ハーメルン・ノベルティック・ライダーズ   作:夢野飛羽真

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始まりのA/悪魔の小道具の名は

 風都市内にて大型のトレーラーが走っていた。

 それ自体は特に気にするようなことではない、どこにでもある日常風景の一つだからだ。

 問題なのはその中だ。

 トラックの中には赤と灰色のボディをしたバイクが一台。

 そして、いくつかの備え付けられたパソコンたちと数人の男たちと拘束された男が一人。

 どう見ても普通のトラックではありえない内装をしている。

 

 

「さて、無事風都には入れたな」

 

「えぇ、ここまでは予想通り問題なくいけましたね」

 

「当然っちゃ当然なんだが、問題なのかここからだろ」

 

 

 そういって男はパソコンに繋がれたベルトのバックルのほうに目を向ける。

 非常に大きなバックルで、機械の塊のようなディテールをしていた。

 中央にはレンズ、その横には何かを差し込むスロットがある。

 バックルの裏にはUSB端子を差し込むスロットなど、明らかに普通のベルトではない。

 

 

「ミキシングドライバーの調整と準備はどうだ?」

 

「ドライバーは問題ありません。 万全でございます」

 

 

 機械仕掛けのバックルーーーーーミキシングドライバー。

 彼らが作った作品の一つであり、切り札の一つ。

 街のヒーローを殺すために作られた対抗兵器。

 

 

「ですが、やはり相性の良い適合者はなかなかいませんね」

 

「ウチの適合者は三名、その中の一人は盟主様だからな。 リバーサルドライバーは貴重な一機を持ち逃げ出されたせいで外に出させてもらえないのが痛すぎるぞ……ったく」

 

「……班長はミキシングドライバーだけでは不足と?」

 

「当然だろ。 幾度となくドーパントと戦ってきた歴戦の兵……いくらスペックで勝とうとも負けるという可能性は十分ある」

 

 

 加えてと男は言って手に持っているUSBメモリのようなものに目を向ける。

 それぞれ赤、灰、青、黄、緑……そして透明のメモリたち。

 デザインはどれも共通で洗練されているが、日常生活で使うには少し大きいものばかりだ。

 

 

「これらを駆使できたとして、数少ない使い手がコレだからな……」

 

 

 うんざりしたような目でUSBから庫内の一番奥で拘束されている男に向ける。

 拘束された男は髪がなく、眼も微妙に焦点があっていない。

 まるで薬物中毒者のように乾いた笑みを浮かべながら班長と呼ばれた男の手にあるUSBを見ている。

 もっとも本当にUSBを見ているのかは怪しいが。

 

 

「強く作ることが出来たはいいものの、使い手を選ぶ仕様になってしまいましたからね」

 

「だからVの方を使いたいと要請したんだけどなー」

 

 

 適合率もあっちの方が高いしとぼやきながら班長は俯いて嘆く。

 ほぼ薬物末期症状の狂人よりまだ会話の成り立つ相手のほうを使いたいと思うのは誰だって同じだろう。

 性能が良いなら尚更だ。

 

 

「ま、失敗したらしたでコイツも死ぬから、上からしたら都合のいい廃棄処分なんだろうよ」

 

 

 もったいないと同時に無駄なことをと班長は思う。

 鬼が居ると分かっていながら近づくバカは普通はいない。

 だが、上はあえてそのバカをやろうとしている。

 

 

「……藪をつかなきゃ蛇だって出てきやしないだろうに」

 

 

 それでも指示を出された以上、動かないといけないのが下っ端の悲しいところである。

 そして車は進む、邂逅の時は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球の本棚。

 地球という惑星が生まれてから今に至るまでの全ての情報と知識を記録している最古にして最大のデータベース。

 うっすらと天体が見える白の空間と無数に浮かぶ本棚という奇妙なこの空間で青年―――――フィリップは眼を閉じて本棚の情報を洗い出していた。

 この空間において膨大な情報一つ一つを調べるのは難しいを通り越して無理無謀。

 なので一つ一つキーワードを入れることで情報を絞っていくことができる。

 言ってしまえばこの膨大な本棚は世界最大のネットワークなのだ。

 調べられないことはほぼ無いと言っても過言ではない。

 

 

「……ダメだ、今のキーワードでは完全に絞り切れない」

 

 

 しかし、それはあくまでキーワードがある程度具体的であればの話で抽象的だったり絞り込むためのキーワードが足りなければやはり絞り込みが不足する。

 だから思いつくキーワードを並べてみても本は一定以上減らない。

 時鐘 正二の娘―――――時鐘 陽子。

 真っ先に入れたこのワードで大半の本は消えた。

 次に入れたワードは現在地。

 人探しならばこの時点でほぼ絞り切れる。

 特に時鐘という比較的に珍しい苗字なら猶更……しかし、本はこのワードを入れた時点で全て消失してしまった。

 それは居場所の記載された本が検索にヒットしないということだからだ。

 検索結果がヒットしないということは対象が死んでいるのかと言われればNoだ。

 何故なら死んでいたとしても死体の居場所という形で情報が残るはずだからだ。

 ならば、考えられる可能性として挙げるならば何かしらの方法で地球以外の空間に閉じ込められている……あるいは―――――

 

 

「やはり、何者かが隠蔽しているのか?」

 

 

 検索結果の妨害。

 かつての経験からこの二つのどちらかだとフィリップは判断した。

 念のために時鐘 陽子と死亡の二つのワードで検索するも、本が数冊……かつていたであろう故人の情報が出てくるだけなので死亡説は除外している。

 とりあえず現状ではどうしようもないのでフィリップは眼を開ける。

 すると本棚の空間は消えて、いつもの事務所の地下の風景に戻っていた。

 傍には所長の亜樹子も水を片手に持ってそこにいる。

 

 

「フィリップ君、どうだった?」

 

「あきちゃん……ダメだった。 翔太郎が何か手掛かりをつかんでくれるといいんだけど」

 

「難しいかもね……今回は思ってたより根が深いみたいだし」

 

「きな臭さばかりが増してくるね、今回は」

 

 

 そう言ってフィリップは亜樹子から水を受け取って一気に飲み干す。

 喉から肺へ、そして全身へひんやりとした感覚が行き渡って張りつめていた神経や気分が幾分か落ち着くのを感じる。

 それと同時に感じていなかった疲労感も……だが、だからといってまだ現状でやれることを全部やり切ったわけではない。

 フィリップは再び眼を閉じて意識を集中する。

 

 

「あきちゃん、僕はもう少し何か出ないか検索してみるよ」

 

「りょうかい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風都のとある裏路地。

 この場所はここ最近、非常にガラの悪い不良たちの溜まり場となっていた。

 違法賭博に暴力沙汰、カツアゲなどを始めとした犯罪行為が日ごろから起きている。

 警察も動いてこそいるが、とある事情で毎回逃げられていたので警察もかなり手を焼いていた……この日までは。

 

 

「よし、これでおしまい!!」

 

 

 そう言って灰人は溜まり場にいた不良六人、その最後の一人を殴り倒した。

 他の五人は既に地面を這いつくばっている。

 

 

「おーい、もう出てきていいぞ」

 

 

 そういうと少女が物陰からひょっこりと顔を出す。

 少女が少しだけ周囲を見渡して安全だとわかると灰人の傍まで小走りで近づく。

 

 

「それで、俺の財布持ってるのはどいつだ?」

 

 

 少女はすぐに灰人の足元に倒れている不良に向けて指を指した。

 それを見た灰人は不良の懐を探り始める。

 

 

「これは……こいつのだな」

 

 

 最初に見つけた財布は灰人のではなかったが、盗難の被害の詫びとしてこっそりと中の金は抜いておく。

 次に見つけたのは……

 

 

「……」

 

 

 次に見つけたのは禍々しい化石のようなデザインのUSBメモリだ。

 表面のディスプレイには凍り付いた骨で『I』と表示されている。

 

 

「悪い、他の奴もこのメモリと同じ形のやつを持ってないか探ってくれないか?」

 

「なにそれ?」

 

「……悪い薬みたいなもんだよ」

 

 

 そう言って灰人はさらに男を探り、自分の財布を見つけ出した。

 中を確認するが金は残ってはいなかった。

 既に使われたか、先ほど抜き取った金の一部になっていたか……どちらにせよ灰人にとって金などどうでもよかった。

 ……不良狩りや日雇いのバイトでどうにでもなる。

 問題なのはそれ以外のものだ。

 

 

「よかった、写真はまだ残ってた」

 

 

 一番大事な写真は捨てられずに残っていた。

 その事実に灰人はホッとしてのびてる他の不良たちの懐を漁る。

 

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ……これで全部か?」

 

「多分」

 

 

 数分後、倒れた不良たちの懐をすべて探り終えた二人は見つけたメモリを地面に並べていた。

 デザインはどれも同じだが、ディスプレイに表示されている記号と色だけが違う。

 少女は物珍しそうに集めたメモリを一つ摘んで振ったりして遊んでいる。

 

 

「これ、名前なんて言うの?」

 

「ガイアメモリって言うんだよ、ふん!!」

 

 

 灰人はその辺の少し大きめの石を掴むと、その石を地面に並べたメモリに向けて全力で叩きつけた。

 そんなことをすれば当然メモリは粉々に砕け散る。

 だが、それでも灰人はまだ飽き足らないと言わんばかりに二度三度と大きめの石でメモリを粉々にしていく。

 

 

「勿体ない」

 

 

 少女はメモリを砕く灰人を見てそう言った。

 

 

「ちょっと調べたんだけど、これって凄いアイテムなんだね」

 

「は? いやそもそも調べたって……」

 

「ガイアメモリ。 地球の記憶を内包した特殊USBメモリで、使えば従来の人から人智を超えた超人に変貌させる」

 

 

 少女は手慰みに弄んでいた最後の一本を灰人に向けて差し出し、一言。

 

 

「貴方は使わないの?」

 

 

 悪魔が人を惑わすように蠱惑的に笑いながらそういった。

 だが、灰人は……

 

 

「要らん、それは俺のメモリじゃない」

 

 

 そう言って誘いを切り捨てた。

 そもそもガイアメモリは基本的に一度使えば使用者専用になる。

 例外や抜け道も存在するが、早々使える手ではないのでやはり持っていくという選択肢はない。

 

 

「そっか……じゃあもう要らないね」

 

 

 少女はそう言ってガイアメモリ捨てる。

 捨てられたガイアメモリは灰人の足元まで転がり落ちると、間髪入れずに踏み潰された。

 

 

「よし、とりあえず用事も済んだし飯にするか!! 財布の場所も教えてくれたから礼と言っちゃなんだけど、奢るけどどうする?」

 

「食べる!!」

 

「よし、じゃあ美味しい店知ってたら教えてくれ。 俺はこっちに来たばっかりでわかんないからよ」

 

 

 そう話しながら二人は裏路地から出ようと表のほうに身体を向けた時だった。

 一人の柄の悪い男が立っていた。

 手には色こそ違うがガイアメモリが握られている。

 

 

「お前ら、そこで何をしてる」

 

「何って……奪われたものを取り返させてもらっただけだよ」

 

 

 盗んだんだから因果応報だろと言って灰人はケラケラと笑う。

 少女は男のことなどどうでもいいのかボーっとして美味しいごはんと何回か連呼している。

 そんな能天気な二人を見て男の頭に血が昇っていく。

 

 

「じゃあ俺もやり返したって文句は言わないな?」

 

「やれるんならな」

 

 

 言外にお前には無理だという灰人の挑発は正しく男に伝わった。

 それが男のわずかに残っていた理性にトドメを刺したのだ。

 男は躊躇うことなくガイアメモリの電源を入れる。

 

 

『COCKROACH』

 

 

 起動したガイアメモリから内包した記憶の名前が木霊する。

 同時に男の腕に生体コネクタというガイアメモリを安定して受け入れるための痣が浮かび上がる。

 ここのガイアメモリを差すことで人はドーパントという超人へと変貌するのだ。

 

 

「ぶっ殺してやる!!」

 

「コックローチ……ゴキブリか、まぁどうにでもなるな」

 

 

 変貌し、ゴキブリの記憶によって男は変貌する。

 人から超人……あるいは醜い怪物へと見も心も変質させていく。

 しかし灰人からしてみればこの程度なら特に問題ない。

 

 

「死ねぇ!!!」

 

 

 怪人……コックローチ・ドーパントは超人的なパワーを持って灰人に殴りかかる。

 だが、変貌したからといって人型から大きく離れたわけではない。

 中には大きく変わるものもあるが、基本的にドーパントは人だった名残か……あるいはまだ自意識のどこかで人間であることを捨てきれていないからなのかはわからないが人型で留まっていることが多い。

 だから必然的に動きも人の動きからそこまで大きく変わることはないので灰人はシレっとコックローチの拳を避けることができた。

 

 

「この、この!! このぉ!!!!」

 

 

 二度三度繰り返すも当たらず、四度五度に至ってはカウンターで逆に殴られるくらいだ。

 しかし、動きこそ変わらないものの大きく変わるところはやはりある。

 それは体力だったり、腕力だったりと基礎スペックはやはり超人なのだ。

 長期戦になれば灰人はまず負ける。

 というか現時点でもこのままでは勝ち筋自体がない。

 だから、灰人も使うことにした。

 

 

「さて、ここからは俺も使わせてもらう」

 

 

 懐から取り出すのは灰色のガイアメモリ。

 ディスプレイに表示されるのは崩れ行く灰の楼閣を現した『A』

 左の手のひらに生体コネクタが現れる。

 

 

『ASH』

 

「……変身」

 

 

 一言、合言葉を唱えて灰人は醜い怪物(ちょうじん)へと変身したのだった。

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