TOUGH DEVIL HAZARD   作:ポジョンボ

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お前の城主は病で死ぬべきだった卵アレルギーの三流脚本家!


第26話

 

 

 

 

 「いい加減決着を付けてやる、ヴェルデューゴ」

 

 

悪夢の養殖場へと続く廊下に立つ鬼龍、城主の腹心ヴェルデューゴと三度対峙する、既に両手はポケットから抜かれ、無防備に見えるもその実一切の隙が無い。

 

構え無くして構え有り、無構えという拳の極意。

 

 

 

 「…イイダロウ、鬼龍、余興ハモウ終ワリダ」

 

 

 

ヴェルデューゴもそれに応えた、片手でローブの肩口を掴み、勢いよく振り払うようにローブを引きちぎって投げ捨てる。

 

露出したのは文字通り鋼のような質感の肉体、光沢を持つ黒光りしたその肉体にはやはり毛や皮は無い、どんな衝撃にも耐えうる無敵の甲殻で守られている。

 

ナイフと化した指の鉤爪、直立二足の人間に似た骨格だが手足のリーチがまるで違う、背中の腰辺りから伸びる鞭と刃が混合したかの様な尾。

 

 

どれ一つとっても人一人簡単に殺傷できる機能を搭載された紛う事なき戦闘生物、この世に生息するほぼ全ての猛獣を一方的に惨殺できる能力を持つ。

 

 

 

 「全能ノ主ヨ、冒涜者ノ死ヲ今、捧ゲン…」

 

 

 

前屈みのような上半身の姿勢を低くした構え、瞬時に敵の懐や死角に滑り込み、凶器と化した全身で切り刻むヴェルデューゴの戦闘姿勢だ。

 

 

 「ハーッ 鬼龍ヨ 死ネェ!」

 

 

全身に力を漲らせる一瞬の間の後にヴェルデューゴが動き出す、ハッキリとした残像を残すほどの速度で繰り出す連続のステップ。

 

その動作は相手の目にはまるで複数に分裂したかのように移るだろう、それでいて瞬く間に相手の背後へと本体は回り込む。

 

その状態から繰り出される右腕の一撃、最短最速で首筋を後ろから掻き切る無駄のない動作。

 

 

だがそれが空を切る、腕が鬼龍に触れた途端まるで空気に溶け込むようにその姿が消失する。

 

 

 「ナニッ」

 

 

 「こっちだウスノロ」

 

 

 

鬼龍もまた残像を残す回避で背後からの攻撃を躱す、それどころか逆にヴェルデューゴの背後に回り込み、振り向いたその頭部のこめかみに強烈な回し蹴りを食らわせる。

 

ヴェルデューゴの鋼鉄の外皮が僅かに軋む音を立てる、大きく仰け反り、数歩よろめいて後退した。

 

 

 「アグ…」

 

 「…ククク、デモ効イテナイヨォ」

 

 

 「ならさっさと来い」

 

 

ヴェルデューゴが体制を正して向き直る、その言葉通りヴェルデューゴの直撃を受けた顔面は無傷、昏倒や目眩も無い。

 

 

 「クーククク、コレハドウ対処スル 鬼龍!」

 

 

再度、ヴェルデューゴが高速で接近する、だが先程と違いその軌道にフェイントの動作は無い。人外の瞬発力で一直線に駆け抜ける、鬼龍の眼前まで到着するのに瞬きほどの時間も掛からない。

 

 

 「チェアーッ」

 

 

繰り出したのは何てことない両腕でのラッシュ、とは言ってもその速度、タイミング、殺傷能力共に人の枠を超え、マシンガンの掃射と同等の危険度だ。

 

しかしそれは鬼龍との二度の交戦で何度も見せた動き、鬼龍もなんなくそれを捌いていく、またぶつかり合う両者の腕が拳風を巻き起こし始めたその時、均衡が崩れる。

 

 

 「うぐっ」

 

 

鬼龍が後退した、ラッシュを捌いて反撃を叩き込む隙を生み出す筈が中断して飛び引いた。その胸と腹部のシャツが裂かれ、その下の肌から出血し、その服を赤く染めていく。

 

 

 「ハッハー、勝負アリダアッ」

 

 

高らかにヴェルデューゴが吠える、背から伸びる刃の尾、その刃物そのものな形状の先端から返り血が滴る、鬼龍のものだ。

 

 

 「オ前ガドレホド優秀ナ近接戦ノ達人ダロウト本気ニナッタ俺ノ攻撃ヲ防グ事ハ出来ナイ、オ前ガ人間デイル限リナ」

 

 「モウ解ルダロウ?俺ノコノ ブレード・テール ニハ人間ノ武術ナド無力ダ、俺ハ両手足ノ他ニモウヒトツ、自在ニ動カセル武器ヲ持ッテイルワケダ」

 

 「コレハ差異デハナイ、差ダ、手足ト組ミ合ワセテラッシュヲ繰リ出セバ人間ノ四肢ノ動キデハ防ギキルコトハ不可能、4対5…ドチラガ勝ツカハ明白ダロ?」

 

 

 

 「確かに強い、四肢と尾の連携が単純な手数の増加以上の戦力強化を齎している、よく出来た化物だと褒めてやる」

 

 「だが…それがどうした」

 

 

 「アン?」

 

 

 「それ程有利な肉体を持ちながら、俺の薄皮を裂いた程度で勝ち誇り何がしたいと言っているのだ、俺の命にはまるで届かんわ」

 

 

 「今度は此方の技を見せてやろう、覚悟するがいい」

 

 「貴様に冷気を打ち込んでやる!」

 

 

 

鬼龍が構える、無構えでは無く両手を開いて前に突き出すファイティングポーズ、無駄な力を抜いた特異な構えで敵を迎え撃つは灘神影流の妙技が繰り出される前兆だ。

 

ヴェルデューゴもそれを理解しながらも迷わず飛び掛かった、この連携を打ち破る事などあり得ないと確信しているからだ。

 

 

 

 「ハーッ ダッタラ今スグ殺シテヤルヨ!」

 

 「皮ト言ワズ、肉ト言ワズ、骨ゴト断チ切ッテヤルヨ、溢レオチタ臓物ヲノビスタドール共ニ食ワセテヤル!」

 

 「冷気ダト?ソンナモノガ何処ニアル、アーッ!?」

 

 

 

再び、激突する両者だったがその力の天秤は明らかにヴェルデューゴへと傾いていた。尾を交えたヴェルデューゴの本気のラッシュは鬼龍であっても捌き切る事は出来ない。

 

僅かに掠ったり、急所を逸れて軽くヒットする。

 

人間の武術家であればヒットポイントから外れたそれはダメージにならない、問題なのはヴェルデューゴの攻撃は全て日本刀の様な切れ味を持つ斬撃。

 

 

掠っただけの攻撃も鋭い切り口を残し、出血と痛みで体力と集中力を少しずつ奪っていく、鬼龍の体にはそんな傷が既に10箇所は刻まれている。

 

 

 

 「ぬうっ…!」

 

 

 「モウ楽ニナルガイイ、コノママ続ケテモ苦シミガ長引クダケダ、ドノミチオ前ノ攻撃デ俺ハ殺セナイ!」

 

 

 「どうかな、それは  はうっ」

 

 

辛くも致命的な直撃は防ぎ続ける鬼龍、だが遂にヴェルデューゴの払った尾の掬い上げる一撃が両腕を弾く、守るべき主要臓器の詰まった胴がガラ空きとなる。

 

 

 「終幕ダアッ 鬼龍ウゥッ」

 

 

その隙を見逃す筈もなく、掬い上げたその尾を一連の動作の様に追撃として突き出してみせたヴェルデューゴ。

 

その尾の刃は鬼龍の胴体を捉え、深々と突き刺さった。

 

 

 「ククク、正直ナ所、思ッタヨリ楽シメタゾ」

 

 

血が吹き出して床を染め始める、目の前の鬼龍は立ったまま俯いて動かない、やがて跪く様にゆっくりと倒れていくだろう。

 

 

だがそうはならなかった。

 

 

 

 「そうか…だったらもっと楽しくしてやろうかあっ」

 

 

 「!?」

 

 

 

鬼龍は生きていた、腹部にあれ程の大きさの刃物が捩じ込まれれば否応無しに精神論の入る余地も無く即死の筈。

 

 

 「キ、貴様!俺ノ尾ヲ掴ンデ!」

 

 

鬼龍は突き出されたその尾を右腕で掴んで逸していた、その尾は内臓を避けて鬼龍の胴に突き刺さっていた。

 

だが当然それはダメージを受けていない事にはならない、一度に大量の血を失い、激痛は呼吸のたびにその激しさを増し、さしもの鬼龍も息絶え絶えでいた。

 

 

 

 「そ、そう来るのは読めていた、よ、よほど自慢の尾らしいな…単純な化物め」

 

 

 「掴ンデドウナルッテンダ アーッ!」

 

 

 

直ぐ様その突き刺さった尾を引き抜いて戻そうとするヴェルデューゴ、その後トドメを刺すか、或いは引き抜いた傷口から血が吹き出してそれだけでトドメとなるかもしれない。

 

ヴェルデューゴのそんなその後の段取りは何方も起こらなかった。

 

 

 「ナニッ!ヌ、抜ケナイ!」

 

 

突き刺した尾が抜けない、鬼龍が全力の力を持って突き刺さった箇所に力を込めて筋肉を硬化させている、出血を防ぐと同時にその尾を万力で固定したかのように微塵たりとも動かさない。

 

 

 「ふ、深く刺しすぎたな…これで4対4だ…」

 

 

 「ハナカラコレガ狙イカ!?鬼龍!」

 

 

 「よく言うだろ、肉を切らせて骨を断つってなあっ」

 

 

 「デエーッ ソンナコト出来ル訳ガナイィッ!」

 

 

 

鬼龍がヴェルデューゴの尾を掴んでいた右腕を放し、両腕を技の構えに移行して放つのと、ヴェルデューゴが両手でトドメを差そうとするのは同時だった。

 

 

先に攻撃を届かせたのは 鬼 龍 ! 

 

 

 

 「灘神影流 幻魔拳其の弐 “大寒地獄” 」

 

 

 「カッ…!」

 

 

鬼龍の拳がヴェルデューゴの眉間を捉える、無敵の甲殻に覆われた筈の肉体が動きを停止させ硬直する。

 

 

 「ナ、ナンダ…動カナイ…コ、コノ痛ミハ…?」

 

 「火傷…!?チ、違ウ…コレハ…!」

 

 

 

拳が直撃したヴェルデューゴの顔面から表皮が焼けるジリジリと蝕む様な強い痛みの信号が発信される、それはどんどんその強さと鮮明さを増していく、やがてパキパキと何かが変化していく音が鳴る、それが自分の顔面から聞こえてきたと認識した時、ヴェルデューゴの脳は事態を理解した。

 

 

 「ウアアアアーッ 顔面ガ凍リ始メテイルーッ」

 

 

回廊にヴェルデューゴの苦悶の絶叫が響き渡る、鬼龍との戦闘などまるで忘れたかのように、顔面を両手で押さえて庇い、おぼつかない足取りで蹲る様にたたら踏む。

 

その拍子に突き刺さった尾が鬼龍の腹部から引き抜かれ、大量の出血が起こる、鬼龍もまた傷口を手で抑えながら蹌踉めいて倒れかける。

 

 

 

 「ぐ、ぐううっ…ハァ…ハァ…」

 

 「灘神影流、幻魔拳…その派生の技だ」

 

 「脳内に打ち込まれた強烈な幻魔がリアルな錯覚を起こす、体の内奥から爆発したかのような強すぎる苦痛と幻覚が永遠に刻まれる…」

 

 「そ、そして…寸止めではなく打ち抜く事、特に傷のある箇所に打ち込むことで更に深く幻魔は埋め込まれるのだ」

 

 

 

鬼龍が幻魔拳を打ち抜いたヴェルデューゴの顔面は、以前に水の間で鬼龍の二度による蹴り技とレオンの狙撃銃の一撃を受けて外殻が破損した箇所であった。

 

 

 「アガガッ、コ、コレヲ解ケ 鬼龍ゥ!」

 

 

鬼龍の声はヴェルデューゴに届いてはいない、顔面を片腕で抑えながら、もう片方の腕を振り回す、だがそれは鬼龍に届くどころか、まるで違う方向の空を切るだけ。

 

ヴェルデューゴに打ち込まれま幻魔拳の錯覚は既に目も禄に見えぬほど顔面が凍結していく苦痛をヴェルデューゴの脳内に恐ろしい鮮明さで刻み込んでいた。

 

 

 「さぁ…貴様の望み通り、終幕だ」

 

 

 「アワワッ、凍傷ガ身体ニモォッ」

 

 

 

意識の根源たる脳に永続的なダメージが与えられ、正常な思考など出来る筈もないヴェルデューゴは顔面を押さえていた手を離してしまう。

 

そこに再び突き刺さる鬼龍の握り拳。

 

 

禁断の“幻魔拳”二度打ち。

 

 

 

 「ウ ギ ア ア ア ア ア ア ッ ッ ! 」

 

 

 

断末魔よりも激しい慟哭のような絶叫、もはや言葉で形容する余裕すら失せるほどの苦痛、今のヴェルデューゴには全身の、それも内部の臓器の隅の隅まで完全に凍り付く錯覚と苦痛が脳内を侵食しているだろう。

 

 

 

 「一度の幻魔拳で脳がリアルな苦痛を生み出して精神を蝕む…二度目の幻魔拳でそれはもう取り除けぬ程に深く強く幻魔が潜り込み…」

 

 「3度目の幻魔で確実に精神が崩壊する!」

 

 

 「ヤメロオオオ!鬼龍ウゥッッ!」

 

 

禁断を超えた禁断 “幻魔拳連続打ち”。

 

 

 

 「ギャギャガーッ ギギーッギ」

 

 

 

ヴェルデューゴの幻魔に侵食された肉体を更に鬼龍の連打が襲う、一発一発が幻魔拳で構成された悪夢のような乱れ打ち。

 

一撃食らうごとに凍り付いた肉体が衝撃の余り粉々に砕け散るリアルな感覚がヴェルデューゴに与えられる。

 

凄惨な死の苦痛と恐怖が集中砲火で打ち込まれる。

 

 

頭、胴、腹部、肩、腕、あらゆる箇所を打ち抜いて、ヴェルデューゴが倒れる頃にはその精神は一欠片も残さず崩壊していた。意味を失った僅かな呻きと昆虫特有の痙攣を起こすだけで起き上がることはもう永劫ない。

 

 

 

 「ハァ…ハァ…か、過剰な破壊は弱さの現れ…敵の反撃を恐れるが故の行動だと言うが…」

 

 

 「ゲ、ゲスなんかに負けるのは死んでもイヤでね」

 

 

倒れ伏してうごかぬ者、傷付きながらもその足で立つ者、勝者は明白にして、悪魔と処刑人の3度目に渡る戦いが今、決着した。

 

 

 「鬼龍!」

 

 

回廊の入り口である扉を開け放ち、外に退避していたアシュリーが駆け寄る。扉の隙間から戦いの行方をずっと見ていたのだ。

 

 

 「このスプレーを使って!傷がすぐ治るわ」

 

 

すぐさま鬼龍の負傷した傷に救急スプレーを使用する、淡い薄緑色の霧状になった液体が吹き掛けられる、すると驚くほど瞬時に痛みと傷の熱が引き、数秒経てば傷跡すら残らず完治してしまった。

 

 

 「…驚いたな、フザけた回復力だ」

 

 「武器商人のお墨付きよ」

 

 「アイツか、こんな物をまだ隠し持っていたとはな」

 

 

 「つまり俺に生魚を齧らせる必要は無かった訳だ、一度アイツもブチのめしてやろうか」

 

 「アハハ、完全復活だね、鬼龍!」

 

 「あぁ助かった、行こう、アイツらと合流するぞ」

 

 「なら向こうの方ね、アッチは怪物がウジャウジャいる養殖場よ、先に進むならレオンとルイスも一緒の方が良いわ」

 

 「そうかもな、それに探す必要は無くなったらしい」

 

 「え?」

 

 

 

鬼龍とアシュリーが来た道を引き返し、回廊の扉を開こうとする前に、別の者の手によって扉が開かれる。

 

タイミングよく現れたのは二人の男、レオンとルイスだ。三手に別れた後、それぞれのルートを進み、また合流したのだろう。

 

 

 「それにしてもルイス、あんな化物の情報は聞いてないぞ、孤島から連れてきたと奴らは言っていたが」

 

 「あー悪かったな、俺も襲われたんだし許せ、傭兵共だけならまだしもリヘナラドールまで引っ張ってくるとは予想外だった、禄に制御も出来ねぇってのに」

 

 「早くアシュリーを見つけないと、お前の言ったあの話は本当なんだろ?寄生体の発作が始まるって」

 

 「あぁ、だが安心しろ、発作を抑える薬は……お?」

 

 「鬼龍!それにアシュリー!先に合流していたか」

 

 

 「レオン!ルイス!」

 

 「これで役者は再び揃ったと言うわけだ」

 

 

激戦のあった回廊で四人が集結する、また一人強敵を打ち倒し、アシュリーを取り返した一行の城での戦いは更に続いていく。

 

 




◇合流…!
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