TOUGH DEVIL HAZARD   作:ポジョンボ

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自分が投稿していたのを完全に忘れていたのは…オレなんだ!


第6話

 

 

 

 

 「薄情な無関心野郎だと言ったんですよ、余所者さん 気付いているのに無視されていると知った時は驚きましたよ」

 

 

 

薄暗くジメジメと湿った水路の奥に集まった4人の男。

 

そして4人に話しかけるのはバックパックを背負ったコートの人物。フードとマスクで顔は覆い隠され表情は伺えない。

 

照明代わりのトーチ、その不気味な青い炎に照らされた男の周りは店のカウンターのような作りになっており、背後の棚には所狭しと大量の銃火器が並べられていた。

 

 

鬼龍による驚愕の怪物退治を見届けた4人は今、何の目的か突然現れた目の前の男に言われるがままに採石場付近の隠れ家の様に改造されたこの水路を訪れた。

 

 

 

 「無視したって何の事だよ」

 

 

 「時折遠くでこちらを見ているのは気付いていたが、まさか話しかけて欲しかったなんてな」

 

 

 

レオンは揶揄う様に答えたが実際の所は不気味に佇み何やらこちらを眺めていたこの男を警戒しての事だった。

 

 

 

凶暴化した村人にも襲われない所を見るにガナードではあるのだろう。しかし敵意が感じられず、襲撃に手を貸す様子も無い。

 

 

だが原理の解らぬ青い炎に照らされて異様な雰囲気を放っていたこの男がまさか対話を望んでいたなどとは想像もしなかった。

 

レオンと同様に男の存在に気付いていた鬼龍も恐らくは同じだったのだろう。

 

 

本題の話を進めるためレオンは思考を打ち切り、話を切り出す。

 

 

 

 「それで?一体何のようだ」

 

 

 「それはね…」

 

 

 

男は言いながら徐ろにコートの片側を掴み一気に開いてみせた。レオン達4人は咄嗟に身構える。

 

 

 

 

 「ばあーっ」

 

 

 

コートの内側には奥の棚同様に大量の銃火器や弾薬の類が収納されていた。

 

男の薄く開かれた目が見開かれ、マスクで隠された口角は恐らく釣り上がっているのだろう。

 

 

 

こんな状況の自分達に突然声を掛けて、住処まで連れてきたと思えば大量の武器を見せつけたこの男。

 

 

それでいて敵意はまるで無いと言うのだから困惑の感情はより深まる。

 

しかしレオンは辺りに置かれた手入れの施された武器を見るに、不気味なこの男の目的を理解した。

 

 

 

 

 「アンタ、武器商人か」

 

 

 

男の口角がより深く、今度はマスクの下からでもわかるほどにニィーと釣り上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして湖を超え先へと進んだ鬼龍。ボートを岸に止め、最初に見えたのは寂れた民家。

 

もう久しく使われていないだろうその民家のドアを蹴破り、堂々と中に押し入る。

 

中には誰もおらず、辺りを探せば役に立ちそうな物もありそうだが鬼龍が興味を示す事は無い。

 

一瞥だけ向けて立ち去ろうとした時、鬼龍の視界の端に何が映る。

 

埃と年月の経過によって酷く色褪せた民家の中に似つかわしくない真新しい白色。

 

近寄ればそれは文字の書かれた紙だった。状態から見て少なくとも最初からここに置かれていた物では無いだろう。

 

 

紙を手にとり書いてある文字を読んだ鬼龍はわかっていたかのように鼻を鳴らした。

 

 

 

 

 「やはり俺達だけでは無いというわけか」

 

 

 

 

この村には自分達以外にも外部から入り込んだ何者かが存在する。

 

紙に書かれた内容はそのことを鬼龍に確信させた。

 

 

 

 

  探し物はこの奥よ 武術家さん

 

 

 

 

鬼龍はこれから起きる予期せぬ出来事への期待を高め、民家を出て歩き出す。

 

前方に見えるのは遠目からでもわかる程の大きな滝、そしてその周りで稼働する水車と周りの水路。

 

水車までの道を歩みながら鬼龍は増大する邪気を全身で感じ取る。

 

先の怪物が潜む湖を覆っていた物と同じ、死をもたらす暴力の邪気が今進む道の奥からも漂っているのだ。

 

 

そして邪気の主が日が落ちかけて出来た薄暗闇の中からその姿を現す。

 

 

 

一見すればそれは今まで散々屠ってきた村人の一人。

 

だが鬼龍にはこの村人がそれだけでは無いことがわかっている。

 

武器の類は持たず、しかしふらつきながらもこちらに近づく村人。

 

 

 

 

 (隠し持った武器か爆薬、或いは毒か…)

 

 

 

村人を観察し、あり得る脅威を予想する鬼龍。

 

 

 

 〈デモネ,オレヒンガナクテアタマワルソウナンダヨネ〉

 

 

 

込めるべき感情の抜け落ちた虚ろな呟きを溢しながら更に村人が近づく。

 

 

 〈カンサイベンッテキライデショ〉

 

 

 

互いの間合いまであと少しまで近づき、鬼龍がコートのポケットから両手を抜く。

 

 

 〈デモネ……〉

 

 

遂に村人が鬼龍の間合いに足を踏み入れた。

 

その瞬間、村人の頭部が激しく痙攣する!

 

次第にもはや痙攣の粋を超え、前後左右に骨が折れるのではという程にグリングリンと揺れ動く。

 

 

 

 〈デモネデモネデモネデモネデモネデモネデモネデモネデモネデモネデモネデモネデモネ〉

 

 

 

鬼龍の超人的な動体視力は不意に動きを止めた村人の頭部が膨張する瞬間を捉えた。

 

パァンという音が響き、村人の頭部が破裂した水風船の様に弾けて鮮血を辺りにばら撒いた。

 

 

それだけでは無く司令塔を失った筈の体は倒れず尚も歩き続け、首から上には寄生虫の様な触手が何本も飛び出してうねり、一際太く長い触手の先端は鋼鉄で出来た鎌の様な刃が携えられていた。

 

飛び出した寄生体に絡みつき、一体化した元は村人の物だった神経と眼球が鬼龍に向けられる。

 

 

次の瞬間、鬼龍はバックステップで飛び引いた。遅れて謎の風切り音が鳴る。

 

鬼龍が元いた場所の地面が一筋に鋭く削られた。

 

 

 

 「寄生体本体にも攻撃能力が備わっているとは興味深い」

 

 

 

それは体外へ露出したプラーガの硬質化した細胞で出来た鉤爪状の刃と自在に伸縮する触手が可能とする高速の一撃。

 

鞭の速度と刃物の切れ味も併せ持ち、言うまでもなく寄生体露出前の村人達のどの攻撃よりも殺傷能力に優れる。

 

 

寄生体のその触手が二度、三度と風切り音を立ててまた振るわれる。

 

距離を取って躱す鬼龍、しかしいつものように瞬時に反撃はしない。

 

 

間合いとは魔合い、そんな言葉が武術家達の間では時たま囁かれる。

 

命を賭した戦いの際に相手の攻撃を見切る為に間合いを測る。

 

ほんの少しでも見誤れば次の瞬間には死んでいる。その際に武術家は魔物に出会うのだ。

 

即ち、畏れに迷い。その魔物に飲まれた者が屍を晒す。

 

 

この寄生体が繰り出す伸縮する斬撃は変幻自在かつ高速、靭やかに伸びるこの触手の間合いを見切るなど人間に出来るとはとても思えない。

 

 

しかしこの男は鬼龍!振るわれた触手を避けたかと思えば、大きく踏み込んで村人に急接近する!

 

すぐさま次の触手が振るわれるかと思われたがそうはならなかった。

 

鬼龍の逞しいと言う言葉では到底足りない怪力を持つ片腕が、寄生体の伸びた触手を掴んで離さなかった。

 

鬼龍が測っていたのは伸びる触手の速度ではなく、伸びた後に戻る触手の軌道だったのだ。

 

鬼龍が掴んだ片腕を引けば、それに応じて村人が体勢を崩して転倒する。

 

唯一の武器の触手は鉤爪の根本を抑えられ振るう事が出来ない。

 

うつ伏せの状態から立ち上がろうと両腕に力を込めた所で、露出した寄生体が踏み砕かれた。

 

 

プラーガの鉤爪触手の殺傷力は凄まじく、その道の達人が振るう武具にも匹敵する。

 

しかしこの悪魔の如き超人の相手をするにはまるで足りなかった。

 

村人の屍をもう興味は無いと言わんばかりに跨いで鬼龍は更に奥へと進む。

 

未だ邪気は少しも弱まることなく漂っていた。

 

 

 

 

水車付近の水路を進む鬼龍。時には吊るされたコンテナの上を飛び交う事で先へと進む。

 

勿論、道中に村人達と交戦する。しかし鬼龍にとっては今更足止めにもならなかった。

 

中には先程の村人同様に寄生体を頭部から露出させて襲い来る者もいたが結果は少しも変わらない。

 

振るわれた触手を最小限の動きで避け、或いは他の村人に誘導して同士討ちをさせる。

 

村人の増援が到着しようが全員が呆気なく屠られる。

 

不安定な足場に加えて、下は湖ヘ流れる水路。殴り飛ばされた村人は次々と水没して誰一人上がってこなかった。

 

 

 

 

 

めっきり静かになった水車場の設備を稼働させ、水車の向きを変えれば滝の流れも変わり、滝の奥から洞窟が現れた。

 

 

 

 

 「この大層な仕掛けもお前が考えたのか、蛆虫」

 

 

 

鬼龍が姿の見えない何者かに話しかける。

 

それに反応したのかその相手が姿を見せた。

 

 

 

 〈 鬼 龍 ! 〉

 

 

 

洞窟の暗闇から現れたのは黒いコートの大男。伸びきった髭に禿げ上がった頭、片目には義眼が嵌め込まれており、その表情は初めて見たときとは対象的に激しい怒りで満ちている。

 

 

廃村奥で退けた筈の村長が咆哮を上げて鬼龍に突撃する!

 

 

 

 

 「醜くもしぶとく生きながらえたか…蛆虫と言うよりはゴキブリだな」

 

 

 〈うおおおっ 鬼龍よ 殺してやる!〉

 

 

 

連続して振るわれる速度が乗った村長の剛腕。しかし難なく躱す鬼龍。

 

怒りに飲まれた怪力だけの攻撃など目を瞑っていても鬼龍は回避する。

 

 

それでも前回受けた塊貫拳を警戒してか、鬼龍が構えれば攻撃を中断して距離を取る。

 

 

 

 

 「そんなに怯えるな、塊貫拳は使わん」

 

 

 〈なにっ〉

 

 

 

鬼龍の傲慢さを隠さぬ挑発と冷笑が村長の怒りの炎にさらなる燃料となって降り注ぐ。

 

 

 

 「興が乗った 不完全な技に価値など無いが、同じく無価値な貴様には丁度いい」

 

 

 「今から地獄を見せてやるよ」

 

 

 

 

村長の怒りが限界点を超え、正気を完全に失わせた。

 

 

 

 〈貴様ーっ 私を愚弄する気かあっ!〉

 

 

 

全力で走り寄って渾身の力で右腕を振り下ろす。

 

村長の脳内にグチャグチャにすり潰された肉片のイメージが映される。

 

しかし現実は違う。渾身の振り下ろしはあっさりと受け流され、まるで見当違いの方向に腕が伸びている。

 

 

唖然として顔を上げれば、そこには手を開いた両腕を交差させた鬼龍の姿が。

 

 

あの時の様に不可思議な技を使われる!そう思っても間に合わない。

 

そして放たれたその技は塊貫拳を超える、村長にとって正しく絶望というべき物だった。

 

 

 

 「さぁその身で味わい怯えて死ぬがいい!」

 

 

 「これが"呪怨"だ!」

 

 

交差した両腕が村長の頭部を殴打する。そして村長の視界が黒く覆われた。

 

 

 

 

 〈はうっ〉

 

 

 

村長の意識が急浮上する。一瞬意識を失っていたのかと思い、急いで体勢を立て直す。

 

 

しかし体が動かない。足が進まず腕が上がらない。まるで精神と肉体が切り離されたかのようだ。

 

 

 

 「……せて…」

 

 

 〈あううっ〉

 

 

 

体が動かせないでいると微かに何者かの声が聞こえた。五感だけは異様に冴えており、その声は段々と大きく、段々と近づいているのがわかった。

 

 

 「見……せて…」

 

 

 〈な、なんだあっ〉

 

 

 「見せて」

 

 

 

余りにも異様な状況に困惑と危機感を超えて恐怖が心を染めあげる。そして等々ハッキリと、耳元でその声が聞こえた。

 

 

 

 「 オチンチン 見せて 」

 

 

 

ハッと恐怖で目を見開けばそこには異形の集団が。人間の美的感覚と常識ではとても表現できない様な悍ましい何かの群れがこちら目掛けてにじり寄って来た。

 

                「ばあーっ」

     「しゃああああ」

             

  「あへ あへ あへ」   「うーっ やらせろ」

 

     「ライオンハデスネェ」   「クソッテナンダ?」

 

  「ぷにっ」    「とっても美味しかったのん…」

 

      「ハーッ ハヨウシャブシャブシャブシャブ」

 

 

 

 

 〈う あ あ あ あ あ あ ! 〉

 

 

 

 

村長の絶叫が辺りに響き渡る。錯乱状態という表現が生温い程に村長は恐怖にのたうち回り、遂には全身を掻きむしる様に自傷行為に走る。

 

 

それを鬼龍は冷やかな目で見下ろす。

 

 

 

 「これが"呪怨" 灘神影流は武術や薬学のみならず呪術の要素も持ち合わせる」

 

 

 「見えぬものが見え、聞こえぬものが聞こえる 醜く忌まわしいものが己に付きまとう幻覚に苛まれる」

 

 

 「そして自己崩壊が始まる」

 

 

 

村長には鬼龍のその言葉すら聞こえてはいなかった。

 

醜く忌まわしい何かが己の体を貪る幻覚に苦しみ、実際には自分自身でその体を引きちぎって傷つけている。

 

呪怨の幻覚は更に苛烈さを増していく。村長の体からふと苦痛が無くなった。

 

村長の絶叫が止み、解放されたと安堵したその時。

 

村長の体中から異音が鳴り始める。バキバキと何かが変形するような音が鳴る。

 

村長は何故か変形していく自分を俯瞰して見下ろしていた。

 

そして気付いてしまった。自分が何になっていくのか。

 

 

眼下のこの男、高潔な武人のような、ナバホ族の戦士のような、不気味な浮浪者のような、マスクを被った変質者の様なこの白髪の老人、その正体を。

 

 

 

       「我が名は尊鷹」

 

 

 

 〈 あ あ あ あ あ あ あ あ 〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…終わったか」

 

 

そう言って洞窟の奥へと歩き出す鬼龍。

 

 

精神が完全に崩壊した村長は自分の両目に指を押し込んで、奥の脳を潰してしまっていた。

 

 

 

 




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