プ…プレボあげるし ねっ…ねっ
海上に水飛沫を巻き立ててレオン達を乗せたボートは孤島を目指して疾走する、城の船着き場から出発してから十数分後、前方に目的地の孤島が見えてきた。
「あれが研究所のある孤島だな」
「あの巨大な建物全てが生物兵器の住処って訳か」
遥か遠目からでもわかるほど巨大な建物が島にそびえ立っている、生命を現す緑の色はまるで見えず、ごつごつとした岩肌と建物に使われた金属のくすんだ鈍色、そして工場の様な施設から天へと昇る黒色の煙だけが見える。
「ううっ、何だか不気味よ…」
「島自体はそれ程大きくないわ、ただ解ってると思うけど島の何処を取っても敵でひしめいている」
「より戦いやすいための罠や工夫も施されてる筈よ…村や城のようにすんなりとは行かないかもね」
「間違いないな、何処か船を停められる場所は…」
「回り込んで探すしかないだろう」
孤島の建物は波に削られ反り立った高い岩礁の上に立つ、船を停められる箇所を求めて暫しボートを走らせれば、建物のある場所からは離れた所にボートを停められる岩肌を見つける。
「それじゃ、お先に失礼するわ」
そこにボートを近づかせたその時、何を思ったか座っていたエイダが不安定なボートの上で立ち上がった、取り出した銃器のような何かを上へと向けて引き金を引いた。
「エイダ!?」
バシュンと空気を裂く様な音がなる、エイダの構えた銃器から飛び出したのは弾丸ではなく、先端にフックの付いたワイヤーだった、これから停めようとしていた岩肌の上部に狙いを定めたフックは削り取る音を立てて食い込んだ。
「その娘をしっかり守るのよ」
もう一度エイダが引き金を引けばワイヤーが凄まじい勢いで巻き取られていく、それにつられてエイダが軽く跳躍すれば、フックの方角へと吸い寄せられてエイダが空中を飛翔する。
数秒と掛からずフックの元へと到達、その瞬間に空中で一回転、勢いを殺すと同時にフックを外して回収する。
「おおっと…!」
「きゃあっ!」
突然人一人分の重さが消失し、反動でボートが上下に揺れ動いた、慌てて動くボートを操作して止める、エイダが飛び移った崖を見ても既にその姿は無かった。
「…相変わらずだな」
「デート失敗、両手に花とは行かなかった様だな」
「……まぁ、振り回されるのには慣れてるがね…」
一足先に孤島へと足を踏み入れたエイダ、レオン達もまた人数の減ったボートを操作し、先程見付けた洞窟のような浜辺へとボートを停めて侵入を開始した。
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「慎重に行こう、敵に見つかるとヤバそうだ」
並の打ち付ける岩礁の付近、ボートから降りたレオン、アシュリー、鬼龍、その場所は幸いにも不自由なく歩ける程のスペースがあり、どうやら先へと続いている様だった。
「レオンよ、少し耳を貸せ」
行動を起こすその前に、鬼龍が声を潜めて前を行くレオンを呼び止める、何時もなら何をするにしても堂々として迷いのない鬼龍にしてはそれは珍しい行動だった。
「何だ?鬼龍」
「気が付いてるか知らんが…ここからはより一層アシュリーの警護に集中せねばならん」
「クラウザーは言った、孤島を掌握すると…それは既に完了しているだろう、ならば、恐らくもう…」
「連中にアシュリーを生かして捕らえる必要は無い」
「!!」
「そうか…アシュリーの立場を利用した教団の勢力拡大はサドラーの命令であり目的…」
「そうだ、奴はこうも言っていたな、教団の地位などどうでもいい、プラーガのもたらす力が目的だと」
「奴は残りの兵隊共を従えて世界征服など考えてはいない、追手を排除し都合好く斬り捨てる、そしてプラーガを持ち出して身を隠すその前に…」
「生物兵器の戦闘データを採取する、島を戦場に変えて俺達と生物兵器をぶつけ合わせるつもりか」
「そうだ…奴の目を見て確信した、空いた王座にもサドラーの計画にも本当に興味が無いとな」
「どうしたの?二人でなにか話してる?」
「…いいや、何でも無い、先に進もう」
「アシュリー、俺と鬼龍から離れるなよ」
そうして鬼龍とレオン達は遂に孤島という戦場に本格的な参戦を果たす、湿り気のある岩礁沿いの硬い岩道を慎重に進んで行った。
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波が打ち付ける岩礁を超えた先には、想像していた通りに敵が屯する野営地が見えてきた、布で作られたテント、コンクリートで作られた建築物、その中には木箱に収められた物資が置かれている。
レオン達は離れた場所から飛び越せる程度の崖を挟んでそれらを観察する、ここに来るまでに見張りの姿は無く、しかし進むに連れて高まる重苦しい気配が先に待つ戦闘を予感させていた。
「やっぱり近くに野営地があったか」
「バレてはいないわよね…?ここまで来るまでに敵はいなかったもの」
「今はな、アレを見てみろ」
鬼龍が顎で指したのは灰色のコンクリートで建てられた建築物、敵の銃弾から身を隠すために後から設置されたそれらは入口のない吹きさらしだ、除き窓にはガラスさえ嵌められていない。
そしてそれらの壁や二階の屋上に取り付けられた起動する物、まるで通路の間に障壁を張るかの如く、縦の扇状に伸びる赤光のレーザーポインターがその先を阻んでいた。
その光の出現地には横から弾薬の帯を垂らした黒鉄の重機関銃が重苦しい威圧を放ち鎮座している。
「なるほど、あの赤い光を横切ると機械が反応、すぐさまあの機関銃で蜂の巣って訳か」
「それだけではない、トラップの定石だ…これ見よがしな仕掛けよりもそれを囮に隠した罠が本命だったりする」
「となると警報機や地雷か、トラバサミなんてのも仕掛けてきた事があったな」
「敵の姿は今のところ見えないけれど…?」
「隠れてるだけさ、近くにいる…罠が作動すれば仲間を呼んですぐに押し寄せてくるぞ」
「そして野営地を照らすあのライトの光、間違い無く見張りの兵隊が近くにいるだろう」
「厄介だな、ここから狙撃すれば破壊できるが、そんな事をすればやはり気付かれる」
「つまり取るべきは正攻法では無い」
「逆転の発想というやつが必要だ」
「何か策でもあるのか?」
「罠で敵が呼び寄せられるということは逆に言えば…此方から敵を誘い出せるということ」
「破壊工作は得意か?レオンよ」
「なるほどね…」
この布陣を突破する作戦が立ったレオン達が動き出す、孤島を包む夜の闇と静寂に紛れて気配を殺して忍び寄った。
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〈見張リ続行 ファ~眠イ〉
高台から巨大なライトが右へ左へ規則的に向きを変えて野営地を照らす、それは人があたりを見回す動作に似ている、そして野営地に降り注ぐ光を物陰から見下ろす兵隊ガナードの姿があった。
その目的は勿論、侵入者の察知でありこのライトの光が暗闇に紛れて通過されるのを防いでいる。
野営地を通過するには必ずライトの光を浴びねばならない、その様に計算されて配置されている、 そしてそうなれば直ぐ様ここに配置された者が警報機を作動させる手筈だ。
他にもセンサー付きの機関砲、死角に置かれたトラバサミ、ワイヤー付き爆薬トラップなどが仕掛けられている、まさに隙は無い完全な布陣であった。
〈アーッ ハヨウシャブシャブシタイノオ〉
〈ハヨウ………ナニッ〉
なんの前触れもなく、突然ガラスを激しく叩き割る破壊音が鳴り響いた、それと同時に野営地を照らしていたライトの光が消失する。
閃光のように一瞬の出来事、しかし見張りのガナードにはその現象の意味が解っている、直ぐ様壁に取り付けられた警報機を殴り付けるように押し鳴らした。
〈ハーッ〉
〈ゴングヲ鳴ラセ!侵入者登場ダアッ!〉
ライトの破壊は間違い無く銃器による狙撃によるもの、侵入者の出現を確信した、野営地の奥までけたたましい警報機のサイレンが鳴り響き、至る所に身を潜めていたガナードの兵隊達が大挙して集まってきた。
〈ゴセントウダアッ〉
〈セントウカイシダgoーッ〉
〈〈オオオオオオッッッッ〉〉
僅かな時間で闇に包まれた野営地にガナード群が到着する、月明かりとセンサーの赤い光以外の光源はなく、それでもまだ見ぬ敵の元へと殺到する。
〈ヒャハハ、ゼンシンニナイフサシタレ!〉
〈オーッ ソレハタノシイノオ!〉
敵が来ると予め解っていたガナードは初めから臨戦態勢、それぞれがアーマーや武器で武装し、直ぐ様散らばり獲物を取り囲まんとする、その数はおよそ二十にも及んだ。
〈ドコニモイネェジャネェカアーッ!?〉
〈ダカラコレカラサガスンダロッ〉
しかしいざ来てみれば侵入者の姿は何処にもない、慌てて隠れたのか、暗闇の野営地で捜索が始まった。
〈クークク、野営地ニハ罠ガタップリ…安易ニ踏ミ入ッタコトヲ後悔サセテヤリマスヨ〉
〈……オッ?〉
愉悦の混じった淀んだ目で見渡し歩くガナードの一人、コンクリートの小屋を窓から乗り越え通過しようとする、しかし直前で思い留まった。
〈ブヘヘ、危ネェ危ネェ、ココニハ確カ罠ガアッタ〉
記憶した罠の配置場所と現在位置を照らし合わせ、このまま眼の前の窓枠まで進む訳にはいかないと、横の壁に開けられたもう一つの出口から先へと進む。
〈ソウ、確カ…爆発スルワイヤートラップガ…〉
壁の穴から足をはみ出させた瞬間、プツンと何かが張り切れる音が鳴った、反射的に視線をその音が聞こえた足元へと向ける。
そして夜の空気を引き裂く爆発が巻き起こった。
〈エッ〉
〈ナニッ〉
〈ナンダアッ〉
予想外の爆発音、野営地の片隅で同胞の一人を血煙に変えて黒い煙が立ち昇る、遂に敵が現れたか、すぐに近くのガナード達はその場所に駆け寄った。
〈オラーッ ナンカシトンジャイ!〉
〈ブッ殺シテ……エッ〉
煙で蔓延した小屋に駆け寄った駆け寄ったガナード達の足が止まる、しかし気付くのが遅かった。
既に自分達が荒々しく踏み入った地点を照らす、重機関銃の赤く光るレーダー・サイトにその体は触れてしまっていた。
〈マッ…!待テ…!〉
ただ仕組みによって作動するだけの機構でしか無い機関銃に静止や説得などまるで無意味、直ぐ様重苦しい音に違わぬ破壊力の鋼鉄の豪雨がガナード達目掛けて放たれた。
〈〈ホアアアアアアッッ!!〉〉
地面ごとガナードの肉体を削り取っていく、音が止んだあとに残ったのはもはや残骸とも呼べぬ肉片の山、その光景は駆け寄ろうとしていた別のガナード達を怯ませる。
〈ナンダアッ マネケカァ〉
〈寝不足ダロ ボウッ〉
そこへ更に音速を超えて飛来するライフルの弾丸、横に並んだガナードの頭部を二人まとめて撃ち抜いた、それと同時に更に別の箇所で爆発が起こる、ここまでくればガナード達にも異常事態だと理解出来た。
〈ナ、ナニガ…? アッ〉
〈アノ機関銃…!レーダー・サイトノ向キガ変エラレテル!ナンデジャーッ〉
〈ウワアアアア トラバサミダーッ タスケテクレーッ〉
〈!! マ、マサカ侵入者ガ罠ノ配置ヲ…!〉
〈ジュウセイガキコエターッ ソコダイッケーエッ!〉
〈マ、待テ!〉
更に数体のガナードがライフルの銃声を頼りにその箇所へと突撃していく、そしてその姿が建物の影に入っていた直後に響く三度目の爆発、飛散する人数分の血肉の破片。
〈マ、間違イ無イ!罠ガ奪ワレ利用サレタ!〉
〈罠ニ嵌メラレタノハ…俺達ナンダ!〉
真実に気が付き、まだ生き残っている仲間を呼び止めようと引き返すために後ろを振り向くガナード、しかし背後に向けた筈の視界が何かがへし折れたかのような音と共に突如として切り替わる。
〈ギ?〉
ガナードには何が起きたのか解らない、そのまま力が抜け落ち、続いて意識までもが闇に沈んだ。
「これもトラップの定石…気づいた時にはもう遅い」
背後から音も気配も無く忍び寄った鬼龍がその首を180°に捻り折った、別の場所では同じ様に闇に紛れたレオンが迂闊に動いた者や罠にかかった者の背後から首筋目掛けてナイフを突き立てる。
〈ハーッ ナンカ…ッ〉
〈キエル…? ウム…〉
一人一人、集団から離れ暗がりに足を踏み入れた者から狩る、ライトの照明が破壊され隠れ潜む為の暗がりは増えていた、姿も見せず音も無く静かに殺す。
レオンと鬼龍は照明に見つからない範囲にある全てのトラップを解除し再配置していた、そして照明を破壊、敵をいいように誘き出す事に成功。
もはや大勢は決し、敵の姿を捕らえることもできず、野営地に殺到した数十のガナードは既にその数を半数にまで減らしていた。
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孤島、研究施設奥部─
近代的な機械が立ち並ぶ一室、数々の操作パネルやスイッチ、レバーが並ぶ機械の上では、島中に仕掛けられた監視カメラの映像がリアル・タイムでモニターに映される。
侵入者の存在を孤島中に知らせる司令塔の役割を果たす、そこにはレオン達の侵入を受けて野営地の兵隊が動き出した様子が映し出されている。
そしてそのモニターを眺める人影が二つあった。
〈侵入者デスワ〉
〈善戦シテラッシャルノ?〉
それは色褪せた白のローブに身を包み、頭巾の様な布を被り首元で縛って素顔を隠した二人の女、かつてサドラーの召使いであった教団のガナード、従者姉妹、メイド・シスターズ!
〈…暗クテ見エマセンワ〉
〈取リ敢エズ兵ヲ呼ビ寄セマショウカ?〉
「いいや、その必要は無い」
その背後から気配も無く突然声が掛かる、そこにいたのはクラウザー、あの冷徹な目でモニターを凝視していた。
〈クラウザー様!?〉
〈イツカラソコニ…〉
「雑兵共がどれ程集まろうと連中を殺せるとは思っていない、必要なのは圧倒的な力を持つ怪物」
〈ナルホド、トナルト…〉
〈“極悪兄弟”ノ出番デスワ〉
「ふむ…アイツらか、悪くはないがもっと適任がいるだろう?5番から9番のモニターを切り替えろ」
クラウザーに言われるがままにパネルを操作するメイド・シスターズ、一瞬の点滅の後に指定された4つのモニター画面が別の光景を映し出す。
そこは研究施設の何処か、一際強固な鋼鉄の壁や床で覆われた銀色の監禁部屋、そしてその部屋の真ん中で蠢く4体の影の正体を認識したその瞬間、
恐れ知らずの死兵たるガナードである筈のメイド・シスターズが心底から真っ青な恐怖でその身を凍り付かせた。
「コ、コイツラハ…!」
「マ、マ、マサカモウ…!?」
「あぁ、先程4体全てを解放した、侵入者共を始末するのはコイツらの役目さ」
クラウザーが口角の片側を吊り上げる不敵な笑みを浮かべる、それとは反対に手下の二人は布の下でその顔を恐怖で極限まで歪ませる、寄生体であるからこそこれ以上無いほど明確にその脅威が理解できてしまう。
モニターの向こう側から影の内の一体が監視カメラに向かって唸りを上げて咆哮する、それを聞くメイド・シスターズの体に電流のような本能的恐怖が奔った。
「ハヒーッ!ヒ、ヒ…!」
「ヒエエエ!“黙示録ノ四魔獣”デスワァ!」
「ククク、さぁ怒りをぶち撒け戦うのだ、死ぬまで好きに暴れろ、教団すら恐れさせた禁忌の魔獣達よ」
野営地を映すモニターの向こうでは既に押し寄せるガナード達の雄叫びは完全に絶えていた、だがクラウザーにはそんな事まるで興味が無かった。
◇怪物登場…!