TOUGH DEVIL HAZARD   作:ポジョンボ

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第51話

 

 

 

ガナード達の要塞とその奥の陣地を抜けた先にあったのは物々しい砲塔や兵士の潜む建造物では無かった。

 

 

 「戦闘区画はもう終わりのようだな」

 

 

周囲に大きく視界を遮る建物は無い、唯一吹きさらしとなって崩れかかった古びた遺跡の一部の様なものだけがあった。

 

開けた地面の先には夜空と海が見渡せる断崖が広がっていた、その遙か下で突き出した岩場が波に打ち付けられている。

 

 

 「敵の姿は無さそうだ」

 

 「今の所はな」

 

 「ん…?あっ、この音は」

 

 

アシュリーが遠くから此方へ近付いて大きくなる駆動音、高速で風を巻き立てるヘリコプターのプロペラの音に気付く、勿論それが何者なのか該当するのは一人だけ。

 

すぐさま空をかける漆黒の機体が崖際の空中に回り込むように現れ、レオン達をライトで見つけるとスピーカーから明瞭に語り掛けた。

 

 

 「俺はキャプテン・マイクだあっ!お前達なら必ず切り抜けられると思っていたよ、せめて称賛くらいさせてくれよ」

 

 「マイク!」

 

 「助かったぞ、帰りの手段も考えなくてよさそうだ」

 

 「クーククク、超高速的帰還で家に帰してやるぜ」

 

 「どうやらまだ何かやることがあるんだろっ、この先の建物を超えた先に丁度いい合流場所を見つけたのは…俺なんだ!」

 

 「エレベーターで登った上、鉄骨塔が目印だ」

 

 「了解だマイク、帰ったら一杯奢るよ」

 

 「ククク、嫌でも良い店に連れて行ってやりますよ」

 

 「俺達はこの先の施設を確認する、その後で鉄骨塔で合流しよう」

 

 「おおっ、それで任務はご完了だあっ」

 

 「では此方は一足先に……な、なんだあっ」

 

 「なにっ」

 

 

その時、マイクとの会話が終わるのを待たず、崖際の道に滞空するマイクのヘリコプター目掛けてその場に無数の飛翔する影が現れる、プロペラ音の中に羽音の合唱が混ざり合う。

 

 

 「あ、アレは…!」

 

 「ノビスタドールだっ」

 

 

飛翔する無数の影はプラーガによる実験で生まれた昆虫型の生物兵器、凄い数のノビスタドールがその場に練り集まってきた。

 

 

 「 う あ あ あ あ 」

 

 

獲物の気配を嗅ぎつけたノビスタドールの群れはマイクのヘリコプターに殺到した、小回りの効くノビスタドールは機関銃やミサイルといった武装のない側面へと回り込む。

 

 

 「マズい、群がられたら抵抗できないぞ!」

 

 「嘘でしょ!マイク!」

 

 「……フン」

 

 

 「うあああ!俺の正体見たり!登場してすぐに退場するマネキンの様なモブ雑魚キャラだったのかあっ」

 

「……ククク、なんてね、効きませんよォ」

 

 

迫りくるノビスタドールが今にもヘリコプターの機体にしがみつくかと思われたその時、ヘリコプターの左右にある乗用扉が開く、次の瞬間には鋭い銃声が鳴り響いた。

 

 

 〈ギーッ〉

 

 

 「えっ」

 

 「なにっ」

 

 

 「「だから俺達がいるんだろっ」」

 

 

開け放たれた左右の扉、顕になったヘリコプターの内部には四人の男達、それぞれが拳銃を抜き放ち迫りくるノビスタドールを一撃の元に撃ち落とす。

 

その四人の姿はレオン達の知る者達だった。

 

 

 「あれは…!」

 

 「ルイスと武器商人か!」

 

 「来ていたのね!」

 

 「わざわざこんなところまで来て本当に合流するとはな、無駄に律義な連中だ」

 

 

マイクと一緒にヘリコプターに乗っていたのは島に向かう際に古城で別れたルイスと武器商人だ。

 

 

 「はっはーっ、英雄協力者を選ばずと言うじゃないか、ここに来る前に拾ってきたのよ」

 

 「よぉ、レオン、嬢ちゃん、鬼龍!俺の研究所はこの先の牢獄を超えた場所にある!」

 

 「ここは大丈夫だ!研究所の鍵はもう渡したよな、早くプラーガを嬢ちゃんから取り除いてやれ!」

 

 「ムフフ、目玉の“最終兵器”にも期待するのね」

 

 「さぁ行けっ」

 

 「…!あぁ!行こう、アシュリー」

 

 「えぇ!」

 

 「確かにもはや援護の必要も無いだろう」

 

 

ヘリコプターに乗るルイス達の銃撃でノビスタドールの群れは次々と撃ち落とされて撃破されていく、レオンは協力者との再開も早々にやるべき事に向けて動き出す。

 

レオンと鬼龍はアシュリーを連れてルイスの研究所がある牢獄とやらまで移動を開始した。

 

 

 「あの…俺達も勇気を出して参戦してるんスけど…」

 

 「こ、こんなの納得出来ない…!」

 

 

ノビスタドールの群れを全て返り討ちにしたマイクとヘリコプターに乗る四人もまた、合流場所の鉄骨塔に向けて空を駆け抜けて飛び向かっていく。

 

 

 

 

断崖の道を進んだ先にあるのは無骨なコンクリートや鉄骨で作られたの地面と建造物の工場の様な施設、その先を抜けて進めばルイスの言っていた研究室へと近付いていく。

 

 

 「この先に遂にルイスの言ってた研究室があるらしい、しかしその前に牢獄とやらを超えなければ」

 

 「牢獄って…何か嫌な予感がするわ…」

 

 「同意見だな、アシュリー、やはりお前は人より優れた感覚を持っているのかもしれん」

 

 「え?」

 

 「誰に向けたわけでも無い…自らの意思では抑えられん凶悪な殺意がここまで漂ってくる」

 

 「あの全身針の化物にも比肩するザワ付きだ」

 

 「ほ、本当に…?」

 

 「……なら最大限の警戒が必要だな」

 

 

レオンがその言葉と共に牢獄エリアに繋がる冷たい鉄の扉をゆっくりと開いた、片手には突然の戦闘開始を想定してハンドガンが既に握られている。

 

 

 「……」

 

 

静かに扉を開き、音もなく入室。錆と汚れで不浄に彩られたそこは正しく監獄のイメージ通りの場所だった。

 

テーブルと椅子、幾つかのロッカーだけがある簡易的な休憩室の先には牢獄の名の通り、奥のドアへと続く通路の両側に鉄格子の檻が備え付けられていた。

 

 

辺りに立ち込める異臭は強くなる、暗い牢獄の檻の中に横たわる何かからそれは漂っていた。

 

 

 「こ、この匂いって…」

 

 「変に想像しない方が良い、牢屋の中も見るな」

 

 

アシュリーに後方を歩かせて神経を集中させて警戒しながら進む、薄暗い通路、漂う異臭、湿った空気、そして牢屋の中で動かない何かの影、そのどれもが先の鬼龍の発言でより恐ろしげな雰囲気を放つ。

 

 

 「…!」

 

 「…ッ」

 

 

やがて牢獄エリアの終わり近づくに連れてレオンとアシュリーにも鬼龍の言う殺意の気配が感じられる。

 

細かく小さな痛みにも似た痺れが緊張と共に肌を走る、確かに自分に向けられた明確なものでは無い、ただひたすらにその身に留めておけない殺意が大気に溶け込んで震えている。

 

 

 「いるな、この先に」

 

 「あぁ…」

 

 「ううっ…」

 

 

監獄の先へと続くドアをゆっくりと開ける、外の外気が流れ込みその先が屋外だと解る、先頭はレオン、続いて鬼龍、アシュリーが静かにドアの先へと進んでいった。

 

 

 「外だわ…」

 

 「気を付けろよ」

 

 

灰色のコンクリートの地面、曲がり角の通路が先へと続いている、それを曲がった先に短い階段を登ったら見える景色。

 

コンクリートと鉄骨で出来た無骨な建物は何かの工場の様にも見えた、辺りには塹壕代わりの土壁や燃料を蓄えたドラム缶、それらがある広場とそれを見下ろす建物の二階廊下。

 

ルイスの研究所へと続く唯一の外通路。

 

 

 「アシュリー、レオンから離れるな」

 

 「き、鬼龍…?」

 

 

鬼龍達がその外通路の広場へと足を踏み入れたのと同時、荒々しく起動するチェーンソーの重低音が鳴り響いた。

 

 

 「また電鋸野郎か…!」

 

 「…レベルが違うな」

 

 

広場から見上げた建物の二階、鉄骨の骨組みとコンクリートの壁、そして金網が床の廊下の奥から重苦しい音が近付いて来る、そして起こった悍ましき破壊。

 

 

 「ッ、なに、この音」

 

 

金属が専用の切断機で加工され断ち切られる様な響きを1秒間に幾つも凝縮したかの如き、饒舌に尽くし難い鼓膜をつんざく異音、如何なる物で何を行えばこの様な音が鳴るのかとアシュリーが顔をしかめる。

 

その悍しい音はその後も連続して鳴り響き、その度に何かが崩れて床に落下する重たい音物で遅れて響く。

 

 

 「まさかチェーンソーで…?」

 

 

それは電動鋸が目の前の施設を破壊していく音だった、当然だがチェーンソーで鋼鉄の鉄骨やコンクリートの支柱を切り倒す事など出来ない。

 

だが近付いて来る音はそれが現実に起こっているとしか思えなかった、やがて二階廊下の奥からその音を響かせる破壊の主が鬼龍達の前にその姿を現す。

 

 

 〈………〉

 

 

現れた一体のガナード、その腕にはやはりチェーンソーが握られており音の正体である破壊はそれで行われていた、今までの敵とは何かが違った。

 

まずそのチェーンソー、特殊な改造が加えられているのは明らな異常。限界を超えた高速で起動しているその刃は赤熱し火花を噴出するかの如く散らしている。

 

次にそれを持つガナード、恰幅の良い屈強な身体である今までのチェーンソー・ガナードとは違う。長身でやや細身の印象を受ける、だが鬼龍の目はその体系とはまるで不釣り合いな暴力の躍動を感じ取っていた。

 

 

白いズタ袋で顔を隠す、そして両目の覗き穴からは拷問か自虐か、何故か流れ落ちる血の後が太い線となって左右に走る。

 

まるで憎悪と殺意で流れた血涙の様な、或いはズタ袋の下にある高純度の狂気が滲み出たかの様な。

 

 

 〈ウウゥ…〉

 

 

二階廊下の鉄柵目掛けて赤熱したチェーンソーを叩き付ける、鳩尾の高さまであった鉄柵はその瞬間、あの悍ましい音と溶接作業の様な火花を撒き散らして簡単に切断されて吹き飛ばされた。

 

 

 「フン…武器も身体も化物仕様という訳か」

 

 

電動する刃を鉄になど叩き付ければすぐさまあらぬ方向へと弾き飛ばされる、鋼鉄の両断を可能にしたのは常識外れに高速電動するチェーンソーの刃とそれによって発生した高熱、そして反動を完全に押さえ込むこのガナードの異常なまでの筋力だ。

 

切り飛ばされた鉄柵の切断箇所は溶断されたかの様に紅く光を放っていた、それが冷めて消えるより前にそのガナードが飛び降りて鬼龍達の前に降り立った。

 

 

 〈ア…ア、ア…〉

 

 〈 ア ア ア ア ア ア ッ 〉

 

 

赤熱したチェーンソーの高速回転に呼応する様に白いズタ袋のガナードから目を背けたくなるような狂気的な殺意が放たれた、それは爆発にも似て空気を打ち震わせる。

 

だと言うのに震える大気の温度は粘度をともなったかのように重苦しく、冷凍室のように冷たく変質した。

 

 

 「先に行け、レオン」

 

 「なにっ」

 

 「解るだろう、ルイスの研究室はすぐそこだ」

 

 「今更足踏みする事ない、お前はアシュリーを治療し、クラウザーとの決着を付けろ」

 

 「しかし…」

 

 「アシュリーの救出は本来お前の任務、クラウザーを止めるのもかつての奴を知るお前の役目だ」

 

 「使命を果たせ、俺の方は今の所このイカれた伐採師で我慢してやろう」

 

 「この俺が獲物を譲ってやると言っているんだ、気が変わらない内にさっさと行け」

 

 「…あぁ、解った鬼龍、アシュリーは任せろ」

 

 「行こう、アシュリー」

 

 「うん!気を付けて、鬼龍!」

 

 

鬼龍は既にズボンの両ポケットから手を抜き放ち目の前の敵の姿だけを睨みつけてレオン達にそう言い放つ。共闘の果てにレオンならばアシュリーを任せても問題無いと判断したのもある。

 

 

 「向こうはいよいよ限界のようだな」

 

 

だが自らが単身敵との戦闘を買って出たのは、今にも飛び掛かりそうな目の前の敵の戦闘能力の程を人目で見抜いたから、レオンと二人がかりで応戦してもアシュリーの安全を保証しきれないからだ。

 

 

 〈アアアアッ〉

 

 

白いズタ袋のガナードは鬼龍では無く、その横から先へと進もうと駆け出したレオンとアシュリーに反応した、赤熱するチェーンソーを振り上げて突進するその速度は今までの同系統の敵とは比べ物にならない。

 

 

 「勘違いするな、狂人」

 

 〈ア゛〉

 

 

しかし鬼龍がその接近を許さない、レオン達だけを狙ってチェーンソーを振り上げ走るガナードの剥き出しとなった上体、その胸元を横合いから勢いを付けて蹴りつける。

 

龍腿による完全なる渾身の不意打ち、サドラーとの戦いで披露した最上の蹴撃にも並び得る一撃はガナードの体躯を軽々と真反対の壁まで吹き飛ばす。

 

 

 「お前と遊ぶのは俺だ」

 

 

無防備な状態で与えた超人の蹴りは筋肉と骨の壁など容易く粉砕して内臓破裂まで及ぶ、適合率の高い屈強なガナードでさえ急所に受ければ即死は免れない。

 

 

 〈…アー…ッ〉

 

 

だが立ち上がる白いズタ袋のチェーンソー・ガナード。叩き付けられたコンクリートの壁にヒビが入り、蹴りを受けた箇所には間違いなくダメージがある。

 

ダメージがあるだけ、筋肉も骨も臓器も全く持って健在、常人ならのたうつ激痛に反応するだけの正気と理性は既にこのガナードには残されていなかった。

 

 

 「ほう、お前タフだな 狂人」

 

 「アンバーとやらで強化されているな、人間の原型を残したままでそれ程の強さ、そうとしか考えられん」

 

 

 〈ウウーッ…ア、ア〉

 

 

 「フン、答えを期待して話しているんじゃない、独り言の様なものだ…兎も角」

 

 「頑丈で凶暴、理性も正気も無い上にモンスターの様な改造チェーンソーとは…つくづく飽きさせんな」

 

 「来い、その力を俺に見せてみろ」

 

 

レオン達を先に行かせて立ちはだかる鬼龍をチェーンソー・ガナードも敵と認識した、怪人の赤熱するチェーンソーと一鬼龍の灘神影流、ぶつかり合い互いを砕かんとその力を振るい始めた。

 

 

 

 

 

 

孤島最奥、研究室─

 

 

 「おおっ、遂に辿り着いたぞ」

 

 「ここがルイスの研究室…?」

 

 

強敵を鬼龍に任せて進んだレオンとアシュリーはすぐ先の研究所へと到達していた。ルイスから渡された鍵で扉を開けば研究室という言葉のイメージに違わぬ部屋が見えた。

 

今までの悍ましい実験の痕跡で染め上げられた場所とは違う、整理された棚の薬品やテーブルの上の資料、並ぶ機器にどこか破損した形跡は一つも無く、使われなくなり埃こそ舞っていたが元は清潔に保たれていたのだと解る。

 

 

 「確かルイスの話では体にレーザーを照射して体内のプラーガ寄生体を直接死滅させるんだったな」

 

 「どの機械がそうだ…?」

 

 「あ、アレじゃない!?」

 

 

アシュリーが指差す先には研究室の中央に取り付けられた手術台のような物があった、そのすぐ横には専用の機械が置かれている、レオンが近寄って接続されたパソコンの機能を確認すれば、それは確かにプラーガを除去するための装置だった。

 

 

 「よし、それじゃあ…さっそく始めよう」

 

 「うん!」

 

 

アシュリーが手術台へと駆け寄る、仰向けにしてやや上体を起こして座るように手術台へと乗る、レオンが機械を操作すると取り付けられたアームのような機械が作動する。

 

手元のパソコンにはレントゲン写真のように体内の様子が映し出されている、そこで蠢くプラーガの姿。

 

アシュリーが息を飲み、意を決してレオンが装置を作動させる、プラーガの治療が始まった。

 




◇遂に治療が始まる…!
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