TOUGH DEVIL HAZARD   作:ポジョンボ

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読んでくれて感謝を超えた感謝


最終話

 

 

 

レオン達を乗せたヘリが飛翔する、青い空と海に挟まれてプロペラの駆動音だけが響いている。やがてルイスが小さくなりながらもまだ視界の先にある孤島を見ながら呟いた。

 

 

 「そろそろだろうな」

 

 「あぁ」

 

 

何の事を言っているのかはヘリに乗る全員が解っていた、皆が同じ方向、先程まで自分達が居た島を見る。

 

そしてその時は訪れた、小さくなっていく視線の遙か先で島そのものを吹き飛ばす大爆破が巻き起こる。

 

大気を震わせる衝撃波と爆風、立ち上る煙、崩れ落ち飛び散る島だった幾つもの大岩、津波の様に跳ね上がる周辺の海。

 

 

 「呆気ないもんだ」

 

 

エイダが仕掛けたという起爆装置、それが今、討ち滅ぼされた教団が最後に残したその痕跡さえも、跡形も残さすこと無く吹き飛ばした。

 

 

 「これで本当に終わりね…」

 

 「あぁ、また退屈な日常に逆戻りだ」

 

 「ふぅん、ムカつく上司の子分に戻ると言う訳か」

 

 「しゃあけど化物に襲われるよりずっとマシやわ」

 

 「まぁ職があるだけお前らはマシだよ、俺なんて考えてみればただのハンサムなプーだぜ」

 

 「俺も教団の討伐に加担したけどね、商売の拠点を一つ失ったんだよね、そういう意味では残念なの」

 

 「そういえば鬼龍は?これからどうするの?」

 

 「これからの目標という意味か?あるぞ」

 

 「へぇ、今度はゴリラにでも喧嘩売りに行くのか」

 

 「いいや、もっと刺激的な相手だ」

 

 「ま、まだ何かと戦うのん…?」

 

 「お、お前変な衝動でも持っているのか…」

 

 

全ての終わりを見届けた生還者達が思い思いの言葉を交わす、不意にルイスがレオンに語り掛ける。

 

 

 「なぁレオン、今更だが…あの女にアンバーを渡しても良かったのか?抵抗するべきだったんじゃ」

 

 「エイダの事か…まぁ悪いようにはならないさ」

 

 「信用できるのか?何か知り合いみたいだったが」

 

 「まぁ、昔にちょっとな…」

 

 「ふぅん…まぁお前が言うならそれで良いさ」

 

 「お前はどうなんだよ、ルイス?これからの宛は何かあるのか、ずっと教団に居たんだろう」

 

 「まぁな、これからどうなるか…」

 

 「だがどんな人生だろうとサドラーとつるんでた頃よりマシだろ?俺はな、お前らに感謝してんだ」

 

 「感謝?」

 

 「お前らがいなければ教団は倒せなかった、それどころか俺一人では逃げ出すことも出来なかっただろう」

 

 「きっと何処かで呆気なく殺されて終わりだった」

 

 「ルイス…」

 

 「そうなっても当然の報いかもな、教団の非情な実験に何度も加担した、プラーガによる遺伝子改造の研究だって俺が任されてたんだ」

 

 「本当にクソみたいな選択だったよ、もっと早くこうしていれば良かったって思う」

 

 「けどこれで自由さ…だからようやく…」

 

 「俺もやり直せる、なぁ…人は変われるよな?」

 

 「あぁ、お前は俺達と一緒に戦ってくれた、お前が居なければアシュリーを助けることも出来なかった」

 

 「そうか…だったら生き残っても神様だって許してくれるよな、教団から世界を救った英雄だものな」

 

 「あぁ、立派な活躍だったよ、ドン・キホーテ」

 

 

そうしてレオン達を乗せたヘリは海へと沈みゆく孤島を遥か背後に帰還する。

 

 

 「…退屈な日常か…それが一番の幸福なのかもな」

 

 「フン、エージェントにはその退屈な日常とやらは存在しないだろう、国に帰ればすぐに今回の後始末と次の仕事を割り振られる」

 

 「おいっ、余計な事を言ってやるなよ」

 

 「確かに…憂鬱になって来た」

 

 

教団とその目論見は滅び、大統領の娘の誘拐から始まった狂気に満ちた騒動は完全に終わりを告げる、悪夢を超えた悪夢の夜が今明けた。

 

そこには眩い太陽の光が生き残った者達の勝利を祝福する様に水平線の先を照らしていた。

 

 

 

 

 

レオン達が飛び去った方角とは反対の方角、そこにもまた爆破によって砕け散り、沈みゆく孤島を遥か背後に帰還するヘリの姿があった。

 

レオン達とは対象的に乗っているのはパイロットともう一人だけ、エイダが回収したアンバーとサンプルを事前に用意された専用ケースへと収納する。

 

 

 「……」

 

 

閉じればすぐにロックが掛かるケース、それを脇に置いてエイダは通信機を取り出し目的の相手へと通信を掛ける。

 

そしてほんの僅かな時間も置かずに通信は繋がる。

 

 

 「報告を」

 

 

聞こえてきたのは男の声、低く冷徹な雰囲気の、だが言いしれぬ強い力を感じさせる。

 

 

 「サンプルを入手したわ、それとアンバー…教団が隠していたサンプル以外の特別なプラーガよ」

 

 「サドラーは死んだわ、教団は壊滅」

 

 「そうか、ご苦労、すぐに帰還しろ」

 

 「…驚かないのね、クラウザーがどうなったのかも聞かないの?」

 

 「聞くまでも無い、どれも予想は出来ていた」

 

 「そう…なら一つ聞かせて」

 

 「言ってみろ」

 

 「サンプルを手に入れて貴方は何をするつもり?」

 

 「アンブレラの様に生物兵器による利益が目的?それともサドラーの様に世界を支配でもするのかしら」

 

 「どちらも違う」

 

 「金や権力では無い、言うなれば変化であり進化だ」

 

 「変化…?」

 

 「あぁ、世界に齎す進化だ」

 

 「数百万人を犠牲にして一人が生き残る世界、数十億人を犠牲にしてたった一人が王として君臨する世界」

 

 「新たなる世界の為の礎、金も権力も力も、その為の手段に過ぎず目的にはなり得ない」

 

 

通信の先にいるその男は平然と言い放った、そこには欲望や悪意の気配は無い。ただひたすらに、己がその結末を手にして然るべき、それが当然なのだという傲岸不遜な狂気だけが込められていた。

 

 

 「そう…よくわかったわ」

 

 

その言葉を受け、エイダはそっと通信を切った。

 

そしてサンプルとアンバーの入ったケースを一瞥すると立ち上がり、拳銃を取り出して背中を向けるヘリのパイロットに向けた。

 

 

 「悪いけど進路は変更よ」

 

 「なにっ」

 

 「そ、そんな事をしてどうなるか解っているのか…」

 

 「黙って言う通りにした方が良いと思うけど?」

 

 「うぐぐ…」

 

 

エイダを乗せたヘリはその進路を変える、それはつまり許可の無い独断の行動であり、与えられた任務に反する裏切りであり、エイダの立場ではあってはならない行為だった。

 

 

 「安心して、悪いようにはしないわ」

 

 

エイダはもう一度通信機を取り出し、それを開いたヘリの扉から眼下の大海原へと投げ捨てた。

 

 

 

 

 

 

数日後、ヨーロッパの田舎町、警察署─

 

 

 「遂に戻ってきたのぉ」

 

 「ですねぇ」

 

 

鬼龍の参戦もあって幸運にも生き残った警官達、最初は道案内だけが仕事であった彼等も元いた日常へと帰還していた。

 

 

 「それにしてもアレが現実か今でも疑問やのぉ」

 

 「もしかして…人間が巨人や怪物を素手でブチのめすのはあり得ないんじゃないスか?」

 

 「ウム…やはり夢だと思われるが…」

 

 「しかし…あの気味の悪い商人野郎から貰った防弾アーマーは今もここにあるのです…」

 

 「現実か…き、恐怖…」

 

 「……あの村人共…多分だけど全滅したって訳じゃ無いでしょ?…まだあの村に残ってて…うっかり踏み入った人達を今も……」

 

 「でえーっやめんかいっ、眠れなくなるわっ」

 

 

その時、二人のいる休憩室に彼等の通信機から聞こえる怒号の様に大きな報告が響き渡る。

 

 

 「緊急報告だあっ、十一番通りで強盗が発生との通報!犯人は一人、ナイフを持って民家に立て籠もるクソ野郎だ」

 

 「勿論メチャクチャ危険、しかもこの事件には絶対に守らなければならないルールがある」

 

 「銃の仕様は禁止、何故なら万が一にも犯人を射殺してはいけないからだ、何よりも法に沿って裁きを与えるのが大事なんだ」

 

 「ぶっちゃけこのガキの命なんてどうでもいいんだ、事件さえ解決すればなあ、さぁ動ける者は……」

 

 「通信なげーよ」

 

 

警官達が通信機のボタンを押して通信を切った、そして制服を正し、商人から貰ったアーマーを装着して休憩室の扉を開ける。

 

 

 「よしっ、それじゃあ事件を解決しよう」

 

 「はーっ、銃も無いのに全然怖くないなあ」

 

 「不死身の生命力や怪物に変身する事もないからね」

 

 「このアーマーもあるしなヌッ」

 

 

二人の警官はそのまま署を出て車に乗り、目的の場所へと躊躇わず出発していった。

 

 

 

 

同時刻、アメリカ、大統領邸 

 

 

 「それじゃあ行ってくるね」

 

 

誘拐事件から発展した悪夢を超えた悪夢より無事帰還したアシュリーもまた、自らの日常に戻っていた。

 

朝食を終えて通っている大学へ登校、なんて事ない日常の一幕だが父である大統領の顔は不安に歪む。

 

 

 「やはりSPと護送車は必要だと思われるが…」

 

 「またその話?心配し過ぎだよ、パパ」

 

 「しかし…実際にあんな事があったばかりなんだ」

 

 「せめて護衛は必要だろう」

 

 「エージェントでも呼ぶの?レオンみたいな」

 

 「あぁ、お前が望むのなら彼をもう一度護衛に付ける事も可能だ…それほど私は心配なのだ」

 

 「必要ないよ、彼にはきっと私の護衛よりもするべき事があるはず」

 

 「それに何時までも守られてばかりじゃいけない」

 

 「逞しくならなきゃ、一流のエージェントみたいに」

 

 「なにっ」

 

 「将来は私も、なんてね」

 

 「おいっ、驚かせるのは止めろっ」

 

 「安心して、心配は掛けたくない…だから最近護身術を教えてもらってるの、鬼龍からね!」

 

 「その男だけは止めろーっ!」

 

 

父の悲しき叫びが大統領邸に響き渡る、アシュリーも陽の光が差し込める玄関の先へと、戻るべき日常へと歩んで行った。

 

 

 

 

そして同刻、それぞれが戻ってきた正常な日々を実感しているその頃、誰も知らぬ薄暗い部屋に二つの影があった。

 

並ぶモニターの前にオフィスの様な机と椅子、そこに座る一人の男と対面するもう一人の男。

 

片やモニターの光を背に静かに相手の言葉を待ち、片や“燭台から灯る青い炎”の光に照らされ話し出す。

 

 

 「ムフフ、お望みの物を売りに来たのね」

 

 

全身の輪郭を隠すコートにフード、マスクで表情の半分は見えないがその上からでも不気味な笑みを浮かべているのが見て取れる。

 

背負った大きなバッグとコートの内側に様々な銃器を隠し持つこの猫背の男、武器商人。

 

 

 「きっと今一番欲しい物の筈」

 

 

そこには武器商人の持ち込んだ何かがあった、上から布をかけられた台車の上の何か、少なくとも銃器では無い、焦げた様な生々しい異臭を漂わせる。

 

沈黙の後、対面する男が静かに口を開く。

 

 

 「お前は連中の教団との戦いに力を貸している」

 

 「何が目的だ」

 

 

対する男が椅子から立ち上がる、鍛えられた無駄の無い五体が黒一色のスーツで包まれている、オールバックに整えられた金の髪、氷のように冷たい無表情だがサングラスの奥の両目は刃物の如き鋭さで目の前の武器商人を観察している。

 

 

 「レオン達に協力した俺がこんな事するのは変だと言いたいのね?しかし俺にとっては何もおかしくは無い」

 

 

武器商人が背後の大きな台車に近づき布を剥ぎ取った、現れたのは焼けた何かの生物の一部、まだ朽ちきっていない生物の肉片だった。

 

 

 「送り込んだスパイの内一人は任務を放棄した末に死亡、もう一人は任務はこなしたが最後の最後で裏切った、かわいそ…」

 

 「アンバー、サンプル、どちらも手に入らず…目的は失敗に終わった…俺がコレを回収してなければね!」

 

 

 「サドラーの死体か」

 

 

 「アンバーでもサンプルでもないけれどね!アンバーの影響を受けた支配種の残骸、生ゴミじゃないよ、結構使えそうでしょ」

 

 「質問の答えになっていないな、教団と敵対したお前が此方にプラーガのデータを渡す理由は何だ」

 

 「俺とレオン達には致命的な違いがある、それはもうアンタにも解っている筈なのね」

 

 「…目的は金か」

 

 「武器商人にはね、正義とか良心だとかよりも優先すべきモノがあるの…確実に金になる話、そして確実に金になる商品」

 

 「価値のある物を価値を感じる者に売るの、勿論一番多く金を払ってくれそうな相手にね!」

 

 「“金の為なら例え親の敵だろうと武器を売る”それが武器商人の生き方なのね」

 

 「だからレオン達の協力者なのは教団が滅ぶまで、それ以降は金目当ての闇商人に変身するの」

 

 「連中に協力していたのもこの為か」

 

 「まぁ教団が邪魔だったのも事実だけどね」

 

 「どうやって此方の存在を知った?」

 

 「俺も闇の住人、悪い連中とはだいたい知り合いなのね、教団のプラーガを何処かの組織が求めていると知ってずっと探していたのよ、レオン達が来る前からね」

 

 「成る程…」

 

 「“商品”はこれだけか」

 

 「そりゃあもう、クラウザーが残した教団の生物兵器データ、それらを想定した対プラーガ兵器の技術、勿論普通の銃火器まで他にも色々ありますよ」

 

 「………」

 

 「……良いだろう、お前と“取引”をしてやる」

 

 「ムフフ、聞きたい言葉は聞けたのね」

 

 

武器商人のマスクの下の笑みが深まった、そして仰々しく一礼の仕草を残してその部屋から退出していく。一人になった男は座り直して片足を組む姿勢に戻す。

 

 

 「自ら回収する選択もあったが…思わぬ展開だ」

 

 「だがそのおかげで次のステージに進む時が来た」

 

 

台車の上で横たわるサドラーの亡骸を眺めるその男、足を組み、肩肘を立てて顎先に添える姿勢はそのままに、その口角の片端がほんの僅かにだが釣り上がる。

 

男の計画に必要なピースが揃い、その脳内ではサドラーをも超える脅威がより鮮明に形を持ち始めていた。

 

 

      “あの男”が動き出す──。

 

 

 

 

アメリカ、とある空港

 

 

利用客で溢れ返る空港に鬼龍は居た、いつもの様にコートのポケットに両手を仕舞い、常人には到達不可能な強者の風格を纏いながら練り歩く。

 

目的は勿論空港の施設としての利用、その気になればすぐさま個人で使うヘリすらも用意させられる鬼龍だがこの日は一般の客に紛れて飛行機に乗る。

 

 

 「面倒な報告は終わった様だな」

 

 

だがそれだけでは無い、別の目的もあった。鬼龍はこの日、今いる空港を待ち合わせの場所としていた、振り向かず投げ掛けられる声に答えるのはレオン。

 

 

 「まぁな、お前の方は?日本に戻るのか?」

 

 「残してきた因縁なら確かにある、だが今はその時では無い…話があるなら早くするんだな」

 

 「フライトまでには終わらせるさ、鬼龍、今更だが任務への協力に感謝する、それと…」

 

 「合衆国は今も優秀な人材を求めている、灘神影流の技術をインストラクターとして伝える気はないか」

 

 

レオンの提案に返された鬼龍の答えは予想していた通りのものだった、鼻を鳴らして一蹴する。

 

 

 「くだらんな、見込みの無い愚図に親切丁寧に技など教えようとして何になる」

 

 「まぁ、そう言うと思ったよ」

 

 「全く能天気だな、サドラーなんて小物に思える様な脅威がすぐそこまで迫ってきていると言うのに」

 

 「なに?鬼龍、お前何を知っている?」

 

 「精々油断しない事だ、無様に屍を晒さぬ様にな、お前は見込みはある、見込みはな…」

 

 「次に戦場で会った時、死体か化物にでも変わっていなければ腕試し代わりに遊んでやっても良い」

 

 

会話は終わった、そう言わんばかりに鬼龍が歩き出す。空港内のアナウンスで次の飛行機の登場時間が近い事が知らされている、鬼龍が乗るつもりの機体だ。

 

 

 「…褒め言葉として受け取っておくよ、お前は任務でも無いってのにまた生物兵器と戦うつもりか?」

 

 「言っただろう、刺激があるから人生が面白い」

 

 「俺が言えた事じゃないんだろうが…そんな真似してるといつか命を落とすぞ」

 

 

その言葉に反応して鬼龍が振り返る、その顔には不敵にして尊大な、ニヒルな笑みが浮かぶ。その表情は正しく地獄の王座に君臨する悪魔、或いは万物を見下し嘲笑う傲慢な龍。

 

 

 「お前、化物退治なんてしてるくせに知らないのか」

 

 

怪物を超えた怪物、蓋世不抜の超人、神の肉体に悪魔の頭脳を持つ男、この世にある道徳に背反して恬然としている不羈奔放の武人。

 

この男を指し示す恐ろしい異名の全てが、その笑みに集約している。教団を食らった真の怪物を超えた怪物が言い放つ。

 

 

 「悪魔は死なないんだぜ」

 

 

その姿、正に傲岸不遜の嗤う龍!悪魔を超えた悪魔は死なず、次なる贄を求めて世界を練り歩く、鬼龍がこの世にいる限り、悪魔災害は終わらない。

 

 

 

           TOUGH DEVIL HAZARD 終

 

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