TOUGH DEVIL HAZARD   作:ポジョンボ

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第49話

 

 

 

コンテナユニットでマルティニコの襲撃を切り抜けて対岸の地面まで到達したレオンと鬼龍、二人して何とか治療できた右肩を抑えながら先へと続くドアを開けて進む。

 

 

 「ぬうっ…あのスプレーで痛みは完全に引いたが…」

 

 「あぁ、これ以上無茶をするのは不味いだろう」

 

 「そうだな…」

 

 「…銃の反動で肩を外した事は黙っていよう」

 

 「…そうだな」

 

 

お互いに普段よりも覇気のない声で口裏を合わせ、アシュリーとエイダに合流するために先へと進む、ドアの先は鉄筋と鉄筋の短い階段が、その上には洞窟通路と繋がっているだろうゴンドラ乗り場と奥に別の扉があった。

 

 

 「むっ」

 

 「噂をすればか」

 

 

レオンと鬼龍が階段を登り切ったと同時に動いていたゴンドラが此方へと到着、その中にはやはりアシュリーとエイダが乗っていた、互いの姿を認識する。

 

 

 「レオン!鬼龍!」

 

 「アシュリー、エイダも無事だったか」

 

 「怪物が現れたけどエイダさんが守ってくれたの!」

 

 「へぇ、随分協力的になったな」

 

 「こんな特殊な状況じゃなきゃあり得ないけど、特別サービスって事にしといてあげる」

 

 「……楽な相手では無かった様だな」

 

 「! …えぇ、お互いにね」

 

 

鬼龍の鋭い感覚と直感は一見平常そのもので落ち着いた様子のエイダの裏にある疲弊や焦燥とも違う異変を感じ取った、それが先の戦いで受けた何かしらの異常だと直感する。

 

 

 「あの怪物はまだ死んでいない、相手は私がする」

 

 「お前に出来るのか」

 

 「自分の始末は自分で付けたいの、心配いらないわ」

 

 「そうか…好きにしろ」

 

 「えぇ、そろそろ先に進みましょう」

 

 「あの扉から進めそうだな」

 

 

合流した部屋から扉を通って進めば屋外へと出る、暗雲で遮られた空と土の匂い、進めば数台のテントが設置された野営地のような場所が見下ろせる、そこに降りるための梯子が立て掛けられていた。

 

 

 「ここは野営地か、使われた痕跡は無いが…」

 

 「でも気を付けて、何処に潜んでいるか解らないわ」

 

 

一人ずつ梯子を降りて野営地に侵入、テントの中を警戒しながら確認するも敵の姿は無かった、地図と照らし合わせて先に進むルートを把握する。

 

 

 「やっぱり誰も居ない…なら向こうか」

 

 

テントのある野営地を抜けた先にはかなり広い空間が広がっている、かなり古めかしい石積の建造物の群れ、幾つかの塔、それらを繋ぐ通路、壁で隠された場所にも通路は伸びているだろう。

 

見下ろしたその場所は古代の遺跡がそのまま残されているかの様だった、事実としてこの場所は正しく古代の遺跡そのものだった。

 

 

 「遺跡…?ここだけ前時代から持ってきたみたいだ」

 

 「この島に元々あった先住民の物だろう、興味深いが今は気にしている時間が無い」

 

 「そうだな、さっさと通り抜けよう」

 

 

レオン達が遺跡群を見下ろせる場所から移動を始める、そこから通路を進み遺跡群の中を通っていくしか先に進む道は無い、まずは目の前に進むとある建物に近付いていった。

 

そこでアシュリーとエイダが異変を察知する。

 

 

 「うっ…頭が…あ!この青い炎は…!」

 

 「そう…来たのね」

 

 「どうした?青い炎だって?」

 

 「そんなものは見えないが…む」

 

 「彼処か!」

 

 

アシュリー達の異変により警戒と感覚を更に鋭敏に強めた鬼龍とレオンもその存在に気付く。今いる遺跡へ続く通路の右側、遺跡の構造上で出来た深い溝を挟んだ向こうの通路にそれは立っていた。

 

 

 〈………〉

 

 

金具の付いた漆黒のローブに怪しく光る双眼、洞窟通路でエイダ達を襲撃し、戦闘を繰り広げた後に撤退した孤島の新たな刺客、ペサンタだ。

 

 

 「アレはヴェルデューゴか…?或いはその系統だな…アシュリー、お前達を襲ったという怪物はアレか」

 

 「そうだよ、気を付けて、奴は大勢に増えるの!」

 

 「増える?そのままの意味か?また大層な能力だ」

 

 

レオンと鬼龍が姿を表してから包み隠さぬ殺気を放ち始めたペサンタを迎え撃つ為に構える、両者の間には距離が空いていたがその気になればすぐにでも此方に攻撃を届かせる能力が相手にはあると解っていた。

 

その警戒の中、エイダが予想外の発言を口にする。

 

 

 「アレは私が始末する、貴方達は先に行って」

 

 「なんだと?本気なのか?」

 

 「えぇ、奴は厄介よ、特にアシュリーが狙われると危険だわ、私と同じく能力の影響を受けるから」

 

 「能力の影響…?どういうことなの?」

 

 「お前達が言う青い炎や増える力、その正体に検討が付いているという事か、だから一人で倒すと?」

 

 「そういう事ね、いいように翻弄された上に同士討ちなんて事になったら嫌でしょう?」

 

 「だからって一人で戦うのか、聞いた感じじゃお前も奴の能力とやらの影響を受けているみたいだが」

 

 「あら、レオン お互い余計な心配は不要と解っている筈よ、貴方は先に進んで彼女の治療を済ませて」

 

 

エイダの目は既に向こう側の通路に佇むペサンタに向けられている、レオンもその選択が最善だとエイダを信じて先に進む決意を決める。

 

 

 「先で落ち合うぞ」

 

 「えぇ、そうしましょう」

 

 

互いに短い言葉を交わした後、レオンと鬼龍はアシュリーを連れて遺跡の通路を駆ける、その突然の素早い動きにペサンタが視線を向けて阻止に動こうとする。

 

 

 〈…!〉

 

 

だがそれと同時に発射されるエイダのワイヤーフックのアンカーがペサンタの立つ足元に命中して食い込む、引き金を引けば高速でワイヤーが巻き取られ、エイダがペサンタ目掛けて一直線に、両通路の間にある溝を超えて飛翔する。

 

 

 「貴方の相手は私よ」

 

 

 〈ガガッ〉

 

 

直前でフックを外し、飛翔する勢いを乗せた鋭い蹴撃をペサンタに放つ、コートの下の異形の肉体の芯を正確に捉えた一撃はペサンタを大きく怯ませ、通路の下に落下させる。

 

 

 〈オオォ〉

 

 

ペサンタが袖口から伸びる鉤爪で遺跡の壁を削り取って掴み、完全な落下を阻止して腕の力だけで一息に飛び上がる、エイダの立つ通路へと舞い戻った。

 

 

 「あの時の続きよ、早く始めましょう」

 

 

 〈……!〉

 

 

ペサンタが静かに殺意を滾らせる、レオン達を追うよりもまずは眼の前の敵を全能力を持って排除するべきと判断した、洞窟通路での死闘が再開される。

 

 

 〈アアアア!〉

 

 

高まった緊張で満ちる場を引き裂くペサンタの金切り声の様な絶叫、それを呼び水にエイダの視界ではまたも薄霧が立ち込め、それが赤く染まったかと思えば虚空より黒い影が湧き出してくる。

 

そして湧き出した影の大群はやはり一つ一つがペサンタとなっていく、あっという間に周りは大勢のペサンタで埋め尽くされた。

 

 

 「貴方のこの能力、何なのか察しは付いてるわ」

 

 

洞窟通路での戦いがエイダの脳裏に思い浮かぶ、厄介で不可解な分身の正体、洞窟通路での戦いを得てエイダはその正体に一つの仮説を立てていた。

 

 

 「これは幻覚…実際には存在しない物」

 

 

洞窟通路の戦闘で湧き出したペサンタの分身は攻撃を与えても煙の様に手応えが無い、そして火薬クロスボウ等の強力な範囲攻撃を加えると掻き消えた。

 

時たま攻撃を繰り出す分身の群れの中、最終的には最も高頻度かつ攻撃的な動きを見せるペサンタが本体だと気が付いたエイダは撃退に成功する。

 

 

 「幻覚の影響を受けない者の視界には干渉できない、なら幻覚を見せるための条件とは何なのか」

 

 「プラーガ、或いはそれに類似した貴方の一部、それに寄生されているか、いないか、そうでしょ?」

 

 

 〈……ギ…〉

 

 

 「体から作り出した槍による攻撃、あの時既に肉体の一部を寄生させてたのね、それが幻覚の能力を標的に伝える役割を持っている」

 

 「アシュリーと私には見えて、レオンと鬼龍には見えない、その違いで確信したわ」

 

 「幻覚の発信元である貴方がいなくなれば寄生した細胞も死ぬのかしら?もしダメでも厄介な幻覚に悩まされる事は無くなるでしょうね」

 

 

 「……ガアッ!」

 

 

エイダの言葉の意味を理解する知能を持ち合わせるペサンタは本当に能力の仕組みが理解された事を知る、迅速に獲物の命を吹き消す為に動き出す。

 

通路の前後から迫る分身、動き出すペサンタ、全くの同時に元いた場所に分身を生み出す、そしてエイダの視界の中では不可視となって背後へと回り込んだ。

 

振るう鉤爪、最速最短で致命傷を狙った動き。

 

 

 「能力の弱点は姿を消したまま攻撃はできない事」

 

 

だが万全を期した筈の攻撃が決着の一撃となりはしなかった、後ろから首筋を掻き切る軌道の鉤爪は空を撫で、前方に転がり込んでエイダは躱していた。

 

 

 「だから分身を使った奇襲の際はまず姿を消した状態で背後や死角へと入り込む」

 

 

 「ギ…!」

 

 

追撃を行うために視界の中の分身を動かす、この分身は実態こそ持たないが脳内の働きと寄生させた細胞の効果により、幻覚だろうと攻撃を受けた相手にダメージを与えられる。

 

 

 「そして強い衝撃や光で視界の分身は掻き消せる」

 

 

だがその攻撃にもエイダは対応していた、分身達が群がるより先に俯いて眼を防いだまま、取り出した閃光手榴弾のピンを抜いて真上に投擲。

 

暴力的な閃光と鼓膜を貫く破壊の音響が炸裂した。

 

 

 〈キュイイイッ〉

 

 

他の生物と同じく視覚と聴覚を持つ限り、肉体強度を無視した閃光手榴弾の攻撃には耐えられない。両腕で頭部を庇い呻きながら蹌踉めくペサンタ、そしてその隙にエイダは攻撃を加える。

 

 

 「これなら…どうかしら!」

 

 

火薬クロスボウで狙ったのはペサンタでは無く、遺跡群の立ち並ぶ石材の大柱、年月でひび割れたそれに爆発でさらなる亀裂を走らせる。

 

ペサンタの立つ場所の丁度近くにあるその大石柱がぐらりと揺れる、すかさずワイヤーフックを引っ掛けて全力の力で引き寄せれば崩れる大石柱は引っ張る方向に倒れてくる。

 

ペサンタの真上、巨大重量の押し潰す岩石攻撃となって閃光手榴弾のダメージから復帰したばかりのペサンタを押し潰した。

 

 

 〈ギギーギッ〉

 

 

土煙と飛び交う石の破片、そして通路を塞ぐようにペサンタの上に落下した石柱、殆どの生物は絶命するであろう速度の乗った重量が加わる。

 

 

 「さて…これでどの程度のダメージか…」

 

 

他の遺跡群の一部も巻き込み崩し、瓦礫の山と化した石柱が奥底から伝わる振動で少しずつ揺れ始める。

 

やがて一気に爆発した力の放出により瓦礫の山は吹き飛ばされて宙を舞い、抑えつけていた封印が解けたかの様に凄まじい怒気と殺意が空間を震わせた。

 

 

 〈アアアアッ!〉

 

 

ペサンタは生きていた、軽自動車程度なら一発で使い物にならなくさせる衝撃と重量を受けて尚も健在、瓦礫を吹き飛ばして立ち上がったその姿、黒いコートはほぼ全ての箇所が破れてずり落ちていく。

 

 

 「それが本当の姿って訳ね」

 

 

そして露わになる本当のシルエット、ヴェルデューゴの様な甲殻では無い、しかしU−3の様に滑りのある膨れ上がった表皮でも無い、両者に比べれば人に近い、だがやはり体毛は無く、その筋肉の作りも人間のそれを遥かに逸脱した強靭さ。

 

骨格はヴェルデューゴに似ているが大きく肥大した尾とその先についた寄生体の捕食口はU−3の下半身と露出した寄生体を思わせる。

 

正しく二体のハイブリッド、混ぜ合わされた要素はより異質な雰囲気を放つ、人間的な動作すら捨てたペサンタが遂に本領発揮してエイダに襲い掛かった。

 

 

 〈シャアッ〉

 

 

ペサンタがその強靭な寄生体の尾を地面へと勢い良く突き刺した、距離は離れていたがその動作だけでどの様な攻撃を実行したのかエイダは瞬時に看破する。

 

後方に身を投げ出して背後に一回転、エイダの立っていた地面からペサンタの鋭い牙付きの尾が飛び出した、伸縮する尾で地面を掘り進めた奇襲。

 

 

 〈ギュアア!〉

 

 

それが躱されたと見るや直ぐ様追撃、巨体の重量を感じさせぬステップの様な短い跳躍で飛び引いたエイダに接近、そのまま地面から引き抜いたばかりの尾を横薙ぎに振り払った。

 

 

 (格段に速くなっている)

 

 

それもまた背後に飛び引いて躱すエイダ、しかし所々が崩れかけた遺跡群の通路は、エイダの立つ背後より先は崩壊して消失していた。

 

  

 (正面からまともに戦うべきじゃ無い)

 

 

油断なくにじり寄るペサンタに向けてエイダも反撃を開始する、ハンドガンを抜き放ち正確な射撃をペサンタの頭部に連続して叩き込む。

 

それでもペサンタにとって致命傷とはなり得ないがうっとおしいと言うように右腕で頭部を庇う、回避ではなく防御の意識に切り替わる。

 

そこに素早くクロスボウへと持ち替えて火薬矢を発射する、爆発という何処にあたっても痛手となる攻撃は、ペサンタの庇った右腕ごと頭部を焼き焦がして損傷させる。

 

 

 〈ガアアッ〉

 

 

だがペサンタもそれ以上の隙は見せない、短い雄叫びと共にダメージを無視して動き出す、まだ熱を持った黒煙を振り払って右腕を伸ばす。

 

 

 「なっ…!」

 

 

ペサンタの指は鋭利な刃物にも伸縮する鞭にもなる、触手の様にうねり伸びた指がエイダに迫り、その胴に巻き付いて拘束すると同時に引き寄せた。

 

ぎりぎりと肉体を絞め砕く力で拘束するペサンタの触手、そして展開していく寄生体の尾に備わった凶悪な双牙を携えた捕食口、それが突き立てられる前にエイダもまだ自由なままの片腕で抵抗する。

 

 

 「離しなさい…ッ」

 

 

ナイフで体を締め上げる触手が伸びる腕を何度も斬りつける、やがて拘束する力が緩むと覗き込むペサンタのこめかみに全力の力でナイフを突き刺した。

 

 

 〈ンゴッ ゴォォ!〉

 

 

怯んだペサンタが拘束から逃れられると理解する、ならばと最後の力で掴み上げたエイダを振り払い投げ飛ばした。

 

 

 「ううっ…!」

 

 

人間を遥かに超えた力で投げ飛ばされたエイダは通路を飛び越して地面へと落下し叩き付けられる。迫り上がった様な通路の下、土と砂の地面に投げ出された体は衝撃で跳ね上がり数度転がってようやく止まった。

 

 

 「くっ…中々やってくれるわね…」

 

 

体に染み付いた戦闘技術は不意の事態でも衝撃を軽減する受け身を無意識に繰り出せる、だがダメージを完全に無くす事はできない、蹌踉めきながら立ち上がり、追撃を避けるためすぐに移動を始める。

 

目の前にあるのは遺跡群の建造物の一角、屋上に続く階段が建物の外から窓を介して見えた、その建物に踏み入って上へと続く階段を登っていく。

 

 

 「取り敢えず身を隠せる場所はありそう」

 

 

たどり着いた屋上は開けた場所に幾つかの石像が立っている、それはそれ程大きいものでは無くて何とか人一人身を隠せる程度の、その気になれば押して動かすことも出来そうな大きさだった。

 

吹き抜けになっているそこからは遺跡群が見渡せる、反対に階段を登ってきた方は天井代わりの足場が石柱に支えられて西側と南側で屋上の四割程の面積を覆っていた。

 

 

 「さて… !」

 

 

体勢を整えようと踏み出したエイダだったが、急速に迫りくる殺気を感じ取って素早く石像の一つの影にその身を隠した、数瞬遅れて来た重い着地音と唸り声。

 

 

 〈ウウウ…〉

 

 

ペサンタだった、エイダが登ってきた階段側の足場に降り立ち、眼下の広場を怪しく光る双眼で睨み付ける、ここに獲物が逃げ込んだと理解しているのだ。

 

石像の影に隠れながら、この隠密は長く続きはしないだろうとエイダは思考する、次の瞬間にも見つかって攻撃が飛んでくるかも知れないプレッシャーの中においても、尚もエイダは冷静なままだった。

 

 

 (さて、どう片付けようかしら)

 

 

ペサンタの唸りだけが微かに聞こえる不穏な静寂が満ちる、数秒か、またはそれよりも長かったのか。

 

互いの存在を知りながら様子を見る両者が遂に動き出してその静寂が破られる時はすぐそこまで来ていた。

 




◇どの様に倒す…!?
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