「この武装は…!?」
レオンが投下されたケースより取り出し、右腕に装着したのは見たことも無い銃器の様な何か。
光沢のある金属のソレは近未来を舞台としたSF作品にでも登場するかの様で、形容の困難な、攻撃に使用する銃器の類だと辛うじて解る形状。
腕を包み込む様に装着した中には引き金があった。
「ソイツは制作途中だった試作品だ!」
「嬢ちゃんの治療は済ませたんだろ?なら俺の研究室の治療器具も見てきた筈だ」
「あのレーザーによる体内のプラーガ除去装置、その技術を応用して作ったもんだ」
困惑するレオンにすかさずルイスからの説明が入る。
「成る程な、治療用のレーザーを攻撃に転用したと言う訳か、プラーガ相手には有効だと」
「そうだ!あの化物がどれだけ強大でも剥き出しの寄生体!ソイツを撃ち込めば確実に仕留められる」
「通称 “P.R.L.412” 対プラーガ用最終兵器だ!」
「まさか…あの時お前と武器商人が古城に残ったのはコレを完成させるためなのか?」
「そういう事だ、商人が設計図を回収しててな、とっくに教団に処分されたと思っていたが…」
「俺は武器商人だからね、戦いに利用できる物は何でも集めて保管しておくのさ!さぁブチかますのね!」
「よしっ、やってやるぜ!」
レオンが目の前の大プラーガ目掛けて構える、その琥珀の弱点に標準を合わせて力強く引き金を引いた!
P.R.L.412の先端の口径に眩い光が迸って収束していく、それはプラーガの細胞を焼き尽くして滅する電光、邪悪な存在を祓う聖なる光の如きエネルギーが煌めいた。
「…………」
「………おい、光るだけで何も起きないぞ」
電光のスパークは確かに今まさにレーザー光線を放つ勢いで迸る、だが一向に発射されず。レオンはつい引き金から指を離してヘリの仲間に話し掛ける。
「あっ、おいコラ!チャージを止めるな!」
「ムフフ、何せ急遽思い立った事だからね、少ない時間で設計図と睨み合い、有るもので再現した物なの」
「破壊性能は完成品と遜色ないけどね!代わりにオートエイム機能と対象の複数ロックオン機能は無し!」
「しかも三段階あるチャージ時間はなんと二十倍以上にまで増加してるのね、凄くない?」
「はぁ?…って事はつまり…」
「引き金を引き続けろ!そうしたらチャージが完了してレーザーを放てるようになる筈だ!」
「マジかよ…」
呆れながらも仕方なくもう一度引き金に指を掛けたその時、爆発の様な轟音が響く。鬼龍との連携によって与えたダメージから大プラーガが復帰したのだ。
「クソ…やるしかないか」
大プラーガの触手が激しくのたうち荒れ狂う、それはまさに激憤の発露そのものに見えた。辺りの鉄骨等や地面を破壊しながら振り回される。
「そいつが素敵なプレゼントとやらか?」
レオンの元に触手の間合いから退避した鬼龍がやって来る、視線は目の前の大敵に向けられている。
「あぁ、コイツでトドメを刺す、コイツが撃てるようになるまでの時間を稼いでくれ!」
「良いだろう、だが俺に手間を取らせておいて失敗なんてのは許さんぞ」
「大丈夫さ…多分な」
短い会話を終えて、復活した大プラーガ目掛けて鬼龍が再び駆ける。そしてレオンはもう一度引き金を引いて迸る電光のチャージを勧めていく。
「この作戦で……ん?」
「ほう…」
しかしここで大プラーガが予想外の行動を見せる、今まで自らに近づく者目掛けて乱雑に触手を振り下ろすだけであった挙動が明らかに変化する。
レオンが最終兵器のチャージを始めた途端にのたうつ触手がレオンの方に向けられる。そして次の瞬間にはレオンの元目掛けて伸縮を始めた。
「なにっ」
その間も鬼龍は駆ける、だというのに妨害は殆ど無く、簡単に大プラーガの元まで到達した。
「そうか…」
「あの攻撃を受けてはならぬと本能的に理解したか」
「動かせる殆ど全ての触手がレオンに向かっている、しかし動きは緩慢だ、防御に重きを置いているのか」
鬼龍が鉄骨塔に散乱するガラクタや廃材の中から破損したパイプを一本拾い上げる、破損した先端が槍の様な尖った形状へと歪んでいる。
「ふんっ」
その場で強く踏み込み、槍投げの要領で琥珀の弱点目掛けて全力の投擲を放つ。
「図体に反して中々に反応が早いな」
大プラーガの根本から急速に伸びた太い触手が渦を巻く様に琥珀の弱点を幾重にも巻き付いて覆い隠す。
投擲された鉄パイプもその一部に深々と突き刺さるが、中にある琥珀の弱点までは届いていない。
「さて…あちらはどうだ」
鬼龍がレオンの方を見ればそこには迫る触手を全力で回避するレオンの姿、右腕に装着した奇妙な武装からはまだスパークが迸っている。
「レオン!チャージを止めるなよ、引き金を引いたまま回避を続けるんだ!」
「無茶を言うなっ、そもそもチャージが終わってもこれじゃあ反撃に移れないぞ、ルイス!」
「俺はキャプテン・マイクだあっ、ヘリからの銃撃でクソみたいな触手共を黙らせてやるぜ!」
「おーっ、それは楽しいのォ!」
「しゃあけど全て倒しきるのは無理だわ!」
「う~ん、弱点の守りも分厚そうなのね」
それを確認する鬼龍、今度は聳え立つ鉄骨塔を見上げる。その超人的視力で鉄骨塔の中に使えそうな物を見つけ出す。
「所詮はムシケラが思い付く程度の戦術、その守りを打ち崩してやろう」
触手で隠された琥珀の弱点に宣言するように不遜に言い放つ、そしてすぐさま触手や崩落しかけた鉄骨塔の一部を足場として飛び交い鉄骨塔を登り始めた。
「ここには重火器等の武器も多く備わっている、教団による世界征服への備えだが知らんが…裏目に出たな」
「先程見えたアレ、あの守りを崩すには十分だ」
超人の脚力と体力で鉄骨塔を駆け上る、時には本来通路として想定されていない組み上げられた剥き出しの鉄骨等も平然と足場として跳躍。
凄まじい速度で目的地へと迫っていく。そして中腹の開けた場所まで到達した鬼龍の前に、真紅の影が飛翔して現れる。
「フン、お前か」
「どうやらいよいよ終わりが近いみたいね」
「あぁ、そっちも“あの男”に命じられた島への“仕込み”は完了した様だな」
「さぁ…何の事?」
「まぁ良い、ずっと見ていたのは気付いていた、今やるべき事はもう解っているんだろう」
「えぇ、勿論」
現れた真紅の影、エイダもまたワイヤーフックを駆使して鉄骨塔を飛び交って移動していた。鬼龍の目指す位置とは反対の方角に向けて飛び去る。
だが両者の求めている物は同じだった、その事が解っている二人は余計な会話をせず再び動き出す。
「さぁ見つけたぞ」
そして到達した鉄骨塔の最上位、周囲に置かれた弾薬や銃器の山、その中でも鬼龍が目を付けた物を手に取り持ち上げる。
肩に担ぐようにして持つそれ、対戦車にも用いられる圧倒的破壊力のロケットランチャー。
「向こうも辿り着いたか」
見れば鬼龍の立つ場所と対面する様な反対側の鉄骨塔最上部、そこにはエイダの姿が。鬼龍と同じく積み上げられた兵器の中から一番破壊力のあるロケットランチャーを選択して構えている。
「レオンの方はどうだ」
視線の遥か下では触手の猛攻を躱すレオンの姿、その右腕からは既に眩いばかりの閃光が煌めいている。
「よし、決着の頃合いだ」
それを見た鬼龍がロケットランチャーを構える、聳え立つ塔の様な大プラーガの渦巻く触手の束で隠された弱点目掛け、反対側では同じくエイダも構える。
そして両者のロケットランチャーが同時に発射される、凄まじい勢いで煙を吐き出しながら高速で飛翔する二つの弾頭。
それはあっという間に対象の元へと到達した。
「なにっ、なんだあっ」
レオンの目の前で再びの大爆発、それは大プラーガの太い触手をも吹き飛ばし焼き払う。束ねた触手の壁に巨大な風穴が開く。
不意に与えられた無視できないダメージから大プラーガの触手も制御を失いレオンへの攻撃を中断する。
「おおっ、化物がダウンした!」
「しゃあけどあの攻撃は何処から…?」
「アレは…鬼龍!そしてエイダ…?」
「弱点の守りに穴が開いた!しかも爆発の炎で再生が遅れているぞ!今だ、レオン!」
「あぁ、今度こそ終わらせてやるぜ!」
開けたの大穴の先にある弱点に標準を合わせ、遂にレオンが引き金から指を離した。
その瞬間に収束された膨大な熱量の電光は一直線の光の道となって文字通りの光速で放たれる。
刹那にも満たない時間、そのチャージされたレーザーが大プラーガの弱点を完全に撃ち抜いた。
「当たった!」
鉄骨塔の広場に大プラーガの滅びゆく絶叫、断末魔の叫びが響き渡る。触手が藻掻き、聳える塔が身を捩り、一瞬の間を置いてゆっくりと崩れ落ち始めた。
その体が朽ちて溶け出していく、完全なる絶命、教団の最後の足掻きとも言える、厄災の名を関する怪物が打ち倒された。
「……倒したの?」
「あぁ、アシュリー、これで終わりだ」
まるで天が見計らった様に、常に差し込んでいた暗雲が風に流され空に掻き消えていく。その代わりに眩い朝日と澄んだ青空が顔を覗かせた。
「や、やったあっ!」
今度こそ湧き上がる安堵と歓喜の声を遮るものは無い、プラーガとそれを利用した者達との戦いが今、完全に決着した。
「よーし、上手く行ったみてぇだな」
「お見事です、レオンに鬼龍、これで教団もプラーガも完全消滅KOなのね」
「なんか解らんけど御解決だあっ」
「アハハこれは爽快やわ」
「俺はキャプテン・マイクだあっ、最後の最後までお前達には感服したよ、せめて帰りの足くらいには成らせてくれよ」
「レオンに鬼龍にアシュリー、エイダは別の足があるとして…人数的に乗せて大丈夫か?」
「このヘリはアメリカ製だあっ、墜落するかもしれないという不安は撤回されている、例え十人乗ってもマイ・ペンライ!」
「今梯子を下ろしてやる!後は安心してヘリに揺られて休息してな!」
頭上のヘリからスピーカーからの声と共に梯子が下ろされる、レオンがアシュリーを先に登らせる。
「さぁ家に帰ろう、アシュリー、気を付けて登れ」
「うん!」
「さて俺も…ん?アレは…」
自らも後に続こうとしたレオンの視界の端に何かの煌めきが映る、光を鮮やかに強く反射する小さな何か。
それは崩れ落ちる大プラーガの肉塊から転げ落ちてきたようだった、色の褪せたコンクリートの地面を数回跳ねて転がる鮮やかな琥珀色の光。
「まさか…」
歩み寄って確認し、拾い上げたソレは試験管の様な小さい容器が破損を防ぐために頑丈な素材で覆われている。半透明な箇所から中の琥珀が、その中で眠りに就くプラーガ寄生体の姿が見えた。
「アンバー…クラウザーが持っていた物か」
「コイツとクラウザーの中の支配種が共鳴してあの化物に変異した…支配種を超える力か」
「プラーガも支配種もサンプルも…全部この世にあってはならない物だ、ついでに処分してやる」
アンバーを懐に入れて回収しようとするレオン、その背後から音も無く近付く影があった。
「大人しくそれを渡して、レオン」
「…エイダ」
背後から後頭部に標準を向けて拳銃を構えるのはエイダだった、余りにも唐突な出来事にヘリの中から見ていたルイスやアシュリー達に動揺が走る。
「えっ、どういう事?味方だったんじゃないの?」
「アイツ、今更何のつもりだ!」
「俺はキャプテン・マイクだあっ、今何が起きてるのか誰か説明してくれよ」
「あのう、援護しましょうか?」
「加勢しますか?」
「テーザー銃いるのね?」
「おいっ、余計な事するなっ」
「………」
冷静なままでいられたのは拳銃を突き付けるエイダと突き付けられたレオン、そしてその二人から数歩離れた距離で沈黙を貫いてただ見つめる鬼龍。
「コレがどんな物なのかは知ってるだろう」
「えぇ」
「サンプルだけでなくアンバーを手に入れて何をする気だ、誰かからの指示なのか?」
「安心して、悪いようにはしない」
暫くその状態で時が止まった様な沈黙が訪れる、やがてゆっくりとレオンが振り向かないままアンバーを手渡し、背後のエイダもゆっくりとそれを受け取る。
「鬼龍…貴方の方はそれで良いかしら」
「好きにしろ、どうなろうと興味は無い」
「そう…それじゃあ二人共、お別れね」
アンバーを手にしたエイダが離れていく、それと同時に鉄骨塔にマイクのヘリとは別の機体が姿を現した。
「あのヘリは…?」
「恐らくエイダの所属する組織だと思われるが…」
エイダが助走を付け身投げする様に鉄骨塔から跳躍、そのヘリまで飛び乗った。
「またね、レオン」
「エイダ!」
「あぁ、それと…もう長居する理由も無いでしょうけど、島は早く脱出した方が良いわよ」
「なに?」
「フフ、それじゃあ」
先んじてヘリで立ち去るエイダ、その去り際に取り出した何らかの小型の装置を起動してみせた。
「ん?今何をしたのね?」
「何かの装置のスイッチを押したように見えたが…」
「脱出は早くした方が良いって…ま、まさか…」
「島に仕掛た爆破装置を起動させたのだろう」
「えっ、鬼龍!?」
「うあああ、いつの間にかヘリに乗っている!」
「おいレオン!多分もうすぐ島が消し飛ぶぞ!早くヘリに乗るんだ!」
「……あぁ、もう慣れた展開だ」
遥か上空を一足先に飛び去って行くエイダを乗せたヘリ、感傷のまるで無い簡潔な言葉だけの別れだったが遠ざかるヘリを見送るレオンの心は不思議と沈む事はなかった。
「これが最後じゃないよな」
また何処かで相見える事になる、根拠の無い確信を強くその心に感じていた。やがてアシュリーや鬼龍と同じくヘリから下ろされる梯子を登って搭乗する。
「さぁ、帰って任務を終わらせるとするか」
全員を乗せたマイクのヘリが梯子を仕舞い、扉を閉めて飛び立つ準備を始める。そして悪夢を超えた悪夢の地から遂に、元いた場所への帰還を開始した。
◇任務は終了か…?