〈ガガガッ〉
追い付いたペサンタが遂に動き出す、寄生体の尾で近くの遺跡を崩し、その一部を持ち上げて投擲する。
広場の石像を破壊して隠れた標的を見つけ出す、飛来する瓦礫がぶつかる前に、それが迫る石像の影から目当ての標的が飛び出した。
〈ギ〉
すぐさま攻撃の狙いを定めるが相手の方が速かった。
「そうはさせないわ」
エイダの撃つクロスボウの火薬矢がペサンタの立つ足場を支える柱に命中する、爆発により破壊され倒れていく柱、するとペサンタの重さを支えられなくなった足場も瓦礫となって崩壊する。
〈ガアアッ〉
見下ろす高所から同じ位置へと、立ち上る石煙の向こうからエイダの追撃が迫る、爆発する矢は何処にあたってもダメージになる、煙の中に浮かび上がったシルエット目掛けて射撃する。
爆発を浴びて怯むペサンタが煙を振り払う、だがその向こうには既にエイダは居ない、ペサンタの頭上から小型の何かが降ってくる。
〈アアア!〉
素早く見上げるとエイダがワイヤーフックを駆使して頭上を通り越していたのが解る、別の足場へと降り立ったエイダを仕留めようとして、落下してきた何かからは意識が逸れた。
直後にペサンタの全身を焼き焦がして震わせる爆発、火薬矢よりも尚も強烈なそれは手榴弾だった、頭上を飛び越える際に投擲されていた。
〈ンゴオオッ〉
度重なる爆発の衝撃に古い遺跡のその一角は遂に耐えきれず崩落を始める、ペサンタの立つ足場を中心として崩落の波が伝達していく、ペサンタが叫びと共に下の階に落下した。
「この遺跡が貴方の墓よ、素敵でしょう?」
〈ホアアアア!〉
瓦礫と化していく遺跡の中からペサンタが道連れを求めるかの如く触手をエイダに伸ばす、それが届くよりも速く撃ち込まれたクロスボウの火薬矢がまたもペサンタの肉体を損傷させる。
最後にもう一度、投げ込まれた手榴弾の爆発により崩落は決定的な物となって速度も増していく。
「さようなら」
ワイヤーフックという移動手段を持つエイダがその崩壊に巻き込まれる事は無い、遠くの崩落が伝わっていない遺跡の一角にアンカーを食い込ませその場に飛翔、難なく脱出する。
降り立ったエイダの背後ではペサンタが瓦礫と化した遺跡の下敷きになって飲み込まれていく。
瓦礫の山の重量は先程の石柱とは比べ物にならない。
「それじゃあ、レオン達を追いかけないとね」
エイダがまた遺跡の通路に降り立つ、その時には崩壊した振動も収まっていた、ペサンタを飲み込んでできた瓦礫の山には一瞥もくれずその場を通り過ぎる為に歩き出した。
歩き始めて数秒後、後方の瓦礫の山から収まった筈の振動が響いてくる、かたかたと積み上がった石片が戦慄く様に震えていく、そして一瞬の静寂の後に瓦礫の山が弾け飛ぶ。
「まさか、まだ…?」
それは跳ね除けられた石柱と全く同じだった、押さえ付けた下にいる存在が力付くで吹き飛ばす、崩れていくのと逆再生の様に積み上がった瓦礫が宙を舞う。
〈キュアアアアアアアッッ〉
そしてその下から怒りの絶叫が響き渡るのもまた同じ、先程よりも甲高い昆虫の鳴き声に似た叫び、ペサンタがさらなる変異を持って抵抗を続けている。
ペサンタが這い出した、文字通り全身をくねらせ地を蛇の様に這いずり、上体を起こしたその姿はもはや人間の面影すら消失していた。
本は寄生体の尾だった箇所が今の頭部、長い胴体に腕も足も無く、短い昆虫の節足の様な物がばらばらに生えている。
巨大で歪な大百足、その表現が一番近しい、三日月状の双牙以外は少し前のペサンタを思わせるパーツは何処にも無くなっていた。
「また変形…本当に厄介な生命力」
「合流するのはまだ先になりそうね…」
変異ペサンタが遺跡を震わせまた別の瓦礫を生み出しながら地中へと潜っていく、そして強い振動がエイダの立つ場所まで迫ってくるのが足元の感覚で解った。
うんざりながらもクロスボウを構える、エイダとペサンタの戦いが激しさを増して再開された。
・
・
・
孤島奥、遺跡を超えた先─
レオン達はペサンタに単身挑むエイダを残して遺跡群の奥へと進む、舗装のされてない道を進むとその先には異様な光景が見えてきた。
「これは…」
「こ、こんな事が…!」
「ほう、要塞か」
レオン達の目の前に広がるのはコンクリートの建造物の群れ、見渡せる遙か先まで確認できるそれら、身を隠す場所や有利に狙撃できる高台が多く存在する。
踏み入った者の存在を感知する証明やレーダーが各所から飛び交い、明らかに戦闘を予想された設備の数々が幾つも見えた。
孤島上陸時に最初の戦闘が起きた場所よりも更に奥まで続く戦闘場、それは正に要塞だった。
「サドラーは本気でアメリカを相手取る気だったのか、自分の拠点に大層な改造を施している」
「研究所まで行くには此処を進むしか無いな」
「でも…このまま進めば多分…襲われるよね?」
「そうだな、走り寄ってくる敵からは守れるが幾ら何でも飛び交う銃撃から守り切る事は至難の業だ」
「城の城門での戦いと同じやり方が使えるだろう」
「そうか、俺か鬼龍が先んじて進み脅威を排除してからアシュリーを連れて通過するんだな」
「そうだ、ただし今回楽しむのは俺だ、お前はアシュリーを警護しておけ」
「解った、頼んだぞ鬼龍」
「気を付けて!」
そして要塞攻略に向けて動き出す三人、鬼龍が要塞の入口である広場に歩いて行く、周りには広場を見下ろす高台が幾つかあり、そこから一方的に狙い撃つ思惑が明らかだった。
「わざわざ姿を見せてやってるんだ、速く来い」
すると広場に降り注いだ照明が鬼龍の姿を映す、その途端に警報が鳴り響き、高台、建造物の奥、そこかしこから殺到する足音と怒号、殺気の群れが集結する。
〈〈〈侵入者登場ダ GOーッ!〉〉〉
予想通りに隠れていたガナード戦闘員達が現れる、広場に踏み入る者、高台の上に陣取る者、まだ要塞の始めだというのにあっという間に敵影で溢れ返る。
〈殺セーッ〉
そして一も二も無く口火代わりの合図も無しに襲い来る、広場に降り立つ者はフレイルや高電圧スタンガンを振り回して突撃、高台の上に居る者はクロスボウや火炎瓶の投擲で狙い撃つ。
広場は瞬く間に鬼龍と戦闘員達の戦場と化した。
「そうこなくては面白くない」
〈ナンデオマエガドウイスルンダヨッ〉 〈シネアルヨ!〉
「デスヌカドとやらには成っていないな、砦の設備を最低限使える様にここの連中は残しているのか」
「フン、小癪だな」
そして迫りくる軍団と鬼龍が衝突する、鬼龍の霞打ちによる打撃の障壁がガナード群に浴びせられる。
〈アベッ〉 〈キシベッ〉 〈ハウッ〉 〈アヘアヘアヘ〉
音速にも届く霞打ちを受けた相手は何が起きたかも解らず失神する、まるで目に見えない超能力で弾き飛ばされたかの様に鬼龍に近寄るガナードが宙を舞う。
〈ミキセイウジムシガッ〉 〈コウジマオオシッテネ〉
高台のガナード達もそれぞれの飛び道具で鬼龍を狙い撃つ、下で戦う仲間の援護というよりも味方を巻き込もうとお構い無しの容赦無き攻撃。
「狙いが単調過ぎる」
しかし鬼龍には当たらない、放った矢は隙にもならないごく僅かな身を逸らす動作で躱される、投擲した火炎瓶は誘導されたのか仲間を巻き込むだけで終わる。
勿論、鬼龍が狙っての事だった。敢えて偽物の隙を作り出して見せつける、実際には警戒は解かれておらず狙い撃ったと思っても対応されるフェイントの一種。
殺意に支配されたガナードには特に有効だった、戦いの駆け引きすら忘れたガナードは鬼龍の作り出した手を出してはいけない偽物の隙に簡単に喰らいつく。
〈アーッナンデアタラナイカワカンネェヨ〉
〈マタマキコマレテ…アイツラマヌケッスネ〉
そしてその間も霞打ちで吹き飛ばされてガナードの数は減っていく、このまま広場に集まったガナードを鬼龍一人で片付けてしまうのではと思われた。
しかし、高台の一角が異変を見せる。謎の駆動音と共にその場所から分厚い鉄板を防護とした巨大な砲身が迫り上がった。
「ガトリング砲か、少々見飽きているがまぁ良い」
「遊んでやろう」
〈ホアホアアアーッ〉
そして全てを粉砕する弾丸の豪雨が広場に降り注ぐ、鬼龍が横方向に駆ける、その起動を追いすがる水飛沫の様に地面を撃ち砕いていくガトリング砲の超破壊的銃撃。
「無駄撃ちだな、俺には到底当たらん」
「しかしレオンの言う通り、これではアシュリーを守りながら進むのは困難だったであろう」
「取り敢えず手早く片付けてしまうか…ん?」
ガトリング砲の攻撃を躱す鬼龍、広い場所で一方向にしか攻撃できないのであれば結局鬼龍の敵ではない。
そろそろ片付けようかと動き始めたその時、鬼龍の感覚が何かの予兆を察知する、やがて頭上から空気を裂く音が聞こえ、見れば高速で飛来する影があった。
〈ギ?〉
それは一直線にガトリング砲の迫り出た高台に命中、凄まじい爆発を巻き起こしてそこにいたガナードやガトリング砲を高台の上半分ごと吹き飛ばした。
「ミサイルか…」
そして爆発の衝撃と余韻が空気に溶け込んだその後、上空から新たな証明が広場を照らして影を落とす。
けたたましいプロペラの駆動音を響かせて登場したのはヘリコプター、先のミサイルを放ったのもこの武装ヘリだった。
ヘリの中からスピーカーで増幅された男の声が響く。
「俺はキャプテン・マイクだあっ」
「余計な真似を、何者だ」
「ヘリ…?まさかあの無線を拾って…!?」
「じゃああれはアメリカから!?」
突然の援護により一先ず脅威が消失したのを確認し、レオンとアシュリーが広場にやって来る、マイクと名乗ったヘリの操縦士は三人の姿を見ると話し出す。
「アシュリー、レオン、そして鬼龍だな!」
「もうアシュリーを見つけ出して犯人共をブチのめしているなんてお前達には感動したよ、せめて手助けくらいはさせてくれよ」
「勇敢なお前達に良いニュースがある、孤軍奮闘というルールは撤回された、司令部からのプレゼントだ!」
「何よりも救護対象の命が大事なんだ、ぶっちゃけ堅苦しい条約なんてどうでもいいんだ、任務さえ達成できればなぁ」
「助かるぞ、マイク!」
「ありがとう!」
「フン、喧しい奴だ」
「さぁ敵を蹴散らして先へと進め!厄介な機関砲は俺に任せろ、クソテロリストを壊滅KOさせろ」
「急げっ機を逃すな、任務を終わらせるんだ、バレット・ラッシュだ!」
マイクのヘリがまた動き出す、異変を聞き付けて奥から殺到してきた増援のガナード達にヘリに取り付けられた機関銃の攻撃を浴びせ掛ける、走り寄るガナード達が瞬く間に四散して倒されていく。
「よし、これなら三人で移動できる!」
「これで撃たれずに進めるね!」
「あぁ、それに一瞬ヘリの中に見えたのは…まぁ今は良い、さっさと此処を抜けて研究所に到達するぞ」
予期せぬ、しかし頼もしい援護を得たレオン達は広場を通過して要塞の奥へと進んでいく、マイクは宣言通りに高台や通路に陣取った機関砲や敵の陣地をミサイルで次々と破壊していく。
「俺達は前から来る敵にだけ注意してれば良い!」
「ならばそれ程容易い事も無いな」
通過していくレオン達の元にもガナードは迫るがもはや相手にならない、纏まった数で目立つ接近をすればレオン達に近寄る前にマイクの機関銃に討ち取られ、数名で接近したとて簡単に蹴散らされる。
〈エエギニナルナア、ババタレガーッ〉
目の前から全身をアーマーで包んだ巨体のガナード、城の塔で戦ったのとよく似たガナードがメイスを振り上げて突撃する、秀でた戦闘力で要所を守っていたようだ。
「邪魔だ、クソブタ」
〈アガガッ〉
「相手する時間が惜しい」
〈ブヒィッ〉
だが振り下ろしはアッサリと躱された、お返しに放たれた鬼龍の関節を破壊する下段蹴りで強制的に片膝を付かされ、無防備の顔面をレオンのショットガンで撃ち抜かれて絶命した。
〈ウオオオッ 侵入者ヲ殺スノハコノ俺、ピッグ・ヘッドノ弟ボーア・ヘッドダァッ〉
〈ソシテ俺ハカウ・ヘッドノ弟、ブル・ヘッドダアッ ホアアアアッ〉
次々と先に進むレオン達に立ちはだかる敵、猪頭の生皮を被った巨漢のガナードと牛の頭皮を被った同じく大柄のガナードが走り寄って襲い掛かった。
「何度も言わせるな、邪魔だ」
〈ボウッ〉 〈ヒャンッ〉
だが戦略も何も無い突撃は痛烈な反撃で返される、レオンのハンドキャノンが連射弩を構えるボーア・ヘッドの胴体に文字通りの風穴をあけ、鬼龍の塊蒐拳がブル・ヘッドを内奥から焦がす、そこから更に禁断の二度打ちを受けて絶命する。
「俺はキャプテン・マイクだあっ、この辺りの連中は大体全部片付けたみたいだぜ!ここから先で合流するぞっ」
「あぁ解った!」
「ありがとう、マイク!」
マイクのヘリも要塞の厄介な陣地をあらかた片付けたのか、レオン達に合流の旨を伝えて飛び立って行った、レオン達もまた要塞の奥へと到達する。
「さて…ここからは援護無しだが」
「初めから必要も無いだろう」
要塞の奥にゲームで阻まれた新たな戦場が見える、土壁や柵に広場を見下ろせる建造物、奥では鋼鉄のゲートが行く手を阻んでいた。
「あの降りたゲートが邪魔だ、何処かに操作する機械が取り付けられていると思われるが…」
「では簡単だな、雑魚どもを手早く始末してそれを探すとしよう」
三人がその戦場に足を踏み入れた途端、その背後でゲートが降りて退路を断つ、それと同時に待機していたガナード戦闘員が戦場へその姿を現した。
〈ココマデ来タナ、未寄生蛆虫〉
〈クーククク、俺ハガトリング・ボビーノ兄、ブローニング・ボビーダアッ〉
「おい、また似たような奴が出てきたぞ」
「機関銃だわ…この壁に隠れていれば大丈夫かな…」
「あぁ、そうしていろ、俺が近付いて終わらせる」
「よし、なら此方から敵を引き付ける」
鬼龍とレオンが動き出す、積み上げた石を泥で固めた土壁に身を隠しながら、興奮状態で機関銃を撃ち続ける大柄のガナードが陣取る方角に隙を突いてレオンが銃撃を放つ。
〈アウッ〉
「今だ!」
ライフルの銃弾が大柄のガナードに命中して怯ませる、機関銃の攻撃が途絶えたその瞬間に鬼龍が駆け出す、立ち並ぶ土壁を華麗に避けて疾走。
左右両側に二階の建物が並ぶ構造の広場、その左側、ガトリングを撃つガナードが現れた方の建物の下まですぐさま到達した。
「広場のゲート、両側の建物、操作する機器があるとすればどちらか…或いは両方か」
「先ずは邪魔なクズを黙らせる」
立て掛けられた梯子を無視して龍腿による跳躍で一息に左側の建物二階に飛び乗った、上は一本の吹き抜け通路の様になっていて途中に建物の影に身を隠せるスペースがあった。
〈アーッ 何登ッテキテルンダヨ、蛆虫ッ〉
鬼龍の接近に気が付いた大柄のガナードが機関銃を向ける、だがそうなれば先程まで撃ち続けていたレオンへの銃撃は止み、自由となったレオンが動き出す。
〈グッチャグチャニ……ナッ、ナンダアッ〉
同じ武装のガナード相手にも以前披露した武器を持った腕を破壊する関節撃ち、大重量の機関銃は片腕では使えない、機関銃を床へと落としてしまう。
「お前一人か、やはり殆どの戦闘員はデスヌカドに変えられたというわけか」
〈ギ…デ、デスヌカドッテナンダ?〉
「仮にも仲間がどうなっているのかも知らんとは本当に哀れだな、もはや殺してやることしかできん」
「ホッ…ホアアアアッ」
鬼龍の塊貫拳がガナードの腹部に突き刺さる、そして駆け巡る気がガナードの脳内から破壊した、絶叫して蹌踉めくガナードの後頭部に鬼龍の回し蹴りが炸裂、完全に絶命して倒れ伏す。
「さて、ゲートの開閉装置は…アレか」
鬼龍の目の前、通路の様な二階の奥の壁にレバーが取り付けられている、丁度ゲートの左上の位置、見れば反対側の建物にも同じレバーがある。
鬼龍がレバーを下ろせばゲート付近のランプが点灯する、だがやはりそれだけではゲートは開かず、ランプは反対側にも存在した。
「予想通りか」
鬼龍の様子を見てゲートを開く方法に気が付いたレオンも反対側の建物に入ってレバーを操作しに行く。
やがて右側のレバーも作動し、両方のランプが点灯したゲートは音を立てて上がっていく。
「研究所は近いな」
「あぁ、アシュリーの治療を急ごう」
「ここまで連れてきてくれたからにはもう何としても治さなきゃね!」
開いたゲートの先から淀んだ気配が冷気となって漂っている、その事に鬼龍やレオンのみならずアシュリーすらも気付いていたが、もはや躊躇わずその先へと足を踏み入れた。
◇研究所を目指して…!