。
だが、しばらくは契約獣に関連する法律は厳しくなるだろうな」
彼の言葉を聞きながらも、俺達の視線は、目の前にある大きな穴に向けられていた。
「ここまでの厄災を作り出したからな」
「厄災ねぇ」
俺にとっては彼女も被害者だったと思っている。
ただ、彼女が起こした行動により、多くの人が苦しんだ事も事実だ。
それに……。
「レン君」
そう、俺が思い悩んでいると、ルカがこちらに近づいた。
「暗い事、考えているでしょ。
まぁ、分かるけど」
「あぁ、俺は結局倒すしかできなかった。
他に方法はなかったのかと」
「そうだね、けど、それは私達だけじゃ、多分分からないよ」
「それは」
「だからこそ、皆がいるでしょ」
そう、ルカはこちらを見る。
「錬金術は一つの物質だけじゃ決してできない。
様々な物質があり、それを理解し、組み合わせる事でできる。
それと同じだよ」
そう言いながら、ルカは俺の手を握る。
「レン君の優しさに私の知識。
きっと、1人1人には違う考えや魅力がある。
それらを組み合わせる事できっとこれまでにない物を作れる」
「……そうかもしれないな」
錬金術が新しい物を作れるように、1人ではできない事。
それも多くの人の考えが組み合わせる事で、新たな可能性が生まれる事もある。
それを長い戦いで学んだ。
「ありがとう、ルカ」
「いえいえ」
そう言いながら彼女は笑顔を見せる。
「さて、それじゃ、どうしよう。
これからルフランに住み続けるのは」
「キヒヒっ、ならば」
そうしていると、メタが笑みが何を意味するのか、俺とルカは思わず首を傾げる。