TOUGH DEVIL HAZARD   作:ポジョンボ

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我が名はスヌーカー
エイダ編の配信が近づき喜びを感じる


第44話

 

 

 

 「さぁお前の力を堪能させろっ」

 

 

 〈ギィアアッ〉

 

 

青みがかった不気味な照明に照らされる培養室で鬼龍と怪物がぶつかり合う、敵対するは変異を果たしたリヘナラドール、全身に致死の剣山を持つ恐怖の化身。

 

余りにも凄惨な亡骸を生み出すその攻撃性から中世の処刑具の名を付けられた生物兵器。

 

 

 「体から針など出して防御のつもりか」

 

 

鬼龍が高速の突進、そしてステップを混じえた方向転換、敵の目からは今だ迫りくる鬼龍の残像が見えている高等技術、ほぼほぼ瞬間移動の速度で変異体リヘナラドールの背後に回り込んだ。

 

 

 (肉に埋もれて埋没した眼球、視覚能力は消失したか、どのみち動きは不自然かつ鈍重なものよ)

 

 (まずは寄生体の場所を明らかにする)

 

 

鬼龍がその背より浸透系の打撃を打ち込みんとする、針を出す隙も与えない、そうして一歩を踏み込んだ瞬間、

 

鬼龍の本能が警告を発した、それとほぼ同時に鬼龍の理性がそれに従うべきだと判断を下す、超人の肉体は遅れること無くその刹那の指令を実行した。

 

 

 「むうっ…!」

 

 

全身のバネを総動員して加速の付いた体を後ろへと引き寄せる、そして変異体リヘナラドールの剣山が姿を現した。

 

鬼龍が打ち込もうとしていた背より飛び出した針は、飛び引かねば今ごろ鬼龍がいた箇所の空間に突き立てられていた。

 

 

 「なに…!?」

 

 

 〈ア…アッ…ウゥゥ〉

 

 

 (反射や思考では無い…俺が狙っていた箇所から正確に針を出現させた、これは本能だ)

 

 (敵意に反応した肉体が狙われた箇所を特定し、防御反応で針を飛び出させて迎撃するというのか…)

 

 

 〈アアアアッ〉

 

 

変異体リヘナラドールが叫びと共に動き出す、振り向きざまの裏拳じみた右腕の殴打、ただし肘関節の辺りから全長ほどに伸縮、腕にはびっしりと針が飛び出している。

 

その殺傷能力は勿論、速度も驚くほど速い。

 

 

 「速い!」

 

 (身体能力も格段に上昇しているっ)

 

 

上半身を仰向けにする様なスウェイで身を低め、頭上を通過させることで回避する鬼龍、今も尚本能からくるプレッシャーは止んでいなかった。

 

その時、培養室に飛び込んでくる影があった。

 

 

 「鬼龍!まだ生きてるか!?」

 

 「レオン、俺一人でやると言った筈だぞ」   

 

 「いいや…それは良い考えじゃ無さそうだ」

 

 「コイツは何だ、奴等の同種か?」

 

 「下手に手を出すなよ、全身から飛び出す針が恐ろしく鋭く頑丈だ、身体能力も比べ物にならん」

 

 

 〈ア…ア…〉

 

 

新たなる敵対者の出現により変異体リヘナラドールの全身がざわめき出す、肌から湧き出す泡のように針が小さく浮かび上がっている。

 

 

 「全身から針だと?ならばお前の武術を使った寄生体の割り出しは通用しないってわけか」

 

 「フン、だから何だ…別の方法で殺すまでだ」

 

 「無理をするな、コレを使え」

 

 

レオンが散弾銃を鬼龍に投げ渡す、手に取った鬼龍の表情は間違いなく不機嫌な物だったが、変異体リヘナラドールの針の反応速度は予想外であり徒手空拳は自殺行為。

 

不服そうにまた鼻を鳴らしながらも一先ずはレオンの提案に乗ることにした、強すぎる自尊心を持つ鬼龍だが今は屈辱を感じている余裕が無かった。

 

 

 「……コイツはあの再生する怪物の変異体だ、作りは変わらん筈だ、お前のライフルなら風穴を開けて寄生体を破壊できる」

 

 「問題は…狙う場所が解らないってことか」

 

 「まずは脊椎を狙え、今までの傾向から可能性が高い…気を付けろよ、来るぞ」

 

 

 〈ガアアアアッ〉

 

 

変異体リヘナラドールが突撃、泥酔状態を彷彿とさせる弛緩した肉体の不安定で鈍重な動きは鳴りを潜め、ほぼ人間の全力疾走と変わらぬ速度でレオンと鬼龍目掛けて急接近。

 

 

 〈ヴヴヴ〉

 

 

そのまま二人まとめて薙ぎ払う様な伸縮する両腕による回転横薙ぎ、極悪のフレイルと化した腕の一撃を姿勢を低くして躱すレオンと鬼龍、培養室の研究成果の詰まったカプセルケースが粉々に破壊される。

 

 

 「今だ!」

 

 「動きを止める、その隙を撃て」

 

 

反撃に出る二人、鬼龍が受け取った散弾銃を片手打ちで発砲、変異体リヘナラドールの右足を撃つ、散弾のエネルギーが右足の肉を吹き飛ばし破損させた、片足を床に付く姿勢で体制を崩す。

 

 

 「運試しじみてて好きじゃあないが…!」

 

 

そしてレオンのライフルの弾丸が穿つ、事前の提案通りにまずは脊椎中央に一発、次に頭部、そして胸部の中心に一発、短い間に3発を命中させる、その全てが直線上の肉体を破壊して貫通した。

 

 

 〈ガガガ…〉

 

 

だが変異体リヘナラドールは少しも怯まない、まるで風に待った砂粒か何かが当たった程度かの様に、平然と負傷した右足の治療を終えて立ち上がった、一連の時間は僅か数秒。

 

 

 「…効いてないみたいだな」

 

 「それだけじゃない、片足を吹き飛ばしたつもりが肉が抉れただけだ、耐久性までもが強化されている」

 

 「だが通じなかった訳じゃ無い、幸いサイズは人並み、思い付く限りの箇所を撃ち抜いていけばいつかは当たる、再生力にだって限界があるしな」

 

 「フン…相手の土俵に付き合うなど本来ならば愚策そのものだが…忌々しい事に他に手は無いな」

 

 

 〈グウウウ〉

 

 

完全に治療を果たした変異体リヘナラドールが全身に力を込める、次なる攻撃の予兆だと理解したレオンと鬼龍が身構える。

 

両腕で体を抱え込むようにして腕を回し、俯くように背を曲げて姿勢を低くしていく変異体リヘナラドール、攻撃と一見結びつかないその動作に疑問と、瞬間的に沸き立つプレッシャーをレオン達は感じ取った。

 

 

 「何だ…!?」

 

 「これは、何かマズいっ」

 

 

二人が迫る危機を知覚するも、その実態が不明故にごく僅かな動揺が走る、そして変異体リヘナラドールが全身の力を解放したその時、予想を遥かに超える攻撃が発動した。

 

 

 〈ボアアアアアアッッ〉

 

 

 「な…!」

 

 「なんだあっ」

 

 

変異体リヘナラドールの体が一瞬の膨張、そして解放、その身から浮かび上がってくる剣山が勢いのまま肉体から分離して高速で飛来する!

 

 

 「ば、馬鹿な…」

 

 

引き絞った矢の如く撃ち出される変異体リヘナラドールの針、その一本一本が厚い鉄板を貫通する破壊力を秘める、それが変異体リヘナラドールを中心とした全方位に無数の弾丸として放たれた。

 

 

 「ぐ、ぐあっ」

 

 「ぬううっ…!」

 

 

全方位に展開される針の散弾を不意を突かれた状況で回避しきる事は歴戦の猛者たる鬼龍とレオンですら不可能だった、肩や手足の一部に針が掠る。

 

高速で通過する変異体リヘナラドールの針は例え掠った程度でも研いだ刃物で肉を深く切り裂いた様な裂傷を与える、鮮烈な痛みと鮮やかな出血が傷口から発せられる。

 

 

 「コイツ、針を飛ばしやがった!」

 

 「…!来るぞっ」

 

 

変異体リヘナラドールが追撃としてまた腕を伸縮させる、両腕でレオンと鬼龍を同時に掴みにかかった。

 

 

 「引き寄せて串刺しにするつもりか!」

 

 「防げ!」

 

 

鬼龍は散弾銃で撃ち払い、レオンはナイフで手首から先を切り飛ばす、体勢を立て直してまた戦闘を続行する。

 

 

 「やはり時間を掛けるのは愚策っ」

 

 

変異体リヘナラドールの損傷が再生する間に鬼龍が散弾銃を発砲、狙いは胴体の中央、散弾が肉を抉ると同時に体全体にその衝撃を伝える。

 

 

 〈ゴウッ、ゴウウッ〉

 

 

更に連続で同じ箇所を撃ち続ければ段々と衝撃に耐えられず変異体リヘナラドールが後退する、両腕の傷は癒えども次の攻撃に移行する事を許さない。

 

 

 「良い加減終わらせてやる!」

 

 

そして同時に撃ち込まれるレオンのライフル弾、先程の箇所とは別の場所に次々と風穴を開ける、腹部、両肩、両腕両足の先端、付け根、関節、やがてその穴の数は十数にも及んだ。

 

 

 〈……ア、ア、ア〉

 

 

残弾が尽きるまで両者の銃撃は続き、素早くリロードを完了させる。連続した銃撃による拘束から解き放たれた変異体リヘナラドールはまだ生きていた。

 

胸部は肋骨まで消失し、脈打つ心臓が覗いている、全身に開けられた穴は関節や神経の走る箇所を撃ち抜き物理的に肉体の動きを阻害する。

 

それでも生きていた、抉れた胸と全身の穴が巻き戻しの様に恐ろしい速度で再生していく、やがてはその動きを再開させた。

 

 

 「効いてない…か」

 

 「……妙だな」

 

 「あれだけの箇所を撃ち抜かれて健在とは…ただ運が悪かったとは思えん、寄生体の数は知らんが」

 

 「何か仕掛けがあると?」

 

 「あぁ…俺が殴りかかればコイツは狙った箇所から針を出して防御する、殺意を察知し本能的に攻撃を予想している」

 

 「それと同じだ、恐らく狙われた寄生体が体内で移動していると考えられる」

 

 「何だと?それじゃあいよいよコイツの再生力が尽きるまで撃ち続けるしか無いぞ」

 

 「泣き言は後で言え、その時生きていれば、な」

 

 

 〈ゴアアアッッ〉

 

 

変異体リヘナラドールが吠える、寄生体が無事とて蓄積したダメージがある、それが逆に闘争本能を刺激し怒りによる凶暴化を促す、殺意に支配されるままレオン達に飛び掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 「な、何あの怪物…!」

 

 

戦闘が行われている培養室の奥へと続く途中の場所、付かず離れずの距離にアシュリーは隠れるよう言われていた。

 

そこからでも破壊された大きな窓枠を挟んで見える怪物との死闘、並居る寄生体を退けてきたレオン達が劣勢を強いられていた。

 

 

 「何回も撃たれているのに倒せないのは何故…?似たような怪物はさっきまで簡単に…ま、まさか」

 

 「あの針が邪魔で鬼龍が弱点を見つけられない…ってコト!?だからレオンの攻撃も効かない!?」

 

 「このままじゃマズいのかも…!何か出来る事は無い?アイツの弱点を見つける方法とかを…」

 

 「……もしかして、あの時のアレって…」

 

 

アシュリーの脳内に記憶の中から一つの発想が浮かび上がる、確証も何も無いが直感とも言うべき自信の様なものが湧いてくる、思えば初めから気になっていた。

 

 

 「冷凍室のケースに入ったあのスコープ…」

 

 「あんな所に厳重に仕舞われていたのは何故?ただのパーツじゃ無いのかも、怪物を封じ込める部屋に置かれていた…まるで危なくなったらそれを使うみたいに」

 

 「……ここで考えていても仕方無い、どのみち私がここにいるだけじゃ役に立てないわ」

 

 「大人しく隠れてろって言われたけど、もしかしたら足を引っ張るだけで終わるかもしれないけど…」

 

 「皆が頑張ってるのに私だけ黙って見てるのは嫌」

 

 

決意の籠もった目で怪物とレオン達の死闘を今一度見る、怪物が全身から針を剥き出しにして襲い掛かる、一撃でも受ければ惨死の攻撃を既のところで躱す。

 

 

 「私も何かしなくちゃ」

 

 

そうして遠くをしゃがんで覗き込む姿勢から静かに立ち上がる、来た道を引き返す為に動き出す。

 

医務室への扉に向かう前に、ふと視界の端に移る何かに目が向いた、デスク近くの壁に突き刺さった黒く鋭利な棒状の物体、怪物がこの距離まで飛ばした針だ。

 

 

 「コレは武器代わり」

 

 

その針を壁から抜き取った、それを片手に今度こそ医務室への扉を開け、冷凍室へと向かっていく。

 

 

 「冷凍室は確か廃棄場を出て通路のすぐ先、急がなきゃ!あの怪物は疲弊し無くてもレオン達は違う!」

 

 

冷凍室を目指して医務室を駆け抜けるアシュリー、階段を登り、散乱した椅子や書類を蹴り飛ばす勢いで通過、そして廃棄場のクレーン操作室へと続くドアまで到達し開け放った。

 

 

 「お願いだから何も出てこないでよね…!」

 

 

そのまま操作室のドアに手を掛けた瞬間、ドアの向こう側から力が加わり勢いよくドアが開かれた。

 

 

 「えっ な、なにっ」

 

 

 〈シャアッ〉

 

 〈デスワッ〉

 

 

ドアを向こうから開けた人影は素早く入室してアシュリーを突き飛ばした、そしてその脇からまた別の人影が転倒したアシュリーに覆い被さる様に掴みかかった。

 

 

 〈余計ナ事ヲスルナッ 小娘ッ〉

 

 〈“アイアン・メイデン”ガ奴等ヲ処刑スルマデ大人シクスルンデスワッ〉

 

 

それは薄汚れた白の粗雑な給士服を纏い、顔面の全てを同じく薄汚れた白色の頭巾で覆い隠した二体のガナード、サドラーの元召使い、メイド・シスターズ。

 

 

 「て、敵!? うっ…!」

 

 

馬乗りの姿勢からアシュリーの首を両腕で締め上げる、元が女性の肉体とは言えプラーガで強化された肉体の膂力は成人男性にまさる、ぎりぎりと音を立てて首が絞まっていく。

 

 

 〈オ前達ガ無駄ナ抵抗ヲ続ケタセイデ私達マデ駆リ出サレタ モウ…殺スシカナイ〉

 

 〈未寄生蛆虫ガ!良イ気ニナリスギダッ〉

 

 

 「うぐっ、こ、このっ」

 

 

アシュリーが反撃として右腕に握りしめた変異体リヘナラドールの針を相手の頭部に渾身の力で突き刺した、白の頭巾がたちまち赤く染まり、メイド・シスターズの絶叫が響く。

 

 

 「ギエーッ」

 

 「コノオメゲガーッ」

 

 

怯んだ片方のメイド・シスターズを片足で蹴り飛ばして押し退ける、呼吸を荒げて立ち上がるアシュリーをもう片方がまた首を絞め上げて掴み上げる。

 

 

 「うぅ…触らないで!」

 

 

その両腕を掴み抵抗するアシュリー、すぐさま自由な右足で蹴りつけて拘束から脱出する、そしてその隙に破壊された操作室の窓枠から廃棄場まで飛び降りた。

 

 

 「あううっ」

 

 

硬いコンクリートの床に手を付いて着地する、硬い地面から殴られた様な衝撃が伝わる、それを堪えてすぐさま入口のドア目掛けて走り出した。

 

 

 〈ボケーッ〉

 

 〈逃ガスワケアルカアッ〉

 

 

背後から怒号とともにメイド・シスターズも飛び降りて追い掛ける、アシュリーは追い掛けられる形で冷凍室を目指して走る。

 

 

 「はっ…はっ…」

 

 

廃棄場を駆け抜け、ドアを開け放ち、その先の通路を超えた先にある冷凍室の氷のように冷たい鉄扉を両手で開く。

 

冷却機能は停止すれども尚も肌を震わせる冷気が部屋から吹き抜け、霜と靄で包まれた部屋へと再び踏み入った。

 

 

 「確か…そう、アレだわ!」

 

 

冷凍室奥の小部屋、ガラスケースに入ったパーツの元まで駆け寄る、施錠代わりに付けられた硬いハンドルを持ち、回そうと動かす。

 

 

 「ううっ、硬い」

 

 

まるで固定されているかの様に硬かったが、全力の力を込め続ければ次第に錆びた音を立ててハンドルが動いていく。

 

そしてもう抵抗を感じない箇所までハンドルを回し終えるとガラスケースが開いていく隙間から冷気を放出しながらゆっくりと開いた。

 

 

 「やった!きっとコレが…」

 

 

中にあるスコープを手に取りすぐさま振り向く、だが追いすがるメイド・シスターズが冷凍室まで侵入して来るのと同時だった。

 

 

 〈イイカゲンニシロイッ〉

 

 〈追イ詰メタゾッ〉

 

 

 「何よ、邪魔しないで!」

 

 

 〈コノ小娘ガッ サーモ・スコープデ“アイアン・メイデン”ノ弱点ヲ見ツケラレルト知ッテルナ〉

 

 〈恐ラクルイスノ入レ知恵ダト思ワレルガ…〉

 

 

 「サーモ・スコープ?…そういうコト…実は確証なんて無かったけど間違ってなかったのね、教えてくれてありがと」

 

 

 〈ナッ…!グ、グヌヌ〉

 

 〈コ、小娘ッ ドノミチ此処デオ前ハ死ヌンダヨ!〉

 

 

 「やれるもんならやってみなよ!」

 

 

アシュリーが皮肉気味に挑発すれば失言に焦るメイド・シスターズが慌てて遅い来る、迫る二体の足元に目掛けて冷凍室の実験器具が載せられた移動棚を全力で投げ付けた。

 

 

 〈アガガッ〉

 

 

メイド・シスターズの片方が足を取られ前のめりに転倒する、残る一体も前に転んだ仲間が邪魔をして動きを封じられる、その隙にアシュリーが自ら残る一体に突進した。

 

 

 〈ナッ、ナンダアッ〉

 

 

非力で無力な存在だと認識していた相手からの攻撃に戸惑うメイド・シスターズ、反応が遅れた間にもアシュリーが迫る、変異体リヘナラドールの針が再びメイド・シスターズの頭に突き刺さった。

 

 

 〈ギギーッ〉

 

 

 「今さらアンタ達なんか怖くもないわ!」

 

 

怯んだメイド・シスターズをアシュリーが体重を込めた渾身の突き飛ばしで追撃する、体勢を崩したメイド・シスターズが堪らず仰向けに転倒。

 

 

 「ここでそのまま凍ってしまえばいいのよ!」

 

 

そしてその脇をすり抜けて冷凍室の扉を開けて素早く退出、アシュリーは全速力で培養室へと戻っていく。

 

 

 〈ギギギ、コノ未寄生ノ蛆虫!〉

 

 〈殺スダケデハ済マサナイ…!〉

 

 

怒りに震えるメイド・シスターズが起き上がり、また追跡を始める、アシュリーと同じく冷凍室の扉を開け放とうとした途端、ガシャンという重たい音が扉から響く。

 

 

 〈〈エッ〉〉

 

 〈ナ、ナニ?コレ…〉

 

 〈扉ニロックガ掛カッタト思ワレルガ…〉

 

 〈アノ小娘メッ〉

 

 〈イヤ…待テヨ…コレハ多分…〉

 

 〈冷凍室内デノ敵性存在出現ニ対応スル機能デハ…〉

 

 〈……エッ〉

 

 

どたん、という重さのある何かが落下する音がメイド・シスターズの背後から聞こえた、続いて部屋内に得も言われぬ異臭が漂い始め、冷却機能の停止と共に軽減されていた冷気が再び強まり部屋の温度を急速に奪っていく。

 

ひたひた、という裸足の足音が聞こえる、冷凍室の実態、冷却機能の停止、騒がしかった戦闘音、扉のロックとその条件、それらを加味すれば背後で何が起こっているのか明白だった。

 

 

 〈ハ、ハヒ…ハヒ…〉

 

 〈アワ…ワワ…〉

 

 

漂白された思考のまま、振り向いた背後にいたのは、想像通りの眠りから解き放たれた死神の姿だった、逃げ場の無くなった部屋の中で、死神は躊躇いなくその牙を突き立てた。

 

 

 〈ガウウウッ〉

 

 

 〈〈 ウ ア ア ア ア ア ア ア ! 〉〉

 

 

 

 

 

研究施設奥、培養室

 

 

 「ハァ…ハァッ どうだ、少しは弱ったか…?」

 

 「あぁ、動きに隙が増え始めた…少しだけ、な」

 

 

 〈グギ…ガガガ…!〉

 

 

 「マジかよ…キツいぜ」

 

 

培養室は血に染まっていた、何度も体を撃ち抜かれ欠損した変異体リヘナラドール、アイアンメイデンの血液や臓物が飛散する、その再生力にも陰りが見え始めている。

 

だが今だ健在、対するレオンと鬼龍は消耗している、全方位に飛び交う針の弾丸で刻まれた傷からの流血は体力を奪い、痛みとプレッシャーは集中力を音を立てて削り取る。

 

 

 「戦いながら残弾の確認を忘れるな、来るぞ」

 

 

その時、培養室の入口側から窓枠を超えて黒い何かがレオン達の元へ飛来する。

 

 

 「間に合った!それを使って!」

 

 

黒い筒の様な物、それは息を切らすアシュリーが投げ渡したサーモ・スコープなるライフルのカスタムパーツだ。

 

 

 「アシュリー!?コレは何だ…?」

 

 「それを拾え、隙を作る」

 

 

伸ばされるアイアンメイデンの腕を鬼龍が散弾銃で迎撃する、その間に素早くレオンがサーモスコープを拾い上げ、それがライフルに取り付けられると瞬時に理解する。

 

 

 「こういうことか!」

 

 

無駄のない動作で手に持っているライフルに取り付ける、そして照準を素早くアイアンメイデンに向けた。

 

 

 「おおっ、コレは…!」

 

 「それでソイツの弱点を見つけられる筈!」

 

 

覗き込んだスコープの先の景色は青色で埋め尽くされる、ただ今も目の前で動く青のシルエットと化したアイアンメイデンのその体の中に赤く染まって蠢く影が数体。

 

 

 「サーモグラフィーか!」

 

 

それはリヘナラドールの暴走時の対処として用意された専用のカスタムパーツ、温度を利用して死体の様に冷たいリヘナラドールの体内で熱を持つ寄生体を視覚化させる。

 

 

 

 「本当だ…鬼龍の言う通り体内を泳ぐように寄生体が移動している…運試し気味に撃っても当たらない訳だ」

 

 「だが見えているのなら当てられる!」

 

 

レオンが狙い澄ました一射を繰り出す、アイアンメイデンの胸の中を移動する寄生体が危険を設置して腹部へと移動を開始するが的が視覚化されたことで命中精度の上がった弾丸はその寄生体を逃さず捉える。

 

 

 〈ギュイイイイイッッ!〉

 

 

アイアンメイデンが初めて苦悶の絶叫を上げた、全身の針が制御を失い、攻撃が中断される。

 

 

 「鬼龍!」

 

 「決着を付ける時か」

 

 

それに合わせた鬼龍の散弾銃片手打ちの2連射、アイアンメイデンの右足の脛を吹き飛ばす、前のめりにに倒れたアイアンメイデンを更に散弾銃の弾丸群が床へと縫い付ける。

 

 

 「終わらせろ」

 

 

そしてそこに正確に叩き込まれるライフルの弾丸、殺気を感じ取り寄生体が退避し切るより先に撃ち抜き破壊させていく、やがて全ての寄生体が破壊された。

 

 

 〈アガ、アガガアッ…ガアアアッッ!〉

 

 〈アアアアアアッ〉

 

 

 「なにっ」

 

 

断末魔の悲鳴を上げて爆散すると思われたアイアンメイデンがけたたましい叫びを上げてまた針の弾丸を全方位に展開させる、それと同時に崩壊を始める肉体をなんと立ち上がらせた。

 

その顔面は抉れた肉の先に赤い朱肉のような塊が外気に触れて心臓の様に脈打っていた。

 

 

 「寄生体を全て倒したのに…復活だと!?」

 

 

針の散弾をなんとか回避するレオン、だがその隙にアイアンメイデンが攻撃を開始する、それを止めるのは鬼龍!

 

 

 「灘神影流 “弾丸滑り”」

 

 

極限のスリッピングアウェー、弾丸滑りで飛来する針をも無効化する、そして一本の針をその手で掴み取った、両の手のひらで針を横にして持つ様に。

 

 

 「土壇場で新たにコアを生成したか、だが甘い」

 

 「丸見えだ、ライフルでなくても破壊できる」

 

 「灘神影流 “弓矢返し”」

 

 

そして手に掴んだ針をそのまま投げ放った、灘神影流に伝わる暗器術の応用、名の如く敵の放った弓の矢を己の矢として返す技。

 

返された矢と化した針がアイアンメイデンの抉れた頭部にある朱肉を穿つ、ピタリとその動きが停止、そして全身の針が一斉に体へと引っ込んだ。

 

 

 〈ゥ〉

 

 

 「もう退場しろ、見苦しく足掻こうと無駄だ」

 

 

 〈………ボッ…ボウウッ〉

 

 

数秒間の小さな痙攣を起こした後、遂に不死身の様な再生力を持つその肉体が形を保てず赤い水飛沫となって吹き飛んだ。

 

後には他のリヘナラドールと同じく、上半身を失くした腰から下が少し歩きやがて倒れて完全に力尽きた。

 

 

 「決着だ」

 

 「ようやくか…今回は流石に骨が折れたぞ」

 

 

 「……やった…?勝ったのね!」

 

 「アシュリー!あぁ、お前のおかげだ」

 

 「それにしても何処でコレを?」

 

 「冷凍室よ、初めて見た時から何か気になってたの」

 

 「ほう、直感という奴か…どうやら人より優れた感覚を持っている様だな、よくやったアシュリー」

 

 「フフフ、ありがと鬼龍、私も実はエージェントの素質があったりして!帰ったらパパに相談してみようかなあ」

 

 「ハハ、エージェントか、オススメはしないな」

 

 

培養室での死闘で勝利を得た三人、目的地の通信塔まであと少し、孤島での長い戦いは更に進んでいく。

 

 




◇次回、鬼龍達は…?
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