思い出すために原作ゲームをもう一度始めてみた
その結果 やはり名作を超えた名作だとわかった
村中央の広場での激戦を終えた鬼龍。
その前に現れた大統領が派遣したエージェントだと言う金髪の男。レオン。
今その男は他の人間と通信で会話していた。恐らく今回の任務を担当する司令部の者と情報を共有し、現状の報告をしているのだろう。
それが終わるのを黙って待つ鬼龍。
鬼龍は本来他人に合わせる様な人間では無い。
ましてや命令に大人しく従うなどあり得ない。
しかしレオンのことなど気に留めず一人で奥に向かっていくと思われた鬼龍は以外にも通信が終わるのを待っていた。
鬼龍の中にある考えがあった。
(アメリカ秘蔵のエージェント…如何程の物か)
鬼龍は傲慢で凶暴邪悪、しかし同時に強さを追い求める一人の武人でもあった。
見ればかなりの訓練を積んだ肉体とこの状況で少しの気後れも無いその精神。
鬼龍はこのレオンという男の実力に興味が湧いたのだ。
いつもならすぐにでも襲い掛かった所だが今は状況が違う、実力を見るだけなら相応しい環境が既に整っている。
(これもまた一興よ)
それに行動を共にするのだから戦いたくなればいつでも仕掛けられるというわけだ。
「これから救出対象の捜索を始める……取り敢えず味方で良いんだよな?」
通信が終わったのかレオンが鬼龍に話し掛ける。
「取り敢えずは、な」
鬼龍は不穏な笑みを薄く浮かべてそう答える。
何やら含みのある言い方が気になるレオンだったが、人質救出が最優先のため早速探索を始めた。
まずはじめに調べたのは先程村人達が入っていった協会への扉。
協会のシンボルだろうか、見たことのないマークの描かれた鉄製の扉だが鍵が掛かっており開かない。
「クソッ 他の道を当たるか」
悪態をついて広場の奥、協会から左の道に向かうレオン。
鬼龍もそれに着いていく。
鬼龍はその気になれば鍵の掛かった鉄扉をどうにかするのも不可能ではない。
それをしないのはその方が鬼龍にとって望んだ展開になるからだ。
鬼龍は膨大な戦闘経験から離れた場所の張り詰めた空気を、つまり戦闘の予兆を感じ取ることが出来る。
それが今進んでいる道の先から感じられるのだ。
早くも先頭を行くこの男を試す機会が訪れたと言うわけだ。
そうして辿り着いたのは農場だった。
柵で囲まれた私有地の中には牛や鶏。
家が一軒と納屋と小屋が一軒ずつ。
北側には風車がそびえ立っている。
「何処か進める道が無いか探すぞ」
探査を始めたレオンに鬼龍は短く返事をする。
「ああ」
今、レオンの近くにある納屋の中に敵意を抱く何者かが潜んでいるのを鬼龍は既に察知していた。
レオンが吹き抜けの納屋を通って先に進もうとしたその時
〈バアッ チョウキケンセイブツ ガナード デエース!〉
〈ハーッ ヨソモノヨ シネ!〉
納屋の両側の影に隠れていた二人の村人が左右から同時に奇襲を仕掛けた!
片方は鋤を手に、もう片方はカマを手に攻撃する。
完全に意表を突いたかに思えた次の瞬間、なんとレオンは突き出された鋤を後方転回 俗に言うバク転で躱したのだ!
そのままカマの間合いからも外れるレオン。
素早く拳銃を抜き放ち発砲、鋤を持った村人の頭部を正確に射抜き絶滅させる。
だがその一瞬の隙を突いてもう一人の村人がカマを投擲する。
今度こそ完全に不意を付いた村人の会心の不意打ち。
それを胸元に仕舞われたナイフを素早く抜き放ち容易く弾くレオン。
カンッと金属質な音を立てて地面に落ちるカマ。
驚愕の言葉を村人が口にするより速く接近する。
足払いを仕掛ければなんの抵抗もなく仰向けに転倒。
その勢いのまま飛び上がり、手にしたナイフに落下の速度を乗せて村人の眉間に深々と突き刺した。
時間にして十秒も立たないうちに戦闘は終わった。
「ほう…エージェントというのも鈍間ばかりでは無いらしい」
鬼龍が先程まで敢えて鳴りを潜ましていた傲岸不遜を顕にしてレオンに話しかける。
「……コイツらが居たのを知っていたなら、何も黙って見ていること無いんじゃないか?」
批判的な感情を込めて答えるレオン。
「試したのさ 目に付いた生徒に問題を解かせる教師の様な気分でね」
鬼龍のあんまりなその物言いに流石に何か言いたかったレオンだが、ここで言い争っていい事は起きないと開きかけた口を塞ぐ。
それよりも気になるのは村人達の様子だ。
「コイツら、やはり普通じゃないな」
もう動かない村人の側でしゃがみ込んで観察する。
「変なクスリでもやっているのか、洗脳か 人の理性を奪う方法ならいくらでもある」
そう答える鬼龍。実際に彼も過去に一人の人間を特別な施術によりまるで獣のように豹変させた事がある。
だがレオンには別の仮説が浮かんでいた。
過去にこれと似通った現象を見たことがあるのだ。
ドラッグでも洗脳でもない。人が理性を失い本能のままに他人を害するこの現象を。
「ゾンビ…またウィルスの感染が…?」
消え入りそうなほど小さく、自然と口に出たその呟き。
しかし鬼龍の研ぎ澄まされた五感は平常時にもその効果を発揮し、言ったか言わないかなのその呟きをしっかりと捉えた。
「ゾンビ?ウィルスだと?……まさかお前は」
鬼龍の超人的な頭脳は過去の記憶から瞬時にそのワードに合致する自分が知っている事件、現象を検索にかける。そしてほんの僅かな時間のうちに答えに辿り着いた。
「……そうだ、俺は6年前のあの事件の生き残りだ」
「ラクーンシティか」
それはレオンにとって忘れたくても忘れられない、悪夢のような過去。
6年前、アメリカで世界を揺るがす大事件が起きた。
大手製薬会社アンブレラ社によるウィルスの漏洩。
街のインフラや機能はすぐに破壊され尽くし、感染は留まるところを知らず多くの死者を出した。
極めつけは感染の封じ込めは不可能と判断したアメリカ当局による、自国の領土へのミサイル攻撃。
街を文字通り消し去る事で感染拡大を防ぎ、事態は収束。
その発端であるアンブレラ社は現在倒産している。
正しく悪夢としか形容出来ないその事件だが、運良く街から脱出できた生存者達も存在した。
つまりレオンもその内の一人というわけだ。
しかし話はこれで終わらない。
「アンブレラによるウィルスの漏洩、感染拡大、ミサイルにより街は消滅、今では誰もが知っている大事件だ」
鬼龍が確信を持った目をレオンに向けながら話を続ける。
「面白いのは生き延びた生存者達がある証言を残している。」
「街を死人が闊歩し、生きている人間を襲っていた…とな」
「………………」
「貴様の反応を見るに噂は真実だったわけだ 漏洩したウィルスはただ人を死に至らしめるだけに及ばず、生ける屍であるゾンビを生み出しソイツらが人を襲い更に感染を拡める」
「貴様はそれらと戦い、生き延びた 死人のようなこの村人共を見てその記憶を思い出したか」
そう結論付ければ確かにこの村人達、理性も無く自我も無く、人を襲い殺し、人間らしさはおおよそ服装のみ、まるでマネキンの様な生気のない顔からは何の感情も読み取れ無い。正しくゾンビと呼ぶに相応しい存在だ。
「………まだこの村があの街と同じだと決まった訳じゃ無い、先に進もう」
レオンは話を切り上げて奥へと進む。彼にとってあの街の記憶は生涯切り離すことの出来ない悪夢なのだ。
鬼龍は合点がいったとその背中を見やる。
レオンからはその経験や精神以上に強力な何かを感じる。
それは意思だ 必ず生き延びる、必ず目的を果たすという強靭な意思。
それは訓練や鍛錬をいくら重ねても手に入らない。
身も凍るような死線を前に奮い立ち、乗り越えた者にのみ備わる物。
疑いようもなく、地獄と化したあの街で彼はそれを手にした。
(地獄からの生還者か 面白い)
鬼龍も同じく村の奥へと歩を進める。
そうして行動を共にする鬼龍とレオン。
方や国に仕え、正義を胸に戦うエージェント。
方や誰にも従わず、全てを嘲笑する悪逆の武闘家。
正反対の様なその二人は今─
「フハハハハ!何処までも楽しませてくれるわっ」
「おい、笑えないぞ!」
背後から迫りくる大岩から全力で逃げていた。
農場を抜けた先、坂道を進む途中に背後の崖上から村人達が数人がかりで巨大な大岩を押し動かしたのだ。
大岩は自然の力に逆らうことなく坂道をどんどん速度を増して駆け下りる。
人間が巻き込まれたら即死は免れぬその大岩に追いつかれまいと走る二人。
やがて二人は身を躱せるだけのスペースを坂道の左側に見つける。
「今だ!」
「はあっ」
二人は同時に左に飛び退き、そのスペースに体を滑り込ませた。
大岩は二人を通過し、その先にあるトンネルのような通路の入り口にぶち当たり轟音を立てて砕け散った。
「危なかった…!危うく潰されてたぞ」
「生きるか死ぬか、ギリギリで生きるから人生が面白いのよ!」
「狂人と二人きりとはな」
何とか無事に済んだ二人はトンネルの様な通路を進む。
通路を出た先には朽ちかけた民家が数軒。もう使われていない廃村だろうか。
その廃村を進めばやはり村人の襲撃に合う。
罠を仕掛け、物陰に潜み、爆薬まで使って侵入者を始末しようとする村人達。
そしてそれを傷一つ負わずに切り抜けるレオンと鬼龍。
鬼龍はその間もレオンの実力を推し量っていた。
罠があれば素早く察知し無効化する。
待ち構える者の僅かな気配を読み取り対応する。
爆薬を使われた時など、敵が手にした爆薬を投擲する前にそれを撃ち抜く。そして爆発が起き周囲の敵諸共吹き飛ばす。
鬼龍はレオンの確かな実力を改めて認識する。
そしてそんな彼を形作ったであろう、あの街での事件を想像する。全神経を研ぎ澄まし、ただの一度も判断を誤らない。
きっとそうではなければ生き残れなかったのだ、地獄と化したあの街は。
そうして進むうちに廃村奥の一際大きな民家が現れる。
入り口の鉄製ドアには南京錠が掛かっている。
そのドアに徐ろに近づく鬼龍。
まるで道端の小石を戯れに蹴るかの様な自然な動きで南京錠を蹴り上げる。
すると南京錠はあっさりと破損し宙に飛び上がった。
「ククク、鬼が出るか 蛇が出るか、だ」
民家に足を踏み入れる鬼龍とそれに続くレオン。
その内部はやはり普通の民家とは言い難かった。
家の中だと言うのに設置された爆破装置付きのワイヤートラップを掻い潜り、棚で隠されていた隠し通路を見つけて奥に進む。
そうして付いたのは行き止まりの部屋、目の前の大きめの衣装棚以外には何も無い。
問題なのはその衣装棚がガタゴトと音を立てて揺れ動き、中からうめき声の様な物が聞こえるのだ。
衣装棚の中に誰かがいる。
もっともこの村ではそれがマトモな人間である保証は無い。
二人は互いの目線を合わせ、何も言わずに行動に出る。
レオンが衣装棚の取手に手をかける。そして背中を開けようとしている衣装棚のドアに張り付けた。中にいるのが何者であれ、この体制で開ければ中にいるものからは死角となり突然の奇襲にも出遅れることはない。
鬼龍は衣装棚の正面に立つ。一見無防備に見えるがその実、鬼龍には一部の隙もなく、例え開かれた衣装棚の中から銃弾が飛んでこようとも躱してみせるだろう。
意を決して衣装棚を開くレオン。
その瞬間、中から何者かが飛び出して床に倒れた。
すぐさま拳銃を向けて警戒するレオン。
ただ黙って視線をその人物に向ける鬼龍。
それは両腕を縛られて、口はテープで塞がれた一人の男だった。
男は二人を見るや何やら声を発する。
しかし口がテープで塞がれているので何を言っているかわからない。
しかしその様子はどうやら村人達とは違うようだ。
取り敢えず口のテープを勢い良く剥がす。
ベリィッという音と共にテープが剥がれ、痛みから男の苦悶の声が漏れ出す。
「あうっ 剥がすときはもっと優しくしろいっ!」
抗議の声を上げたその長髪の男。
まだ縛られた両腕はそのままに鬼龍が尋ねる。
「お前は何だ」
「俺はルイス・セラ なぁ煙草はあるか?」
自分の名を答えたルイス。意思の疎通が出来る事から取り敢えず正気は保っていると判断したレオンがナイフで縄を切ってルイスの拘束を解く。
「煙草は持ってない、それとここで何をしている」
「あーっ?それはだなあ…」
レオンの問い掛けに何処か歯切れの悪い調子で言い淀むルイス。
やはり何かこの村に関係があるのか 更に質問を重ねようとしたその時、複数の靴音が背後から響いてくる。
「そうだっ まだアイツが近くにいる!」
ルイスが急に立ち上がり、ハッとした様子で叫ぶ。
その言葉と同時にレオン達の前に数人の村人が現れる。
そして村人達の背後に立つ人物。長身の鬼龍を遥かに超える体格の黒いコートの大男だ。頭は禿げ上がっており髭は胸元にまで伸びている。左右の瞳の色が別々で、よく見れば片方は義眼だ。
その男の登場により辺りの空気が格段に張り詰める。
その場の3人の反応はそれぞれだ。
この男の正体を知っているのか、危機感から顔をしかめるルイス。
今まで打ちのめした達人と呼ばれる者達よりも遥かに強大な黒コートの大男の人間離れとしか言いようない実力を一目で読み取り、嗤う鬼龍。
その風体、黒いコートと巨大な体格、禿げ上がった頭に何も移さぬ仮面のような表情から過去の忌まわしき記憶の一部が刺激されより警戒心と集中を研ぎ澄まし構えるレオン。
3人全員からの視線を浴びた大男が口を開いた。
〈カモがネギしょってやってきたぜェ グヘヘヘへへ〉
◇次回…何が始まる…!?