TOUGH DEVIL HAZARD   作:ポジョンボ

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第52話

 

 

 

 「 う あ あ あ あ あ あ ! 」

 

 

ルイスの研究室に響き渡るアシュリーの絶叫、装置でプラーガ寄生体を除去する為には体内の寄生体を直接焼き切って消滅させる他に無い。

 

既に神経と繋がりかけているプラーガ寄生体にダメージを与えることは即ち、寄生された宿主である人間にも凄まじい激痛とダメージを与えることになる。

 

装置に拘束具の様な手枷や足枷が付いているのは余りの苦痛にのたうち回り治療が中断されることの無い様にだ。

 

 

 「ううっ…」

 

 「…! 終わったか!?」

 

 

時間にして僅か十数秒、だがアシュリーを襲う苦痛はその体感時間を何十倍にも伸ばしたかの様だった。

 

体内スキャンのモニターからのたうつプラーガの姿が完全に焼却されて消え去った、それと同時に治療は終わり、レーザーを照射していた装置や手足の留め具も解除される。

 

ふらついて台座から身を落としかけるアシュリーをレオンが両手で押さえて受け止める、その顔には苦痛への消耗と解放された安堵が浮かんでいた。

 

 

 「こ、これで終わり…?」

 

 「あぁ、そうみたいだ」

 

 「そう…ありがとう…」

 

 「後は…レオンがクラウザーを…」

 

 「大丈夫か、無理をするな」

 

 「き、鬼龍は…平気かな」

 

 「あの敵は危険だ、簡単には倒せないだろう」

 

 「だからこそ鬼龍は一人で引き受けたのね…」

 

 「あぁ、だが鬼龍の奴に心配は不要さ」

 

 「フフ、そうだよね」

 

 「立てるか?アシュリー」

 

 「えぇ!行きましょう、レオン」

 

 

ルイスの研究室で治療を終えたアシュリーとレオンはその先、孤島の最奥たる合流地点の鉄骨塔を目指して進む、この一連の事件にまつわる戦いの終局はすぐそこまで来ているのだと感じていた。

 

 

 

 

研究室前、外通路

 

 

レオンにアシュリーの治療を任せ、一人敵との対峙を選んだ鬼龍、そして白頭巾のチェーンソー・ガナードは文字通り火花を散らし苛烈極まる殺し合いを演じていた。

 

 

 「打つとはこうっ」

 

 〈ウーッ〉

 

 

デタラメに、しかし高速かつ絶え間なく振り回される致死の赤熱チェーンソーを一切の無駄無く躱し、あるか無いかの極々僅かな隙に連弾霞打ちによる打撃の高密度連射を叩き込む。

 

 

 「効いていない…か」

 

 

そんな応酬をもう幾度も繰り返していた、鬼龍の元より超人と呼ぶ他無い戦闘能力は正真正銘の人外達との連戦を得て更に強力になっていた。

 

動作はより正確に、本能と判断力はより研ぎ澄まされ、内部破壊を始めとする灘神影流の暗殺拳の殺傷能力すらも格段に向上している。

 

 

 〈ア、アア…アアアアッ〉

 

 

その鬼龍の連弾霞打ちに幾度も全身を打ち付けられて尚、白頭巾のガナードは怯むことすら無く暴走を加速させる、骨も肉も臓器も逃れられない筈の破壊を受けてまるで健在。

 

もはやこのガナードに残された人間との類似点はその外見の構造だけだった、元より適合率が高く、加えてアンバーの影響を受けたこの個体の実態は通常のガナードと全くの別種となっていた。

 

 

 (一撃一撃が即致命傷、電動する刃は“弾丸滑り”でも受け流すことは出来ん、一手でも見誤れば死、加えてこの怯みすらしない常識外れの肉体的強度)

 

 (やはり塊蒐拳や塊貫拳…内部破壊の浸透系打撃を打ち込むしか無いと思われるが…それでさえも有効打となり得るか疑問だ)

 

 

 〈ウウウウッ〉

 

 

また赤熱したチェーンソーが鬼龍の首筋目掛けて振るわれる、フェイントや駆け引きのまるで無い走り寄りからの腕力のみで行う乱雑な振り回し。

 

それが桁外れの膂力と瞬発力で行われる、鬼龍が素早くサイドステップで躱せば怪物の様なチェーンソーが唸りを上げてコンクリートの壁をカステラを千切る様に容易く切り砕いていく。

 

 

 「何処まで肉体を損傷さればくたばるのかさえ不明、対してこちらは一撃でゲームオーバーという訳だ」

 

 

 〈オアアッ〉

 

 

 「面白い、そうでなくてはなあっ」

 

 

再び両者がぶつかり合う、白頭巾ガナードの動きに技術を感じさせるものは無い、それを身体能力だけで鬼龍さえも容易に反撃ができない程にカバーしていた。

 

必殺の魔拳をどうお見舞いするか、鬼龍は既にその答えに辿り着いていた、恐ろしくハイリスクな答えに。

 

 

 「はーっ、死を間近に感じてこその愉悦よ!」

 

 

横振りの起動で迫る即死の熱刃、電動音を半ば置き去りにしたその一撃を上体を後ろに倒す限界ギリギリ、ダッシュからのスライディングで躱す鬼龍!

 

目と鼻の先ならぬ目と鼻の上をチェーンソーが通過する、赤熱した刃の熱すらも感じ取れる距離。

 

いわゆる見切り、武術家同士の闘争において勝敗を分かつ重要な要素の一つとされる、相手の攻撃を限界まで惹きつけて回避する技術。

 

 

 (より少ない動作で、より惹きつけて躱す)

 

 (そうするほどにその後の反撃は優位となる)

 

 

そして始まる鬼龍の反撃、最大限の隙を作り出すために自ら死神の懐に飛び込んだ、放たれる灘神影流の技は確実なクリティカル・ヒットを実現させる。

 

 

 「灘神影流 “蠢蟹掌”」

 

 

鬼龍の掌が白頭巾のガナードの胸部を打ち鳴らす、内部破壊を胸とする灘神影流の殺人拳の中でも鬼龍が選んだのは悍ましくも強烈な一撃。

 

 

 〈オオオーッ〉

 

 

チェーンソー・ガナードの胸元の服が弾け飛ぶ、その下の肉体の素肌が覗くもお構いなしに反撃、鬼龍が飛び引いて回避したあと、不敵な笑みで宣告する。

 

 

 「効きやしない、そう思うか」

 

 「お前に“殺しの烙印”は刻まれた」

 

 

 〈……ウウウ〉

 

 

 「一撃で殺すなど言わん、灘の技、その恐ろしさをお前の狂い切った脳みその代わりに肉体へ限界まで刻み込んでから息の根を止めてやる」

 

 

服が弾け飛んだガナードの胸元には皮膚が内出血をおこした様に変色している、それは胸全体に広がりその形がまるで死を連想させる髑髏にも見える。

 

灘神影流の技の一つ、かつて鬼龍も己の血族との因縁の最中、因果を含める目的で殺しの烙印たるこの技を扱った。

 

 

 〈オオオオオッ〉

 

 

チェーンソー・ガナードの再びの突進、それはやはり凄まじい速度を伴うが、鬼龍もまた神の肉体を持つと評される超人、その動きの速度に目が追いつき始めていた。

 

 

 「お前は強い」

 

 〈ウーッ〉

 

 

間合いへと入るや否や振るわれる赤熱チェーンソーが鬼龍を切り刻むことは無い、高度な残像を残す回避で軽々躱される、限界まで引き付ける理想の見切りの間合いを既に鬼龍は掴んでいた。

 

 

 「筋肉が強い、骨が強い、瞬発力が強い」

 

 「だがそれだけだ」

 

 

鬼龍の攻勢が始まる、宣言通り再び灘神影流の魔拳がチェーンソー・ガナードの胸に炸裂した。

 

 

 「灘神影流 “蠢蟹掌”」

 

 

禁断の“蠢蟹掌”二度打ち、それだけでは終わらない。

 

 

 「灘神影流 “仰臥・塊蒐拳”」

 

 

相手に逃れられぬ死のタイム・リミットを植え付ける蠢蟹掌の二度打ち、当然それは人間が相手ならその場での死は免れない、それに加えて同系統の技たる塊蒐拳を打ち込んだ。

 

 

 「ア、アアアアッ」

 

 

 「そうだ、まだ戦えるだろう、お前ならな」

 

 「だがその肉体も不死身でも無ければ無敵でも無い」

 

 

その悪夢の合せ技を受けても一瞬の硬直の後、反撃にでるチェーンソー・ガナード、振り回す赤熱チェーンソーの速度がほんの僅かに鈍くなったのを鬼龍は見逃さない。

 

 

 「蓄積したダメージを消すことはできない」

 

 「やがてふざけた生命力にも限界が訪れる、肉体を破壊せずともまずはその生命力から奪ってやろう」

 

 

赤熱するチェーンソーは止まらずも鬼龍には当たらない、単調な振り回しを鬼龍は完全に見切っていた。

 

そして再び炸裂する灘神影流、そして遂に両者の戦いの天秤が決定的に傾く、その始まりの瞬間が訪れた。

 

 

 〈ギャアアアッ〉

 

 

ほぼ絶叫に近い雄叫びを上げながらチェーンソーを振るうガナード、躱されるともスタミナで圧倒的に勝る此方はいつか一撃を与えられる、そしてそれで勝敗は付く。

 

勿論、そのような戦いの段取りや思惑を組み立てる知性も理性もガナードには残されていない。

 

鬼龍の打った一手はそのガナードにさえ困惑を与える予想を超えた灘神影流の技だった。

 

 

 「灘神影流 “硬布風車”」

 

 〈!?〉

 

 

身に纏っていたコートを利用した撹乱の一手、風車の名の示す通り、漆黒のコートが鬼龍の手から加わる力で高速で回転する、一瞬にして敵の視界を防ぐ。

 

しかもそれだけでは無かった、高速で回転するコートはなんと唸るチェーンソーに巻き付いていく、勿論のこと一般的な材料でできたコートでしか無いそれは赤熱する刃に触れれば切り裂かれて焼け落ちてしまう。

 

だが予想外の目隠し、腕に巻き付いた分の布、ほんの一瞬でも両手を拘束されて生まれた隙は鬼龍相手では余りにも致命的だった。

 

 

 「灘神影流 “破心掌”」

 

 〈ハウッ〉

 

 

炸裂する鬼龍の追撃、今まで鬼龍の連弾霞打ちの応酬や内部破壊の技を受けても怯まなかった白頭巾のガナードが戦闘開始から初めて苦悶の声を上げて怯み後退した。

 

それは鬼龍が内部破壊の浸透系打撃を胸部へと集中的に打ち込んだことによって心肺への負担がガナードの耐久力を上回ったからであった。

 

 

 「さぁ、ここからがお待ちかねのショー・タイムだ」

 

 

悪魔を超えた悪魔の最恐の演舞が幕を開ける。

 

 

 「灘神影流 “兜浸掌”」

 

 

 〈ボッ〉

 

 

甲冑越しからでも頭蓋内の大脳を破壊する悪魔の掌がガナードの額を打ち抜いた、元から血が垂れていた覗き穴からさらなる激しい出血が吹き出した。

 

 

 「灘神影流 “鼓爆掌”」

 

 

 〈ア゛〉

 

 

追撃の両掌が頭部を両側から打ち付ける、頭蓋の中に浸透し反響する衝撃が再び脳内に甚大なダメージを与える、覗き穴以外の場所も内側から紅く染まる。

 

ガクンと糸が切れたかの様に肉体の制御が失われ、手にしていたチェーンソーを腕ごと下げる。

 

 

 「灘神影流 “爆丹拳”」

 

 

腹部から腰に差し掛かるその箇所、丹田と呼ばれる部位を正確に打ち抜く正拳突き、人体の重要な箇所に加えられた一撃の破壊力は全身に広がり血管を伝達するように破壊していく。

 

 

 「灘神影流 “塊貫拳”」

 

 

もう一度同じ箇所にめり込む拳、聞こえる気の駆け巡る音とそれが頭部で炸裂する恐ろしいパァンという音、ガナードが遂に膝から崩れ落ちて座り込む姿勢になった。

 

 

 「最後だ、惨めで無様な人生を終わらせてやる」

 

 「灘神影流 秘中の拳 “捩突”」

 

 

低い位置まで堕ちたガナードの頭部を下から突き上げる鬼龍渾身のアッパーカット、そのクリーンヒットの衝撃が伝わる刹那、鬼龍のめり込み始めた腕が高速で捩じ込まれる。

 

衝撃はより深く、より深刻な損傷を与えるために脳内の奥の奥まで捩じ込まれる、徹底した内部破壊の連続使用。

 

 

 「灘神影流フルコースだ、有難がって死ぬが良い」

 

 

 〈オオオ オオオッ…〉

 

 

無敵とも思われた耐久力のチェーンソー・ガナードが仰け反って吹き飛ばされ宙を舞う、頭部の白頭巾は既に余す所なく真っ赤に染まっている。

 

コンクリートの地面に投げ出され、ジタバタと藻掻き苦しむもやがてゆっくりと停止していった。

 

チェーンソーも使い手の死と共にその起動を停止していく、赤熱した刃が少しずつ本来の色に戻っていく、戦いが終わり、その興奮が冷めていく様を表している様だった。

 

 

 「狂った脳が破壊されてようやく落ち着けただろう」

 

 「さて…レオンの元に合流してやるか」

 

 

倒れ伏す狂気の怪人の亡骸を踏み越えて鬼龍が歩み出す、外通路の先にある研究室とそこにいるレオンとアシュリーの元へと向かう為に。

 

 

 

 

孤島最奥、鉄骨塔

 

 

 「ここで待ってろ、アシュリー」

 

 「恐らくアイツがいる」

 

 「えぇ、解った…」

 

 

研究室から進んだ先に広がる屋外、その奥のエレベーターを前にしてレオンはアシュリーを待機させ一人進む、この先にあの男が待っている事は解っていた。

 

 

 「………」

 

 

乗り込んでボタンを押せばエレベーターは問題なく作動する、ほんの短い上昇の後、停止したエレベーターの扉が開いた。

 

そこに広がっていたのは正しく鉄骨で形成させれた塔の様な建築物郡、何のために作られたのか定かでは無いがそれらは一つの施設として繋がっていた。

 

そしてそれらが見下ろす広場、幾つかの物資の様な木箱が散乱し、海が覗く深い溝で仕切られた2つの縦長の広場には手前と奥で起動する鉄橋が架かっている。

 

 

 「ここで全部終わりにしよう」

 

 「出て来い、クラウザー」

 

 

暗雲が立ち込める鉄骨塔広場に迷い無く踏み入ってその名を呼ぶ、それに応える様に名前の主も堂々とその姿を表した、高所からの跳躍、そして音の無い着地。

 

朱いベレー帽と軍服の偉丈夫、クラウザーだ。

 

 

 「レオン、俺の相手はやはりお前か」

 

 「宮沢鬼龍でもよかったがな、まぁいい」

 

 

その手には既に鋭い銀の光を放つファイティング・ナイフが握られている、口元に片側だけを釣り上げる笑みが浮かび上がり、冷徹な殺意が場に満ちる。

 

 

 「クラウザー、本当にもう止まる気は無いんだな」

 

 「言葉などではな、俺を止めたいなら力で止めろ」

 

 「あぁ、望み通りそうしてやる」

 

 

互いがナイフを取り出して構える、レオンは順手でクラウザーは逆手、互いの一挙手一投足見過ごさなぬ様に限界まで研ぎ澄まされた集中力が凄まじい緊張感を生み出していく。

 

 

一瞬その場の時が止まったのかと思う程の刹那の静寂が訪れる、そのコンマ数秒後に残像を伴う疾風となって飛び出した両者、空の暗雲を割くような甲高いナイフの衝突音が鳴り響いた。

 

 

 「フハハさぁ来い、俺の力を否定してみろっ」

 

 「おおっ、決着を付けてやる!」

 

 

銀の残光を煌めかせながらレオンとクラウザーの火花を散らす最後の戦いが遂に幕を開けた。

 




◇決戦が始まる…!
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