「知性のない攻撃など掠りもせんわっ、戦いは冷静なまま残忍な者が勝つ!」
変異した村長の連続して振るう鉤爪と触手の連撃を躱す鬼龍、村長の攻撃は全て鬼龍に向けられていた。横薙ぎに振り回される背の鉤爪触手が援護に入ろうとした他の者達を遠ざける。
〈バアーッ アッアッ…ッアキリュ、ウウ〉
突然村長の体が大きく仰け反る、まるで上半身が弓なりにしなる若枝のように。
伸縮する伸びた脊髄を利用した、反動を伴う上半身全てを使った叩きつけだ、見ている誰もがそう村長の次の動作を予測する。
その一瞬の気を鬼龍は逃さない、村に吹く秋風よりも速く接近し拳を振り上げる。
よく見ればその拳の構えは五指を垂直にした貫手の構え、村長の息の根を文字通り一度止めた鬼龍の技。
「あの技は!」
「初めて村長を殺った時の!」
貫手から握り拳に移行するその拳打、力任せではなく武術で言う所の気の攻撃、打ち込んだ場所に関わらず体内の臓器を破壊する拳。
「灘神影流 “塊貫拳”」
鬼龍の気を纏った魔拳が村長の右太腿に打ち込まれる、あのギュンという異音と共に気のエネルギーが村長の肉体を駆け巡った。
狙いは既に破壊された脳では無く、寄生体の本体がいるであろう胴体で気を炸裂させる。
しかし気のエネルギーが変異した脊椎の途中に差し掛かった時、パァンという音と共に弾けた。村長が血を流して仰け反るが、すぐに何てことないかのように体制を立て直した。
「暴走する邪気で俺の気を打ち消したか」
「二度死んで蘇り、気を学習したか村長…いや、もはや村長に寄生したプラーガと呼んだ方が適切か?」
〈ボ、ジャワ ティー コウ、チ…モン〉
虚ろな言葉を零しながら凶器とかした全身を振り回す村長、背から生える触腕が村長を中心にコンパスが円を描くかのように周りの地面ごと敵対者を削り取ろうと回転する。
全員が攻撃を止めて退避する、鬼龍の塊貫拳もそうだが、他にもレオンとルイスによる銃撃を幾度か受けた筈の村長は未だ健在。弱った様子は少しも見られない。
「鬼龍のあの技も通じないのか!」
「腐っても支配種…耐久力が別格なのか…?」
「ならもの凄く激しくてぶっといコレを打ち込んでやるのね」
「待て!下手に撃てば近くにいる鬼龍が危ない」
ロケットランチャーを取り出した武器商人を静止するレオン、そうしている間にも村長は暴れ回り戦闘は激化していく。
「ぐうっ」
村長が繰り出した触腕による刺突、右側の上半身を逸らす体制に素早く移行する事により、上半身左側の触腕が突き出される形となる。それを利用した最速かつノー・モーションの岩をも貫く絶命的な一刺し。
エルヒガンテのラッシュすら捌いたあの鬼龍が避けきれず、掠った胸元から血が吹き出る。この村に足を踏み入れて初めての流血。
「おいおい、あのオッサンが避けきれてねぇぞ!」
「早く援護に周るのねェ!」
他の三人の殺気を感知した村長が触腕を振り回す、それを躱した僅かな隙に各々が攻撃を叩き込む。
「いい気になるなよなっ」
「ここで仕留めろ!撃て!」
「何がサドラー様だ!崇拝バカはあの世で教典でも暗記してろ!」
鬼龍が龍腿による蹴撃を片足に見舞えば村長が膝をついて崩れ、レオンが撃ったショットガンの散弾が村長の胸に埋め込まれる。
ルイスの拳銃から飛び出した弾丸は村長の頭部に命中してダメージを蓄積させる、武器商人が振るうナイフが二つの軌道を生み出して半身同士を繋ぐ脊椎を削り取った。
〈ハウッ…ア……〉
〈………………〉
村長がうめき声のような物を上げて停止する。その身が脱力し殺気が萎え、これで決着かと思われたその時、
〈フハハハ!我が名はビトレス・メンデスだあっ!〉
突如天を揺らすかのような大声量で明瞭な言葉を放つ村長。
余りに突然の急変にレオンやルイスのみならず、あの鬼龍までもが絶句したかのように驚きで一瞬硬直する。
その一瞬の硬直から復帰するより速く、村長がその場で大回転!二つの触腕が鞭の様に四人を打ち付けて吹き飛ばした!
「はうっ」
「ぐっ…」
「ぜ、全然効いてないね……あうっ」
「じ、尋常ならざる生命…!」
地面に体を強く打ち付けられる四人の追った負傷とダメージは大きく、よろめきながらも立ち上がれたのは鬼龍とレオンの二人だけ。
ルイスと武器商人は意識こそまだあるが地面に倒れ伏し、戦闘に参加できる力は無かった。
「おい…鬼龍」
「なんだ」
「コイツを引き付けてくれ、ケリをつける」
「おいコラ、レオン お前俺に指図するのか」
〈ンゴーッッ!!タカッ!ニィー〉
お互いそれ以上の会話は無かった、村長がまた雄叫びを上げて鬼龍に掴みかかっていったからだ。
二つの触腕を背後に伸ばして力を溜め、一気に解放して速度の乗った二つの豪槍と化して鬼龍に向け放つ。
鬼龍はそれを直前まで引き付けた、そして一瞬で残像を生み出して触腕の軌道から消える。
手応えの無い触腕に戸惑い、今度は村長が一瞬硬直した。
その無防備となった体を強烈な衝撃が襲う、耐えられず大きく仰け反る。揺らめいていた脊椎は上半身が上方向に仰け反る事で一つの真っ直ぐな線となる。
〈ブニッ…〉
「迂闊だったな、村長」
鬼龍のその声は村長の足元から聞こえていた、つまり鬼龍の頭は村長の足元にあったのだ。
その姿勢は逆立ちの様に上下逆転、しかしその両手は中指を突き出した握り拳、村長の両足を圧迫し杭で張り付けにするかの如く動きを止めていた。
そして鬼龍の代名詞たる龍腿の両足は力強く伸び切っている。瞬時に逆立ち姿勢になった鬼龍は畳んだ脚に力を込めて、足を固定された村長の上半身を下から蹴り上げていた!
「灘神影流 “地雷殺”」
「良いタイミングだ、鬼龍」
そしてその側面、素早く回り込んだレオンが構える。その手にあるのはショットガンでは無くボルトアクションの狙撃銃、一発の破壊力と貫通力が桁違いの性能を誇る。
村長が異常な執着から鬼龍を狙うのはわかっていた、このライフルの貫通力で鬼龍を巻き込まぬ為に、村長だけを撃ち抜ける位置に移動する隙が必要だったのだ。
「おしまいだ」
狙うは脊椎、鬼龍の塊貫拳と武器商人の斬撃が確かなダメージとしてその箇所に刻まれているのをレオンは見逃さなかった。甲高い銃声が響く、尖端の尖ったライフル弾の収束したエネルギーが村長の脊椎を貫き、真っ二つに折り千切った。
〈 ウ ギ ア ア ア ア ア ア 〉
絶叫を上げながらも村長はまだ生きていた。腹部から下は千切れて消失し、下半身はのろのろと数歩歩いた後に倒れて停止した。
血を流し衰弱し、体に受けた銃撃は20を越える。それでも村長はまだ生きていた。
地面に落下した上半身は数秒のたうち回り、その後触腕を足代わりに起き上がる。そして触腕で地面を押しやって跳躍し、未だ敵対者を生かして返さんと襲いかかった。
〈はーっ 鬼龍よ!死ねェ!〉
「あぁそうだ、これでおしまいだ 村長」
両腕と触腕、四つの凶器を振り上げて襲う村長。それより先に鬼龍の両腕が村長の胸にめり込んだ。
塊貫拳の時よりも強く淀んだ邪気がその両腕から村長に流れだす。両腕の拳を受けた胸がまるで業火に晒されたかのように音をたてて焼け爛れていく。
村長の傷口から血が吹き出して、その傷口がどういうわけか急速に腐敗して悪化する。
それは灘神影流の当主のみに伝えられる極技、その技を一度見ただけで完全に習得するのは鬼龍でも不可能だった。
しかしその殺傷能力は今の村長にトドメを刺すのには十分。
鬼の5年殺しという別名を関するその技の名は
「灘神影流 “塊蒐拳”」
〈……………ゥ〉
吹き飛ばされて地面に落下し、鬼龍が送り込んだ“鬼の気”に体内のプラーガごと臓器を蝕まれた村長は、消え入りそうな小さいうめき声を上げて停止した。もう動き出すことは永遠にない。
その両目の空洞から何かが零れ落ちた、それは奥に埋め込んでしまっていた村長の義眼だった。
「義眼か…生体認証の印としてはあり得るか?」
「他には指紋などがあるか、腕でも切り取って持っていくか」
「………いや、義眼にしよう」
戦闘が終了し構えを解いた二人、レオンが村長の義眼を拾い上げてズボンのポケットに仕舞う。
そして今はなんとか上体を起こすまで回復したルイスと武器商人に駆け寄った。
「無事か?」
「間違いなく…無事ではねぇよ」
「ねーっ なんなの この痛み」
「ふん、軟弱でだらしがない奴らだ」
「と、とにかく全員治療の必要があるのね…」
武器商人がまたコートから別のアタッシュケースを取り出して開く、そして中から取り出した物を全員に手渡した。
「おい武器商人、なんだコレは」
「なにって…ブラック・バスやん」
「なぁ前の会話の流れは確か、治療がどうとかっていう話じゃ無かったか」
「だからこうして皆でブラック・バスを食べるんだろっ」
「…せめて火を通さないか?」
「美味いから食うんやない、生きるために食うんや グッチャグッチャ」
時は遡り、レオン達が村長と戦闘の最中。
離れた場所に避難していたアシュリーと警官達にも危機が迫っていた。
〈ムフッ フタリダケノヒミツニシヨウネェ〉
「ひっ…」
「うあああああ!」
「村人がまだ残っている!」
何処かから様子を伺っていたのか、アシュリーへの警護が手薄となった隙を狙って三人に近づく影があった。
それは紫色のローブを着た鉄仮面の人物、手には巨大な草刈り鎌を持ち、まさしく物語の死神の様な風体だった。
「な、舐めんなゴラァ!」
「オ、オラーッ 一人で何が出来るんじゃあっ!」
完全に近づかれる前に気付けたのが幸いし、警官達が素早く拳銃を抜いて発砲する。腐っても彼らも警察官、撃ち出された弾丸は鉄仮面の男の両膝を撃ち抜いて膝まづかせる。
その隙を逃さずに集中砲火で弾丸を胴体目掛けて連射した、全身を穴だらけにされた紫ローブの男は仰向けに倒れ伏した。
「よしっ化け物を殺ってやったぜ!」
〈ハーッ セルブレロシャブシャブシタイノォ〉
しかしそれも数秒、何のダメージも無いかの様にゆっくりと起き上がり、ふらつくこともなくしっかりと両足で立ち上がった。
「あわ、あわわ」
「や、やはり頭を撃たなきゃダメなのかあっ」
「で、でもあの頭は!」
慌てて拳銃を向ける警官達にアシュリーが男の頭部を指差して見せた。
「アイツ!頭を鉄仮面で防護している!」
「なんだあっ 無敵の怪物かあっ!」
それでも抵抗しない選択肢は無く、警官達はまた男目掛けて引き金を引いた。しかし火薬の炸裂と弾丸の発射は起こらず、ただカチリという虚しい音が鳴るだけだった。
「なにっ」
「弾…切れ……はうっ」
その音を聞いた瞬間、にじり寄る鉄仮面の男が突然歩行のスピードを上げて駆け出した!警官達にでは無くアシュリー目掛けて走り寄り、両腕で掴み掛かった!
「………!ううっ」
〈オッオッオッオラハオクサントヤリテェダ〉
アシュリーの肩にギリギリと音をたてて男の指が食い込む、やがて男がその手を首に掛けようとした瞬間、アシュリーが反撃した。
「…馬鹿にするな…馬鹿にするなあっ!」
〈ナニッ〉
肩から離れたその手が首に触れる前に素早く払い除け、その流れのまま速度の乗った拳打を2発胴体に打ち込んだ。
その拳は銃撃で開いた傷口に命中してさらなるダメージを鉄仮面の男に与えた。たまらず怯んだ男に無駄のない華麗な回し蹴りを浴びせて大きく後退させた。
「私は大統領の実娘 アシュリー・グラハムだ!」
予想外の反撃に怯んで動揺した鉄仮面の男は仰向けになった際に落とした草刈り鎌を拾おうと踵を返した。
そしてそこを拳銃の装填を終えた警官達の銃撃をまたもや全身に浴びて崩れ落ちた。
「おらーっ さっさと死なんかい!」
「警官の目の前で何してんだよ あーっ!」
回数にして17発もの銃声が響いて、鉄仮面の男は血を流して動かなかった。
全てが終わり警官達はアシュリーの無事を確認する。
「あのう…怪我はありませんか」
「えぇ大丈夫!助かったわ!」
「それよりも…何か意外な一面を見た気がするんスけど」
「あ、あぁアレね!パパの紹介もあって護身の為に武術を少し学んだことがあるの」
「確か日本の…セキシン空手…って名前だったかな」
警官達と会話するアシュリーからは快活で明るい彼女本来の気質が見えていた。
すると突然顔を驚愕に染めたアシュリーが背後を指差して叫んだ!
「後ろ!」
慌てて警官達が背後を振り向けば、そこには血濡れになりながらもまだ息絶えずに立ち上がる鉄仮面の男の姿。
通常の人間どころか、この村の村人でさえ死んでいなければおかしな程の損傷。事実この警官達は二人の銃撃で村人を何人か倒していた、その際は拳銃の弾丸を撃ち尽くす必要もなく倒せていた。
「お、おい嘘だろ…いくらなんでもそれは無いだろ…」
「お前…変なクスリでもやっているのか…」
ゆらゆらとにじり寄る鉄仮面の男、その男が両腕を広げて早足に歩行を切り替え一気に距離を詰めにかかった!
「危ない!」
ビュンという風切り音を鳴らして何かが飛来する、それは恐怖の余りに動けないでいた警官達の間を通り過ぎて鉄仮面の男に向かって行く。
〈ナメルナッ メスブ…〉
それはアシュリーが近くの納屋付近から拾い上げた鋤だった、三叉に別れたソレを投げ槍の要領で投げつけたのだ。
その鋤は言葉を発そうとしていた鉄仮面の男の喉にザックリと突き刺さっていた。ゴボゴボと空気の抜ける男が聞こえ、鉄仮面の男はまた倒れ伏した。
「それっ!………もう平気みたい」
近くによったアシュリーが刺さった鋤を抜き取り、今度は胸に突き刺した。鉄仮面の男の反応は無く、完全に死んだことがわかった。
「……………」
「……………」
「レオン達と合流しましょう、もうあの怪物が倒されているといいんだけど…」
そう言って歩き出すアシュリーの背中を見つめる警官達は暫く動かなかった。その視線には尊敬や畏敬に近い感情が込められていた。
「本当に強いのん…」
「ウム…俺達よりも状況に適応しているんだなァ」
そうしていれば向こうからも村長との激戦を制したレオン達四人が歩いてくる。ボロボロだが、全員が自らの足で地面を踏みして立っている。
「まさかブラック・バスで本当に回復するとは」
「ブラック・バスはコンプリート・フードだからね」
「ただ生で食う意味はあったのかよ」
「あの食べ方が一番良く効くとお墨付きを頂いてる」
「不可思議な物だ…まぁ確かに役立った」
「ちなみに生魚の生食は寄生虫や病気に感染するリスクがあるから危ないんだよね」
「なぁやっぱりこの蛆虫殺そうぜ」
「……まぁ落ち着け鬼龍」
再び合流したレオン達は互いの無事を確認する、村人と村長亡き今、より強い新たなる脅威が迫っていた。
◇次回、どのような展開が…?