TOUGH DEVIL HAZARD   作:ポジョンボ

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第55話

 

 

 

 「ぼうっ」

 

 

網膜が焼き付くのかと思えるほどの閃光、鼓膜が引き裂かれるのかと思えるほどの銃声、そしてそれらと共に放たれる圧倒的な破壊の鉄礫。

 

ハンド・キャノンのゾウすら即死させうる一撃が至近距離でハッキリと、クラウザーの胸に文字通りの風穴を開けて撃ち貫いた。

 

 

 「や、やったあ!」

 

 「…確実な致命傷だ」

 

 

鉄骨塔を見下ろすアシュリーが戦いの決着を確信し、鬼龍もそうだと解っていながらもその顔は尚も厳しく無表情。

 

 

 「さらばだ…クラウザー」

 

 

相対しその手でハンド・キャノンの引き金を引いたレオンの表情は悲痛とも憐憫ともつかぬ、或いはそれらがないまぜとなっているのか、複雑としか言えぬ顔。

 

 

 「はうっ……」

 

 

そして胸から大量の出血を撒きながら、後方に仰向けで吹き飛ばされたクラウザーが背面から落下していく、クラウザーはそれらの声や光景をスローモーションの様にゆっくりと認識していた。

 

地面へと落下し、全身の力を失い四肢を投げ出し倒れる。絶命、誰の目から見ても明らかなその有り様。

 

だがクラウザーの意識は薄れゆくどころか、照らし出す光の様に明確になっていく。やがて脳裏に映るのは記憶に刻まれた過去の情景。

 

 

 「…お、俺…俺は…」

 

 

今のクラウザーを形作るモノ、悲しき過去─。

 

 

 

────────────────────────

 

 

 (そうだ…二年前の…2002年…)

 

 (あの暑い南米の地の朝に…)

 

 (全てが終わり…全てが始まった…)

 

 

 

クラウザーの記憶の中から呼び戻される風景、熱帯のジャングルを進む己、無人の町中で死の気配と相対する己、現れた悪夢の怪物達と戦う己。

 

そしてその隣で背を合わせ戦うレオンの姿。

 

オペレーション・ハヴィエ、クラウザーの生涯において始めて生物兵器が、そしてそれらに纏わる惨劇が牙を向いた。

 

 

 (俺はレオンと共に化物の巣窟を駆け抜けた…恐れは無かった…迷いも…その時は…)

 

 

そしてその道中で目にする生物兵器が齎す悲劇、犠牲となる無辜の民や首謀者の暴走する願い、そして謎めいた一人の少女に纏わる物語は終局へと向かう。

 

惨劇の終局に立ち塞がったのは、今までのどの怪物も及びもつかない醜悪にして強大な、首謀者の業すら取り込んだ忌まわしき悪夢の化身。

 

 

 (あの時だ…あの時…)

 

 

 

それを前にしてもクラウザーはレオンと共に勇猛に立ち向かった、立ち向かおうとした。

 

怪物が不意に放った攻撃、怪物からしてみれば無尽蔵に再生する肉体の一部を利用したに過ぎない。

 

 

いくらでも繰り出せる一撃、そのたった一撃がクラウザーの全てを終わらさせた

 

その一撃はクラウザーの肉と骨を打ち砕き、簡単に戦闘不能にまで追い込んだ。

 

その後見た光景をクラウザーは忘れることが出来なかった、今際の際の今でさえ、その光景が鮮明すぎるほど浮かび上がる。

 

 

 

 (笑ってしまう…)

 

 (あれ程の怪物と…未だレオンは戦っていると言うのに…惨劇に巻き込まれたあの幼い少女でさえ、己の命を削りながら戦っていると言うのに…)

 

 (俺は無様にも血を流し…這い蹲ってそれを見ていることしか出来ないのか…?)

 

 (今まで歩んだ戦いの人生は何だったんだ?)

 

 (数多の戦場を駆け抜け、敵と仲間の屍を踏み越えて生死の境を掻い潜り続けたのは何の為だ…?)

 

 (ウィルスにその身を浸すだけでこんな力が手に入るというのなら人の身でそれに抗う意味などあるのか)

 

 (俺は…俺は…)

 

 (“力”が欲しい…!何人にも脅かされぬ力が!)

 

 

怪物はレオンと特異な力を発揮した少女の援護もあって打ち倒された。朝日に照らされながら乗った帰還のヘリの中でレオンと少女が話をしている。

 

命を削る少女の援護は怪物が絶命するまで続いたが幸いにもその命を奪う程に酷使はされていなかった。

 

全てが解決し、悲劇は去った。ただ外を眺めるクラウザーの心境には晴れやかさなど無い。

 

光の粒子となって死体すら残さず消えた怪物、己を再起不能に追い込んだ怪物の幕切れ、そして人の身でそれを打ち倒したレオン。

 

 

力とは何か、力の持つ意味とは何か、クラウザーが姿を消したのはそれから間もなくの事だった。

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

あらゆる音が絶えたスローモーションの無音世界で自らの消えかかった鼓動だけが響いていた、それがクラウザーを過去の情景から現実に引き戻す。

 

 

 (そうだ…だからこそ接触した)

 

 (人を超えた“あの男”に…!教団への潜入を利用して俺もまた人を超えた力を手にした筈だ)

 

 (なのに何故俺は今倒れている)

 

 (何故この肉体に死が訪れようとしている)

 

 (俺の手にした力がこの程度の筈が無い…!)

 

 

 「おおおっっ 俺の力がこの程度の筈が無い!」

 

 

閉じかけていた瞼が開き、止まりかけていた鼓動が動き出す。クラウザーの死に向かうだけの体に電流の如く凄まじい力の本流が駆け巡った。

 

 

 「えっ」

 

 「なにっ」

 

 

死に体のクラウザーの体が跳ね上がる、どう考えても覆しようのない致命傷の筈が確かな声量で叫びだす、断末魔の声と言うには余りにも力の貼ったその声にレオンもアシュリーも不意を突かれて驚愕する。

 

 

 「クラウザーの寄生体が放つ気が増大した」

 

 

鬼龍だけが冷静にその光景を俯瞰していた、抉り取られた胸から血が吹き出し、寄生体がのたうつと共に驚異的な再生能力で傷が塞がっていく。

 

 

 「肉体の死に反応したプラーガが活性化し限界を超えたスペックを発揮しているというわけか」

 

 

やがて左腕と胸部の損傷は古傷の様な痕だけを残して完全に塞がった。死ぬはずだったクラウザーがゆっくりと仰向けの姿勢から起き上がってくる。

 

  

 「馬鹿な…ま、まさか」

 

 

支配種の再生能力が亡くした血液の生成を急速に高める、ほぼ全損した胸部の臓器を修復し、痛みきった筋繊維や砕けた骨格も次第に元へと戻る。

 

より強靭な状態へと変化をしながら。クラウザーが完全に復活し、冷徹な目に再び殺意を滾らさせた。

 

 

 「レオン…!」

 

 「おいおい、胸に風穴開けられてまだやる気か?」

 

 

覆された勝利の確信に見ている者の頬を冷や汗が伝る、それは鉄骨塔広場を見下ろすアシュリーも同じ。

 

 

 「き、鬼龍!どういう事…?」

 

 「ウム…ここに来て奴に宿る支配種が異常な活性化を見せている、恐らくその原因は…」

 

 

立ち上がったクラウザーがズボンのポケットから小さな何かを取り出した。開いた掌の上では試験管の中で小さな琥珀の破片が橙色の光を放って煌めいていた。

 

レオンはすぐにそれが何なのか予想が付いた。

 

 

 「それがアンバーだな」

 

 「ククク…俺の中の支配種プラーガとアンバーが共鳴している、直接取り込まずともこれ程とはな…!」

 

 「急激な再生能力はそれのせいか」

 

 「いいや…ただ傷が癒えただけではない」

 

 「俺も漸くサドラーと同じ支配種を超えた支配種の力を手にしたのだ」

 

 

急速な再生を終えて尚もアンバーの影響を受けたクラウザーの寄生体は蠢き肉体を隆起させる。変異していない右腕までにもプラーガの触手が肌の下をのたうち変異させていく。

 

メキメキと音を立てて変異、肌が生物のそれではなく硬質の岩の様に無骨なものへと変化していく。鋼鉄のような硬化細胞ともまた違う、分厚い岩そのものの様な質感。

 

 

 「これがプラーガ寄生体の完成形だっ」

 

 

クラウザーの右腕は岩石を荒く削り出して形作られたかの様な岩肌の腕と化した。掌と五指の形を辛うじて残したその右腕はクラウザーの体を完全に覆い隠すほど大きい。

 

 

 「ま、また変異か…」

 

 「安心しろ、もう次の変異はない…」

 

 「今度こそ最後だ、レオン」

 

 

両腕の変異を完了させたクラウザーが動き出す、先程まで覆しようのない死の寸前に立っていた男の足取りとは思えないほど確かに地面を踏み締めてゆっくりと前進。

 

 

 「クソッ、やる気か!」

 

 

レオンが間合いへと入られる前に素早いハンドガンでの銃撃で牽制する。しかしそれも岩壁と化した右腕で防がれる、その防御の強固さ、左腕での防御と違い動きを止めず歩行と並行して防御が可能。

 

尚も悠々と歩み寄るクラウザーにハンドガンから貫通力に優れるライフルへと持ち替えて銃撃するも結果は同じ。

 

 

 「この右腕が全てを防ぐ、もうお前の攻撃は通じない、悔しいだろうがしょうがないんだ」

 

 

クラウザーの岩肌の右腕を持ってすれば怯むどころか押し止められることすらない。間合いへとあと少しのところでレオンも次の攻撃を繰り出す。

 

 

 「新しい武器を得たからって調子に乗るなっ」

 

 

ピンを抜いて手榴弾を投擲する、足元から投げれば蹴り返される恐れがある為、爆発までの時間を手の中で減らした上で頭上から降り注ぐ軌道の投擲。

 

激しい衝撃波と灼熱の熱風、煙が一瞬で辺りに蔓延して爆発範囲のクラウザーの姿を包み隠す。

 

 

 「コイツを喰らえば無事じゃ済まない筈!」

 

 

勿論レオンもそれだけでダメージを与えられると思ってはいない、煙の中にいるクラウザー目掛けてすぐさまハンド・キャノンの銃口を向ける。

 

 

 「もう解ってるだろう、レオン」

 

 

だがその前にクラウザーが動く、右腕の掌を開けて振り払う。巻き起こる風が煙を四散させ、その状態から僅かに腰を落とした姿勢で飛び出す。

 

左腕の歪な刃を構えて突進。それはハンド・キャノンの狙いが定めるよりも速くレオンの元へと到達。

 

 

 「っ…」

 

 

接近からのジャブの感覚で放たれた一撃、しかしそれは人一人の体を骨まで断つ殺傷能力を秘めている。

 

後ろへと飛び引いたレオンの腹部が切り裂かれて血が吹き出す、浅いそれは骨にも臓器にも届いていないが確かなダメージとなる。

 

 

 「今までは一つの腕で防御と攻撃を両立していた」

 

 「従って攻撃の際は防御が、防御の際は攻撃が不可能となる…だが今は違う」

 

 「盾と刃の役割に分かれたこの両腕はまさに攻防一体、そして唯一その守りを崩せるそのマグナムはもう俺には当たらない」

 

 

 「…守りと攻め、半々の力に割り振られていた左腕の力が完全に発揮できると言うわけか」

 

 

 「絶望したか?もう一度言う、今度こそ終わりだ」

 

 

クラウザーが駆ける、左腕の刃を高速で振り回して突貫。レオンが下から掬い上げる斬撃を横に身を滑らせ回避、クラウザーが一歩を踏み込んで横薙ぎに以降。

 

 

 「フンッ」

 

 

しゃがみ込んでレオンがまたも回避、しかしここで予想外の攻撃が来る。盾として使用していた右腕による乱雑な殴打がレオンを打ち付ける。

 

 

 「ぐあっ」

 

 

溜めも速度も乗っていないその一撃も軽自動車に衝突されるのと同等の威力を持つ。咄嗟に受け流すの間に合わず被弾、地面を転がされて吹き飛ばされた。

 

 

 「人間の脆い体を砕くのにわざわざ刃の左腕を使う必要はない、盾であり鈍器でもあるこの右腕で十分だ」

 

 

クラウザーの逆襲が始まる、右腕で前身を覆うように守りながらの突進、間合いに入ると同時に振り払われるその殴打はナイフによる受け流しも出来ない。

 

 

 「攻撃の種類が増えただけだろう!」

 

 「笑ってしまう、全てを躱せるとでも?」

 

 

右腕の殴打がまた迫りくる、一撃でコンクリートの地面を叩き割る破壊力、そしてその合間に差し込まれる致命的殺傷能力の左腕の斬撃。

 

その両腕に意識が集中すれば今度は両足を使った蹴りや足払いが高速で繰り出される。

 

  

 「しまった…!」

 

 「またボロを出したな」

 

 

クラウザーの叩き付ける殴打が先程までレオンの立っていた地面を叩き割る、その余りの衝撃が地を揺らし、寸前で回避したレオンの体制すら崩しかける。

 

その瞬間に激しく増大するクラウザーの殺気、最速最短で致死の斬撃と化した左腕が来る。

 

後方へ身を投げ出す回避、だがまたも肉が裂かれ血が吹き出す。今度は浅いとは言えない裂傷。

 

 

 「ぐうう」

 

 「解っているぞ、さっきの一撃で肋骨を損傷したな」

 

 「常人なら呼吸の度に激痛を味わい叫び声も上げられず、のたうち回る事すら出来ず、這い蹲って呻くしか出来なくなる」

 

 「それでも澄まし顔で戦闘を続行するのは流石と褒めてやる、だがどうしたって痛みは打ち消せない」

 

 

 「落ちぶれたお前が相手ならな…これくらいのハンデがあったって良いだろう…」

 

 

 「最後まで減らず口を叩くつもりか、俺が落ちぶれた、弱くなったなどと…」

 

 

 「戯言はあの世でほざけーっ」

 

 

ダメージから片膝を付いて動けないレオン目掛けてクラウザーが容赦なく攻撃を与える。左腕による踏み込みからの薙ぎ払い、空を切る音より速く刃は到達。

 

間に滑り込ませたナイフと甲高い音を鳴らしながらまたレオンを強烈に吹き飛ばした。

 

 

────────────────────────

 

 

エレベーター付近から見下ろすアシュリーにも激しく焦燥と緊張が走っていた。倒したはずの敵が蘇り、今まさにレオンを圧倒していた。

 

 

 「き、鬼龍!もう助けに行くべきだわ!」

 

 「クラウザーは不死身よ!手を貸さなきゃ!」

 

 

だが鬼龍は未だ腕を組み見下ろす視線を逸らさない、その顔はやはり冷静な無表情のまま、アシュリーの言葉に答える。

 

 

 「早るな、まだ終わっていない」

 

 「え?」

 

 「解らないか?また吹き飛ばされた」

 

 「…? あっ」

 

 「そうだ、また出血もなく吹き飛ばされただけ」

 

 「…レオンめ、どうやら本当に掴みつつある様だな」

 

 「これから目を逸らすなよ、アシュリー」

 

 「決着はもうすぐそこまで迫っているっ」

 

 

鬼龍が強い確信を持って言い放つ、鉄骨塔の戦い、どちらが命を拾い、どちらが失う生死の舞踏。その最後の攻防が始まろうとしていた。

 




◇勝機が…!?
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