転生したら強化人間でした。ロボット乗る感じ?あ、はいそうですか 作:黒葉 傘
帝都カテル編のプロローグ的な話なので短いです。
その少女の容姿は一際目を引いた。
濡れたように艶やかな黒い髪に底の見えないダークブラウンの瞳。
僕たち帝都人とは明らかに異なる顔つき。
外国人……なのかな?
僕はぼけっと突っ立ってその少女を見つめていた。
なぜか少女から目を離せなかった。
中央センターの電波塔を越えた向こう、新しく見つけつけた公園で僕はその少女と出会った。
見つめていると、その少女は視線に気付きこちらへ顔を向けてくる。
見たことない色の瞳と目が合う。
「見ない顔だね。どこの子?」
少女は口に微笑みを浮かべるとそう僕に尋ねる。
なぜか、心臓がドクンとはねた。
「塔の……向こうから来たんだ」
そう言って僕は電波塔を指差す。
この都市の中心に建てられた塔は高く、巨大だ。
それはこの都市のシンボルだった。
人々はそびえ立つそれを見ながら暮らしていたんだ。
「中央の人なんだ……」
少女の言葉に、僕は顔を伏せる。
中央の人、それはあまりいい意味で使われる言葉じゃなかった。
との都市は電波塔を境界線にして、中央と沿岸に別れる。
中央には富裕層が、沿岸には……その、お金があんまりない人が暮らしてるってパパが言っていた。
塔の内か外か、それは明確な貧富の差を表している。
沿岸の人々のこちらを妬むような視線を思い出す。
沿岸の人は僕たちが嫌いなのかもしれない……と僕は幼いながらも感じていた。
両親には塔から外側には一人で絶対行くなと言い含められていた。
それでもその日、僕はその言いつけを破って塔の外側に来た。
それは、単純な好奇心からだ。
ただ、塔の外側の景色は内側とどう違うのか、なぜ行ってはいけないのか知りたかったんだ。
「ねぇ、中央ってどうなっているの!?教えてよ!」
少女はそう言って、その大きな瞳をキラキラと輝かせる。
中央の子供だからって、邪険にされるかと思った。
でも。目の前の少女は好奇心一杯の目で僕を見つめるだけだ。
結局、中央と沿岸でいがみ合い差別しあっていたのは大人だった。
そんなこと、子供の僕たちには関係のないことなんだ。
僕も、彼女も、ただ知らないことを知りたいだけだった。
その日僕に新しい友達ができた。
両親には内緒の、沿岸に住む友達。
「僕はリア」
「私陽向!」
「ヒナァタ?」
彼女の名前はなんだか聞き慣れない名前だった。
発音が独特だ。
やっぱり外人なのかな?
「ヒナでいいよ」
不慣れな発音に彼女は笑って提案してくれた。
後で知ったんだけど、僕の考えは半分合っていたんだ。
陽向宮東、彼女は帝都と外の国人のハーフだった。
ただ、外人とのハーフとかそういう詳しいことは当時の僕にはよくわからなかった。
僕はまだ何も知らない子供で、自分の住む都市だって出たことはなかった。
都市と都市が集まり、海上国家が形成されていることも、海を越えた遥か遠くに同じような海上国家が存在していることも僕は実感できていなかった。
小さな世界を生きていた。
海の向こうの外国なんて当時の僕には遠い存在で想像すらつかなかった。
ただ、新しくできた友達がなんだか特別で……他とは違うように思えた、それだけだった。
それから僕は、親の目を盗んでよく沿岸に足を運ぶようになった。
特別な友達に会うために。
彼女の他にも沿岸の友達が、沢山できた。
いつも、日が暮れるまで遊んだ。
遊んでいる間、僕らに中央だとか沿岸などというつまらない括りは存在しなかった。
ただ、たくさんの友達ができてもやっぱり彼女は特別だった。
僕の一番の友達だった。
今思うと、僕は彼女に特別な思いを抱いていたんだと思う。
ただ、まだ何も知らない小さな僕はその感情の正体に気づくことはできなかった。
もっと早く、気づけばよかったのに…………
ある日、僕はいつものように公園へと足を運んでいた。
その日も彼女と遊ぶ約束をしていたから。
そう、約束……していたんだ。
でも僕が塔の付近を歩いていた時、急に全てが変わった。
前触れは何もなかった。
けたたましく鳴るサイレン。
どこか遠くで、爆発音が響いた。
地面がぐらぐらと揺れている。
僕の頭上を大きな音を立てて何かが飛んで行った。
当時の僕はそのサイレンの意味も、頭上を飛び去ったのが駆動騎兵という兵器だということすら、知らなかった。
大きな警告音が鳴り響いて、僕の視線の先の地面が迫り上がった。
あの公園へと続く道が封鎖されていく。
なぜそんなことをするのか、僕には分からなかった。
ただ公園への道が、彼女へ続く道が閉ざされていくのがひたすら怖かった。
今日は、彼女と遊ぶ約束をしているのに、公園へ行きたいのに。
公園へと続く道にはあまりにも高い壁が立ち塞がっていた。
壁の向こうから、聞いたことのない甲高い音と爆発音が聞こえてくる。
何が起こっているの?
向こう側の様子が見たいのに、見えない。
僕は壁を登ろうと必死にジャンプしたけど、壁のフチにはとてもじゃないけど手が届かなかった。
どうしようかと見渡すと…………横にそびえる大きな塔が目に入った。
電波塔。
僕はすぐさま塔へと駆け出した。
塔の展望室まで登れば、向こう側が見えるはずだ。
ヒナが暮らす都市が見える……はずだった。
「…………ぁっ………」
エレベータで登った展望室、そこで見た景色を僕は今でも忘れることができない。
僕の視界の先には……海が広がっていた。
広大な海の中に、ポツンと浮かぶ都市が燃えていた。
「ぁ……ぁあ、あ……」
都市を蹂躙する銀色の小さな粒がここからでもかろうじて見える。
見えてしまった。
見捨てられた都市が食い荒らされる姿を。
僕の大好きだった公園も、あの子も…………
もう僕の手の届かないほど遠くにあった。
……………………………
…………………
……
「………………ん」
目を開ける。
見慣れた、自室。
カーテンからは陽の光が差し込んでいる。
そのまま視点をずらし、壁にかかった時計へとピントを合わせる。
まだ、起きるには早い時間だ。
だが、二度寝をする気分にはなれなかった。
昔の、友達の夢を見た気がする。
遠くへ行ってしまった友人たちだ。
彼らが帝都に戻ってくることは……なかった。
なぜ自分は生きて、彼女は死ななければならなかったのだろう……そんなくだらない思考がぐるぐると回る。
僕たちの生死を分けたものは、塔より内側で生まれたか外側で生まれたか、そんな些細な違いでしかない。
そんなくだらない差で、彼女は遠くへ行ってしまった。
一緒に行くことが、できなかった。
僕はあの時何も知らなかった。
だからあの騒動を徹底的に調べた。
一体誰が彼女を、あの都市を見捨てたのかを。
僕は彼女の仇を探した。
結果、あの都市の切り離しは海上国家を構成するAIが規則に則って作動しただけに過ぎないと分かった。
都市を見捨てた人間は存在しなかった、ただ機械が決められたプログラミング通りに作動しただけだったのだ。
屍械が上陸してしまったんだ……仕方がない。
仕方がない?本当に?
胸の中で暗くて淀んだものが湧き上がる。
そもそも屍械なんてものがいるから……
僕は多くの犠牲者たちがそうであったように、屍械を憎んだ。
そうするしかなかった。
…………だめだな。
やっぱり、二度寝はできそうにない。
上体を起こすと、ベッドから降りる。
もう起きてしまおう。
「おはよう」
階段を降りると父はもう目を覚ましており、リビングでコーヒーを飲んでいた。
「ぉはよぅ」
気の抜けた返事を返す。
「お前も飲むか」
「顔を洗ったらね」
いつものように顔を洗い、歯を磨く。
鏡の中の自分は、冴えない顔をしていた。
「今日からお前も軍人か」
席に着くと、感慨深そうに父が言った。
テーブルの上には湯気を立てたコーヒーが置かれている。
随分と気の早いものだ。
「違うよ、軍人の卵だ」
「卵といっても軍人であることには変わりあるまい」
どうだか。
まぁ、でも僕の復讐の第一歩であることには違いないだろうけど。
帝都軍事学校、僕は今日そこに入学する。
学科は騎兵科だ。
そこで、駆動騎兵の使い方を学ぶ。
そして将来はこの手で、屍械を殺すのだ。
殺して殺して殺して、この都市を守る。
もう、沿岸の人々が怯えて暮らさなくていいようにする。
そう誓ったのだ、全てを知ったあの日から。
静かに決意を固める僕を見て父が吹き出したように笑った。
「卵にしては、気張り過ぎだな」
うるさいなぁ、もう…………
……………………………
…………………
……
入学式は想像していたものよりもずっと簡素なものだった。
いや、簡素とは少し違うか。
豪華ではある、帝都カテル軍の軍人を育てる学校だけあって設備は立派だ。
ただ、その内容は実に簡略化されていた。
いつ屍械が攻めてくるかわからない戦場において無駄に過ごせる時間などない、とは校長の談だ。
彼の挨拶は必要最低限で実に実践的だった。
これだけテキパキと式が進行すれば退屈で寝るやつもいないだろう。
もっとも、このような晴れ舞台で寝るような非常識な人間はいないだろうが。
少し、気になっていることがある。
入学生代表のことだ。
この学校はコネで入る輩もいるらしいが、基本的には入学試験を合格できなくては入学はできない。
そんな入学者の中で成績優秀者が代表へと選ばれる。
自分はかなりの点数の高い方だと自負していた。
実技も学科も自信はあった。
それでも上には上がいるということだ。
一体どんなやつなんだろう?
「入学生代表、挨拶」
あ、名前が呼ばれる。
僕はそわそわと目立たないようにあたりを見渡した。
「代表、來羽・月宮」
う…………ん……?
聞き慣れない、名前だった。
発音が、独特だった。
新入生代表が、壇上へと上がる。
濡れたように……艶やかな黒い髪。
壇上に立ち、彼女がこちらを向く。
底の見えない……ダークブラウンの……瞳。
「ヒナ?」
遠くに行ってしまった友人と瓜二つの少女が、僕の前にいた。
でも僕はそれが彼女だと、確信できなかった。
なぜならその顔に浮かんでいるのは僕のよく知った笑顔ではなく、無だったから。
まるで無機物のような無表情。
その顔は瓜二つだというのにあの少女とはかけ離れていた。
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リア・オールディス
帝都軍事学校騎兵科一年生、ピカピカの軍人の卵。
死に別れた(と思っている)幼馴染みの少女がいる。
帝都軍事学校でその幼馴染みに瓜二つの少女と出会う。
なお、本書に主人公視点での恋愛要素など存在しない。
つまりはドンマイ、リア君…………
なーんでこんなところにいるんですかね月宮ちゃん?