TOUGH DEVIL HAZARD   作:ポジョンボ

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第8話

 

 

 

 「さぁ早く力を見せてみろ 化け物」

 

 

 

雨が降り注ぐ夜の採掘場に獣の雄叫びが響く。

 

 

鬼龍の発した言葉を挑発と知ってか知らずか、灰色の巨人エルヒガンテが咆哮する。

 

それが戦いの火蓋となり両者が同時に動き出す。

 

 

先の大殺戮を見ておきながら一切の迷いなく一直線に駆け寄る鬼龍。

 

その右側からはレオン、左側にルイスが位置取る。

 

 

巨拳を振り上げるエルヒガンテ、狙いは勿論、高速で接近する眼前の鬼龍。

 

 

そのまま拳を振り下ろせば地鳴りと共に地面が抉れる。

 

その拳の下には当然、鬼龍はいない。

 

 

 

 「お前も図体だけの鈍間か?」

 

 

 

拳の範囲から数瞬前に離れていた鬼龍が明らかな侮蔑と冷笑を持って言い放つ。

 

だが今回はそのまま鬼龍の攻勢が始まることは無かった。

 

 

 「ほう…」

 

 

距離を詰めるのを中断し、飛び引く鬼龍。

 

そして飛び引いたその場所を風を巻き起こす勢いで通過するエルヒガンテの横振りの剛腕。

 

更に一歩、踏み込んで放つエルヒガンテの大振りのアッパー。当たれば象をも一撃で殺しかねないソレを鬼龍はバク転で難なく躱す。

 

そして更に一歩、踏み込んで腕を振り上げる。その瞬間に鬼龍は足元を抜けて回り込もうとする。

 

素早く反応したエルヒガンテが回り込もうとしている右側の足で踏み付けた。

 

 

鬼龍もまたそれに反応し、飛び引いて回避する。

 

 

一連の攻防が瞬く間に繰り広げられ、エルヒガンテが獲物を未だ仕留められぬ怒りからかまた咆哮を上げようとした。

 

 

その瞬間、火薬の炸裂する乾いた発砲音が鳴り、エルヒガンテを弾丸が襲う。

 

鬼龍に気を取られた隙に左右に回り込んだレオンとルイスの援護。その狙いは急所である頭部に集中している。

 

 

何発も連続して顔面に叩きつけられる鉄の礫。

 

しかし驚くべきことに、不意打ちに近いそれをエルヒガンテは顔を逸らし、俯き手で覆う事で眼球等の器官へのダメージを防いでいた。

 

 

しかしダメージはゼロでは無い。寧ろ、拳銃といえど武器商人の改造を得て威力を増した正確な銃撃のダメージは無視出来ない出血と損傷をもたらす。

 

エルヒガンテの怒りを買うには十分過ぎた。先に二人から始末しようとレオンに顔を向けるが、またもや鬼龍が黒き疾風となって高速接近。

 

 

ほんの一瞬、無防備になった足を蹴り抜いた。衝撃がそれこそ銃撃のように骨肉の奥まで深く響く。

 

 

 

 「無視されては困るな」

 

 

 

思わぬダメージからのうめき声か苛立ちからの唸りか、エルヒガンテは低い声を上げるとまた鬼龍を睨みつけ向き合う。

 

 

 

 「無骨で野卑、知性も品性も皆無なのは同じだが…」

 

 

 「少なくとも鈍間では無い 悪くはないぞ 化け物」

 

 

 

それは鬼龍にしては珍しく、僅かばかりでも称賛に近い評価を含んだ言葉だった。

 

傲岸不遜という言葉の体現者である鬼龍は、例え己と戦闘が成り立つ程の達人が相手であっても愚弄と冷笑が消えることは無く、ましてや相手に称賛を与えた事など数えるほども無いだろう。

 

 

それはつまりエルヒガンテは鬼龍にとってそれなり以上の相手として認識された事を意味していた。

 

 

 「おい、貴様ら」

 

 「あ?」

 

 「何だ鬼龍」

 

 

鬼龍がエルヒガンテから視線を逸らすことなく、レオンとルイスに語り掛ける。

 

 

 

 「手を出すな、俺が殺る」

 

 

 

次の言葉はやはりというべきか、二人が予想していた物と違いなかった。

 

 

 

 「おいおい、オッサン…」

 

 

 

エルヒガンテの恐ろしさを知り尽くしているルイスが慌てて止めに入るが、その声は鳴り響く雄叫びと地鳴りで掻き消える。

 

 

地鳴りが連続して鳴り響き、灰色の巨躯が迫りくる。

 

エルヒガンテの体を丸めて放つタックルだ。

 

 

予想される衝撃は大型トラックの追突以上だろう。

 

その勢いのまま突き進み、採掘場の小屋を幾つか破壊して踏み鳴らしようやく止まる。

 

 

その背後に立つ鬼龍。当然ながら無傷、エルヒガンテがタックルの予備動作を取ったときには既に回避を始めていた。

 

 

 

 「わざわざ俺一人に集中出来るようお膳立てしてやったんだ、失望させるな」

 

 

 

未だ傷ひとつ与えられぬ事実にエルヒガンテの怒りは頂点に達しつつあった。足元の砕けた小屋の破片をかき集め、声が聞こえた背後に振り向きざまに投げ放った。

 

 

 

 「何!?」

 

 「クソッ!危ねえ!」

 

 

 

鬼龍のみならずその対角線上にいたレオンとルイスも巻き込まれる。咄嗟に地面に滑り込むように身を屈めて躱す。

 

背後の同行者の危機には目もくれず、自分に飛んできた木柱を蹴り砕いた鬼龍はその場から動かない。

 

ズボンのポケットに手を仕舞いただ立っている。今にも相手を挑発する言葉が口から飛び出すかのようだ。

 

 

 

知性がなくとも鬼龍のそうした気配を感じ取ったのか、更に怒りのボルテージを上昇させたエルヒガンテが早足に接近する。

 

あと少しで拳の間合いに入るかといったところで突然、右足による不意打ちの前蹴りを繰り出した!

 

腕を振り回すよりも遥かに速く、隙も少ないその前蹴りが間合いの僅かに外から鬼龍に迫る!

 

 

右側に大きく体を傾け、滑り込ませる事で回避する鬼龍。

 

 

それを好機と見たのかエルヒガンテの猛攻が始まる。

 

腕を払い、足で踏み付け、また前蹴りを不意に繰り出す。

 

攻撃のテンポを上げただけではなく、明らかに少ない動作でそれらの攻撃を行う。

 

学習する知性も理性も失くした筈のエルヒガンテだが、ここに来て本能が最適な動きに導いているのだろうか。

 

それに加えてエルヒガンテの無尽蔵ともいえる体力が連撃のさらなる加速を可能とし、もはやその巨体とはおおよそ見合わぬ速度まで上昇していた。

 

エルヒガンテが吠える。眼前の獲物への殺意以外の全てが消失しているのだ。

 

 

 

 

 「マ、マジなのかよっ」

 

 「馬鹿な…」

 

 

 

後方で見ていた二人が援護も忘れて驚愕している。

 

 

速度を上げたエルヒガンテにではなく、それを持ってしても掠る気配すらなく攻撃を捌ききる鬼龍に驚愕する!

 

そう鬼龍は避けるのではなく捌いているのだ。

 

 

最初はステップを交えた回避、それは次第に常体を逸らすだけの紙一重の見切りとなり、遂には振るわれた腕や脚に自分の攻撃を当てることにより軌道を別方向に逸らしていた!

 

 

一発でも当たれば体がバラバラになりそうなあの暴風の様な攻撃に晒されて尚一切の後退すら無し。

 

もはや人の理すらも超えているあり得ないその現象。

 

 

 

 

 (こ、これは人間と怪物の戦いじゃねぇ……正真正銘、怪物と怪物の戦いだ!)

 

 

 

 

吹き荒れる暴力の全てを捌いた悪魔が不敵に嗤う。その口から等々終幕を意味する言葉が宣告された。

 

 

 

 「悪くは無いがこの程度、もう終わらせるぞ」

 

 

 

言うやいなや鬼龍の体から目に見えて一切の力が抜け落ちる。

 

突然の謎の脱力にレオンとルイスは目を見開き、エルヒガンテは突如訪れた好機に飛び付いた。

 

全力で力を込めて、なおかつ最速で腕を薙ぎ払う。

 

ソレが鬼龍に命中し、辺りには爆散したかのように血肉が飛び散ったのだと思われた。

 

 

だがそうはならない。剛腕が振るわれた跡には原形を残した鬼龍、爆散どころかその場から吹き飛んですらいなかった。

 

 

 

 (アレは一体…!?)

 

 

 

 

レオンはその瞬間を目撃していた。エルヒガンテの腕が鬼龍に触れるその刹那、雨に濡れた鬼龍の体がまるで液体になったかの如くすり抜ける様に衝撃を逃しているのを。

 

 

宙に舞う布を殴りつけてもまるで手応えが無いのと同じく。

 

鬼龍の体も宙を舞うだけで未だ全くの無傷。

 

 

 

 

 「灘神影流 “弾滑り”」

 

 

 

 

究極の脱力と見切りが可能にする妙技。まるで油に塗れた物を掴めないのと同じ、滑るように力の流れは逸らされる。

 

灘神影流を極めた者は読んで字の如く、撃ち出された弾丸すらもこれで躱して見せる。

 

 

 

渾身の一撃が不発となった後、困惑と相手の姿が見えぬ故にエルヒガンテが硬直した。

 

 

その背後には鬼龍!正しく最小の動きで避けてみせたのだからそこからの反撃は容易い。

 

鬼龍は戦いながらもエルヒガンテの気を探り、弱点である寄生体の居場所を探っていた。その効率的な破壊の方法も。

 

 

一息に駆け寄り、エルヒガンテの背目掛けて拳の一撃を叩き込んだ。

 

中指を立てた握り拳で背中の中心へ捻り込む。

 

人体の急所という急所を知り尽くした鬼龍が狙ったのは脊髄を走る神経、その神経が鬼龍の一撃で急速に圧迫、損傷する!

 

 

耳を刺すエルヒガンテの絶叫。脳と繋がる神経の激しい損傷は想像を遥かに超える激痛を引き起こす。

 

 

プラーガにより肉体のダメージは無視出来る、だが寄生体が取り憑いた脊髄は別だ。

 

その激痛信号が宿主の脳と脊髄と一体化した寄生体両方に甚大なダメージを与える。

 

 

 

エルヒガンテの背にある裂け目の様な傷跡が血を吹き出して開き、そこから人の身長ほどもある一際巨大な寄生体が飛び出した。

 

ダメージを受けた寄生体本体が生命活動の危機だと認識したのだろう。

 

 

 

 

 「もう飽いた、譲ってやるからさっさと終わらせろ」

 

 

 

先程までの高ぶる闘気は消え去り、最早少しの興味も無いと視線を外して構えを解く。

 

エルヒガンテは体の制御を失い、片膝をついて頭を抱え俯く事しか出来ない。

 

 

鬼龍の気まぐれに一瞬だけ硬直すれどすぐさま銃口を寄生体に向けるレオンとルイス。

 

ライフルの甲高い銃声と改造ハンドガンの重い銃声が連続して響く。

 

 

村の支配者にとって切り札の一つであった灰色の巨人は、地についた片膝をもう一度上げることは叶わずにうめき声を上げて倒れ伏した。

 

蠢いていた背中の寄生体も大小多くの風穴を開けてもう動くことはない。

 

 

気がつけば雨は止み、採掘場に静寂が満ちる。

 

 

途中から戦いの行方を見ていたのか、危険が無くなったその場に警官達も戻ってきた。

 

何か事前に仕掛けがあったのか、教会へ続く道を阻む丸太の門が開く。鬼龍は倒れ伏した強敵に一瞥もくれず歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「な、なぁ…さっきの奴は何だったんだよ」

 

 

 

 

前を行く鬼龍達に向けて未だ恐怖の拭えぬ警官の一人が言う。あの怪物が話の中で出たプラーガに関係する何かだということは警官達も理解していた。

 

 

 

 「アレも村人共と同じ様なモンだ サドラーの犬さ」

 

 

 「この村をこんなにした奴の親玉って話だよな」

  

 

 「そのサドラーが元凶だということはわかった」

 

 「だが解せんな、たかだか侵入者の迎撃のためだけにしては余りに大掛かり過ぎる あんな醜悪な化物まで作り出す目的は何だ」

 

 

 「さぁな…世界征服…とかじゃないか」

 

 

 「なぁそれならよ、何でアンタは目的も知らない奴に協力なんてしたんだ?」

 

 

 「オレは……オレはサドラーがプラーガを良からぬ事に使おうとしていたのは知っていた…だが研究への興味からそれを黙認していたんだ」

 

 「奴のプラーガの実験は日を追うごとにより凄惨に、狂気じみていった」

 

 

 「だから…逃げ出したのか?」

 

 

 「そうさ」

 

 

 

会話を切り上げて5人が歩みを止めた。来た道を戻り断崖の通路を過ぎれば、件の教会が見えてくる。

 

 

 

 「そのサドラーの思惑がどうであれ、大統領の娘を取り返されたとあっては姿を表すほかあるまい」

 

 「もし想像通りの愚か者であったなら…俺自ら遊んでやっても良い」

 

 

 

教会の紋章が描かれた閉じた門の前で呟く鬼龍。意識を集中すれば教会に渦巻く何者かの残した残気が見えてくる。

 

酷く淀んだ気の中に、何かを隠す動きが浮かび上がる。

 

 

 

 「頼もしい限りだな」

 

 「速く門を開けろ」

 

 

軽口を叩いて、手にした石の丸彫刻を窪みに嵌め込む。

 

重たい仕掛けが動く音と共に扉のロックが解除された。

 

5人は教会内へと踏み込んだ、物怖じの気配なく最初に扉を開け放ち侵入したのはやはり鬼龍だった。

 

 




◇中には何が…!?
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