TOUGH DEVIL HAZARD   作:ポジョンボ

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第35話

 

 

 

 《平服シ赦シヲコウノダ、神デアルコノ私ニ!!》

 

 

遂にその身に秘めたる全能力を解放したサドラーとの戦いが始まった、変異したサドラーのその姿は凶悪な尾を携えた四本脚の巨大な蟲の如く。

 

鉄骨の様な強度と重さを誇るその脚で床を踏み鳴らす、その度に石で作られた床が打ち震える。

 

 

 「コイツは相当タフだな…」

 

 

鬼龍程の精度では感じられなくとも、レオンにも解るほどに能力解放したサドラーからは圧倒的な生命力の気が放たれていた、そこに寄生体特有の歪んだ殺意が混じり合い、強大な淀みの気配となる。

 

エルヒガンテ、ガラドール、村長、リヘナラドール、ヴェルデューゴ、今まで対峙したどの怪物と比べてもその気配は圧倒的なまでに強かった。

 

 

《サァ、神ノ力ヲ見ルガイイ!》

 

 

高まる殺意のままに先に仕掛けたのはサドラー、重量をまるで感じさせぬ強力な跳躍、そのまま重力を利用し、鉄骨の様な四本脚で打ち付ける。

 

圧倒的な破壊力の豪槍と化したそれの落下地点にはレオン達。

 

 

 「来るぞっ」

 

 「あの重量はヤバい!」

 

 「化け物如きが…!」

 

 

3人とも反応が間に合い素早く回避する、床を転がって距離を取る、そして先程までいた箇所に落下する爆発的衝撃。

 

地響きと石煙を立てて着地、その四本脚は石床の地面を穿ち踏み砕く、人間が受ければ生存など確実に叶わぬその破壊力に背筋に寒気が奔る。

 

 

 「ぐっ…今だ、反撃しろ!」

 

 

だが攻撃を回避した次の瞬間こそがレオン達にとって反撃の好機となる、見かけよりも速いと言っても銃弾を躱せる程では無い、鬼龍の打撃も同じだ。

 

 

 《神ニ隙ナドアリハシナイ…》

 

 

だがサドラーはそれに対応してみせた、着地した場所の左側前方からライフルで狙い撃つレオン目掛けて右前脚を地面から引き抜いて突き出した。

 

 

 「クソッ」

 

 

一本に伸ばされればかなりの長さを誇る前脚は槍となってレオンの元まで到達する、射撃を中断して無理やり体を横に転がらせて回避するレオン。

 

 

 「どわあっ 気付かれてたか!」

 

 

サドラーの背後、左後ろにす素早く回り込んだルイスにもまた同様、左後脚を高く掲げ、人間でいう四股の様に鉄骨の重量を持つ脚で踏み付ける、なんとか回避は間に合うがやはり攻撃は中断せざるを得ない。

 

 

 「面白い、これにも反応できるか?」

 

 

そして残像を残す速度で鬼龍が動き出す、サドラーの右前方から急接近、サドラーが伸ばした右脚を戻して迎撃しようとするが間に合わない、鬼龍の拳は既に握られている。

 

 

 《驕ルナ、人間》

 

 

だがサドラーの武器は脚だけではなかった、突撃する鬼龍が突然飛び上がり、その身を宙に寝そべるかのように横向きに移行させる、するとその真下を風を切り通過する鋭い音。

 

新品のハサミを勢い良く閉じて鳴らせた様な音、金属の刃同士が擦れ合ってなる一般的な切断のイメージに酷使した音。

 

サドラーののたうつ首とその先にある刃の牙を携えた頭部による噛み付き、それは石柱すらも容易く両断する規格外の斬撃となって敵対者の命を奪う。

 

空中で数度回転して着地する鬼龍、伸ばされたサドラーの首も元の位置へと戻っていった。

 

 

 「コ、コイツ…見かけによらず反応が速いぜ!」

 

 「…鬼龍、アイツの右前脚の関節」

 

 「お前も気付いたか、レオン」

 

 「…確かめてやるか」

 

 

 《私ノ手ヲ煩ワセルナアッ》

 

 

サドラーの動きに違和感を覚えるレオン、反応の速度がどうしても気に掛かる、サドラーがまた攻撃を再開しようと全身に力を漲らせ始め、レオン達もまた目配せによる無言の会話の後に動き出した。

 

その直後、サドラーの地を震わせる突進が繰り出される、全速力で走る大型トラックにも匹敵するその破壊力、石床をめくり上げて破壊しレオン達に迫る。

 

 

 「避けろ!」

 

 

左右に分かれて回避する3人、右側にレオンとルイス、左側には鬼龍、サドラーが通過した後、また攻撃に移る。

 

背後から銃弾を浴びせ掛ける、鬼龍もまた内部破壊の技で攻めた、それはサドラーの攻撃の速度から見るに回避する事は出来ないと思われた。

 

 

しかしそれにもまた対処するサドラー、胴体と首の先の頭部に放たれた銃弾を硬質の脚を盾として弾く、そして向かい来る鬼龍にはまたもや見合わぬスピードで鋭刃を携えた顎で迎撃する。

 

 

 「フン…言うだけあって中々だな」

 

 「やはりそうか…」

 

 

そして一連の動きを見ていたレオンは確信を持って呟く、鬼龍とルイスに向けて作戦を伝えた。

 

 

 「反応の速度が速すぎる、しかしそうでは無い」

 

 「鬼龍、ルイス、もう一度ヤツの背後に回り込むぞ」

 

 「狙いはその時のヤツの脚、関節部だ」

 

 

サドラーの死角や背後からの攻撃にも対応できる秘密、それはやはり変異したその肉体にあった、2度の攻防でレオンはそれを見抜く。

 

 

 「ようやく“目付け”出来たようだな」

 

 「つまりサドラーの弱点を見つけたってことか!」

 

 「あぁ、あの反応速度の秘密、それこそが弱点だ」

 

 

 《何ヲ話シテイル…無駄ナアガキヲスルナ》

 

 《ソロソロ殺シテクレルワ!》

 

 

サドラーがまたもや跳躍、しかし今度のそれは先程より低く短い、だからこそ隙も少なく動作も速い、それでいて体重をその一撃に込めるのには充分な跳躍だ。

 

両前足による突き刺し、頭部による噛み付き、三方向に対応できる攻撃で一度にレオン達を葬らんとする。

 

 

 「今だ!」

 

 

 《ヌウッ!?》

 

 

レオンの掛け声と共に3人同時の示し合わせたような完璧な回避を披露する、左右でも後ろでもない、前に踏み込み、跳躍するサドラーの真下を潜り抜けていく回避。

 

前脚と牙の攻撃範囲から完全に抜け出し、同時に背後へと周り隙を突くことができる最善の対処。

 

 

 「撃て!」

 

 

 《人間風情ガ…!》

 

 

すぐさま反撃に転じる、しかしサドラーもまた高速の反応を示す、その為の秘密の機構を作動させた。

 

サドラーの両後脚の関節部、その箇所の硬質化した細胞から突如として粘膜を帯びた球体が露出する。

 

それは巨大な眼球であった、サドラーの口内から露出したものと同様の眼球、サドラーの四本脚の関節部には神経の繋がった眼球が格納され、いつもは鋼の如き瞼に覆われて守らているソレは何時でも見開くことができる。

 

これがサドラーの反応速度の秘密、死角に回られても敵の動作は見えている、故にその巨躯でも防御が間に合うのだ。

 

 

 《死角ハ無イト言ッタ筈ダゾ!》

 

 

サドラーには見えている、敵の動き、構えた銃の狙う箇所がハッキリと確認できる。

 

レオンとルイスの向ける拳銃、その弾丸が辿る軌道、

 

見開かれたこの眼の視線と寸分違わず重なっている。

 

見紛う程も無く正確に、この眼球に向けられていた。

 

 

 《ナ、ナニッ!》

 

 

サドラーの思考が揺らぐのと同時に響く銃声、弾丸が正確無比に狙った箇所を撃ち抜いた、両後脚に現れたサドラーの黄ばんだ眼球が破壊される。

 

 

 《グオオオオオッ!》

 

 

サドラーの絶叫、唯一の弱点である露出した粘膜たる眼球、それはプラーガ本体と神経が繋がっており、破壊されれば甚大な苦痛とダメージが刻み込まれる。

 

それによりプラーガとの共生とも言える肉体バランスが一時的に崩壊、体の制御が完全に不可能となり動きが停止する。

 

 

 「今だ、鬼龍!」

 

 

そして崩れ落ちるサドラーの頭上を飛び超える黒き影、勿論、鬼龍!崩れ落ちたサドラーの眼前、頭を垂れるように床に投げ出されたサドラーの顔面の前に降り立つ。

 

 

 「醜いツラだ、俺が蹴り砕いてマシにしてやろう!」

 

 

躊躇などあるはずもなく攻撃する鬼龍!狙いは既に済ませてある、完全に開き切った四本の牙、それに守られていた口内の眼球目掛けて蹴り上げる!

 

 

百万人に一人の武術家に宿ると言う龍腿を最大限に活かした龍の蹴撃、溜める力、速度、体重を乗せる技術、解放のタイミング、最も効果的な角度を捉える正確さ、どれをとっても完全にして究極の蹴撃。

 

       ドラゴン・シュート

名付けるならば“ 龍 蹴 ” 龍腿と同等と呼ばれし剛脚、虎腿による蹴撃に勝るとも劣らぬ圧倒的なまでの破壊力。

 

 

 《 グ ア ア ア ア ア ! 》

 

 

蹴りの軌道に天へとうねり昇る龍の姿が幻視されるほど強烈で恐ろしいその蹴撃は、ナイフを根本まで刺しこむよりも遥かに大きなダメージをサドラーに与える。

 

眼球など当然のように破裂して四散、貫く衝撃により奥の神経までもが強引に混ぜ合わせたかの如きダメージを受ける。

 

 

サドラーの体が制御を取り戻した、しかしそれはダメージから復帰したのではない、予想を超えたダメージを受けた肉体が危険を察知して本来眠っていた余力までも引き出して強引に動かしていた。

 

 

 《ギッ、鬼龍ウウゥ!》

 

 

 「ふん、俺ばかり見ていて良いのか?」

 

 

サドラーが見えなくなった口内の目の代わりに両前脚の眼球を見開かせた、後ろ脚の眼球は閉じたまま、鬼龍の挑発を見抜いたわけでは無い、怒りによって他の要素が文字通り眼中になかっただけだった。

 

もしここでつい後ろ脚の眼球を開けていたら、またもやレオンとルイスに撃ち抜かれて隙を晒していただろう。

 

 

 《ウウウ、殺ス…!》

 

 

左右に露出した眼球で身じろぐ程の挙動さえ見逃さぬと鬼龍を睨み付ける、動きがあればすぐさまそれに合わせた攻撃を繰り出すために。

 

だが視界に飛び込んできたのは予想の外にある不審な鬼龍の動きだった、蹲るように腕で顔を庇い姿勢を低くする。

 

 

 《ハ…?》

 

 

次の瞬間、サドラーと鬼龍の間に飛来した何かが落下する、数度跳ね返り停止した球体の様な何か。

 

あと少し、サドラーがあと少しでそれが何か理解できたというところで、甲高いでは済まない高音を響かせて球体が炸裂。

 

つい最近に体験した覚えのある、破壊的な閃光がサドラーの鬼龍を凝視していた両前脚の眼球を焼き尽くした。

 

 

 《オオオオッ、オオッ》

 

 

 「だからわざわざ忠告してやっただろう、俺ばかりを見ていて良いのか、と」

 

 

それはサドラーの背後からレオンが投擲した閃光手榴弾だった、後ろ脚の目を解放していれば気付けただろう、最もそれより速く撃ち抜かれていたから何方にせよサドラーに打てる手は無かった。

 

 

そして激しくのたうち回るサドラーの頭部、デタラメに踏み鳴らされる脚、それらを容易くかいくぐって鬼龍がサドラーの真下に到達する、そして再びサドラーに灘神影流の魔技の威力を刻み込む。

 

 

 「灘神影流、“塊貫拳”」

 

 

用済みとなって吊るされたサドラーの首から下の肉体に鬼龍の拳が打ち込まれる、本来ならその場所への攻撃は有効打とはなり得ないが、打つ箇所を問わずに致命的なダメージを与えるのがこの塊貫拳。

 

気が駆け上り、破裂する音が鳴る、またもやサドラーの頭部が気の衝撃で内部から破壊された。

 

 

 《ハウッ…》

 

 

 「よしっ、今のコンボはメチャクチャ効いてるぜ!」

 

 「このままトドメだ、鬼龍!」

 

 「言われるまでも無い、命令するなよレオン」

 

 

 《グウウウッ…ナメル、ナ》

 

 《ナメルナアッ、コノ虫ケラアアッ!》

 

 

サドラーの放つ気が明らかに弱まり減少していた、しかし突如としてそれが激しく増大する、それに呼応して弱っていたサドラーの肉体に全快時の力が漲った。

 

 

 「なにっ」

 

 「コイツ!まだこんな…!」

 

 

今更三人に油断など無かった、しかしそれでも一瞬対応が遅れるほど、サドラーのその動きは手負いとは思えぬほどの速度であった。

 

首を高速で振り抜く、その軌道上には鬼龍。

 

 

 「ぐううっ…!」

 

 「鬼龍!」

 

 

四本の牙を指に見立て握り締める様に、鬼龍の肉体を掴み取り拘束する、鋭利な刃が鬼龍の背に容赦なく食い込んで鮮血が宙を舞う。

 

 

 《私ハ…神ィ…神ナノダアアッ!》

 

 

鬼龍をその顎に拘束したままその首を伸縮させ、鞭のように近くの壁へと横合いに叩き付けた。

 

中で拘束された鬼龍はその衝撃と押し込まれる刃の二重のダメージを直に受ける、壁がクモの巣状にヒビ割れて、サドラーがその首を戻した後には鬼龍が血を流して寄りかかる様に倒れるていた。

 

 

 「鬼龍!」

 

 「鬼龍のオッサン!」

 

 

 「…い、一撃でこれか…し、支配種の生命力を侮ったのは不味かったな…」

 

 

並の使い手ならば良くて重症、悪ければ即死といったダメージだが、悪魔に例えられる鬼龍の耐久力は甚大なダメージでも気を失わずその精神力は陰らない。

 

だが怪物と称されようとも鬼龍とて人間、一生物である以上、肉体の損傷を意思だけで無いものになど出来はしない。

 

 

 「まだ意識はある…だが…!」

 

 「出血が酷ぇ…しかもサドラーはまだ死んでない!」

 

 

 《フハハハ!ドウダ、鬼龍!》

 

 《傷ヲ与エ、弱ラセ、追イ詰メタト思ッタカ…》

 

 《届キハシナイ!人ニ神ハ殺セヌノダァ!》

 

 

初戦と変異後の戦いを通してサドラーに刻み込まれたダメージは甚大、だがそれでも最優の支配種を宿すサドラーの生命力を絶えさせることは叶わない。

 

高らかに自尊の言葉を謳うサドラー、その声色は既に勝利を確信したものだった。

 

 

 「いい気になんじゃねえ、この化け物が!」

 

 「だが不味いぞ…鬼龍の傷もそうだが…」

 

 「奴の生命力は異次元だ、俺達の持つ装備では殺し切れないだろう、既に奴の損傷は回復し始めている」

 

 「一度にどデカいダメージをくれてやらなきゃダメってことかよ…だがそんなもの此処には…」

 

 

焦燥にかられかけたその時、祭壇の間の天井の役割を果たすガラス張りの一部が勢い良く破損、射し込む月明かりと共にガラスの破片が光を反射しながら降り注いだ。

 

 

 「何だ!?」

 

 「新手か?」

 

 

 《ホウ?》

 

 

その場の全員が注視する、明らかに自然に発生する現象では無いからだ、だがそれを引き起こした者の姿が開けたその箇所から覗く事はなかった。

 

その代わりに何かがその破壊された箇所から投げ落とされた、それなりの大きさと重さ、筒状で先端に黒い塊の様なものが取り付けられたソレ。

 

レオン達の立つ場所から離れた、入口側の足場へとそれは落下する、レオンにはそれが何か、誰が投げ入れたのか、その意図も全てが解っていた。

 

 

 

 「……ハッ」

 

 「随分と都合の良い…いや、懐かしい展開だな」

 

 「レオン、今のはもしや!」

 

 「あぁ、そうだ!終わらせるぞ!」

 

 

 《サセルカッ 蛆虫ーッ》

 

 

レオンとルイスが同時に駆け出す、そして投下されたソレの正体とレオン達の次の行動を理解したサドラーも阻止するために動き出した。

 

前脚で踏み貫こうと上げた脚を振り下ろす、レオン達も全神経を動員してその攻撃を躱していく。

 

レオン達は物資が投下された入口側の足場へと再び上がらんと、それを阻止するサドラーは梯子のある方角に行かせまいと苛烈な攻撃を加えた。

 

 

 「……!」

 

 

その過程でレオンはあることに気が付いた、極限の集中の中、一つの脅威だけにではなく、その場に存在する全てに意識を向ける、一ではなく全、そうすることで見えぬものも見えてくる。

 

先程サドラーが叩き付けヒビ割れ凹んだ石壁、そこに力なくもたれ掛かる男の姿が何処にもなかった。

 

 

 「ルイス!」

 

 

戦いは終局を迎えようとしている、すぐさまルイスの名を叫びその視線を合わす、幾度も共に死線を超えた者同時、理屈を超えてその動作だけで相手と考えを共有する。

 

無言の力強い頷きと共に、両者は同時に動き出す。

 

 

 《ハーッ 拾ワセルモノカ!》

 

 

左右から同じ速度とタイミングでサドラーの横を抜けんとする、それが撹乱目的の、弱点である脚の眼球を開かせるための作戦だとサドラーは推察する。

 

 

 《愚カシイ弱者メガ!》

 

 

故に眼球は閉じたままデタラメに四本の脚と首を振り回す、突然暴れ始めたサドラーの横を通り抜けることはできず、左右のレオン達は距離を取って回避するしか無い。

 

 

 《フハハハ!》

 

 

サドラーが嘲笑う、その内心にもう焦りはない、己の勝利は確定している、いくら攻撃を避けようとも永遠には続かない、一撃でも与えればそれで終わりだと。

 

 

 (いや、これでいい)

 

 (時間を稼ぐんだ、アレを手にするまで…)

 

 (そして奴がもう一度隙を見せるまで!)

 

 

サドラーにはもはやレオン達しか見えていない、次第に警戒よりも本来の傲岸な本性がまた顔を覗かせてくる、それに反撃を警戒して眼球を閉じたままだとレオン達を捉える事は出来ない。

 

何度も攻撃の度に死角へ潜り込もうとする、段々と仕留め切れない苛立ちが勝ってくる、プラーガによる知能の低下がなくとも殺意が生来の性格と相まって攻撃的な衝動は高まっていく、そして等々その瞬間は訪れた。

 

 

 《モウ飽イタ…終ワラセルゾッ》

 

 

サドラーが再び眼球を露出させる、それも四脚全ての関節部から眼光を解き放った。全方位の映像が脳裏に流れ込んでくる、すぐさま敵の居場所を特定した。

 

 

 「! 目を出しやがった!」

 

 

 《ハーッ 遅イワ!死ネェッ》

 

 

そして反撃の暇も与えずに攻撃、一瞬で瞼を閉じ、そして跳躍、 レオン達がいた場所目掛けて脚を踏み付ける。

 

辺りにまた爆発のような衝撃と粉々に砕かれた石床から土煙が上がる、どの脚にも獲物を刺し貫いた感触はなかった。

 

 

 《チィッ ヤハリ目ヲ開ケテイナケレバ当テラレンカ…ダガドノミチアノ兵器ハ奴ラノ届ク場所ニハ…》

 

 

意表を突く策も不発に終わり尚も苛立つサドラー、もはやその意識は完全にレオン達をどのようにして殺すのか、その事のみに割かれていた。

 

 

そんな状態のサドラーに、その背後、入口側の足場の方角から聞こえるはずのない男の声が放たれた。

 

 

 

 「まるで駄々をこねるガキの様に滑稽な姿だな」

 

 

 

瞬間、サドラーの思考が漂白され停止する、無意識のうちに素早くその首を声のした方角に向けた。

 

その場所にいたのは一人の男、先程己が始末した筈の男、もう二度と声を発する事は無い筈の男。

 

その場所に投下された筒状の兵器、ロケットランチャーを片腕で担ぎ、口角をニヒルに上げて傲岸不遜に笑う偉丈夫。

 

 

 

 《 鬼 龍 ゥ ウ ッ ! 》

 

 

 

動けぬ筈の鬼龍が何の消耗もなく練り立っていた!

 

 

 「保険も掛けずに化け物と殺り合う程馬鹿じゃない」

 

 

鬼龍が懐から何かの缶を下層に投げ落とす、純白の塗装に薄緑色の文字、それは空になった救急スプレーであった、武器商人の品揃えにあったものを鬼龍は(無断で)入手していたのだ。

 

その体からはもう流血も疲労すら無く、開戦直後のままに健在に立っていた。

 

 

 《キ、貴様…!》

 

 

敵の復活、唯一の脅威である兵器の奪取、信じ難い情報が頭に流れ込み、サドラーは先程の思考など忘れ去っていた。

 

そして致命的な失態を起こす、驚愕のあまり閉じていた脚の眼球を開いてしまう、解放されたその目すら、鬼龍唯一人に向けられていた。

 

 

 「今だ!」

 

 

レオンの号令が響く、しまった、サドラーがそう思ってももう遅すぎた、左右の前脚の眼球に、両側から迫るレオンとルイスが同時にナイフを深々と突き刺した。

 

 

 《ギャアアアッ》

 

 

そうなればもはや意思とは関係無しに肉体が崩れ落ちる、鬼龍の渾身の一撃を受けた時と同じく、それはまるで処刑人の刃に首を差し出す罪人のようであった。

 

 

入口側の広場に立つ鬼龍が見える、既にロケットランチャーの標準をサドラーに向けて定め終わっている。

 

レオン達が突き刺したナイフを素早く抜いて飛び引いたのは同時、そしてカチリと鬼龍がロケットランチャーの引き金を引いたのも同時、サドラーには全て見えていた、ただどうしようもなかった。

 

 

 「さらばだ、怪物」

 

 

何もかも破壊する鉄の彗星が煙を上げてサドラー目掛け一直線に飛び向かった、サドラーの視界にはそれがスローモーションの様に見えている、だがそれは敗北と死の恐怖をより長く味合うだけの時間にしかならなかった。

 

 

 

 《 ヤ メ ロ オ オ オ オ ! 》

 

 

 

祭壇の間に全てを吹き飛ばす爆発がもたらされた、空気を震わせる衝撃、焼き尽くす火炎、猛烈な爆風が渾然一体となった究極の破壊エネルギーの奔流。

 

 

それは邪悪の意思を粉々に打ち砕く、抗いし者達への勝利の号砲に他ならなかった。

 




◇決着か…?
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