TOUGH DEVIL HAZARD   作:ポジョンボ

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オ…キ…ナワ…


第9話

 

 

 

鬼龍により勢いよく教会の扉が開け放たれ、視界に映るのは意外にも一般的なイメージの中にある教会の風景。

 

そう広くはない縦長の内部、奥の演説台にその周りの傍聴席、窓のステンドガラスは色のついた鮮やかな光を反射する。演説台の上部には教会のシンボルであろうマークが刻印されている。一本の線が左右にY字に枝分かれし更に先が曲がったそのマーク。

 

 

 

 「ここに来る途中の扉にもあの印があったな」

 

 「奴らの崇める教団のシンボルさ」

 

 

 「怪しげな教団に醜いバケモノ、まるで悪趣味でくだらない映画の世界だ」

 

 「やはり宗教は好かん 都合よく愚か者共を従わせたいペテン師の戯言だ」

 

 

 

あらゆる宗教と神仏を軽蔑すると豪語する鬼龍にとって教会は好ましい場所ではない。ましてやそれが故も解らぬ異教の教会ならなおのこと。

 

 

気を探り辺りの残気を読み解いても、この場所からは俗に言う神聖さや安らぎなどの気は感じない。

 

村と同様に何処までも暗い、狂気と血生臭さだけが漂っている。

 

 

 

「だが…」

 

 

 「喜べ、どうやら探し物は見つかったようだぞ」

 

 

 「ん?」  「おい鬼龍!?」

 

 

 

レオンとルイスは驚愕の声を上げる、それは鬼龍の突然の行動の意味を測りかねてのものだった。

 

今更、鬼龍が5メートル近く上の吊り下がるシャンデリアに垂直に跳躍し飛び移る光景を目の当たりにしてもそれ自体に驚きなどない。

 

 

巨大なシャンデリアに乗った鬼龍は更に跳躍、教会二階のドアが見える一角まで飛び移った。

 

 

 

 

 「なんだあ スーパーマンかあっ」

 

 「インディ・ジョーンズだろ」

 

 

 

もはや警官達さえも驚かず軽口を叩く、しかし鬼龍の性格上無意味な行動では無いことは全員がわかっていた。

 

 

 

 「…わざわざ飛び上がらなくてもハシゴがあるのに」

 

 

 

 

 

 

飛び移った二階のある一角、左右は鉄柵で囲まれ目の前の壁にはドアが取り付けられている。

 

鬼龍はやはり迷うことなくドアを開ける。足を踏み入れたと同時に視界には飛来する何かの影が映る。

 

 

 

 

 「来ないで!」

 

 

 

飛来する影、投げつけられた木片を片手で掴み取った鬼龍が聞いたのは悲鳴に近い叫び、その声は女性のものだった。

 

 

鬼龍の姿を見て逃げ出そうにも、狭い部屋の中でどうすることもできずに部屋の隅で縮こまるように蹲る一人の女性。

 

 

鮮やかな金髪にまだ幼さを残しつつも整った顔、身につけた大学の学生服にスカートにブーツ。

 

アメリカを立つ前に大統領邸で見た写真の女性、この事件の始まりとなった誘拐事件被害者その人である事に間違いなかった。

 

 

 

 

 「アシュリー・グラハムだな」

 

 「お前の父に言われて助けに来たのさ」

 

 

 

その声はあの傲岸な魔神の如き様相とはかけ離れるほど優しかった。

 

鬼龍を噂でしか知らぬ者は信じられぬが、鬼龍を真に知る者にとっては何らおかしな光景ではない。

 

 

男には試練を、女には愛を。鬼龍が口にし掲げる鉄の掟。

 

 

どれほど恐ろしく傲岸不遜を振りまこうとも、それが彼が心から敬愛する世の女性達に向くことは決して無い。

 

事実、鬼龍の愛人であった女性を愚弄したマフィア達が組織ごと跡形もなく壊滅させられた事があった。

 

 

鬼龍は悪人であると同時に紳士でもあった。

 

 

 

 

 「パパが!?」

 

 

 

恐怖と絶望に曇っていたアシュリーの表情がまるで光に照らされたかのように希望の色に染まる。

 

 

勿論、鬼龍は彼女の心情を察して望む言葉を発した。

 

 

“大統領に命じられて来た”などと事実を大きく捻じ曲げて話そうともそれも気にする鬼龍ではない。

 

 

 

 「お前の父親は極秘裏に娘を助け出すことに決めた」

 

 「来るがいい 父親の元まで護衛しよう」

 

 

 

普段の鬼龍ではまず有り得ない発言だが、そのかいあってアシュリーの鬼龍の風体からくる警戒と緊張は幾分和らぎ、アシュリーは頷いて鬼龍の後に続いて部屋のドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼龍に続いてアシュリーがドアの外に出た頃には、教会内の状況は先程までと一変していた。

 

 

 

 「鬼龍!」 

 

 

 「アシュリーは保護した さぁ次は…」

 

 

 「見つけたのか!?なら彼女を連れて逃げろ!」

 

 

 

教会内には緊迫した空気が張り詰めており、レオン達は全員が銃を構えて教会入口に向き合う。

 

 

そこにはこの状況を招いた元凶であろう一人の男、豪華な装飾の入ったローブを纏い、その手には触手と眼球が生え、不気味に蠢く生き物のような杖が握られる。

 

左右に付き従う様に佇むのはボウガンで武装した上から下まで漆黒のローブの男が二人。

 

 

 

 「下等な人間にしてはよく足掻く…おかげで計画が狂ってしまった」

 

 

 

徐ろに杖の男がフードを外して素顔を晒す。

 

初老を迎えたその顔には白髪を後ろに纏め、その口元には不敵な笑みが、だが対象的にその目にはおおよそ感情を感じさせる色は無い。

 

 

警官達が言葉を失い狼狽し立ち竦む、何も言われずともこの男が発する氷水のように冷え切って、泥沼のように纏わりつくこの異質なプレッシャーを感じていた。

 

事前の情報からこの老人が何者なのか想像もできよう。

 

 

 

 「サドラー…」

 

 

 「あぁ逃げ出したと思えばここにいたか、かつての同士よ」

 

 

 

 

ルイスが忌まわしげに呟き、杖の男、サドラーがそれに答える。同士という言葉とは裏腹にその声に一切の友好的な感情は無く、嘲笑うその言葉の裏には憎しみにも近い怒りが込められていた。

 

 

 

 「大切な人質まで連れ出そうとして」

 

 

 

言葉と共に視線を二階にいるアシュリーに向ける。

 

アシュリーからは息を呑むような声にならない恐怖の声が漏れる。庇うように鬼龍が一歩前へと躍り出た。

 

 

 

 「貴様がサドラーか 想像通りの愚か者の様で安心したぞ」

 

 「俺が今から殺してやるよ イカれた爺さんのくだらん黒幕ごっこに付き合ってやると言ってるんだ」

 

 

 

物理的にも心象的にも上から目線の鬼龍の愚弄を受けて、サドラーは声を抑える様にくぐもった笑いを零す。

 

だが愉快で笑っているのではない、その心中でマグマの様に赤熱した怒りが煮えたぎっているのは明らかだ。

 

 

 

 「笑わせるな 虫けらめが」

 

 

 

杖の先端を床に打ち鳴らせば、横に控えるローブの男たちがボウガンを素早く構えて、躊躇わず引き金を引く。

 

 

二階の鬼龍めがけて高速で直進する二本の矢。最も今更脅威になるはずもなく、龍腿での回し蹴りを繰り出せば一本は折れ弾かれ、もう一本は蹴りの風圧で吹き飛ばされる。

 

 

 

その隙にサドラーは踵を返して教会の入り口の扉を開けた。

 

そして見えた教会の外には採掘場にいた村人の倍ほどの数が立ち並んでいた。

 

 

 

 「お前達は少し反抗しすぎた 大人しくしていれば同胞に加えてやったものを…」

 

 「私も忙しい身でね、もう行かせてもらうよ 他にもネズミはいるようだからね」

 

 

 

 

サドラーと二人の護衛はそのまま教会の外へと歩き出す。

 

その背に鬼龍が半ば本能的に発する愚弄がまたもや浴びせられる。

 

 

 

 「威厳を保つのに必死だな 遠慮しないで向かってきたらどうだ? その年では怒りをこらえるのも楽じゃないだろ」

 

 

 

 

 「私が手をくださずとも」

 

 

 「お前達はもう終わりだ」

 

 

 

振り向いたその目には底冷えする凝縮された殺意があった。

 

 

 

サドラーが村人の群れの奥に消えていったのを合図に村人達が雄叫びを上げて教会に殺到する!

 

 

そしてそれよりも速く入り口の扉に駆け寄ったレオン達が扉を締めて内側から鍵を掛けた。

 

間一髪のところで間に合い、扉の奥からは怒号と扉を叩く音が聞こえてくる。

 

 

 「マズイぞ!閉じ込められた!」

 

 

 「 う あ あ あ あ あ 」

 

 「こ、こんな事が…こんな事があっていいのか!?」

 

 

 

教会の扉は頑丈な作りだが、相手は何をしてくるかも知れぬ狂人の群れ。安心などとはとても言い切れない。

 

外から聞こえる足音で既に取り囲まれているのがわかる。

 

 

 

 

 「奴ら、教会ごと火でも付けそうな勢いだな」

 

 

 「いや実際にそれぐらいやってくるだろうぜ」

 

 

 

 

いよいよとなれば村人の包囲を撃退して突破しようかとレオンが思案していると、二階にいた鬼龍が降りてくる。

 

 

当然の様に横脇に備え付けられたハシゴを使わずに飛び降りて着地。

 

しかしその両腕にはアシュリーが抱えられており、よく見ればその着地には衝撃がアシュリーに行かぬよう最新の注意が払われていた。

 

 

 

 「何か作戦はあるのか エージェント」

 

 「あぁ、すぐに始めよう まずはあそこから外に出れそうだ」

 

 

レオンが教会の窓ガラスを指さして言った、その後に作戦を皆に伝える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教会外の墓地に大挙した村人達により辺りは騒然としていた。

 

 

     

    ナンデジャー!ナンデフミコマンノジャ!  

                オソメ,ブラザーズ!

 

 ソンチョウガシンダアッ     グッチャグッチャ

 

              チンチンチンチンチン 

 

   ジャワティージャワティージャワティージャワティー

 

 

 

 

 

 〈アノウ、爆薬デ扉壊シマショウカ〉

 

 〈使エル化物連レテキマショウカ〉

 

 

 

 〈必要ネーヨ〉

 

 

村人の群れの最後尾に佇み、冷たく言い放つ一人の巨漢。

 

 

ズタ袋を被り顔を隠し、その体格は村中央で鬼龍が倒したあの大男よりも遥かに屈強。

 

巨漢は自尊に満ちた言葉を言い放つ、その背後で立ち上がり蠢く影が3つ!

 

 

 

 〈サドラー様カラ次期“村長”ヲ任ジラレタ俺ガイルンダカラナア」

 

 

見れば巨漢を含めた四人全員が手に何かを持ち武装している、月明かりに照らされて鈍く光るは無骨なチェーンソーの回転する刃。

 

 

       チェンソー・フォー

 「奴ラハ俺達 四大怪人 ガ殺ス…」

 

 

その巨漢の持つチェーンソーは他の三人と違い、二つのチェーンソーが強引に繋ぎ合わされた事により二振りの刃を備えていた。

 

 

 「セメテ抵抗セズニ死ンデクレヨ」

 

 

 

 「俺ヲ残酷ニサセナイデクレ!」

 

 

 

巨漢の男がズタ袋の下でニーッと歪みきった笑みを浮かべる。待ちきれずといった様子で巨漢の男はチェーンソーのエンジンを勢いよく作動させた。

 

 

 

 




◇この男は何を…!?
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