TOUGH DEVIL HAZARD   作:ポジョンボ

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第22話

 

 

 

 「なんだあ、今度は屋外かあ?」

 

 「テラスと廊下が一体になってるみたいね」

 

 

城内サロンを抜けた先には夜風が吹く夜の屋外が広がっていた。屋外に作られた石造りの廊下が月明かりに照らされて微かな青を映す。

 

手の込んだ大理石の噴水にはカラスが何匹も止まり、不吉な印象をもたらすオブジェと化していた。

 

 

 「敵の気配は無いが気を付けろよ」

 

 「あぁ、どうせまた碌でもない罠でもあるに決まってるぜ」

 

 

 

その屋外廊下を進んでいく4人、そうしていればやはり普通ではあり得ない光景が見えてくる。

 

それなりに長かった廊下の最奥、恐らく城内へと戻る入り口にはその行く手を閉ざす分厚い石壁、そこに掘られた円形の窪みの意味はもはやすぐに理解できた。

 

 

 「たっく…また仕掛け扉か」

 

 「笑えるな、チャチな仕掛けであの化物共は理知的に足止めをしているつもりなのか」

 

 「この丸い窪み…間に溝がある、恐らく2つの装置を組み合わせて作動させるものだ」

 

 「となるとその装置って…」

 

 

 「あぁ、多分彼処にあるんだろう」

 

 

レオン達は眼下に広がる景色を見下ろした、レオン達の立つ屋外廊下の下、仕掛け扉付近の階段を降りれば行けるその場所はこの城に似つかわしく無い生命の緑で満たされていた。

 

 

 「あれは…中庭、なの?」

 

 「中庭というよりもはや小さい森だな」

 

 「確かに見える、欠けた月の紋章か…2つで円形の石板となりこの扉を開く鍵となるわけだ」

 

 「あ?見えるって…何処にだよ」

 

 「あの中央にある噴水だ、ご丁寧にわかりやすく彫像の真下に置かれている」

 

 「き、鬼龍…貴方ここからそれが見えるの?」

 

 「超人的な視力だな…ならやっぱりこの中庭に立ち入るしか無いってことか」

 

 

 

眼下に広がる生い茂る木々の群れ、そこから迫り上がった様に立つ石造りのアーチがあり、鬼龍の言う彫像とやらは中庭奥のそのアーチの真ん中に鎮座していた。

 

 

 「向こうの階段から中庭に降りれるみたいだな」

 

 「気乗りはしないが…行くしかない」

 

 

レオン達は屋外廊下の階段を降りて中庭に踏み入る、人工芝ではなく天然の緑で形成された地面に、人の身長を超える木々が壁のようにそこかしらに立ち並ぶ。

 

だが4人は理解していた、ここもまた血と臓物の匂いで満ちている。

 

心安らぐ生命の暖かさなど微塵たりとも存在しない、身震いするような不吉な冷気が充満している。

 

 

皆、無言でその中を進む、虫の鳴き声一つしない、夜の闇を吸って深い暗緑色となった木々が風に微かにざわめく音だけが聞こえる。

 

 

 「! なんだあっ」

 

 

その静寂を突如として終わらせる掠れた電子音、レオンの懐にしまわれた通信機からその音はなっていた。

 

取り出して通信を開始するレオン、その相手画面に写った顔は見知った司令部のものでは無かった。

 

 

 

 「クーククク 3人の信徒長まで倒すなど予想外の活躍ですねェ、だけどもう終わりですよオォ」

 

 

 「サラザールか…今度は何だ」

 

 

 「貴方達の居場所は解ってますよォ、ようこそ グリーン・ラビリンスへ」

 

 

 「グリーン・ラビリンス…?」

 

 「やっぱりこの中庭も罠だったか」

 

 「上から見ただけでもこの木々が壁の役目を果たし、中庭全体が迷路の作りとなっているのは解っていた」

 

 「さっさと役立たずのお仲間を差し向けたらどうだ」

 

 

 「まぁ焦らないで、そこから生きて出ることはできませんから、せいぜい恐ろしい地獄を楽しんでくださいよォ」

 

 

 

サラザールとの通信が切れたのを合図とするように、先程までの静寂が消え去った。木々のざわめきは荒々しく膨れ上がり、そしてその間を駆ける何かのハイテンポな足音、レオン達4人を既に取り囲んでいるのか、四方から聞こえてくる多数の獣の唸り声。

 

 

 「こ、この声は…?」

 

 「まさかこれは…!」

 

 

とうとう木々の向こうからその正体が迷宮の壁を超えて姿を現した!4足の足に剥き出しにされた鋭い犬歯の行列!

 

 

 〈グルアアアア!〉

 

 

 「犬だあっ」

 

 「コイツは…コルロミス!既に囲まれている!」

 

 「え…?きゃああっ」

 

 

背後の木々からも次々とコルロミスが飛び出してレオン達を囲い出す、その内の一匹が本能のままに目についた獲物、アシュリーに牙を尽きたてんと飛び掛かる。

 

 

 「アシュリー!」

 

 「失せろクソ犬」

 

 

だが当然そんなことは鬼龍が許すはずもなく、カウンターの形で飛びかかったコルロミスの顔面を蹴り抜けばコルロミス自身の攻撃で乗った速度も加わり骨が砕け、眼球が破裂して飛び出した。

 

現れた他のコルロミス達は目の前で仲間が惨殺されようともいささかも殺意を衰えさせない、まるで気にも止めずその血走った眼光をレオン達に向けている。

 

 

 「うあああ!凄い数の犬が集まってくるわ!」

 

 「気を付けろよ!コイツらプラーガの触手を鞭かわりにして攻撃してくるぞ!」

 

 

 「しかもそれだけで無いようだぞ」

 

 

続々と集結するコルロミスの群れとは別に、目指すアーチの方角にある錆びた鉄柵の門を蹴破り、芝を踏み荒らして新たに戦場に参戦する影が複数。

 

 

 〈バアーッチョウキケンブタイ シニガミシントグンデェース!〉

 

 

信徒長に次ぐ階級を表す紫のローブを纏った鉄仮面とフードの軍団、全員が身の丈ほどもある草刈鎌を振り上げで突撃する様は正しく慘死をもたらす死神の群れ。

 

 

 「円形に陣を!」

 

 

咄嗟の号令でアシュリーを中央に囲んだ三人による円形の防衛陣が引かれる。集結したコルロミスと大鎌の信徒達もすぐには襲いかかる事なくジリジリと取り囲む姿勢にでる。

 

 

 〈ウグルルルル〉

 

 〈殺ラセロ ハヤクヤラセロ〉

 

 

 「クソっ、信者はともかく犬どもが厄介だぜ」

 

 「動きの初動を逃すな、必ず攻撃の際に意識が強まる瞬間がある」

 

 「ううっ…今にも来そうよ」

 

 

睨み合いが始まって数秒、とうとう膨れ上がる殺意を抑えきれなくなった信徒達がついに動き出した。

 

 

 〈シャアッ〉

 

 「なにっ」

 

 

紫ローブの一人が手にした草刈鎌を投げ放った、円を描き回転する刃とかして草刈鎌がレオン達に迫りくる。

 

 

 「奇襲のつもりかあっ」

 

 

すかさずレオンがハンドガンを3発発砲、カァンという金属への衝突音を鳴らして迫る草刈鎌の一撃を弾いて地面に落とす。

 

しかしそれで終わりではない、冷静に殺意を滾らせていたコルロミス達がその一瞬を好機と見て一斉に疾走を開始する。瞬く間に地を駆けてレオン達の陣の下へと到達する。

 

 〈ガウウウッ〉

 

 

 「しゃがめ!」

 

 

鬼龍の低く威圧に満ちた言葉が響く、勿論それで敵を怯ませようとしているわけではない。その発言に考えるより速く体を反応させて全員が姿勢を下してしゃがんだ。

 

 

 「灘神陰流 “鷹鎌脚”」

 

 

ヴェルデューゴとの戦いで見せた技、空中に飛び上がって放つ回し蹴りがしゃがむレオン達の真上を通過し、飛び上がって襲い来るコルロミス達だけをまとめて蹴り飛ばす。

 

横合いから予想外かつ強力な一撃を受けてコルロミス達の幾匹かはそのまま絶命し、そうでない個体も吹き飛ばされて地面に倒れ藻掻く。

 

 

 「今だ!」

 

 

今度はレオン達が好機と見、すぐさま体制を正してハンドガンを発砲、弱ったコルロミスや唖然として立ち竦む信徒達の急所を的確に撃ち抜いて撃破していく。

 

 

 〈デェーッエエキニナルナッ〉

 

 

数の減ったコルロミスを押し退けて草刈鎌の信徒達が突撃する、同様から回復したコルロミス達もその背後で奇襲の機会を見定めんと構えている。

 

 

 「コルロミスとやらに注意しろ!隙を見て飛びかかるつもりだ!信者共は手早く倒すぞ!」

 

 「フン、サラザールめ、こんな程度の低い罠であれ程粋がっていたとは滑稽だな、さっさと片付けてしまうか」

 

 

互いの怒号と叫びが飛び交い戦闘が更に苛烈に加速する、恐怖を知らぬ狂人が互いを肉壁として浴びせ掛けられる銃弾を抜けてくる、その脇を追従する形でコルロミスが襲う。

 

 

しかしながらその連携も次第に見切られ、戦況はレオン達の優勢という形へと変化していく。

 

信徒達が銃弾の雨を辛くも抜けようとも待っているのは悪魔を超えた悪魔の洗礼、コルロミスも同様で優れた射撃能力を持つレオンとルイスの前に倒れる。

 

 

 「おおっ 効いてる、効いてるわ!」

 

 

正確無比な銃撃の先には超人の絶技が吹き荒れる、二重の鉄壁とかした陣形の前に数の差は無力。

 

それでも木々の迷宮を生かして壁から壁へと移動して背後を取るなどして隙を突かんとするもそんなものに惑わされるレオン達では無い。

 

 

やがて信者は全滅、コルロミスも残りわずか数匹となった、不利を悟り残ったコルロミス達は捨て台詞のような短い唸りを残して木々の向こうに消えていった。

 

 

 「……終わりか?」

 

 「あぁ、気配が離れていく」

 

 

先程までの静寂が再び舞い戻る、しかしその冷え切った不穏な気配は些かも衰えず。今だ死を予感させる何かの気配がそこにはあった。

 

 

 「おい、レオンよお」

 

 「あぁ…まだ何かいるな」

 

 「この気は…そうか、貴様か」

 

 

鬼龍が辺りを満たす冷気の発生源を探り、感知した場所は両側に階段のついた石造りのアーチ、その頂上たる踊り場。

 

そこに立ち、眼下のレオン達も見下ろした発光する2つの眼光、艶のある漆喰のような黒と金属のような光沢が混ざりあった外皮、剥き出しの頭蓋のような顔と2つに別れた下顎。

 

首から下を包む真紅のローブは暗闇に映り赤黒く見える。

 

 

 「クーククク、気ガ付イタカ」

 

 

水の間で鬼龍と互角の激戦を繰り広げ、連携により退けるも取り逃がしたその怪物。

 

城主たるサラザールの腹心にして護衛、その片翼。

 

生物改良実験による傑作、この城の最高戦力であるヴェルデューゴがそこにいた。

 

 

 「あ、アイツは何なの…?」

 

 「プラーガ実験体の完成例だ、気を付けろ嬢ちゃん、今までの連中とは別次元の強さだぞ!」

 

 「それにしたってお早い再会だな、鬼龍はどうか知らんが、少なくとも俺はもう会いたくはなかったが」

 

 

 「楽シンデ処刑スルト言ッタダロウ、ナカナカ面白イ余興ダッタゾ」

 

 「ソシテ…探シモノハコレカナ?」

 

 

ヴェルデューゴがローブの懐から取り出して見せたのは2枚の欠け月を象った石板、月明かりが指に挟さまれたその石板を詳細に見せる。

 

 

 「ありゃあ…仕掛けを動かす石板か!」

 

 「戦いの最中に回収したのか、厄介なマネを…!」

 

 

 「そうか、始めから見ていたというわけか、それで?次は貴様が相手か またブチのめされたくなってノコノコ現れたというのか」

 

 

 「強ガルナ、オ前等ノ連携ナド、コノ グリーン・ラビリンスヲ利用シテ戦エバ脅威デハナイ」

 

 「サァ冷徹ニ一人ズツ始末シテヤロウ」

 

言い終わるとヴェルデューゴは石板を仕舞い、背面跳びのように背後へと前を向いた姿勢のままに跳躍、空中で一回転しその下の中庭へと降り立った、着地したその姿はレオン達からはアーチが邪魔をして見えない。

 

 

 「マズい、来るぞ!」

 

 「低姿勢のまま木に隠れて奇襲するつもりだ!」

 

 「どうする!さっきの奴らとはワケが違うぞ」

 

 「あ!あそこ!あの橋の上に避難するのはどう?」

 

 

アシュリーが指差した方向にはヴェルデューゴのいたアーチとは別の、反対方向にあるアーチが。

 

踊り場の噴水や彫像は無いが辺りを見渡す事が出来る広さがあった、少なくともどこから攻撃が来るか解らない今の場所よりかは安全だと判断したのだ。

 

 

 「よし!彼処に移動するぞ!」

 

 「走れ!」

 

 

号令と同時に全員が駆ける、アシュリーを置いていかぬよう注意をはらいながらも出せる最高の速度で安全地帯へと向かう。

 

幸いにも目的地のアーチまでの道は入り組んではおらず、すぐにアーチ踊り場へと登れる階段が見えてきた。

 

 

 「見えたぞ……なにっ!」

 

 

しかしそれを黙って見ているほど敵も甘くない、ヴェルデューゴの発達した五感はレオン達の会話も足音の位置も全てハッキリと捉えていた。

 

真紅の残像を残し、まるで地面を滑るような無駄のない滑らかかつ俊敏極まる動きでヴェルデューゴが追い縋る。

 

 

 「マズ一人目」

 

 

その腕を振り上げ、長い袖の奥に隠された鋭利な五本の凶器が鮮血を吸おうと煌めき出す。

 

 

 「その前に俺がグッチャグチャにしてやるよっ」

 

 

その疾駆する死神の影に割り込んで一撃を与えるは悪魔を超えた悪魔、鬼龍!

 

振り抜かれんとしたヴェルデューゴの右腕を真横から割り込んで蹴り上げる。的確に肘関節の曲げられぬ角度から衝撃が加わるように狙い澄まされたその一撃。

 

ヴェルデューゴの鋼並みの強度の腕が、関節を極められたかのように真っ直ぐ伸びて肘関節がミシミシと嫌な音を立てる。

 

 

 「グギギ…」

 

 

奇襲を与えるつもりが予想外の反撃を受けてヴェルデューゴが怯む、その1秒にも満たない僅かな瞬間も、鬼龍にしてみれば間合いを詰めるのに充分すぎる。

 

すぐさま攻撃の姿勢へと移りだす。

 

 

その場で地を震わせる強い震脚!

 

肩をねじり、溜めたそのエネルギーは腕に伝わり更に強いねじりとなって腕の先端へと巡っていく。

 

震脚のエネルギーがそこに加わり、全力で突き出された掌に一撃絶命の必殺が宿る!

 

 

 「灘神陰流 “破心掌”」

 

 

 「ハウッ」

 

 

鬼龍の破滅的威力の掌打がヴェルデューゴの胸を打つ、無論ただの掌打では無い、直撃した箇所の奥には正確に心臓が位置し、波動系の打撃であるソレは肉体的強度を無視して内部の心臓にダメージを与える。

 

 

 「ウグウッ…」

 

 

 「過剰な殺意は気を半減させる、これを気殺という」

 

 「貴様らは戦闘時に増大した殺意に振り回されて気の流れが乱れている」

 

 「それに強固な肉体を過信するあまり防御の意識に乏しい、意識の籠もらぬ部位というのは実に容易く破壊できる」

 

 「いわゆる波動系の打撃、内部破壊の気の攻撃…灘の技にとって貴様らの肉体的強度など何の強みにもならん」

 

 

 

 「…………」

 

 

 「だが感謝するぞ化物、貴様らのおかげで灘の技が人外にも有効だと証明された」

 

 「喜べ、お前は俺の糧となれるんだ、より強い存在を昂らせる贄となれるんだ、光栄に思いながら死ぬがいい」

 

 

 

 「……言ウコトハソレダケカ」

 

 

怯んで俯いていたヴェルデューゴが静かにゆっくりと体勢を立て直して立ち上がる、破心掌のダメージから回復したのか、胸を抑えるように添えていた右手を離す。

 

 

 「ヒャハハハ 面白イゾ鬼龍ッ ソノ灘ノ技トヤラゴトブッ潰シテヤロウカアッ」

 

 

一瞬にして闘気を爆発させて全身に滾らせたヴェルデューゴが吠える!今までの冷徹な殺意が消え去り、ヴェルデューゴとなる前の人間的な闘争心が再び顔を見せた。

 

 

 

 「俺ガ糧ダト!?戯言ハアノ世デホザケーッ」

 

 

 「はーっ!戯言かどうかいっぺん実現してやるわっ」

 

 

両者が再び激突する、死神の如き怪物と悪魔を超えた悪魔。

 

人の理を超越した2つの魔が骨肉を合い食み、殺し合う!

 

中庭を照らす月が一際明るい月光でその戦いを照らしていた、それはまるで夜に巣食う何かが両者の戦いの行く末を眺めているようだった。

 

 




◇戦いの火蓋が…!
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