「コイツは教団の信徒だな、もう村にまで来てるってのは本当らしい」
村長を撃破した後、アシュリー達を奇襲したという紫ローブの男の死体をレオン達は取り囲むように眺める、教団の内情を知るルイスが説明を付け加えた。
「それもこの紫のローブは下っ端の物じゃない、幹部の命令で動く精鋭達だ」
「ローブの色が階級を表してるのか?」
「黒のローブは下っ端だが、適合率の高い奴は他の連中に命令を下せる地位を与えられる」
「まぁ最も…プラーガを埋め込まれたコイツらにそんなもの意味無いけどな、全員仲良くサドラーの奴隷であることにかわりはない」
「ちなみに…信徒達を束ねているのは赤ローブの髑髏仮面なのね、ルイス?」
「前に古城に商いで立ち入ったときに見かけた…信徒を集めて広場で儀式見たいな事をしていたのね」
「あぁソイツで間違いないハズだぜ、下っ端を現場で指揮する赤ローブと、それに命令を下す古城の主…そしてその上がサドラーだ」
「古城の主…ソイツも幹部か?だとすれば村長と同じく…」
「そうだ、支配種の寄生体だ」
「どんな奴だ、ソイツは」
「いや見たことねぇな、城の領主の子孫だと聞いていたが…」
「関係ない、邪魔をするなら殺すだけだ」
鬼龍が冷たくも力強く言い放つ。その言葉で教団とその主に関する話題から、これからの行動について話が切り替わった。警官達が疑問を口にする。
「あのう、ならやっぱり城に行くのは危険じゃないスか」
「ここで救助待ちましょうか?」
「だがサドラーが邪魔をする限りヘリはここまで来られないぞ」
「村にいたって兵隊を送り込まれるだけなのね、進んでも地獄だけど待ってたって地獄なの」
「それならば此方から殴り込むということか、短絡的だがその方が楽しめそうだ」
「……救助の事に関しては、俺に考えがある」
ルイスが何かを思いついた様に口を開く、全員が注目して次の言葉を待つ。
「俺が奴らの元から逃げ出したのは突発的な行動じゃ無い、教団から逃げる手助けをするという申し出があったんだ」
「申し出だと?誰からだ」
「わからねぇ、ソイツはプラーガの事も俺が置かれている状況の事も全て知っていた」
「ソイツの手を借りて上手いこと交渉できれば…」
「脱出の糸口になると?」
「かもしれねぇ」
「なんでそれを早く言わないんだよっ」
「このジャワティー野郎!」
「ソイツがマトモな連中だとは思えなかったからさ、結局俺はその提案に乗ったわけだが」
「ソイツが手助けの対価として要求してきたのがサンプル…支配種プラーガの素体だ」
「なにっ」
「ふぅん プラーガの力をソイツの組織も欲していると言うわけか」
「そうだ、だから交渉するにはサンプルを手に入れなければならない」
「それはこの村にはない、城と研究所がある島に保管されている」
「つまり結局は進むしかないってことなのね」
「ところでルイスよ、お前に接触した者の名は何と言う」
「名前は言わなかった、だが通信越しに聞こえたのは女の声だったぜ」
「そうか…女の声、か」
話が終わり、先へと進む一行についていきながら鬼龍の脳内ではとある記憶が呼び起こされる。湖の先の水路への道、使われていない小屋に置かれた何者かが書き残した文書。
探しものはこの奥よ 武術家さん
鬼龍はそのことを喋らなかった、確証がないのもそうだが、この件に何者が関わっていようとも自分には関係が無いとその思考を打ち切った。
一行は農場奥の扉を超えて先に進む、かんぬきが掛かっていたが警官を踏み台にしたレオンが裏から開けた。
その先は深い崖に木でできた吊り橋が掛かっている、落ちれば命はないその橋を慎重に進む。途中、怯えるアシュリーをレオンと鬼龍が励ますように勇気付けていた。
同じく怯える警官達を励ます者はおらず、ルイスがそのさまをまた茶化していた。
そうしてついた大きな広場、中央に一軒の小屋があり、小屋の正面には左右に二つの門。そして真ん中には門を開くための操作レバーのようなものが見える。
「このレバーは…?」
「片方は詰所でもう片方は崖下の一本道に続いている、どちらもその先は同じさ」
「ここを超えれば城は目の前なのね」
「詰所に崖下の一本道か…待ち構えるにはうってつけじゃないか?」
「ウム…詰所を通れば四方からくる敵に襲われ、一本道は挟み打ちの心配こそ無いが頭上から奇襲を受ける可能性があるだろう」
「つまり…どちらも同じくらい危険ってことね?」
「あぁそうだが、どちらにせよアシュリー、君に怪我はさせない」
「あのう、俺達も守って欲しいんですけど」
「オチンギン見せましょうか?」
警官の言葉を無視して、考えを終えたレオンが決断した。
「右の門だ、崖下の道を行く」
「良いのかよ、上から矢で射抜かれるかもな」
「アシュリーを誘拐して監禁したという事は生かして捉えたいハズだ、奴らも派手な事は出来ないだろう」
「ふん、どうだかな それを思い至る知能と理性を持ってるようにはとても見えん」
「だが確かに囲まれながら戦うよりマシか」
「異論はないのね」
「それじゃあ門を開けるが気を引き締めろよ」
警告と共にレオンがレバーを右方向に引き、歯車が積み重なった様な装置が起動する。回転する歯車の力を別の歯車へと伝えていき、やがて重い音をたてて門が開き出す。
その門が開かれた途端、鬼龍は当然のこと他の者達すらも、門の先から放たれた異様な気配を感じ取った。
風に乗って匂いが運ばれるかのように、目を凝らせば空気中にその色が見えるのではと錯覚するほどの瘴気。
「ククク、もはや心地よいわっ」
緊張で皆が顔をしかめて固める中、やはり鬼龍のみが嗤っていた。
数刻前─
〈奴ラガ選ブノハ恐ラク右ノ門ナンデスネェ〉
深紅のローブに獣の頭蓋骨を象った仮面の男は、眼前の者達に向けて説明をする。恐らくとは言うがその声色は発言に確信を持っていた。
〈村ノ地形ヲ粗方知ッテイルアノ ルイス ガイマスカラ〉
〈広イ詰所デ大統領ノ娘ヲ守リナガラ戦ウノハ避ケルハズナンデスネェ〉
ワカルンスカ?
オオーッ ウゥンドウイウコトダ
マッセリアーッ チレッ オレハキャプテン・マッスルダアッ
〈デモネ…右側ニ兵ヲ配置シタリハシマセンヨ〉
赤ローブの男が発した言葉の意味がわからず、先程まで上げていた歓声が途絶える。なにか言いたげな他の信徒達を手で制して赤ローブは続きを話す。
〈無駄ニ兵ヲ消耗シナクトモ良イ、村ニハマダ“エルヒガンテ”ガ1体…ソシテ城カラハ“コイツ”ガ行キマスカラ〉
〈奴ヲココニ!〉
赤ローブの男の言葉を受けて、城と村を繋げる掛け橋付近の奥から一人の男が数人の黒ローブに連れられて姿を表した。
その男は全身を鎖で何重にも縛られていた、自由に動かせるのはもはや両足くらいな程に。
その体格はひと目見てわかるほどに他よりも屈強、肌は赤みがかって変色し、頭部には歪な甲冑にも似た鉄製の防具がつけられている。
そしてその両腕、鎖の間から見えるそれに、刃が子供の全長程もある長く巨大な四本刃の鉤爪が装備されていた。
俯いて影が掛かったその顔は、唸り声を上げて歯を剥き出した口元とは対象的に、両目が縫い合わされて封じられていた。
余りにも異質な風体の男が口を開く。
〈ウーッ 殺ラセロ神官 オカシクナリソウダ〉
その言葉からは淀んだ殺意が溢れ出す、赤ローブの男は前々からの予想通り、この男の殺戮欲求が爆発しつつあるという事を確信した。
〈ソノ辛サ、ワカルゼ ダガモウスグ獲物ガ来ルハズナンダ〉
〈ナラ速ク殺ラセロ〉
〈モウ少シマテ、私ノヨウニ…オ前達兄弟ノ強サハ知ッテイル、必ズ仕事ヲサセテヤルヨ〉
〈兄弟…ソウダ兄貴モ俺ト同ジ、禁殺ノ為ニ目ヲ縫ッタ……〉
〈ソウダッ 見事ダナッ〉
仮面の下でニコッと愛想笑いにもならないビジネス・スマイルを浮かべる赤ローブの男、勿論眼前の男には二重の意味で見えていない。
〈兄貴モ俺ト同ジナノニ……ドウシテアンナニ冷静ダッタンダ?〉
〈エッ〉
兄弟という単語から疑問へと繋げた男の予想外の問い掛けに赤ローブの男は動揺し言葉に詰まる。男はその様を鋭敏な感覚で感じ取ったのか、疑問を懐疑へと、懐疑を確信へと瞬時に変化させた。
〈アーッ!テメェ殺ラセタナ!兄貴ニダケ殺ラセテ俺ヲオアズケシタナ!〉
〈ア、アワワ〉
〈フザケンナ!オラーッ!〉
激昂した男の筋骨が隆起して一瞬にして鉄の鎖をバラバラに引き千切った。そして猛り狂うままに鉤爪を高速で突き出す、全身をバネの様にして速度と力が乗せられたそれを赤ローブの男はすんでの所で回避した。
代わりに周りに控えていた黒ローブの一人が鉤爪の餌食となる、突き刺さるを通り越して、突き刺さったと思えば衝撃で錐揉み回転をしながら吹き飛ばされた。当然の如く即死である。
その瞬間の隙をついて赤ローブの男が抱きつく様に鉤爪の男をホールドする、鉤爪の間合いからも外れ、鉤爪の男を拘束しながら嗜める。
〈ソノ怒リハ“レオン”ト“鬼龍”ニブツケルンダ!アノ侵入者ノセイデオ前ハソンナニモ苦シンデイルンダ!〉
〈チクショウ殺ッテヤル!“レオン”ト“鬼龍”ヲ殺ッテヤルゼ!!〉
〈ゴホウコクダア!シンニュウシャガミギノモンヲヒライタア!〉
〈ヨシッ 侵入者ヲブチ殺セェ!“ガラドール”ヨ!〉
〈侵入者ヲ殺セレバ“女スパイ”ノ方モオ前ニ殺ラセテヤル! イケーッ!〉
〈 オ オ オ オ オ オ オ オ ッ ッ !〉
大気を震わす咆哮を上げて鉤爪の男、教団の生み出した生物兵器ガラドールは雷鳴の如く駆け出した。周囲には突風が巻き起こり、ガラドールの通ったあとに残像を残すほどの速度。
〈ヨシッ オ前達モイケーッ、ガラドールヲサポートスルンダアッ〉
〈ハイデース〉 〈イキマース〉
また新たにガシャガシャという音が鳴り、ガラドールとは別の影が六つ。それは甲冑を纏った騎士だった、それぞれが剣や斧槍で武装しており、見た目だけなら古風だが正当な騎士団に見える。
だが城から来たこの甲冑騎士達も勿論尋常の存在では無い。
黒光りする甲冑に金色の装飾、頭には赤い尾羽根をつけた騎士、一人だけ豪華な装飾の甲冑騎士が他の銀色の甲冑騎士達を率いて進軍を開始した。
城と村を繋ぐ懸け橋を渡り、村の閉ざされた門を越え、迷うことなく崖下の道を目掛けて。
そして時は戻り崖下の道を行くレオン達─
「しゃあっ 武器商人流 R.P.G!」
武器商人の掛け声と共に担いだ筒状の物から煙が巻き起こった。それは一直線に目標へと飛来する、その様はまさに地上を飛び交う鉄の彗星。
それの標的となった灰肌の巨人、村に残されたもう一体のエルヒガンテは弾頭に直撃、そして起こる莫大な破壊のエネルギーを内包した大爆発により吹き飛ばされて倒れ伏す。
教団の指示の下、崖下の道でレオン達を待ち構えていたハズが開戦と同時に繰り出されたロケットランチャーの一撃がすべてを終わらせた。
「たった一撃でダウンなんて少し残念です、生物兵器と言っても近代兵器の破壊力には敵わない…」
そう呟く武器商人の顔は酷く満足気だった。
「おいっ 倒し方が分かってるんだからまだ残しておけよ!」
「馬鹿め…温存という言葉を知らんのか…」
「支配種との戦いに使うって話だったろうがよ!」
「武器商人は短気で欲望的や、武器を振るいたい衝動には打ち勝てん」
「ま、まぁお陰でここは楽に通れるんだし…そんなに言わなくても……」
「ワシもそう思う」
「生きて帰れるならなんでもいいですよ」
武器商人への抗議の声と擁護の声が入り混じり、レオンがため息をついて思考を切り替える。そして先に進もうとしたその時、
「ほう、タフだな 怪物」
前方の道を塞いだ巨影、肉体が焼け焦げ、欠損しながらもエルヒガンテが立ち上がる。死に瀕した状況と裏腹にその顔は激しい憎悪に染まっていた。
「やはり寄生体を破壊しなければ死なないか!」
「いや、流石にもう死にかけだぜ、このままトドメを刺すぞ」
エルヒガンテはまだ辛うじて動く右腕に力を込めて振り抜こうとする、しかしその背後から凄まじい速度で何かが迫り来た。
それはその勢いのまま高く飛び上がる、それは立ち上がったエルヒガンテの全長に追いつくほどの高さ。
レオン達は一秒にも満たない一瞬、それの姿を見た、人形のそれと、その腕の先から伸びる4本の鋭利な刃を。
人型がエルヒガンテの背中に高速で飛び乗ったと思えば鮮血が吹き出してエルヒガンテの猛る殺意と闘志が消え去った。
うつ伏せとなり、土埃と振動を起こして倒れるエルヒガンテ。その背に降り立った様な体制の男、レオン達が見た鉤爪はエルヒガンテの背の傷跡、施術によりプラーガを埋め込んだであろう箇所に深々と突き刺さっていた。
その鉤爪を引き抜いて、もう動かないエルヒガンテから降り立つその男。その両目は縫い合わされていた、だというのにレオン達の方にハッキリと顔を向けていた。
〈殺ラセロ、速ク殺ラセロ…〉
「おい、今度はなんだ」
「コイツは…ガラドールか!コイツも封印から解かれたってのか!」
「しかもそれだけではないようだぞ」
「ねーっなんなのこの音」
突如エルヒガンテにトドメを刺して現れたガラドール、その背後から崖下に差す影に黒く染められた甲冑の騎士達が鉄製の歩行音を鳴り響かせ数人現れた。
「今どき騎士気取りか…いや、騎士“モドキ”と言うべきか?」
「アシュリーを連れて下がっててくれ!」
「気をつけて!レオン!」
「あううっいきなり始まるのか!」
「様々な怪物が練り歩くモンスター・ロードでやんす!」
〈 ウ ガ ア ア ア ア ! 〉
ガラドールが殺意のままに一直線に突貫する、最初にその標的となったのはレオン。突き出される右腕の鉤爪をステップで回避する、その流れのままに戦闘が始まった。
「コイツは任せろ!鬼龍!お前はあの騎士の方を!」
「レオンよ、この俺に指図が出来ると思うなっ」
甲冑の姿に似合わず機敏に切り掛かった騎士の長剣を躱した鬼龍、そのまま半回転して回し蹴りを繰り出した。
切り掛かった騎士を吹き飛ばす、その騎士の胴の甲冑はまるで砲弾を受けたかのように大きく凹みひしゃげていた。
「せいぜい手早く終わらせろレオン、こっちは長くは掛からんぞ」
「もうこの木偶共の正体は見たり」
迫りくる騎士達を前に、鬼龍があの昂る悪鬼を思わせる冷たくも獰猛な笑みを浮かべた!
◇騎士の正体とは…?