TOUGH DEVIL HAZARD   作:ポジョンボ

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第36話

 

 

 

元凶にして最大の障壁たるサドラーに遂に届いた決着の一撃、業火と爆風を巻き起こして祭壇の間を打ち震わせる、弾頭の破片とサドラーの肉片が舞い散った。

 

 

 《ギュエエエエッ!》

 

 

サドラーが言葉にならない叫びを上げる、いや、その断末魔を上げているのはサドラーというよりも、その肉体を変質させ内に潜む寄生体であった。

 

サドラーの苦悶を代弁するかのようなプラーガの絶叫、それはつまりサドラー自身の終わりも意味する、黒い煙を上げるサドラーの焼け焦げた体が数歩下がってよろめいた後、崩れ落ちた。

 

 

 《ワ、ワタッ…私ガァッ…》

 

 《コノ、神デアル サドラー ガ…》

 

 

誰が見てもサドラーはもう戦えなかった、鋼鉄の柱の如き四本の脚の右前足が千切れて消失、ぶら下がるサドラーの体は腰から下が消し飛んだ、全身に付けられた傷からは体液がこぼれ落ちて床を濡らしている。

 

全方位を見渡す眼球も全て潰れている、もはや再生させる力など無い、紛うことなき決着の時であった。

 

 

 「観念しろ、サドラー」

 

 

 《アグッ》

 

 

 「罪を償う時だ、お前が欲望のために奪ってきた全ての人達の未来と命、その重さを抱えて地獄に落ちろ」

 

 

 《ウグウッ…》

 

 

 「お前の野望はここで終わりだ」

 

 

 《ウガアアアッ!》

 

 

認められない、己が負けるだなんてあり得ない、サドラーが最後の力で咆哮する、もはや死は差し迫っている、だがそれを回避する方法がサドラーには一つだけあった。

 

 

 《神ハァ!神ハ死ナナアイィッ!》

 

 

サドラーの背後、奥の足場とその左右の壁、閃光手榴弾による昏倒とサドラー自身の寄生体解放により一時的に制御を失い沈黙していた大プラーガが再び動き出した。

 

 

 「なにっ」

 

 「この野郎、まだ何かする気か!」

 

 「……寄生体の融合、か」

 

 

そして醜悪極まる牙の生え広がった口内を開花させる、左右の触手ものたうち始めた、それはゆっくりとした動作でサドラーに迫っていく、大プラーガの捕食口も少しずつサドラーのいる場所に伸ばされていく。

 

これこそがサドラーに残された生存の、そしてこの場の敵対者を葬る為の逆転の一手なのだ。

 

 

 《…コレダケハ…避ケタカッタガ…》

 

 《ワ、私ノ肉体ト、ボ、母体タルプラーガヲ融合サセル…肉体ハ再構築サレ…私ニサラナル力ヲ与エルノダ》

 

 

サドラーの口から語られる真意、それは支配種のプラーガを宿す者にのみ可能とされる荒業。

 

寄生先の無い状態でも他を圧倒する力を持つ大プラーガ、通常ならば逆に食い尽くされ取り込まれるだけだが、支配種の力ならば制御して己の体の一部として融合できる。

 

その際に得られるのは大プラーガが秘めた圧倒的なポテンシャル、混ざり合い、互いの力をもはや想像も及ばぬ領域にまで押し上げる。

 

 

 

 「何だと!?」

 

 「そんな事が…可能なのか?」

 

 

 「…そして、それをやればお前は永遠に醜い化け物の姿から戻れなくなり、一生をこのボロい塔の上層で過ごす羽目になる」

 

 

驚愕に目を見開くレオン、プラーガの性質を知り尽くしているからこそ予想される悪夢のような変態に凍り付くルイス、そして明晰な頭脳と鍛え抜かれた洞察力によりサドラーの内にある忌避の念を感じ取って言い当てる鬼龍。

 

 

 「故にお前に取っても最後の手段、違うか?」

 

 

 《ハハハ…!ソウダ、ダガ力ハ手ニ入ル!》

 

 《全テヲ超越シタ力ガ!ドウダ、恐ロシイカ!》

 

 

 「いいや、心の底から軽蔑する」

 

 「豚の様に我欲に溺れ、力に酔いしれ、挙げ句の果てに己の信条を捻じ曲げてでも生に執着するその姿…」

 

 「この世の何よりも下劣にして醜悪だ」

 

 

 《何トデモ抜カセ…生キ残ルノハ私ダケダ!》

 

 

 「させると思うか」

 

 「今なら銃弾でも仕留められる!」

 

 「おおっ、今度こそ殺ってやるぜ!」

 

 

大プラーガとの悪夢の融合を決意するサドラー、だが当然鬼龍達が黙ってみている筈が無い、床を蹴り上げてトドメを刺そうと駆ける、素早く拳銃を抜き放ち構える、その動きはサドラーと融合せんとする大プラーガよりも遥かに速かった。

 

 

やはりサドラーが生存する道は無い、遂に大悪を討つ瞬間が訪れると思われたその時、レオン達目掛けて連続した弾丸の雨が降り注いだ。

 

 

 「なにっ」

 

 「なんだあっ」

 

 「チッ…」

 

 

その弾丸群は突撃する鬼龍を飛び惹かせ、レオン達の動きを停止させた、遥か頭上から降り注いだ機関銃の連射、その実行者が天井のガラスを破壊してその姿を現す。

 

高所から跳躍、そして衝撃を感じさせぬ羽のような着地、サドラーとレオン達の間に降り立った。

 

 

鍛え抜かれた鋼の肉体、迷彩柄のズボンに防弾チョッキとその下のシャツ、真紅のベレー帽、厳しい貌、胸元に仕舞われたコンバットナイフ、その男の名は、

 

 

 「クラウザー!」

 

 

 「上で待っていると言っただろう?レオン」

 

 

塔の中腹で対峙したクラウザーが再びレオン達の前にその姿を現した、やはり目は笑わず、口角の端だけを釣り上げる冷たい笑みを浮かべている。

 

 

 「野郎…あと少しってとこで!」

 

 「………」

 

 

 《クラウザァーッ 何ヲシテイタ、コノグズガ!生キテイルノナラ務メヲ果タセ!コイツラヲ始末シロ!》

 

 

 「…ふむ」

 

 

サドラーの叱咤を受けても尚、クラウザーは冷徹に佇んでいる、サドラーへと顔だけを向けて振り返り、冷たく問う、その姿からは主への忠誠など感じられなかった。

 

 

 「それはつまり後ろの化け物と一体化するまでの時間を稼げ…そういうことか」

 

 《聞キ返ス必要ガアルカアッ 下賤ナアメリカ人メ!知能ガ低下シテイルノカッ》

 

 

 「承知した、ならばすぐに始末してやるから…」

 

 

クラウザーが背から素早い動きでも何かを取り出した、すぐさま警戒を最大限に引き上げて構えるレオン達、しかしクラウザーの次の行動はまさに予想を超えるものだった。

 

クラウザーがレオン達に背を向けた、つまりサドラーと、更にその背後の大プラーガの方に向き合ったのだ。

 

 

 《ハ?》

 

 

 「しっかり受け止めろよなっ」

 

 

それはアーチェリーなどで使用されるものに似た弓であった、勿論ただの弓ではない、弓本体、弦、そして放たれる矢、全てに特別な改造が施されている。

 

流れる様な動きで矢をつがえ、狙いは既に定めている、そして引き絞ったその一矢を解き放った。

 

融合せんと口を開けて迫る大プラーガへと。

 

 

 「伏せろ、閃光だ!」

 

 

鬼龍の声が響く、半ば反射的にレオンとルイスも蹲るように目を防護して伏せる、その直後、耳をつんざく音と共に強烈極まる閃光が三度、祭壇の間にもたらされた。

 

 

 〈ギュウウウウウアアッ〉

 

 

大プラーガの絶叫が轟く、クラウザーの放った特殊な改造矢は突き刺さると同時に衝撃を受けて機構が作動する、単純な爆発から閃光、火炎に至るまで多様な破壊力を生む。

 

弱点である閃光、それも至近距離かつ強度の劣る口内に浴びせられた大プラーガのダメージは甚大そのもの。

 

 

 「次はコイツも味わうといい」

 

 

クラウザーが更に矢をつがえる、それは鏃に火薬が仕込まれた爆発の火薬矢であった、もはや躊躇いもなく大プラーガの本体、続けて左右の触手に、一連の動作のような速度と正確さで撃ち込んだ。

 

 

 〈キュアアアアッ……アッ…キィァ…〉

 

 

立て続けに与えられたダメージに遂に生命力の限界を迎えた大プラーガが力無く絶命する、糸が切れた様に触手がだらんと投げ出され、本体も頭を垂れるように沈黙、やがてその肉体は異臭を立てて溶け出していった。

 

 

 

 「なっ…!」

 

 「アイツは…!?」

 

 「フン」

 

 

閃光から身を守ったレオン達の開けた視界、そこに映るは崩れ落ちる大プラーガの姿、直前まで見ていた景色と聞こえてきた爆発音、それを合わせれば誰が何をしたのかは理解できる。

 

 

 《ク、クラウザーッッ!何ヲスル、貴様アッ!》

 

 

サドラーに残された生存への希望、それを断ち切ったのはレオン達ではなく、配下であるはずのクラウザーであった。

 

 

 「まったく…お前達は本当によくやってくれたよ」

 

 

クラウザーが語りだす、その場にいる誰もがその声を無視できない、まだ何も、終わってなどいなかった。

 

 

 「このサドラーが健在な限り、俺が何か行動を起こす事などできはしなかっただろう、支配種の力がそれを許さない」

 

 「だがお前達と来たら…教団の戦力を減らすのみならず、慎重なサドラーすらも戦いの場に引きずり出した」

 

 「そしてその結果がこれだ、サドラーは敗れ、もはや支配種の絶対的な命令力すら失われた」

 

 

 「俺にとって、この展開は理想的に過ぎる」

 

 

クラウザーの冷徹な目に強烈な光が灯る、鋭く光を放つそれは野心だった、その真意をこれ以上無く明確に、レオン達へと語っていた。

 

 

 「クラウザー、そうか…お前は」

 

 

 「その通りだ、レオン」

 

 「これで俺は自由、好きにこの“力”を行使できる」

 

 

クラウザーが不意に背を向け、今にも息が絶えそうなサドラーに歩み寄り、しゃがみ込んで視線を合わす、それは主に跪くようにも見えたが、クラウザーの中にそれは無い。

 

ただ何処までも冷たい侮蔑の嘲りだけがあった。

 

 

 

 《ク、クラウザー、貴様、初メカラ…!》

 

 

 「何を今更、気が付いていただろう?」

 

 「俺が寄生体の力を求めている事、組織の命を受けて忍び込んだ事、貴様に忠誠など誓って無いことも」

 

 「俺に支配種を与えた事を後悔していたな、どうやって俺を始末するか、貴様は頭を悩ませていた筈だ」

 

 

 《グッ…》

 

 

 「つまり、お互い様という訳さ」

 

 「貴様亡き後、残った支配種であるこの俺に兵隊共は従うだろう、安心しろ、より有用に使ってやる」

 

 

 《ウガーッ、教団ハ私ノモノダッ 邪魔ヲスルナラ貴様ヲ取リ込ンデヤルウッ》

 

 

サドラーが首を伸ばして邪悪な牙を展開する、だが弱りきったサドラーの攻撃は、性能が劣るとは言え支配種を宿したクラウザーにとっては余りにも遅すぎた。

 

 

 「勘違いするな、教団の権力には興味無い」

 

 

 《アウウゥ》

 

 

クラウザーの姿が一瞬にして掻き消える、次にその姿が浮かび上がった時は既にサドラーの伸ばされた首の側面に立っていった、その胸のナイフも抜き放たれている。

 

 

 「俺が欲しいのは金や地位では無い、ましてや…」

 

 「神などどうでも良い!力こそ全てだ!」

 

 

 《ク、クラウザッ…!》

 

 

クラウザーの逆手持ちで振り下ろされたコンバットナイフがサドラーの眉間を突き刺した、頭蓋を超えて大脳を破壊する、その一撃は既に死に体のサドラーの命の灯火を吹き消した。

 

 

 「教団不要ッ このプラーガさえあれば良い!」

 

 

 《…ゥ……》

 

 

呻きにもならぬ声を上げてサドラーは呆気なく絶命した、伸ばされた首は投げ出され、残った脚が地に横たわる。

 

 

だがレオン達に戦いが終結した事への喜びや安堵は訪れない、今目の前に立つクラウザーが、新たなる最大の脅威としてサドラーに成り代わったに過ぎないからだ。

 

 

 「ッ…クラウザー…」

 

 「殺りやがったぞ、あの野郎」

 

 「ここに来る前、孤島の兵隊を殺したのも貴様か」

 

 

 「その通りだ、宮沢鬼龍よ」

 

 「奴らは正確にはロス・イルミナドスの信徒ではない、サドラーにではなく、サドラーの与えた力に仕えている」

 

 「この俺が新たなる指導者となろうとも反抗など無い、例え支配種の力が無くともな」

 

 「だが如何せん此処に来た連中から俺がサドラーを裏切った等と広まっては面倒だ、故に死んでもらった」

 

 

 「お前は…これからどうする気だ?」

 

 

 「どうする気…だと?…ククク、フハハハ!」

 

 「レオンよ、ジョークのセンスは衰えたか?」

 

 

クラウザーが張り付いた冷たい嘲笑を捨てて高らかに笑う、それはただレオンの問いを愚かと断じての事だった。

 

 

 「サドラーが死んで俺が改心したとでも?わかる筈だ、俺の真の目的が、お前にはな…」

 

 

 「…サドラーの後釜に座るつもりか」

 

 

 「そうだ、だが教団の長としてではない、プラーガという絶対的な力の保有者としてという意味でだ」

 

 「俺がエイダと同じく送り込まれた工作員ということはもう知っていよう、だが俺はあの女とは違う」

 

 「目的は初めから生物兵器、その掌握だ」

 

 

 「何故だ、クラウザー!お前はそんな男では無かった筈だ!信念と矜持の為にその命を掛けられる本物の戦士だった!」

 

 

 「その男は死んだと言っただろう、この狂った世界を生きる中で…本当に必要なのが何か気付いたのさ」

 

 

 「それがプラーガだと?どうかしているぞ!」

 

 

 「マトモな人間に世界の舵取りは無理だ、勿論、怪しげなインチキ教祖などにもな」

 

 

 「狂った人間に先なんて無いさ!」

 

 

 「ククク、やはりお前と俺は相容れん」

 

 「生物兵器を否定するお前と肯定する俺、生物兵器を憎むお前と求める俺だ、まさしくコインの表と裏」

 

 「レオンよ…これより俺はサドラーに変わり孤島の全権を得る、そこで求めるは勿論、プラーガのさらなるデータの回収、そして新たなる生物兵器の創造」

 

 

 「…!」

 

 

 「舞台は孤島…そこで決めようではないか」

 

 「俺が正しさを証明するのか、お前が俺の力を否定するのか…最後の戦いを始めるとしよう」

 

 

 「クラウザー!」

 

 

思わず詰め寄ろうとしたレオンを鬼龍が片手で制する、クラウザーがその腕を振り上げると、天井の破損箇所を押し広げて飛翔するノビスタドールの群れが祭壇の間に大挙して押し入った。

 

 

 「支配種の命令権とは便利なものよ」

 

 「もっともこの程度は今更足止めにしかならんか?」

 

 

ノビスタドールがレオン達とクラウザーの間を埋め尽くすその隙にクラウザーは祭壇の間の奥の足場へと飛び移った、そこには大プラーガに隠されていた扉が見えた。

 

 

 「クラウザー、待て!」

 

 

 「あぁ、待っているさ、孤島でな」

 

 

クラウザーがその扉を開け放ち、奥へと消えていく、するとすぐさま割って入るノビスタドール達、クラウザーへの追跡はもはや不可能に思えた。

 

 

 「クラウザー!…クッ」

 

 「レオン、先ずはコイツらからだ!」

 

 「孤島で待つ…察するにあの扉の先が孤島への道」

 

 「逃げ場の無い場所で自分から立て籠もろうと言ってるんだ、焦る必要など無いだろう」

 

 

 「…あぁ、そうだな…」

 

 「止めて見せる…待っていろ、クラウザー!」

 

 

ノビスタドールの群れが突撃を開始する、それよりも速く構えに移行し迎撃を始めるレオン達、ノビスタドールなど既に眼中になかった。

 

目的は孤島、レオン達と鬼龍の、新たにして最後の戦いが遂に幕を上げた、狂気の騒動は遂に深奥へとその姿を変貌させたのだ。

 

 




◇孤島編、開幕…!
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