TOUGH DEVIL HAZARD   作:ポジョンボ

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第32話

 

 

 

 「お前はクラウザー…!」

 

 

 「あの時以来か、久しいな、レオン」

 

 

拳銃とナイフ、互いに獲物を構えて睨み合う両者、方や困惑と驚愕が警戒の中に混じる、方や言葉とは裏腹に旧知との再開を喜ぶ感情など微塵も無く冷徹。

 

突然現れて奇襲を仕掛けた男、クラウザーの顔にレオンは見覚えがあった、忘れようもない記憶の断片に刻まれた人物の顔であった。

 

 

 

 「知ってるのかレオン!?コイツは誰だ」

 

 「……ジャック・クラウザー、優秀な軍人で数年前、共に同じ任務に当たった事がある」

 

 「つまり、パートナーだったって訳か?」

 

 「その時はな…あの任務以来、行方どころか生死すらも不明とされていたが…何故ここに…!」

 

 

 「あの任務…そう、オペーレーション・ハヴィエだ」

 

 

 「まさか…エイダの言っていた教団に潜り込んだもう一人の人物とは…クラウザー、お前の事なのか?」

 

 

 「ほう、やはりもう接触していたか…女狐め、余計な事をする、任務とは別の秘した考えがあるようだな」

 

 「だがそれはこの俺とて同じ事」

 

 

 「答えろ!クラウザー!教団に潜伏したのはサンプルが目当てなんだろう!?お前とエイダは協力関係では無いのか?」

 

 

 「そんなものは建前に過ぎない、俺もあの女も初めからただ任務を済ませて終わらせる気は無いという訳だ」

 

 「それが解っているからこそあの女もお前達にその事を話した…警告としてな」

 

 

 「身も心もサドラーに支配されたのか?」

 

 

 「ククク…そう思うか?レオン」

 

 

追求を受けて尚、不敵な笑みを崩さぬクラウザーがナイフをまた逆手持ちの構えに握り直す、腰を少し落とした姿勢で戦闘を再開させる気なのだとレオン達に声無く伝える。

 

 

 「クラウザー!…クッ」

 

 「お喋りはその辺にしておけ、お前にとってどれ程の関係なのか知らんが…向こうは完全に殺すつもりだ」

 

 

戦闘の始まりを予感した鬼龍もまたその闘志を静かに、しかし急速に高めていく。辺りにまるで冷凍室の中かのような凍てつく殺気が充満していく。

 

 

 「さぁ、お前達がどの程度か…試させてもらおう」

 

 

 「偉そうにしやがって、三対一だぜ?」

 

 「気を抜くなよ、ルイス!クラウザーの実力は本物だ、教団内で地位を得たという事はプラーガも埋め込んでいる筈!」

 

 「それならば村長やサラザールと同じく支配種だろう…知能の低下が見られない、殺意の暴走もな」

 

 

 「ふむ…流石の洞察力だな、余りにもここまで来るのが速すぎたと思っていたが、お前のような男が手を貸していたなら納得だ」

 

 「だがおかげで俺の計画の達成に大きく近付いた」

 

 

 「何だと?それはどういう…」

 

 

 

クラウザーの不意の発言が気掛かりとなったレオンが口を開こうとした瞬間、風切り音を立てて飛来する物体が迫る。

 

 

 「クッ…なんだ!?」

 

 

咄嗟に反応が間に合い、飛来したそれをナイフによって弾き防御する、それは放たれたクロスボウの矢であった。

 

 

 〈ホアアーッ〉

 

 

新たな戦闘員が上の階から降りてきていた、上層からレオン達が立つ足場を見下ろす形でクロスボウを構えた戦闘員が取り囲む。

 

 

 「何だぁ 増援かあっ」

 

 「気を抜くな!来るぞ!」

 

 

レオンがナイフを振り抜いて生じた一瞬の隙に合わせてクラウザーが床を蹴り上げ音もなく距離を詰める。

 

身を低くして滑り込むかのような接近、ステップで相手の側面へと周り、逆手に持つナイフをそのまま下から上へと斬り上げる。

 

流れるように繋げられた一連の動作、その標的となったのはやはり隙を見せたレオンだった。

 

 

 「クソッ…!」

 

 

全身を氷柱が貫くような悍ましい感覚が奔る、あの悪夢の街で幾度も味わった己に近付く死神の足音。

 

恐怖で体が硬直しては避けられない、迫る鋭刃の狙いが自身の首元だということは既に気付いている。

 

理性や判断ではなく半ば本能で肉体を反応させる、首元を後ろに全力で逸し、同時にその身までも後ろに飛び引かせる。

 

背後へのバク転の要領で素早く回避してみせた。

 

 

 「鬼龍!」

 

 

言われるまでも無い、そう言わんばかりに鬼龍は既に行動を開始し、もう終えている。攻撃を躱されたのなら今度はクラウザーが隙を晒す番だった。

 

 

 「下劣な刺客風情など相手にならぬわっ」

 

 

クラウザー目掛けて放たれる鬼龍の拳による応酬、一秒間に数十発もの打撃を浴びせかける、並の相手ならば一撃で気絶、二発目で致命傷、まるでマシンガンさながらの悪魔の拳打。

 

 

 「ぬううっ」

 

 

回り込まれた横合いから撃ち込まれる悪夢のような重連打、咄嗟に身を屈めるようにして右腕を曲げて盾にする事で防御の体制を取る、そしてそこに鬼龍の乱打がぶち当たる。

 

例え防御していようが骨も肉も潰されて再起不能、もっととそれは、あくまでも並の使い手が相手であればの話。

 

 

 「…ウム」

 

 「お前はスピードはある…ただそれだけだ」

 

 

しかしその連撃を受けて尚、まるでダメージは無いと言わんばかりにクラウザーの肉体は倒れ伏す事も揺らぐことさえ無かった。

 

 

 「なにっ」

 

 「お前の能力は解った、所詮、俺が本気になるほどの相手では無い」

 

 

クラウザーが防御の姿勢から素早く攻撃に転じる、ナイフを振り抜けば、斬られまいと鬼龍が身を躱す、その瞬間に振り抜いた勢いのまま移行した回し蹴りを叩き込む。

 

 

 「ぐううっ」

 

 

大きく後退した鬼龍への追撃の為、握るナイフによる本格的な攻撃が始まろうとしたその時、クラウザーがその視線を別方向に向ける。

 

 

 「クラウザー!」

 

 

レオンもまたナイフを抜き放ち攻撃を開始した、順手に持ち替えたナイフで迫る刃をいなすクラウザー。

 

上から下、左から右、突くのか斬るのか、時には持ち手を変えて変化しながら迫る軌道を完璧なタイミングで刃同士を打ち合って逸して凌ぐ。

 

ナイフがぶつかり合う甲高い音がほんの僅かな時間に連続して何度も鳴り響く、激しい攻防を繰り広げながらもクラウザーの顔には疲弊の汗も焦燥を表す強張りもまるで無い。

 

 

クラウザーのナイフによる近接戦の技術はレオンのそれをも凌いでいるようであった。

 

 

 「ほう…更に研鑽を積んだか?」

 

 

 「あぁ!生き残る為にな、そう言うお前は!?」

 

 「教団に何を求めている?やはりプラーガか?」

 

 「生物兵器に手を染めた人間の末路を…お前もあの時目にした筈だぞ、クラウザー!」

 

 

 「そうだ、しっかりと目に刻み込んださ」

 

 「世界のあるべき姿をというものをな…」

 

 

 「何があった、クラウザー!かつてのお前は…確かに善人なんてガラじゃ無かったかもしれない」

 

 「だが少なくとも人殺しの化け物共に手を貸すほどイカれてはいなかった!」

 

 

 「かつての俺…か 確かにその男はもう居ない…」

 

 「クーククク、そうだ、とうの昔に俺は死んだのだ、あの暑い南米の地の朝にな…」

 

 

 「暑い南米の地の朝…!?」

 

 

 

クラウザーとの戦闘が更に進む中、それと同時に上層から集まって来たガナード達も本格的に参戦を果たす。

 

先程のようにクロスボウで此方を上から狙う者に加えて、決して広くは無い足場に自ら降り立つ者まで現れる。

 

 

 〈オイラノキングコブラヲズボットイレテヤルヨ〉

 

 〈オ、オリノハオッキイゾーッ〉

 

 

 「クソッ、あのクラウザーとか言うのもヤバそうだが雑魚共まで湧いてきやがった!」

 

 「生意気なマネを…レオンよ、俺に変われ、ソイツをすぐに殺してやるよ」

 

 「いや、3人で戦わねば危険だ、時間を稼ぐ!その間に他の敵を排除してくれ!」

 

 

 

より激化する鉄骨の足場上での戦闘、反対側からはクロスボウの矢と武装した敵が迫る、その反対にたつのはクラウザー、レオンと睨み合うクラウザーが不意に構えを僅かに解いて口を開く。

 

 

 「フン…お前があれからどれ程の力を得たか、もう少し試してみたかったが…確かに邪魔が入ったな」

 

 「良いだろう、素敵なパーティーもこれから始まるのだ、ここですぐに終わらせてしまっては惜しい」

 

 

 「何を…!?」

 

 

クラウザーの発言の真意を問うた次の瞬間には、前を向いたまま背後へと高く跳躍、空中で大きく一回転をして上層の足場へと着地した。

 

 

 「せいぜい楽しもうじゃないか、レオン」

 

 「上までこい、待っているぞ」

 

 

その言葉を残して視界の映さぬ奥部へと姿を消していくクラウザー、困惑している暇も無く、足場へと降り立った敵達が殺到して向かい来る。

 

 

 「待て、クラウザー!何のつもりだ!」

 

 

 「今は放っておけ、こっちのクズ共の相手が先だ」

 

 「この野郎…狭い足場で武器を振り回しやがって!」

 

 

 「コイツらを片付けて追い掛けるぞ、何を考えているか知らないが放置しておくことは出来ない!」

 

 

塔に入って3度目の集団戦が幕を開けた、空中に建てられた足場に怒号と断末魔、銃声と打突音が響き始めた。

 

 

 〈ナンカシトンジャイッ  ハウッ〉

 

 〈ハーッシンニュウシャヨ…ボウッ〉

 

 

 「今更相手になるかあっ」

 

 

狭い足場の上でもその戦闘技能が曇ることは無い、的確に急所を撃ち抜いて即死させる、怯ませたところを体術で吹き飛ばして高所から突き落とす。

 

鬼龍もいつぞやの水路での戦いの時と同じく、霞撃ちを繰り出せばガナード達がわけも分からず宙を舞い落下していく。

 

 

ガナードの数は十体あまり、もはやこの程度の戦力は三人にとって敵にもならなかった。

 

 

 

 

 〈フニッ…〉

 

 「ふぅ…今ので最後の一体か」

 

 

戦闘開始からかなり速い時間での制圧、上層に陣取っていたガナードも全て撃ち落とされた、倒れたガナードを邪魔だと蹴り落として退かす鬼龍とルイスがレオンに話しかける。

 

 

 「エイダの言っていたこの先に待つ脅威ってのはあの野郎の事だったみてぇだな、それにしても…エイダもそうだがアイツもお前の昔の知り合いとは凄い偶然だな、レオン」

 

 

 「あぁ、まさかクラウザーまでもが今回の件に関わっているとは…何故アイツが」

 

 

 「エイダが言っていたな、その男は同じ組織から任務を受けていながらも次第に教団の力に興味を持ち始めた、と」

 

 「下らん野心が芽生えたか、教団の洗脳を受けたか、少なくともあのクラウザーとか言う男はもう任務とは違う理由で動いているようだ」

 

 

 「クラウザーは…アイツは愛想は無かったが信念と矜持を持った本物の軍人だった…何か訳があるのかも知れん」

 

 

 「フン、どうだかな、人間が堕ちる時などあっという間だ、昨日まで愛と平和を語っていた人間が罪の無い隣人を簡単に罵倒し傷付けて見せる」

 

 「…レオンよ、もしクラウザーが鬼畜へと堕ちていたならば、お前に奴が殺せるか?」

 

 「数多の化け物は殺せても、かつて背を預けた戦友一人をその手にかける事はできるのか」

 

 

レオンには鬼龍のその発言の真意は解らなかったが、言葉の響きに此方を試す様な、何かしらの答えを待つ様な気配が感じられた、一呼吸の間を置いてそれに答える。

 

 

 「それもなんかのテストか?」

 

 「見くびるなよ、鬼龍 もしそうなら絶対に俺が止める、何が何でもな」

 

 

力強く言い放つレオン、しっかりと鬼龍を見返すその目に宿る意志が、その言葉が嘘や虚勢ではない事をハッキリと示していた。

 

 

 「そうか…ならばせいぜい見届けさせてもらおう」

 

 

会話もそこまでにして、三人は足場の先の梯子を使い、更に塔の最上へと近付いていく、上を見ればまだ螺旋階段は長く続いていた。

 

 

 「ようやく中間ってこところか」

 

 「もっと敵でひしめいていると思ったが、この付近には姿が見えないな…ここに来て逃げ出したわけじゃないだろう」

 

 「或いは訳あってここでは戦えないのか……どうやら予想は的中のようだ」

 

 

鬼龍が何やら意味深な発言を口にする、その顔は塔の更に上層、これから登っていく先を見ているようだった。

 

 

 

 「予想が的中?どうゆうことだ、鬼龍のオッサン」

 

 「また何かの罠か?」

 

 「あぁ、聞こえないか?この音が」

 

 「音だと?」

 

 「いや待て、確かに…何かの音が…」

 

 「これは…何かが転がる音か?」

 

 「オイ、それってまさか…」

 

 

レオンらの脳裏に嫌な想像が過ぎる、大きく重い何かが転がる音、つい最近、村で似た様な音を確かに聞いた。

 

大きく重い何かが激しく音を立てて此方へ転がり迫る、違うのは此度は背後からではなく前方からその音は接近してくる。

 

 

やがて螺旋階段の奥からそれは目視できる距離まで姿を現す、階段を明るく照らしながら転がり落ちるソレは、燃え盛る業火の灯された大樽だ。

 

回避に使用できる隙間など無いほどに通路を埋め尽くした、単純的破壊力の大規模トラップ。

 

 

 「燃えた樽が階段を練り転がっている!」

 

 

見上げればその炎樽はもうすぐ上層まで迫ってきている、このままではすぐにでもレオン達の立つ場所まで到達するであろうことは容易に想像ができた。

 

 

 

 

 

 

塔の上層、最上階の祭壇へと続く貨物用エレベーターのある場所に続く、階段を超えた最後の踊り場に数名のガナードが立っていた。

 

 

 〈ムフフ〉

 

 〈クーククク〉

 

 〈アヘアヘアヘ〉

 

 

 〈ヨシッ 敵対者ヲ殺ッテヤッタゼ〉

 

 〈コレデ俺ガボスダ〉

 

 

得意気に浮足立つガナード達、すぐ近くの柱には何かの機構を作動させるレバーが取り付けられている。

 

すぐ上の天井は開き戸の様に開閉できる仕組みとなっており、階段を転がる火の付いた大樽はどうやらこのレバーによって天井から投下されているようだった。

 

 

 〈今頃全員ペチャンコノ焦ゲ肉ダナ〉

 

 〈念ヲ入レテ何度モ投下シタシナ〉ヌッ

 

 〈ハイデース〉

 

 〈イエーッ〉

 

 〈アヘアヘアヘ〉

 

 

時間が立っても敵影が現れないと見るや、敵対者の全滅を確信した仕掛け担当のガナード達、階段に背を向けて話す。

 

 

 〈オイ、ジャワティー買ウテキテクレ、アハアハ〉

 

 

 〈アハハハ……アッ〉

 

 〈ウ、ウシロッ…!〉

 

 

 〈…ア〜ン?〉

 

 

振り向いたガナードの視界を埋め尽くす鬼龍のブーツ、既に回避するどころか、それが何なのか理解できる程の猶予もなくガナードの顔面に迫っていた。

 

瞬き一つ差し込めぬ刹那の後、パァンという死を告げる破裂音のような音がなる、蹴り抜かれたガナードの首は衝撃のあまり簡単にへし折れる。

 

顔面から血を撒き散らして大きく背後に仰け反りながら吹き飛ばされた。

 

 

 

 〈ミキセイウジムシ…!〉

 

 〈ハ、ハヒッ…〉

 

 〈アヘアヘ…アヘッ〉

 

 

 

そこから反撃すら許されない虐殺が始まる、最初に死んだガナードの近くにいた順番で破壊がもたらされる。

 

鬼龍の動きを正しく認識した者はいなかった、防御も回避も思考すら間に合わない本物の瞬殺劇。

 

一瞬の暴力の嵐が去った後、血溜まりにガナード達は倒れ伏し、立っているのは悪魔を超えた悪魔、鬼龍ただ一人。

 

  

 

 「あまりにも愚鈍過ぎる」

 

 

 「相変わらず速ぇな、鬼龍のオッサンは」

 

 「援護する必要も無いな、それにしても、最初に樽が転がって来たときは何事かと思ったが」

 

 「確かに驚いたな、まぁ目に見える前から来るならどうとでもなるよな、隠れる場所だって幾らでもあったぜェ」

 

 

続いてその場に現れるレオンとルイス、当然の如くガナードの仕掛けた大樽のトラップを難なく突破してここまで到達した、むしろ余計な敵が配置されていなかった為により容易く移動することが出来たのだ。

 

 

 「さて、そんな事よりも…」

 

 「あぁ、どうやらいよいよ終着みたいだぜ」

 

 

三人の眼下にある広場には、真ん中に貨物用のエレベーターが取り付けられている、見上げれば遥か上までその機構は繋がっており、これを使えば最上部まで移動できると一目で解った。

 

 

 「待ちわびたぞサドラー、傲岸な醜怪ジジイの顔面を完膚無きまでにブチ壊す時だ」

 

 

上を見上げてその先に待つ敵の姿を見据える鬼龍、その顔は餌を前にした肉食獣の如き獰猛な笑みが浮かべられる。

 

悪魔を超えた悪魔と神を騙る怪物、この辺境の古城にて究極の決戦が遂に始まろうとしていた。

 

 

 




◇遂に決戦か…?
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