ハーメルン・ノベルティック・ライダーズ   作:夢野飛羽真

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こちらは祈願花さんの作品、灰燼アッシュの章でございます。
W系のオリライなので皆さん楽しんでいってください。


灰燼アッシュの章
始まりのA/星の少女


 木と鉄、そして肉が焼ける臭いがそこらじゅうから漂っている。

 辺り一面は火の海で煙も充満していて、真っ当な人間なら数秒もしない内に死に至る程に灰と熱がこの地獄を作り出していた。

 動いている―――――いや、生きている命はこの場にはもう三つしか残されていない。

 

 

「晃を返せッ‼︎」

 

 

 一つは灰の化け物、或いは幽霊。

 頭があって胴があり、手足がある。

 そういう意味では人型ではあるが、実際は全く別。

 常人とはかけ離れた灰色の身体に銀の鎧、髪も顔のない頭など人型であっても化け物としか言えないだろう。

 その上身体の所々から灰が陽炎のように舞っている。

 

「それは出来ないねぇ……彼はなかなかの原石で希少なのだよ」

 

 

 そんな見た目最悪の化け物が襲いかかっているのもまた化け物だ。

 但し、灰の怪人と比べてこちらは豪華絢爛の限りを尽くしたかのような金の装飾に赤銅の体躯……そして紅く美しく広がる翼。

 パッと見れば醜悪な怪人と美しい天使のような何かの対決のように見えるだろう……天使の手に気を失った少年を抱えていなければだが。

 この地獄のような場所でもその少年は生きている。

 それは単に美しい怪物の力で人体の害となる有害物質が入らないようにしているからだ。

 無論、そのことは灰の怪人もわかっている。

 だから灰の怪人が真っ先に行ったのは美しい怪物と少年をこの場所から弾き出して普通の人間が生きられる場所まで移動すること。

 しかし―――――

 

 

「温い温いッ‼︎」

 

 

 力の差は歴然としている。

 灰の怪人の力はヒーロー作品でいう一話で倒される雑魚くらいの能力しかなく、美しい怪物は幹部級……長期に渡って主人公を苦しめるほどの力がある怪物だ。

 だから灰の怪人がどれだけ殴ろうと、その拳は一つも届かずにただただ焼かれるだけに過ぎなかった。

 

 

「ぐ、まだまだァ‼︎」

 

「いーや、もう詰みさ!!」

 

 

 天使は片腕を天に掲げ、振り下ろした。

 そして、雨のように炎の矢が降り注いだ。

 天使が詰みと言ったのはこれがあるからだ。

 どれだけ人間を超えた怪物であろうとも、雨のように降り注ぐ矢を防ぐ方法はない。

 物理的な矢だったらならば防ぎようがあったものの、炎の塊では防ぎようがないのだ。

 できるとするならばエネルギーや力場に干渉できる類の力を使うことのできる能力を持った怪物か超人のみ。

 その辺の瓦礫を盾に?

 その程度で防げる炎なら灰の怪人は生身でも耐えられる。

 

 

「チェックメイト」

 

 

 降り注ぐ炎の雨は天からの裁きのように灰の怪人に降り注ぎ、圧倒的な熱量を持って怪物を消し飛ばした。

 

 

「ま、所詮は低級のメモリ……キミもなかなかに良い適合率(しつ)だが、そのクラスなら我が教団にはそれなりにいる」

 

 

 その声に答える声はない。

 先ほどの炎の雨で周囲の建物や死体もほとんど消し飛び、無数のクレーターが出来上がっているだけ。

 残っているとしたら……煙と、死臭と、灰くらいのものだ。

 もし灰の怪人にベルトともう一つ力があったならもう少し違った結末があったかもしれないが、そんなもしもは無意味だ。

 

 

「さて、最上の個体が手に入ったことだし……彼らに会う前に退散させてもらおうか」

 

 

 そう言って天使はその場を去っていった。

 後に残ったのは炎と死体と―――――

 

 

「……」

 

 

 灰だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数年後。

 常に風の吹く街、風都に彼―――――白崎 灰人はいた。

 歳は19歳、身長は174cmで無職であることを除けば見た目はどこにでもいる青年だ。

 少しぼさぼさの白い髪にちょっと色白い肌、もう少し白ければ病人と言われてもおかしくない。

 男にしては少し細身の身体がより病弱な印象を強くさせるが、本人は至って健康だ。

 そんな彼だが……現在進行形で困っていた。

 

 

「参ったなぁ……まさか来て早々に金を掏られるとは」

 

 

 無職の彼にとって命綱そのものだった財布をいつの間にか盗まれていたのだ。

 当然中に入っていた身分証明書もない。

 今のご時世において身分を証明するものがないというのはそれだけで絶体絶命の危機だ。

 金もないので食料も買えない。

 ちなみに掏りと断定したのは鞄に刃物で切られた跡があったからだ。

 

 

「どこかに不良とかいねーかな、できれば凶悪そうなやつ」

 

 

 なので解決策として不良狩りを試みるも、今時そんなやつは早々いない。

 常識的に考えれば真っ先に頼るべきは警察なのだが、財布が届けられているという可能性は低い。

 あったとしても中の金は全部奪われているのがオチだ。

 年齢的な問題でクレジットカードが作れていないのが唯一の救いか。

 しかし、このままでは埒が明かないので近くの交番で相談だけもと考えた時だった。

 

 

「きゃっ!?」

 

「ぐえ!?」

 

 

 後ろから誰かにぶつかった。

 予想もしていないところからの追突故に灰人もぶつかった相手もよろめく。

 

 

「いってぇな……どこ見て歩いてんだよ!?」

 

 

 そう言って灰人はぶつかってきた相手を見る。

 

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

 相手は女だった。

 灰人の主観でいえばおそらく歳は16~8歳くらい。

 腰まであるほどに長い黒い髪にテレビに出てくる芸能人に負けないほどの美貌。

 

 

(うわ、すっげぇ美人)

 

 

 口にこそ出さなかったが、誰もが振り返るほどの美少女がそこにいた。

 

 

「追われてるんです……助けてください」

 

「は?」

 

 

 謝罪の次に出てきた言葉に一瞬、唖然としたがすぐに納得もした。

 誰もが振り返るような美少女ならそういう厄介な相手も出てくるのも無理はないと思ったからだ。

 そして、その相手はすぐ傍にまで来ていた。

 

 

「悪いな坊主、ちょーっとそこの美人に用があるんだ。 どいてもらえるか?」

 

 

 かなり黒に近いはねた茶髪に黒いスーツと帽子を被ったどこかキザな男が現れた。

 状況的にこの少女の追っかけだというのはわかったが、灰人はその声にどこか聞き覚えがある気がした。

 とはいえぶつかってきた少女は目の前の男をだいぶ怖がっているようにも見えるので灰人は少女と男を遮るように立つ。

 

 

「あんた何? この子のストーカーか?」

 

「ちげぇよ!! 俺は探偵だ!!」

 

「はぁ? 探偵?」

 

 

 男はそういうと懐から名刺を灰人に差し出した。

 名刺にはこう書かれている。

 

 

「『鳴海探偵事務所 左 翔太郎』?」

 

「おう、依頼人から頼まれたんだよ。 そこの美人が家出したら連れ戻してほしいってな」

 

「知らない!! そんな人知らない!!」

 

「……って言ってるけど?」

 

 

 灰人は男―――――左 翔太郎に疑いの目を向けると同時にチャンスだとも思った。

 自称探偵兼ストーカーまがいなおっさんが相手だ。

 少なくとも真っ当な職に就いた人間とは思えないので灰人も容赦なく剥げる。

 

 

「ま、俺としてはどっちの味方するかはもう決めてるんだけどな」

 

 

 そういうと灰人は翔太郎を拳を繰り出した。

 殴って怯んだところを腹を蹴って動けなくする。

 それが灰人の立てた道筋だが―――――相手が悪かった。

 繰り出した拳はあっさりと掴まれ、逆に腹をカウンターで殴られる羽目になった。

 

 

「あっぶねぇな、この悪ガキ」

 

(ぐ……マジかよ、見た目によらず強いなこのおっさん)

 

 

 それなりに痛みはあったものの、すぐに引いた辺り絶妙な力加減で殴られたというのは明白だ。

 灰人は翔太郎が見た目によらず相当な手練れだというのを理解した。

 同時に翔太郎から追い剥ぐのは難しいという事も。

 真っ向からぶつかればまず負ける、手段を選ばなければおそらく相打ちが関の山。

 奥の手を使えば……おそらく勝てるが、これは論外。

 普通の人相手に使っていいものではないからだ。

 だから、灰人が取れる手は一つだけ。

 

 

「ペッ!!」

 

「うおッ!? 汚えぞ!!」

 

 

 灰人は唾を翔太郎の顔をめがけて飛ばした。

 別にかかっても汚れるだけで特にこれといった害はないのだが、気分的には良いものではない。

 特に身だしなみをしっかりしているなら特に。

 灰人は翔太郎の身だしなみの良さからして、この手を使えば間違いなく回避を選ぶというのは予想できていた。

 その一瞬さえあれば掴まれた手を振りほどいて逃げるのは難しいことではない。

 

 

「逃げんぞ!!」

 

「へ!?」

 

 

 そう言って灰人は躊躇うことなく少女の手を取って逃げた。

 少女も逃げられるならと思い、引かれた手に逆らうことなく走り出す。

 

 

「あ、こら待て!!」

 

 

 翔太郎もまた追いかけるが、信号に阻まれて二人を見失ってしまった。

 

 

「あーくそ!! 亜樹子のやつにまたどやされっちまう」

 

 

 とぼやくが、翔太郎はそこまで悲観してはない。

 なぜならこの街、風都は彼の庭……追い詰められないはずがないからだ。

 

 

 

 

 

 事の始まりは一昨日の夜にまで遡る。

 鳴海探偵事務所は今日も閑古鳥が鳴くほどに客は来ていない。

 経営的にはよろしくないのだが、裏返せばそれだけこの街が平和だということ。

 しかし、その平穏を終わらす鐘のように事務所のドアを叩くものが現れた。

 今回の依頼人は時鐘 正二58歳。

 この街で建築業を営んでいる初老だ。

 歳が歳なだけに顔の皺や髪にそこそこの白髪が見受けられるが、建築業を営んでいるというだけあって体つきは50代とは思えないほどに力強さを感じさせる。

 依頼の内容は家出した娘の捜索。

 そう、ここまではただの依頼だったのだ―――――資料として渡された娘の写真を見るまでは。

 異変はもう始まっていたのだ。

 

 

「嘘だろ……なんでだ!?」

 

「馬鹿な、あり得ない!!」

 

「あたし、聞いてない……」

 

 

 写真に写されていた娘は、かつてこの街にいたアイドル……そしてこの街を危機に陥れた組織『ミュージアム』の幹部、園崎 若菜にそっくりだったからだ。

 彼女は既に他界しており、この世にもういないはずの人間。

 もちろん翔太郎も所長の鳴海 亜樹子も相棒のフィリップーーーーー園崎 来人も他人の空似、気のせいだと思った。

 しかし、それにしてはあまりにも顔も背丈も似すぎている。

 合成写真を使った悪戯のほうがまだ理解できてしまう。

 だが、いくら鑑定してもその写真は合成写真ではないという証拠だけが積み上げられていく。

 

 

「フィリップ、検索頼めるか?」

 

「もちろんだよ翔太郎、すぐに始める!!」

 

 

 普段クールな相棒もどこか焦りのようなものを感じる。

 そして―――――検索の結果は最悪の形で証明されてしまった。

 

 

 

 

 

 そして時は戻る。

 灰人と少女は翔太郎を撒いて公園で休んでいた。

 全力疾走でひたすら走り続けたので、今この街のどこにいるのかもわからないが……少なくとも人の目の多いこの場所ならあのおっさんも早々襲って来やしないだろうと判断した上で休んでいる。

 

 

「ふぅ、落ち着いた」

 

「えっと……ありがとうございます……?」

 

「なんで疑問形なんだ……いやまぁいいけどさ」

 

 

 とはいえ、この先をどうするかはまだ決まっていない。

 だから、気になっていることを灰人は少女に聞くことにした。

 

 

「ところでキミ、名前なんていうの? 俺は灰人」

 

「えっと……名前?」

 

「あぁ、名前。 それくらいは聞いても問題ないだろ」

 

 

 名前、名前……と少女がつぶやくとこう答えた。

 

 

「えっと、名前っていうのは人や物を表すものだよ?」

 

「いや、だからキミの名前だって」

 

 

 そう灰人が言うと今度は私の名前、私の名前とつぶやく。

 そして―――――

 

 

「どうしよう?」

 

「?」

 

本が絞り切れない(・・・・・・・・)

 

 

 わけがわからなかった。

 話が通じてるはずなのに通じていない。

 灰人はもう彼女が名前を教える気はないのだと判断して、さっさと警察に渡すべきだと判断した。

 少なくともストーカー被害なら警察もそれなりに対処してくれるはずだと思ったからだ。

 

 

「はぁ、わかったよ。 さっさと警察行くよ」

 

「?」

 

 

 そして二人はまた歩き出す。

 幸いにも交番はすぐ近くにあった。

 

 

「すみませーん、ちょっと盗難届と匿ってほしい子がいるんですが」

 

「はぁ?」

 

 

 交番の中で書類を整理していた警官が怪訝な顔をして灰人たちのほうを見たが、すぐに対応してくれた。

 

 

「この子、さっきストーカーに追いかけられてたみたいで……後、俺の財布も掏られたみたいで」

 

「そうでしたか、とりあえずストーカーと聞きましたが」

 

「はい、俺じゃなくて彼女……名前教えてくれなかったんですけど、鳴海探偵事務所の左 翔太郎っていうおっさんに追いかけられてました」

 

 

 そういうと警官の目が変わった。

 そして、次に開かれた言葉は―――――

 

 

「その人はスーツに帽子を被った探偵ではありませんでしたか?」

 

「そうそう、そんなおっさん」

 

「なら大丈夫ですよ。 あの人はこの街の探偵、ストーカーではありません」

 

 

 おそらく追いかけていたのは本当に事務所の依頼だからでしょうと言ってあっさりとストーカー被害を否定した。

 

 

「え、あのおっさん……そんなに有名なの?」

 

「えぇ、良くも悪くもこの街では有名な人ですよ?」

 

 

 そう言いながら財布の盗難届の準備を済ませた警官が次に行きましょうかと言ってペンを差し出してきた。

 

 

 

 

 

 財布の盗難届を出し終わった二人は元の公園に戻ってきていた。

 しかし先ほどと違い、少女はぼーっとしているし灰人も頭を抱えている。

 

 

「なんなんだこの街、だいぶ前に来たときはあんな探偵の名前なんて聞かなかったぞ」

 

「探偵、探偵……人から依頼を受けて貼り込んだり調査して隠された真実を暴く人たちのことだね」

 

「……マジでなんなのこの子、人間〇ィキペディアか何かか?」

 

「〇ィキペディア、〇ィキペディア……」

 

「あぁもう!! 調べなくていいから!!」

 

 

 そんなことをしているうちに灰人の腹の虫が鳴った。

 しかし、財布がないのでコンビニで弁当を買うこともできない。

 不良狩りしようにも鴨はこの近くにいないので八方塞がりだ。

 

 

「お腹鳴ってるけど、食べないの?」

 

「財布掏られ……盗まれたから何も買えないんだよ」

 

「そっか……」

 

 

 そういうと少女は眼を閉じてまたつぶやく。

 

 

「『灰人』、『財布』、『現在地』……これかな?」

 

「あん?」

 

「場所、わかったよ。 着いてきて」

 

「は?」

 

 

 そういって彼女は灰人の手を取って走り始めた。

 最初は少し慌てたものの、すぐに体勢を整え直して走る。

 

 

「待て、わかったって何がだよ!?」

 

「カイトの財布の場所、本で調べたの」

 

「意味わかんねぇよ!? てか本なんて持ってなかっただろ!?」

 

「……黒い折り畳み式の財布、値段は1200円くらい、中身は……身分証明書と写真が一枚あるだけね」

 

 

 灰人はその答えを聞いてゾっとした。

 それは間違いなく今朝、掏られた財布の特徴と一致しているからだ。

 中身が身分証明書と写真一枚だけというのは金を除けばそれくらいしか入れてないから、金を抜き取られていないのなら一致していると考えていいだろう。

 問題なのは全くの初対面である少女が寸分の狂いもなく見た目と値段を言い当てたことだ。

 

 

「キミ、本当に何者だ? 本で調べたってどういうことだ?」

 

「本は本だよ?」

 

「いや、持ってないだろ!?」

 

「あるよ、ちゃんとここに……」

 

 

 そして、灰人は身をもってその言葉の意味を知ることになった。




次回はちゃんとライダー出るはず
(但し仕事の都合でかなり遅れる)
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