起動音を立てて登っていく塔の貨物用エレベーター、そこに乗るレオンら、三人は頂上に待つ大敵の姿を幻視して見上げる。不遜に嘲笑うサドラーの姿、その目の決意がより強くなる。
「いよいよって感じだな、最終決戦ってか?」
「気を抜くなよ、ルイス 支配種の力はお前が一番知っているだろ、それにサドラーを倒して終わりじゃない」
「孤島にあるお前の研究室までアシュリーを連れて行かねばならない、孤島は化け物の巣なんだろう?」
「確かにそうだ、だがサドラー以上の化け物は島にもいねぇ、後の始末は奴を倒すのに比べればずっと楽に済む」
「フン、脳天気だな、あの男の発言を忘れたのか」
「上で待っている、クラウザーはそう言っただろう、相手にするのはサドラーだけとは限らない」
「サドラーとその護衛、つまり支配種の寄生体が二体、待ち構えているということだ」
「ううむ…確かに、あのクラウザーとか言う奴も相当手強そうな雰囲気だったなぁ」
「だが関係無い、ここまで来たら……ん?」
「何だあれは…?」
「あん?どうした?」
「…血の匂いだ」
ゆっくりと上昇を続けるエレベーターからは、塔の装飾などされていない無骨な整備用の足場や剥き出しの鉄骨が見えてくる、そこにある不自然な影をレオンは見付けた。
段々とその高さに近付いていく、やがてその正体がハッキリと目視で確認できた。
「な、なんだあっ」
「これは…!」
「ほう、通りで邪魔をする奴らが居なかった訳だ」
「兵隊の死体が練り吊るされている!」
上昇するエレベーターの回り、足場の柵や鉄骨から紐や鎖で吊るされていたのは孤島から参戦したガナード戦闘員の亡骸であった。
既に力の抜けきった四肢は下に向けて伸ばされ、絞首刑のように吊るされた体が揺らめいている、その数は十やそこらでは無く、辺りには濃い流血の匂いが充満している。
まるで死体を使った悪趣味な飾り付け、上を見上げれば頂上のすぐ近くまでそれは続いていた。
「なんじゃあ、このイカれた飾り付けは!」
「全員死んでいるのか?何故…?」
「血が乾いていない、死んでから時間は経っていないようだな…ここまで来る間の出来事だ」
「そ、そんな短時間でこんな事を…?」
「そしてあの出血量、肉体にはどれも目立つ損傷を付けず、無駄なく迅速に命を奪われている…恐らくは刃物でな」
「刃物だって?まさかソイツは…」
「…クラウザー?アイツがコレを?」
「オイオイ、コイツらは奴の手下じゃねぇのかよ、なんでわざわざ、しかもこんな時に…」
「さぁな、使えない連中に癇癪を起こしたか、或いは…奴にとって邪魔な存在になったのか」
「うぅん、どういう事だ?」
「俺の予想が正しければ…俺達が思っている以上にあの男は厄介な存在かもしれんぞ」
規則的な起動音を響かせて、三人を載せたエレベーターは尚も昇る、いよいよ決戦のその時が間近に迫っていた。
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古城、塔最上階 古の祭壇─
その部屋はドームの様な天井と円形の形で出来ている、入口側には部屋に沿って左右に弧を描き別れて伸びる足場、その中央は部屋の奥にある足場と対面するように突き出している。
そして入口側と奥の足場以外の床はまるで陥没した地面の様に、或いはその二つの足場だけが迫り上がったかの様に、数メートルほど低い位置に作られていた
入口から奥の足場に進むには一度、下の床に降りなければならない歪な仕組みだ。
その奥の足場にサドラーは立っていた。
「来たか…」
祭壇の間、入口の両開きの扉が開け放たれる、そして聞こえる足音が3つ、振り返るまでも無く3人が誰なのかは解っていた、ローブのフードを取ってゆっくりと振り返る。
「ようこそ、ここがお前達の終の地だ」
「追い詰めたぞ!サドラー!」
「フザけたお前の計画も今日で終わりだぜ!」
「笑えるな、不遜で傲慢な下衆は堂々としている、今すぐその場所から引きずり降ろしてやる」
遂に辿り着き、巨悪と対峙せんとする3人、レオン、ルイス、そして鬼龍!踏み入るや否や、銃口をサドラーへと向けて戦闘態勢だ。
それを見て尚も尊大にサドラーが口を開く、だが内心は激しい怒りの業火が渦を巻いている。
「追い詰めただと?私の計画が終わるだと?」
「取るに足らない下劣な蛆虫が笑わせるな」
「今までは遊んでやっていただけだとどうして理解できない?私がその気になればお前達など何時でも、簡単に、全員まとめて殺すことができる」
「そいつはどうかな、サドラー」
「それが出来なかったからお前はわざわざここまで出てきたんだろ、そうする他に無かったんだ」
「何だと…?」
「アシュリーを奪い返され、ルイスにも逃げられ、俺達の誰一人として始末できない、おまけに部下達はこぞって返り討ちだ、村長にサラザール…優秀な配下もいなくなった」
「お前は焦っている!もはや自分をおいて頼れるものは何も無い!内心ではすぐにでもアシュリーを探しに行きたい筈だ」
レオンが毅然として言い放つ、それがサドラーの耳に届いた瞬間、急速に周囲の空気が張り詰めていく、剣呑などという表現ではまるで足りぬ圧倒的な殺意と怒気が解放された。
ビキリという何かが瞬時に張り巡らされる音がハッキリと聞こえるほどの大きさで鳴る、それはサドラーの全身の血管が怒りによって硬直した筋肉に動かされて鳴った音だった。
「言いたいことは…それだけか?」
「怒らせたか、図星だったみたいだな」
サドラーが手にした杖を素早く掲げる、その瞬間、サドラーの背後、部屋の奥側の壁が不気味に蠢き出す。
最初は何かしらの植物が壁に根を張っているのかと思われた、だがそれは違った、その根は触手であった。
ドクンと心臓の鼓動の様に脈動を開始する壁に張り付いた巨大な何かの塊、やがてそれが粘液と異臭を放ちながら花開くようにバツ印型に4つに枝分かれしていく。
「なにっ」
「アレは、プラーガの母体か!」
「醜悪極まりない姿だな、これが教団の戦力を支える、言わば心臓部のようなものか」
開いたそれは巨大なプラーガの捕食口であった、ハエトリグサを何万倍もグロテスクに品種改良したかのような悍ましい巨大プラーガがそこにはいた。
「来るぞ!構えろ!」
「何をしようと無駄な事だ、お前達の望む結末など訪れはしない、ここでゲームオーバーなのだよ」
「気取った台詞を言ったつもりか?その言葉をそっくりそのまま返してやるぞ!」
「何とでも言え…無駄口叩きまくって死ぬがいい」
サドラーが更に杖を振るうとそれに呼応して部屋奥の左右の壁が突然砕け散って破壊される。
空洞となった壁の奥から勢い良く這い出てきたのは巨大な触腕2本、サドラーの背後に控える大プラーガのものだ。
「あの野郎、後ろの馬鹿でかいプラーガを支配種の力で制御してやがるんだ!あの鞭みてぇな触手で薙ぎ払う気だ!」
「一発でもマトモに受ければまず即死、指令塔である奴自身も支配種の寄生体…思ったより楽しめそうだな」
「何でもいい、ここまで来たら全力で戦るだけだ!」
遂に教団の支配者とそれに抗う者達の戦いが幕を開けた、悍ましい程の暴力の結晶を相手取り、3人の中で最初に動いたのはやはりこの男、 鬼 龍 !
「後ろのデカい汚物ごと俺がお前をグッチャグチャにしてやるよっ サドラー!」
入口側の足場から龍腿による強烈な跳躍、そのままサドラーの元まで一飛に到達してしまうのでは無いかと思うほど高い跳躍。
「笑わせるな 人間がーっ」
しかし反応したサドラーが手を振り払うと、まるで連動しているかのように二本の大触手が鬼龍目掛けて横薙ぎに迫る。
「はっはーっ 血が滾るぞ!」
迫りくる砲撃並の殺傷能力を持つ触手、飛び上がった姿勢を空中で翻す、これにより触手が通過する軌道から完全に外れてみせた、しかし、片方の触手を躱した鬼龍に二本目の触手が迫る。
空中で、しかも既に一度身を翻す回避を行った鬼龍にこれ以上の回避は出来ない、触手が遂に眼前まで迫り、サドラーの顔に凄惨で邪悪な笑みが浮かぶ。
「フハハハ!滑稽に死んでみせろ!」
サドラーは早くも鬼龍の死と、戦闘の勝利を確信した、しかしそんな予想を超越し嘲笑う事こそ悪魔の本領。
「あぁ、殺してやるよ!滑稽にな!」
「なにっ」
鬼龍が己の下を通過する一本目の触手を強く蹴り上げる!荒縄を何本も束ねたような触手が龍腿の蹴力により下方に弾かれる様にのけぞった。
それに反して蹴り上げた鬼龍は更に高く跳躍、それにより迫る二本目の触手すらもなんと回避してみせた。
そして鬼龍は止まらない、その勢いのままにサドラーの立つ足場へと宙を駆け抜けて飛来していく。
「さぁ、妖怪ジジイの屠殺ショーだ」
「貴様…!ぬうっ…!」
予想外の事態に慌ててサドラーが手を掲げて対処しようとする、しかしまたもや訪れる予想外、同時に鳴り響き重なる二つの銃声、そしてサドラーの体を穿つ鉄の礫。
「援護は任せろ!」
「ブチのめしてやれ、鬼龍のオッサン!」
レオンとルイスによるタイミングを合わせた援護射撃、鬼龍が飛び出したのと同時に二人が左右に分かれて移動し、両側からサドラーを狙い撃つ。
そしてサドラーの意識が二人に向いたその隙に到達する鬼龍、サドラーの立つ床を踏みした頃には既に技の構えは終わらせている。
鬼龍を目の前にしたサドラーが目を見開く、間髪入れずに悪魔を超えた悪魔の魔技が炸裂する!
「灘神影流 “塊貫拳”」
気の精密な操作を真髄とする内部破壊の技、肉体の強度を無視したその攻撃は何処を打っても肉体を駆け巡る気が内蔵を破壊し必殺となる。
その魔拳がサドラーの鳩尾を打つ、そして絶対的な破壊の前触れたるあの気が駆け巡るギュンという異音がサドラーの内奥から響いた。
「はう…!」
サドラーの皮膚が脈打った、その波が頭部まで僅かな時間で到達、そしてパァンという内部から弾ける音がハッキリとレオン達のいる場所まで聞こえた。
「ごばあっ!」
サドラーの目や鼻、耳からの出血が塊貫拳が疑いようもなく決まったことを現していた、サドラーの顎が張り裂けるほど開き、その中から黄色い粘膜を吐き散らして巨大な眼球が露出した。
どうやらダメージを受けて、寄生体の制御が失われたようだ、鬼龍の塊貫拳は確かに無視できないダメージを与えていた。
サドラーの口は開ききり、弱点の眼球を露出させている、サドラー本人の目は上向きに虚空を眺める、ともすればそのまま命を奪い切れるのではと思えるほど、しかしそうは行かなかった。
「……それで勝ったつもりか」
「…! なにっ」
虚空を眺めていたサドラーの両目が鬼龍に向けられる、眼球が口内の奥に戻り、その口が閉じられた。
見れば顔中の穴から吹き出した出血も完全に止まっている、明瞭な声で言い放つサドラーのその様子は、まるで先程の出来事が存在しなかったかのようだ。
「私をメンデスやサラザールの様な出来損ないと一緒にするな、不出来なゴミクズとは性能が違う」
「格が違う、能力が違う、存在そのものが違う、及びもつかぬ程に何もかもが違うのだ」
サドラーの言葉は真実であった、同じく支配種をその身に宿すサドラーと、村長らその配下ではそのスペックに大きな差が存在した、それは単純にサドラーに埋め込まれた支配種のプラーガが改良を重ねた最優のプラーガだからだ。
「そう、私はこの世界の神も同然なのだ」
サドラーが右手の掌を開けた掌底を放つ、精確なタイミングも洗練された動作もない、無造作に突き飛ばすかのようなその掌底、しかしそれを放ったのは人外の中の人外。
恐ろしい速度のあるそれが鬼龍を襲う、咄嗟の防御は確かに間に合った筈が、全身を突き抜ける強烈な衝撃を鬼龍は体感する。
「ぐううっ」
まるで大型トラックにトップスピードで衝突された様に、掌底を受けた向きのまま背後へと吹き飛ばされる鬼龍。
数十メートルはある奥の足場と入口付近の間の空間を飛び越して、跳躍を繰り出す元いた場所まで飛ばされて叩き付けられる。
激しく床に転げ落ちるも、体に染み付いた受け身の技術がそのダメージは無効化した.
「ぬううっ…サドラー…!」
だがたった一撃で鬼龍の肉体に大きなダメージが刻まれる、それはサドラーとは違い、数秒と建たぬ間に完全回復などしない。
「鬼龍!無事か!?」
「オイオイ、マジか…あれ程の生命力に回復力…!」
「……他人の心配より自分の心配だけしていろ、あの触手がまた動き出すぞ!」
鬼龍がそう言うやいなや、二本の大触手が左右から薙ぎ払われる、破壊の権化の様な攻撃をそれぞれが既のところで回避する。
「どわーっ」
「クソッ」
「当たるものかあっ」
左右からくる触手の合間にできた僅かな隙間に跳躍して身を滑らせ回避、或いは高く飛び上がり、或いは限界まで地にその身を伏せて回避する。
状況は完全な仕切り直しの様相となった。
「サドラーの元まで到達してもあれでは…!」
「ならあの触手から倒しちまうか?しかし、それもだいぶ骨が折れそうだがなぁ…」
「隙を作れ、奴を引きずり下ろす、内部の損傷すらも回復するというのなら決して癒えぬ傷を与えてやる」
「作戦会議は順調か?構わん、好きにしろ」
「さぁ、せいぜいこの神に抗ってみせるがいい」
今までのどの戦いをも遥かに超えた、信念と野望がぶつかり合う死闘はより激しさをます、その様を暗示するかの如く、決戦の場たる塔の外では雷鳴が猛々しく轟いていた。
◇サドラーの力は本物か…!?